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真贋とりまぜて「カリスマ」と称される経営者は少なくないが、「中小企業経営」に限定すれば、まずこの人の名前が挙がるだろう。武蔵野の小山昇社長である。30年の社長人生のなかで減益はわずか3回。その『儲かる仕組み』づくりには、中小企業にとって目から鱗のアイデアが満載だ。
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■先輩社員が講師をつとめる社内勉強会を定期的に開催
――著書の『「儲かる仕組み」をつくりなさい』(河出書房新社)を読ませていただきましたが、武蔵野の強さの源泉は“仕組みづくり”にあると一貫して述べています。
小山 ダスキンの代理店業務をメーンとする地味な中小企業である私たちのところに、そうそう優秀な人材は集まってきません。どちらかというと学生時代勉強嫌いだった落ちこぼれ。そんな社員ばかりでも増収増益を続けているのは、「効果的に人材を育てる仕組み」「社員のモチベーションを上げる仕組み」「ITをうまく活用する仕組み」などが一体となり、“儲かる仕組み”として効果的に作用しているからです。
私が平成元年に社長になった頃、自発的に業務改善やスキルアップに取り組むような社員なんてゼロでした。何かを指示したり注意したりしても、「はい」と返事はするが、それで終わり。成果は一向にでない。そこで考えたのは「みんながやらざるを得ない仕組みを作らなければならない」ということでした。その後、さまざまな仕組みを取り入れながら「人材育成」や「円滑な組織運営の実現」を目指してきました。経営資源の「ヒト・モノ・カネ」のうちで一番大切なのは「ヒト」だと思います。だから人材育成についてはとりわけ力を注いできたつもりです。
――人材を育成するためにどんな仕組みを実践しているのですか。
小山 例えば「武蔵野スクール」という勉強会を定期的に開催しています。専門性の高い内容などは除き、講師は基本的に先輩社員。彼らが後輩社員に教えます。なぜそうしているかというと、「1年生に教えるには3年生が先生になるのが一番いい」という持論があるからです。教える側と教わる側の力の差が開きすぎていては、生徒の身になって教えられないからダメなんです。
ちなみに勉強会に出席するごとに参加者にはスタンプカードにハンコが押されます。それが100個になると5万円の旅行券がプレゼントされる。はやい人だと2年半くらいでカードがいっぱいになりますが、もらった旅行券を金券ショップで換金して自分のお小遣いにしてしまう社員ばかりいる(笑)。しかし勉強嫌いの社員を教室に呼び込めたのは、この仕組みのお陰といえます。
――なるほど、うまいやり方ですね。
小山 他にも、「社内ベンチマーキング」という名称で実施している社内見学会があります。年1回、全社員を6組にわけて、それぞれ1日ずつ計6日間で全営業所を見て回るバスツアーです。そこでは私が先生役となり、「この営業所は、こうした改善の取り組みが素晴らしい」など、各営業所の優れた点を説明していきます。参加者は私の解説を聞くなかで、新たな“気づき”を得ていくわけです。
さらに社内ベンチマーキングが終了すると、それぞれの社員にその日のうちに勉強になった点や、自分の部署でも参考にしようと思った内容を20項目書かかせ、電子メールで上司、担当役員、そして私に送ることを義務づけています。メール送信後には必ず1年前のレポートを閲覧させ、まったく同じことが書いてあったら「それはあなたが成長していない証拠」と諭したりもします。
社内ベンチマーキングの利点は、同じ会社の従業員の取り組みや工夫を学ぶわけだから、「自分たちにはできない」という理屈が通らないところにあります。いくら人材活用で優れた企業だからといっても、ディズニーランドやリッツカールトンホテルを見せたのではたぶん身にならないはず。「ディズニーランドだからこそできた」という話になってしまう。
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■ITツールを駆使して営業力強化と顧客満足を高める
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――武蔵野の代名詞ともいえるIT化による営業改革も、仕組みづくりの一つといえます。
小山 営業については、「アナログ」と「デジタル」を使い分けています。お客様に直に接する部分については異常なくらいにアナログ主義。顧客に感謝の気持を伝えるときなどはきまって手書きのハガキで、宛名シールを使うこともしない。そうした部分はできるだけ効率悪くやっています。ところが顧客に見えない部分についてはIT活用で徹底して効率化を目指しました。グループウェア、Eメール、ボイスメールなどを駆使し、「情報の共有化」を進めることで営業力強化や顧客満足向上を実現しています。
――グループウェアでは具体的にどんなことを?
