今年度の税制改正では、中小企業関連で例年以上に減税寄りの改正が目立った。
背景には“頑張る中小企業”を支援しようとする政府の姿勢がある。
「創業・新事業創出」「成長・発展」「事業承継」の3つのステージごとに“使える改正点”を解説する。
(本特集は「平成20年度税制改正の要綱」等に基づき制作。法案は今国会にて成立の見通し)
◎税理士 坂部達夫
《改正内容の全体的傾向》
中小企業の経営を体系的に支援 諸制度の“使い勝手”が向上
Q1 今年度税制改正での中小企業関連項目の概要を教えてください。
A 主な改正点は(〔『戦略経営者』2008年5月号9頁〕参照)の通りですが、その内容には2つの大きな傾向が見られます。1つは、これまで以上に中小企業への支援を強く打ち出している点。2つ目が、創業から事業承継に至る企業のライフサイクルのステージごとに支援措置が体系的に網羅されている点です。
日本では1991年以降、一貫して企業の廃業率が開業率を上回っており、企業数は過去20年間で100万社以上も減少しました。そうした中にあって今回の税制改正には、日本の産業を下支えする中小企業の衰退をなんとかくい止めようという、政府の強い意志が見て取れます。
たとえば、創業・新事業創出ステージの「エンジェル税制の抜本拡充」。これは今後のベンチャー投資のあり方を大きく変える可能性をもった画期的な改正です。政府は、これによって新ビジネスが誕生しやすい社会環境へと誘導しようとしています。
また、事業承継ステージでは、「中小企業事業承継税制の抜本拡充」が来年度に行われる予定です。これは今年10月に施行される経営承継円滑化法(仮称)という新法の枠組みの一環として提示されたものです。同法は「民法遺留分に関する特例」「金融支援」「相続税の課税の特例」によって総合的に中小企業の事業承継を支援する法律です。
現在、廃業する企業の約4社に1社、数にして年間7万社あまりが、事業承継が困難であることを廃業理由に挙げています。経営承継円滑化法は、こうした危機的状況の改善を目指しています。
これらの改正点は、経済産業省の要望が多く採り入れられた結果、出されたものです。平成11年に中小企業基本法が改正され、中小企業政策の方針が「頑張る企業の支援」へと転換されましたが、今回の改正ではこの方針が従来より色濃く反映されていることが分かります。
中小企業側から見ても、各種制度の使い勝手が従来よりもよくなっていますし、経営の向上を図る上で有益な項目も多いと感じます。経営者には、内容を理解した上で積極的に活用されることをお勧めします。
なお本特集では「平成20年度税制改正の要綱」(H20年1月11日閣議決定)などをもとに解説します。実際の適用に当たっては顧問税理士と相談した上で活用してください。
《エンジェル税制の抜本拡充》
ベンチャー投資活性化の起爆剤 別会社の新設で投資対象にも
Q2「エンジェル税制」はどのように変わりましたか。
A 個人がベンチャー企業に投資(金銭を払い株式を取得)した場合に、その投資額のうち総所得金額の40%か1000万円のいずれか低い額から5000円を引いた額を、寄付金控除として課税所得から差し引くことができるようになりました(〔『戦略経営者』2008年5月号10頁〕参照)。これは恒久措置となっています。
ここで言うベンチャー企業とは、経済産業大臣の認定を受けたベンチャー企業で、具体的には、設立1年目の中小企業新事業活動促進法(以下、促進法)の特定新規中小企業者や、設立2、3年目の特定新規中小企業者で設立以来の営業キャッシュフローが赤字であるものなど、とされています。
加えて、これまでの制度も引き続き利用可能です。従来制度は、まずベンチャー企業に投資した時点において(1)投資額をその年のほかの株式譲渡益から控除(繰延)でき、さらに投資で得た株式を売却する時点でも(2)譲渡益を2分の1に圧縮して課税(3)譲渡損失を翌年以降3年は繰越控除できるというものです。なお、(1)(3)は恒久措置なので存続しますが、(2)については平成21年4月以降、適用が廃止されます。
Q3「エンジェル税制」の改正によってベンチャー企業への投資は活性化するでしょうか?
