◎野村総合研究所
上席研究員
山崎秀夫
2004年の日本登場からわずか2年半あまりで、700万人もの利用者を獲得したSNS。「ネット社交クラブ」といわれるこの新サービスは、今後も急速な普及が予測される。そしていま、企業がSNSをマーケティングに利用する動きが現れはじめた。SNSマーケティングの具体的な手法と有効性を探る。
SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)とは、「ネット上の社交クラブ」である。インターネットの仮想コミュニティ内で、参加者同士が交流や人脈づくりを行う新サービスだ。
その勢いがいま凄い。2002年にアメリカで誕生し、04年には日本上陸。現在、国内での利用者数は716万人(06年3月末現在・総務省調査)を数える。今年9月に運営会社最大手のミクシィが東証マザーズに上場、一般的認知度も目下急上昇中だ。総務省では、07年に利用者数が1042万人に達するとみている。
個人的には、今後、利用者数5000万人、普及率4割程度にまでは増えると予測する。SNS先進国のアメリカなどでは国民の半数以上に普及しているし、いまや日本国民の約75%が加入する携帯電話でもSNSが利用できることを考えれば、十分現実的な数字といえよう。
一方で、この急拡大するネットコミュニティを利用した企業の販売促進活動が活発化してきた。いわゆる「SNSマーケティング」だ。
SNSマーケティングとは、「SNS上に『顧客クラブ』を組織し、それを活用して顧客との関係性を深めていく手法」のこと。簡単にいえば「バイクショップ主宰のツーリングクラブ」や「酒販店が運営するワイン愛好会」といった顧客組織・会員組織をネット上に立ち上げ、そこをフィールドに様々な販促策を展開することだ。マーケティング対象が絞られるためニッチ市場に適しており、かかる費用も小さく中小企業でも取り組みやすい手法といえる。
顧客との関係性を重視するという点で、SNSマーケティングは従来のワン・トゥ・ワンマーケティングに発想が近い。ただ、ワン・トゥ・ワンマーケティングが「企業対顧客」の縦関係であるのに対し、SNSマーケティングではさらに「顧客クラブ」という横の関係が付加される。具体的な事例を交えながら、この新手法の概要を解説していこう。
まずはSNS自体の基本的な仕組みから説明していく。
実際にSNSの中を覗いてみると、例えば同じ職種のサラリーマンが参加するコミュニティでは、仕事の愚痴やアドバイス、情報交換などが活発に交わされていたりする。イメージ的には、居酒屋の雰囲気に近い。“ネット居酒屋”で共通の話題や悩みを語りあうわけだ。
かつて日本は『職縁社会』といわれ、社宅、社員旅行、運動サークル、“飲みニケーション”など、企業内での交流が活発だった。ところがバブル崩壊以降、社会の変化とともにそうした職縁コミュニティの存在感は急速に小さくなっていく。これに代わる新たな社交場として、SNSが普及したと考えられる。
ではネットという仮想空間で、どのような方法で交流するのか。
SNSに参加する方法は、「招待制」と「承認制」の2つがある。
多くのSNSでは、すでに参加している友人の招待がなければ新規加入できない。これが招待制だ。「友達の輪」によって新参者のある程度の身元保証を行い、匿名性を利用した誹謗や無責任な書き込みを排除する。
このように、コミュニケーションの基礎部分に対面(リアル社会)で培った人間関係を据えるのが、SNSの最大の特徴だ。ネットコミュニティというと「2ちゃんねる」のようなアングライメージが湧くが、招待制になっているためSNSでは比較的穏やかな交流が行われている。
もう一つの承認制とは、運営側が入会希望者を募り、希望者がプロフィール登録後、運営側の審査を経るなどして会員になる制度だ。審査といっても、通常は自動承認が多い。
こうして参加者になると「マイページ」(個人用のページ)にプロフィールを登録し、「SNSブログ」という日記などで自己開示を行っていく。マイページにはほかにも「友人リスト」や「購入商品リスト」が写真つきで掲載され、友人のコメントも一覧で読める。
また、職業や趣味など共通の立場や嗜好を持つ者が集う「内部コミュニティ」(テーマごとにいくつも立ち上げられている掲示板)に参加できる。さらに「インスタントメッセージ」という簡易メール機能や、マイページの訪問(閲覧)者が分かる「足あと」機能などがある。各機能は公開範囲などの限定ができ、どこまで友達の輪を広げるか参加者が自分で管理できるようになっている。
SNSはパソコンや携帯でコミュニティに参加するので時間や距離の制約を受けない。対面での会合よりもずっと手軽に友人や同好の士と交流できる。利用者にとってSNSは、対面での人間関係を補完し発展させるツールになっているのだ。
このような特性をもつSNSをマーケティングに活用する場合、第一にどのような目的(成果イメージ)をもって行うのかが重要になる。
その目的は、基本的にはリアル世界での顧客クラブの運営と同じだ。大きく分けて(1)企画広告(2)安定的な売上維持(3)「唱和する顧客」づくり(4)顧客ニーズの取り込み(5)顧客の囲い込み、の5項目が挙げられるだろう。これらのうち1〜3程度に絞り込む。
