| 《戦経Interview》 | ||
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日本経済はいまだに暗く沈んだままだ。政府の繰り出す対策もことごとく期待を裏切り続けている。この閉塞感を打開するカードはあるのか。金融マーケットの世界で「伝説のトレーダー」と呼ばれ、かのジョージ・ソロス氏の投資相談役を務めたこともある藤巻健史氏は、「円安によるインフレ政策こそが最良の選択」だという。藤巻氏に景気回復の切り札について語ってもらった。 |
■本格回復は構造改革円安誘導はつなぎ策 |
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――最近、藤巻さんが著された『一ドル二〇〇円で日本経済の夜は明ける』(講談社)では「円安によるインフレこそが景気回復の最善策」と主張されていますね。なぜ、円安→インフレ→景気回復という流れになるのかを説明いただけますか。 藤巻: その前にまず言っておきたいのは、本当の意味で日本経済を強くする方法は「構造改革」しかないということです。この意見はいまは一般的ですが、私はバブル崩壊直後から一貫してこう主張してきました。約10年ほど前は多くのエコノミストがバブル崩壊を通常の景気循環で論じていて、あまり深刻に捉えていませんでした。でも私は「そうじゃない、構造的な問題なんだ」と言ってきた。そう考えたのは、たまたま私が当時外資系銀行でトレーダーとして働いていて日本と欧米の経済や社会の違いを見ていたからなんです。日本は「大きな政府」「膨大な量の規制」「結果平等主義の税制」で、外から見るとまともな資本主義には見えなかった。要は社会主義的な経済。社会主義が資本主義に勝てないのは歴史が証明しています。発展途上でキャッチアップの時代ならまだしも、成熟経済に入った日本でこうした体制は機能しないだろうと考えたのです。一例を挙げれば金融機関の長短分離政策(短期資金は都銀・地銀、長期金融は長銀・信託銀行と業務を区分けた政策)です。これがあったことで日本の銀行は競争原理が働かず商品開発力で外資に大きく遅れをとった。同様に業界規制がそこかしこにあったので日本の景気は当分浮上しないだろうと予測したんです。景気が悪化すれば低金利になりますから、当時の私は日本国債を買いまくって運用実績を挙げていました。 ![]() ――構造改革論者が、なぜいま“円安によるインフレ”なのでしょう。 藤巻:本筋はあくまでも構造改革ですが、これは時間がかかるんです。改革すべき構造には財政構造もあれば産業構造もある、小泉内閣が取り組んでいる不良債権処理もそう。このように改革すべき分野は多岐にわたっている。過去10年の間、政府が構造改革に取り組み続けたことで以前よりはずいぶん改善されました。それでも目に見える効果が現れるには、あと数年の時間が必要でしょう。それまで何かで時間稼ぎをして、いまの日本経済を持ちこたえさせる必要がある。それが円安によるインフレというわけです。これを行うには過剰流動性が前提となりますが、いま日銀は金融緩和を進めてきていて流動性は“じゃぶじゃぶ”の状態。条件はそろっています。 ――しかし多くのエコノミストやマスコミはインフレという言葉にかなり強い抵抗感をもっています。 藤巻:3、4年前に読売新聞が「調整インフレ論」を掲載したときは総すかんを食らいましたよね。いまでも反対が多くて、舛添要一さんなどの調整インフレ論者への批判が少なくない。でも反対している人は“インフレは調整できない”“ハイパーインフレになる”という理由から批判しているのであって、一番の問題がデフレだという点では共通している。 ――円安になれば原材料などの輸入コストが上がってインフレになるでしょうが、ただ一般的に為替変動が消費者物価指数(CPI)に跳ね返ってくるまでには2年くらいかかると言われていますよね。 藤巻:変動幅によって影響のスピードは変化すると思いますが、確かにCPIやWPI(卸売物価指数)に現れるまでにはある程度のタイムラグはあるでしょう。ただ私がいうインフレとは、土地や株の資産インフレのことを指しているんです。実はバブルのときでも、CPIやWPIは3%程度しか上昇していなかったのです。つまり地価や株価が上昇しても物価指数に大幅な変動はないし経済も上向く。資産インフレは必ずしもハイパーインフレではない。 ――つまり「ミニバブル」ですか? 藤巻:過剰な資産インフレがバブル経済ですが、さすがに以前のような狂乱経済の再来はないでしょう。 ――円安から景気回復にいたる過程を説明していただけますか。 藤巻:円安になればまず株が上昇します。ダーティー・フロート(自国通貨を意図的に安くして景気回復を図ること)という言葉があることからもわかるとおり、市場関係者は円安と聞けばすぐに日本の景気回復が頭に浮かぶ。