A 可能性は十分にあります。欧米では投資額の所得控除や税額控除が主流となっており、一例としてイギリスでは約1億円を上限に投資額の20%を税額控除する方式を採用し、年間1000億円超の投資実績を挙げています。対して日本は06年度で13億円でした。外国の例を見る限り、今回の改正で日本の投資環境の改善は期待できると思います。
具体的には、経済産業大臣が認定したファンドを経由した投資も優遇対象になっていますので、まずは証券会社や投資顧問会社などがベンチャー投資ファンドを組成して広く一般向けに販売することが考えられます。仮にサラリーマンが10万円でこのファンドを購入したら、そこから5000円を引いた残り9万5000円がその年の総所得金額から控除できるという仕組みです。個人がリスクの高いベンチャー企業の株に直接投資するのはあまり現実的ではありませんが、これならばハードルがかなり低くなるでしょう。
この改正で注目すべきは、寄付金控除であるという点です。従来は株式譲渡益から投資額を控除する制度だったため、どうしても儲けを意識したいわば「投機」に近い投資が中心でした。対して今回の改正では、より広範な寄付行為に近い投資までが対象になります。
たとえば以前なら、ある篤志家が将来性のある一人の経営者に惚れ込み、その経営者が興したベンチャーに投資して育てようと思っても、取得した株式を売らない限りは税制優遇が受けられませんでした。この篤志家のような方が本来の意味でのエンジェルなのですが、そういう方への特典が小さかった。それが今後は投資した時点で所得控除が受けられるのですから、投資への大きなインセンティブとなるはずです。
ただし、所得控除額はベンチャー企業の株式の取得価額から差し引く必要があります。(〔『戦略経営者』2008年5月号10頁〕参照)の投資家Aさんの場合だと500万円の投資から399万5000円の所得控除を引いた100万5000円が取得価額となります。取得価額が小さくなるのですから、その分、将来に株式を売却した際の譲渡益課税が増える可能性もあります。
他方、投資を受ける企業サイドから見ると、純然たるベンチャー企業のみならず既に何年にもわたって事業を行ってきた企業にとってもメリットのある制度だといえます。別会社を新設し促進法の認定を受ければ、対象ベンチャー企業になれるからです。このスキームによって直接金融による資金調達の可能性が増すでしょう。自社に将来有望な事業の“タネ”があるのならば、新会社設立を検討してもよいと思われます。
また、このような分社化などによって立ち上げられたベンチャー企業は、ゼロからスタートするベンチャーよりバックに親会社がついている分だけ信用力があります。そのため投資家にとっても非常に魅力的な投資先となることでしょう。
《農商工連携税制の創設》
農業等に中小の知恵を生かす制度 多様な新事業誕生が期待できる
Q4「農商工連携税制」の内容は? また、これによってどのような効果が期待できるのでしょう。
A 中小企業と地域の農林水産業者との連携によって新事業を創出し、地盤沈下が続く地域経済を活性化させることを念頭においた施策です。
まず、中小農商工連携促進法(仮称)という法律が創設されました。同法規定に従い農林水産業者と中小企業者が共同で「農商工等連携事業活動計画」(仮称)を作成し農林水産大臣の認定を受けることで、各種支援措置が受けられます(〔『戦略経営者』2008年5月号11頁〕参照)。これは中小企業新事業活動促進法と基本的に同じスキームです。
その支援措置の中の税制優遇の部分が農商工連携税制です。内容は、中小農商工連携促進法の認定を受けた連携体が行う設備投資に対し、7%の税額控除または30%の特別償却が認められる(中小企業等基盤強税制の適用)というものです。
農林水産業の方はどうしてもビジネスに疎い面があります。それを地域の中小企業の知恵で補うのがこの制度の基本的な考え方です。たとえば、徳島県上勝町では、農協の指導員だった株式会社いろどり副社長の横石知二氏の発案で、お年寄りが採取した紅葉の落ち葉などを日本料理の「つまもの」として商品化し料亭などに販売するビジネスを立ち上げ成功しています。これにより同町は日本一高齢者が元気な町として全国に知られるまでになったそうです。
昨今は、「地産地消」の機運の高まりや食の安全への配慮などからも農商工連携は注目されています。実際、各地の農協を中心に連携の動きが活発化してきています。
今後は、地元特産品を活用した新商品の開発などはもちろん、飲食業や観光業、さらには教育分野などあらゆる領域での連携が予想できます。私が関与する企業でも、バイオ技術を持った大学発ベンチャーで、地元農家と連携し医療分野の新事業を手掛けようとしている事例があります。農商工連携によって、多種多様なニュービジネス誕生の可能性が広がっていくはずです。
Q5 このほか、創業・新事業創出関連の改正点にはどのようなものがありますか。
A 一つ挙げるとすれば「民間が担う公益活動の推進・寄付金税制の拡充」です。認定NPO法人制度の認定要件が緩和され、また、認定の有効期限を2年から5年に延長するなどの申請手続き負担の軽減が図られます。これにより新規の認定NPO法人の設立が行いやすくなります。
また同規定においては、民間による公益活動の推進を図るために次のような改正も行われました。
1つ目は、公益社団・財団法人について、公益目的事業から生じる所得が非課税になるとともに、すべての公益社団・財団法人が寄付優遇の対象となる特定公益増進法人となります。あわせて、公益目的である収益事業からの繰り入れについても、全額損金算入が容認されました。
2つ目としては、特定公益増進法人等に対する寄付金の損金算入限度額が、所得金額の2.5%から5%へと引き上げられました。
いまソーシャルベンチャーと言われる公益目的の事業体が注目されていますが、その創業や活動がより活発化することが期待できます。
(続きは、〔『戦略経営者』2008年5月号〕をご覧ください)
(インタビュー・構成/本誌・千葉博文)