小山 全社員のスケジュールをグループウェアを通じて共有化したことが一つ。それによってどんな変化が起きたかというと、こんなエピソードがあります。以前、取引先から私とすぐに連絡が取りたいという電話がかかってきたことがありました。その日はたまたま飛行機で札幌に出張だったのですが、電話対応した女性スタッフはグループウェアで私のスケジュールを確認し、「あと数分で千歳空港に着くから間もなく連絡が取れるようになる」と伝えたところ、相手の方は「なぜ、そんなに正確にわかるんだ」とびっくりしながらも喜んでくれたそうです。それと同様に、フィールドに出ている営業マンの現在の居場所や帰社時間などを、お客様から問い合わせがあった際は正確に伝えることができます。
――Eメールやボイスメールが顧客のクレーム対応に優れた効果を発揮しているそうですね。
小山 各営業所にかかってきた電話は本社のコールセンターで一元管理しており、クレームの電話の際などはその内容をEメール、もしくはボイスメールを通じて即座に外回り中の営業スタッフに伝えています。営業スタッフはその連絡を携帯電話やPDA(情報携帯端末)で受信します。
ボイスメールとは文字通り「音声」で行う情報伝達手段のこと。情報発信者はボイスメールのサービスセンターに音声を記録。受け手はその録音されたメッセージを同じセンターに電話をかけて聞くことができます。
――Eメールの方がコストが安いにもかかわらず、あえてボイスメールを併用しているのはなぜ?
小山 ボイスメールなら感情やニュアンスを伝えることができるからです。Eメールでは「バカ野郎!」という罵声もトーンが下がってしまう。逆に、日時や電話番号など正確に情報を伝達しなければならないときは、Eメールを使うことが義務づけられています。だから、電話オペレーターが顧客の連絡先などの情報をEメールで伝えると同時に、私が怒った声で「すぐにお客に電話しろ!」とボイスメールを送れば、営業マンはあわてふためきながらもクレーム処理にすぐに動き出せる。クレームのほぼ8割方が、30分以内に一次対応がとれているのはこうしたIT活用の成果にほかなりません。
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■海外企業の視察を行い先進的取り組みを自社に取り入れる
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――仕組み作りのアイデアはどのようにして生まれるのですか。
小山 生むんじゃないんです。その多くが実はカンニング(笑)。他社の真似です。でも、人の真似をすることだって感性がにぶいとできない。私は、真似こそ最高の創造だと思っているくらいです。だから「武蔵野の正式名称は『株式会社盗品見本市』です」と時々冗談で言うほどに、他社の優れたところはどんどん取り入れています。例えば、先ほどお話しした社内の勉強会で「先輩社員が後輩社員を教育する」という仕組みも、ヴィクトリア(スポーツ用品販売)を見習ったものです。
一方、国内だけでなく海外企業を参考にしたケースも多く、1994年という早い時期からホームページを立ち上げたのもそうですし、「トップページは軽くしないと使い勝手が悪い」ということはアイルランドのNUA(ヌア)社から学びました。海外企業の視察は毎年のように行っています。そのため旅行会社や懇意にしている多国籍企業の関係者には、先進的な取り組みをしている企業があればすぐに紹介してほしいとお願いしています。
経営は芸術活動ではないので、他社のマネをすることは決して恥ではありません。オリジナルに固執し業績を伸ばせないでいる会社と、他社の模倣であっても業務改善に努めて増収増益を続けている会社を比較した場合、後者のほうが評価されていい。
――新たな仕組みづくりのアイデアを得たとしても、それを社内に根付かせるのはなかなか難しいものです。
小山 他の会社がなぜできないかというと、難しいことをいきなりやろうとするからではないでしょうか。アイデアが5つあったら、一番簡単なものからはじめればいいんです。その方がスムーズだし、効果が期待できる。まずは新しい仕組みをどんどん受け入れられる社内の文化を作るのが先決です。
あとは多少の工夫も必要でしょう。10年前に「ザウルス」というPDAを社内に導入したときは、基本的な操作方法を教えた後に「個人のアドレス帳を入力してきなさい」と指示しました。要は、「私用でどんどん使っても構わない」ということです。今まで手にふれたこともないITツールにとまどっていた年配の社員たちも、自分のアドレスを100名、200名と入力するうちに操作方法を覚えていきました。インターネットでもEメールでも、遊びや私用で使うとみるみるうちにスキルが高まる。みんな動機が不純だとモチベーションがあがるようです。
ちなみに私用で使うことを許しているからといって、仕事中も遊んでばかりということはありません。仕事の中身をきちんと評価する人事制度があれば、社員もそんなに怠けてはいられない。
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■仕組みづくりの“極意”は業務の標準化とマニュアル化
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――小山流“仕組みづくりの極意”とは何ですか?