これは「パブロフの犬」のようなもので、すぐに日本株の“買い”に入ります。同時に円安で外国人にとっては日本の土地が大変魅力的になる。すでに日本の不動産への外国人投資ははじまっていますが、さらにそれが加速していきます。日本人の個人投資家もインフレ懸念によって現金や国債から株や土地に資産をシフトさせてくるでしょう。10年前と比べると株が3分の1、土地は10分の1まで下がっていますから、(値頃感があるので)簡単に上がるはずです。さらに資産インフレがおきると、キャピタルゲインが消費にまわる。これはバブル時の日本やいまのアメリカが実証しています。つまり消費者マインドが変化する。企業の設備投資も回復するはずです。これでGDPの約6割を占める個人消費と、同じく2割を占める設備投資がともに上向き、景気が上昇スパイラルへと転じるわけです。 |
| ■為替をにらみ景気の先行きを読め |
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――国債の長期金利の上昇(国債の下落)が懸念されるのでは? 藤巻: 円安で景気が良くなれば当然長期金利は上がらざるを得ない。景気回復と低金利の両方を求めるのは不可能です。それに何もしなくても国債金利は遅かれ早かれ上昇すると私は感じています。その引き金を引くのが財政赤字問題です。景気回復による金利上昇が「良い金利上昇」だとすれば、財政赤字によるほうは「悪い金利上昇」といえます。どちらを選択するかと言えば、良い金利上昇のほうしかない。 ――悪い金利上昇になったら、どんなことが起こるのでしょうか。 藤巻:不況と金利上昇のダブルパンチですから、まず借入の多い企業が支払利息の急騰でバタバタと倒産するでしょう。国債の最大の買い手は政府ですから、財政状態も今以上に悪化する。銀行も大量に国債をもっているので金融不安が起き、これが企業倒産をさらに加速させていく。 ――政府関係と日銀で全体の約半分の国債を保有していると言われています。市中金融機関を加えると実に8割以上にもなる。 藤巻:日銀のバランスシートでは資産の約65%の76兆円あまりが国債、一方、自己資本は3兆円ほどです(2001年9月期)。仮に金利が5%になれば、日銀は債務超過企業になってしまう。また国は長期金利上昇抑制策として国債発行年限の短縮化を行ってきた。長期債を減らし、金利の低い短期債を発行して無理矢理低金利状態を作ってきたのです。財政赤字のファイナンスが自転車操業なので、金利上昇が起きたら借換債の発行に支障をきたすという異常事態も起こり得ます。 ――円安以外の政策の可能性は? 藤巻:経済政策には「財政政策」「金融政策」「為替政策」の三つしかない。財政出動は国が莫大な借金を抱えるまでに積極的にやってきた。金融政策もゼロ金利政策に加え流動性をどんどん供給している。これだけやってもダメだということは、あとは実体経済より円が強すぎるとしか考えられない。海外でも円安以外に日本経済を救う手はないという論調が大勢を占めています。 いまの日本はアルゼンチンや通貨危機のときのアジア諸国と同じような状況にある。膿がたまっていて、それがいつ弾けてもおかしくない。アルゼンチンのペソは米ドルとペッグ(固定相場)していたため実体経済を超えて高止まりしていました。でもドル債を大量に発行していたから通貨切下げが行えなかった。それで耐えきれなくなって、とうとうグシャッといってしまった。日本は幸い外国から借金をしていないし、千数百兆円の個人資産もある。いまなら円安政策ができるんです。 ――どん底だったアメリカが85年に「プラザ合意」でドル安にしたのと同じ発想ですか。 藤巻:まさにそうです。さらに「プラザ合意」以降アメリカは、急激なドル安でインフレ懸念が発生したことをうけ、今度は「ルーブル合意」でドル安政策をやめると宣言した。これが為替政策なんです。 ――著書では一ドル300円くらいが適正だとおっしゃっていますが、その根拠は? 藤巻:科学的根拠は正直言ってありません。感覚論ですね。為替レベルを説明する方法で“怩アれだ!”というのはないんです。購買力平価とかマクドナルド平価とかありますけど、どれも決定的な方法ではない。じゃ、なぜ300円かというと、日本が元気だった78年から85年までは220円から250円の間だった。それを基準におけばこれだけの不況なのだから300円でもおかしくないだろうということ。そこまでの円安に進むかどうかはわかりませんが、ただバブルのピークでさえ140円ですから、いまの為替水準はやはり過度な円高だと思います。 ――予想としては、いつごろまでにどれくらいまで進むと…。 藤巻:それがわかれば誰にも言わずにこっそり儲けています(笑)。 |
| ■為替をにらみ景気の先行きを読め |