目的は、自社の商品やサービスの特性、さらには顧客ターゲットによっても変わってくる。それぞれを具体例とあわせて見ていく。
(1)企画広告
参加者が書く日記(SNSブログ)などを外部に公開するなどして口コミを広げる。例えばフレンテインターナショナル(『戦略経営者』2006年11月号13頁参照)では、自社商品のキャラクターである「ピンキーモンキー」をミクシィに登録して日記の公開と友達募集を行った。これが話題になり、ミクシィだけでなくほかのブログでも紹介され、認知度向上に成功している。
(2)安定的な売上維持
顧客クラブが機能することでリピートが得やすくなるのは、ネット上においても同じ。複合カフェのアプレシオ(『戦略経営者』2006年11月号17頁参照)は、会員向けクーポンを発行しリピーターの獲得につなげた。
(3)「唱和する顧客」づくり
マーケティング用語で自社製品を広めてくれる顧客を「唱和する顧客」と呼ぶ。「唱和する顧客」は口コミの起点となってPR活動を行い新たな顧客を集め、さらには既存客のロイヤルティー強化にも貢献する。
キリンウェルフーズのスタイルサポート食品のSNS「リエータカフェ」(『戦略経営者』2006年11月号14頁参照)はこの好事例。会員が自分のダイエットの過程をつづった日記の一部を、SNS外にまで発信したことで、急速に新規ユーザーを獲得してきている。同社の年商はここ数年で鰻登りに増えている。
(4)顧客ニーズの取り込み
SNS内での顧客との交流をベースに、商品の共同開発や共同販売を行うことも可能だ。「こういう新商品を企画中」といった情報を流せば、短期間に多くの意見を集めることができる。また、顧客の生の声が日々飛び交っているのでニーズ調査も容易。例えばワイナリー和泉屋(『戦略経営者』2006年11月号18頁参照)では、コミュニティで繰り広げられるワイン談義から売れ筋のヒントなどを得ているという。
(5)顧客の囲い込み
SNSは顧客の繋ぎ止めにも有効だ。居心地の良さを感じてもらえれば、顧客は一定期間定着し続けてくれる。リエータカフェでは、参加者が他の参加者のダイエット日記に触発され、励まされてダイエットへのモチベーションを維持するという構図ができている。ダイエットの脱落者が減れば、自ずと商品の継続利用率は高まる。顧客同士の交流が固定客化を促進しているである。
さて、目的を定めたら、次に運営の仕組みを構築しなければならない。
もちろん目的が違えば、運営方法も変える必要があるが、これはまさに多種多様。詳細は13頁(『戦略経営者』2006年11月号)以降のケーススタディを参考にしてもらい、ここでは原則的な運営上の留意点のみを解説する。
SNSマーケティングを実行するためには、ミクシィなど既存のSNSの利用と、自社で独自SNSを展開する2つに大きく分けられる。
手軽なのは当然、前者。ミクシィなどのSNS運営会社の多くは、企業がSNS内でマーケティング活動をするためのサービスを提供しているので、それを利用する。リスクは比較的小さい。フレンテインターナショナルなどは、このケースだ。企画広告など、多くの消費者に短期間でアプローチする際などに有効といえる。
自社で独自に展開する場合は、SNSシステムを開発または購入する必要がある。その分、コストや社内人材の面でのハードルは若干高くなる。ちなみに、ワイナリー和泉屋では自社開発したSNSシステム『ECMiX』の販売も行っているが、ASP方式(インターネットを通じたシステムのレンタル)で月額料金は1万円程度からだという。
独自運営は、コンセプトにあった顧客を絞り込め、組織化も行いやすい。顧客ロイヤルティーの強化に有効だ。「唱和する顧客」づくりや顧客の囲い込みなどで大きな効果を発揮するだろう。このように目的や運営法、コストなどの条件にあわせていずれかを選択することになる。
ネット顧客クラブを設立したら、実際にこれを管理・運営していくことになるが、その際、もっとも大きな要素となるのが運営担当者の力量である。とはいえ、何もネットの高度な知識が必要だというわけではない。キーワードは「ファシリテーション」だ。
ここで言うファシリテーションとは、ネット顧客クラブを適切に仕切るためのスキル。例えばSNSは横関係のコミュニティなので、企業からの一方的な売り込みには強烈な拒否反応を示す。かといってまったく放置し、目的から外れたコミュニティになってしまっては元も子もない。参加者に居心地がいいと感じてもらえる環境を醸成しつつ、効果的にプロモーションを仕掛けていくバランス感覚が大切なのだ。そのため運営者は、日頃からネットに親しみ、ネット世界の常識を十分に理解しておく必要がある。
いずれSNSは、多くの人々が交流を楽しむ一種のインフラとなるはずだ。昨今ではマーケティングのみならず、16頁(『戦略経営者』2006年11月号)で紹介する早稲田塾のように社内コミュニケーションに活用する例も増えてきた。これを今後の経営戦略に活用しない手はない。
まずは中小企業の経営者諸氏も、その世界を体験してみてはいかがだろうか。それがSNSマーケティングを成功に導く第一歩となる。
(インタビュー・構成/本誌・千葉博文)