小山 私のいう仕組みとは、「社員のだれがやっても同じ成果が出せるシステム」のこと。そこに社員を貼りつけていくわけです。新幹線はだれが運転しても時刻表どおりに運行していますが、それは時刻表という仕組みに人を貼りつけているから。それと同じです。そうした意味では、私の仕組みづくりの極意とは、「業務の徹底した標準化・マニュアル化」にあるといえるかもしれません。
――では、それを促進するためにどんなことを…。
小山 たとえば「管理職に休暇を取らせて、強制的に仕事から切り離す」というのがあります。私たちの会社では、課長職以上の管理職者は年に一度、月末から月初にかけて9日間の連続した休暇を取らなくてはなりません。月末や月初は給与計算や棚卸などで一番忙しいときにもかかわらずです。なぜそうしているかというと、この時期に休ませて仕事にタッチさせないようにすれば、自分がいなくても業務が滞らないように日頃から部下を教育したり、業務の標準化を進めたりするようになることが期待できるからです。長期休暇中に業務がストップするなどの問題が起こればそれはすべて管理職の責任。賞与にも影響します。だからみんな嫌でもやらざるを得ない。
それともう一つ。「定期的な人事異動」が果たす効果も大きいといえます。約360名もいる会社であるにもかかわらず、総務スタッフはわずか1人しかいないのですが、しかもその担当者は毎年代わる。2人しかいない経理部門でも2年ごとに人事異動があります。そのため、それぞれの担当者は後任者に仕事を引き継ぐことを常に念頭に置いて仕事をしなければならない。そうすると、自分しか理解できないような複雑な仕事はできるだけ標準化しようとする。引き継ぎが厄介になるからです。
――引き継ぎを頻繁に行うと、業務マニュアルの充実化も進みそうですね。
小山 おっしゃる通りです。後任者は前任者から受け継いだマニュアルに対し、自分がわかりにくかった箇所を手直ししたり、不足分を補っていきます。それが繰り返されるうちにどんどん精度が高まっていきます。
――他の中小企業でも簡単にはじめることができて、なおかつ効果が期待できる仕組みがあれば教えてください。
小山 「サンクスカード」なんてどうでしょうか。上司と部下とのコミュニケーションを深めるためにはじめた仕組みで、名刺大の紙に感謝の言葉を書いて手渡すというものです。「○○君、頑張ったね」とか「△△部長、サポートありがとうございました」といった具合にメッセージを相手に伝えるわけです。このサンクスカードを始めたことで、職場の雰囲気がずいぶん明るくなりました。
ほとんどの会社は大きな手柄を立てたときに部下を褒めることはあっても、小さなことで褒めるという習慣はないと思います。それに大きな手柄って滅多にないんですよ。しかし小さなことでも褒められれば嬉しいものだし、やる気にもつながる。何度も褒めてあげることが重要なわけです。それを円滑に行うためのツールがサンクスカードなのです。
1ヵ月あたり約7000枚ものサンクスカードが社内を飛び交っていますが、管理職は20枚以上書かなければならないというルールづくりをした成果です。20枚以下の場合は5000円の罰金。お金をとられるのが嫌だからと仕方なくサンクスカードを書く上司もいるはずですが、カードをもらった部下にしてみればそんなことはわからない。とにかく褒められれば嬉しいのです。
――最後に「中小企業の経営者は何を自覚しておくべきか」についてお話しください。
小山 時代がどの様に変化していくかをきちんと見極められるようにしておくことが大切ですね。当面の競合他社は短期的なライバルであっても、経営者にとって最大の敵は時代の変化だと思っています。音楽はエジソンが生まれるまでは全部、楽団が演奏するものだった。それがレコードの誕生によって楽団というマーケットは食いつぶされ、さらにそのレコードもカセットテープ、CD、メモリーカードに取って代わられた。それと同様に、時代とともに移り変わる経営環境に応じて会社を変革していかなければ企業経営は成り立たないのです。このことを忘れてはならないと思います。
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(インタビュー・構成/本誌・吉田茂司) |
小山 昇(こやま・のぼる)氏プロフィール |
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1948(昭和23)年、山梨県生まれ。東京経済大学卒業後、日本サービスマーチャンダイザー(現在の武蔵野)に入社。1989年に武蔵野の代表取締役社長に就任する。「日本経営品質賞」や「IT経営百選」最優秀賞を受賞するなど、その独自の経営手腕は広く評価されている。
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