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――円安による企業経営への影響はどうでしょう。 藤巻: 円安倒産というのは、実は少ないんです。輸入コストが上がっても、その分景気が良くなって需要が増えるからです。輸出関連企業は当然良くなる。ただユニクロとかマクドナルドのような特定の“円高企業”はダメージを受けるでしょう。 ――そのマクドナルドの藤田田さんは、「今年から来年にかけて必ず円安とインフレになるからいまからそれに対応しておく」と各種メディアで発言していますね。 藤巻:「株上場で得た資金で土地を買う」とか言っていますし、半額セールをやめて実質的に販売単価を引き上げたりしていますね。既存店よりもハイセンスで高級志向の店舗も展開しはじめている。 ――高級志向の店はフランス人デザイナーが設計したそうで、結構業績もいいらしいですよ。 藤巻:常に先を読んで自分の頭で考えているということでしょう。トレーディングでは人の後追いだと絶対負けますが、経営でも同じことがいえるかもしれません。多くの人はバックミラーを見ながら判断しますが、それだと勝てない。前を見ずに車を運転したら、よほど運が良くない限り事故るのと同じです。 ――でも、多くの経営者は先が読めなくて苦労しています。 藤巻:経営者の方に言いたいのは、景気を読む上で為替が大変重要な指標だということ。私がいま盛んに言っているのが、日銀がアメリカ国債を買って、政府がドル建ての国債を発行しろということ。仮にこうした動きが出てきたらすぐに「これは円安政策だな」とピンとこないといけない。「円安で景気が良くなるからそれに備えよう」と判断するのです。 ――政府の動向に注意しておけと…。 藤巻:それとあまりエコノミストやマスコミに振り回されないほうがいい。昨年のニューヨーク・テロ事件のとき「アメリカ経済が崩壊する」といった論調がありましたが、結果はそうならなかった。エコノミストは予想が外れても責任を取るわけではないですし、マスコミはセンセーショナルに報道する傾向がある。 ―――藤巻さんはテロ直後から「株価下落は一週間で底を打つ」と言ってましたね。なぜそう考えたのですか。 藤巻:金融業界で金利や為替、株の動きを予想してマーケットで勝負するトレーダーをリスクテイカーといいます。勝負に負ければ即クビです。私はその世界に21年間もいたので、周りに惑わされず自分の頭で考えられた。それとあとは、思いこみが激しい性格だったから(笑)。冗談じゃなく、リスクテイカーは思いこみが強くないと耐えられない世界でもあるんです。ただ思いこみだけでも勝てなくて、常に誰かに自分をチェックしてもらわないとけない。たとえばトレーダー時代の私は、運用成績が悪くなるとニューヨークのボスから常にチャレンジされたわけです。「なぜこのポジションで勝負した」「なぜ負けたんだ」と。そこで議論がはじまるのですが、厳しいところを突かれ、うまく答えられないようなときは自分のロジックを再検証する。それで自信がもてないようなときは勝負を縮めたりしました。同じように経営者にも経営判断をチェックしてくれる第三者が必要で、そのために株主総会などがある。私もいま零細企業を経営していますけど、うちのボスは――ボスというのは家内のことですが(笑)――彼女はうるさく言わないのですごく楽。でもこれでは思いこみで突っ走ってしまう危険性があるので、雑誌や自分のホームページを通して考えを発信し、読者から意見を聞かせてもらうようにしているんです。 ――「円安によるインフレ策」という意見に対して読者の反応は? 藤巻:いろいろと厳しい意見もありますが、自説に自信はあります。「こうあるべき」という“べき論”ではなく、状況分析から導き出すとこの結論に行き着く。基本的に私の話はポジション・トーク(自分の勝負に都合の良い話)ですが、議論に誤りがあれば自分も損をするという意味で痛みの伴うトークでもある。それだけ真剣に予測しています。 ――自分の予想の確率はどれくらいだと思いますか。 藤巻:100%とはいえませんけど、政府はデフレ脱却のためにかなりの確率で円安誘導を行うと思います。そうしなかったら、日本は今以上に悲劇的な状況になってしまいます。 |
| (インタビュー・構成/本誌・千葉博文)■ |
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〈プロフィール〉 |
| ふじまき・たけし 1950(昭和25)年東京生まれ。一橋大学卒業後、三井信託銀行、モルガン銀行、ジョージ・ソロス氏の投資相談役等を経て、2000年に(株)フジマキ・ジャパンを設立。現在、同社代表のほか、一橋大学経済学部、神戸大学経済学部、早稲田大学商学部大学院講師を務める。著書に『外資の常識』(日経BP社)『タイヤキのしっぽはマーケットにくれてやる!』(日本経済新聞社)など。 |