沖縄県の中部地区にある「中頭病院」は、地域医療を支える中核病院。隣接する外来診療所「ちばなクリニック」とともに社会医療法人敬愛会が運営する医療機関だ。大山朝弘理事長(70)と宮里善次院長(59)に、病院経営の基本方針や『FX4』を用いた業績管理について聞いた。
――県内有数の規模を誇る病院と聞いています。
大山 沖縄県中部地区にはベッド数300を超える総合病院が全部で4ヵ所ありますが、そのうちの1つが中頭病院です。現在、326床があり、満床にちかい状態で推移しています。
――「地域医療支援病院」の承認を受けているそうですね。
大山 はい。地域医療支援病院の制度は、大病院と小さな診療所がそれぞれの役割を分担することで、患者の利便性を高めようという意図から生まれました。ちょっとした熱やケガは開業医(診療所)が担当し、高度な設備を使う精密検査や入院治療については地域医療支援病院が役割を担います。地域支援病院になるには、病床数が200以上であることや、他の医療機関からの紹介患者数の比率が80%以上であることなどの条件があります。
――経営環境はどうですか。
宮里 私たちが主な医療圏としている沖縄本島中部地区の人口は現在約47万人。近年、住民の数は増加傾向にあります。その点については、決して悪くない経営環境だと言えます。同じ中部医療地区のなかにある他の大型病院と足並みを揃えて、独りよがりにならない経営を心掛けていけば、患者数を大きく目減りさせるようなことはないと思います。
――病院経営をするうえでの基本方針についてお聞かせください。
宮里 中頭病院の運営母体である社会医療法人敬愛会では、「最高の医療を地域に提供」することを理念として掲げています。ですから中頭病院も、医療の専門家として地域の方々の健康を守るために何をするかというのが、経営方針の土台となります。
こうした考え方にもとづいて始めたのが「ちばな地域医療フォーラム」の開催です。地域住民(自治会の代表者等)や患者会の代表、消防本部の救急隊などに集まってもらい、当病院に対する要望・ニーズに耳を傾けます。そこで集めた情報をもとに様々な改善を図っていくわけです。
――例えば今までにどんな改善を?
宮里 「24時間救急医療」を始めたのもそうだし、脳外科や心臓外科を新設したのもフォーラムで寄せられた意見が発端でした。また、敬愛会の外来診療所である『ちばなクリニック』(中頭病院に隣接)でのPETセンター開設や、透析室の増床もフォーラム参加者の期待に応じたものです。
――救急医療の分野で、全国から注目される存在だとか。
宮里 「断らない救急病院」としてテレビや新聞で取り上げられたことが何度かあります。つまり、救急車の受け入れを拒否しないというのが大原則なんです。
私たちが採用しているのは、北米で一般的な「ER型」の救急医療システム。要するに、病気やケガの重い・軽いにかかわらず全ての救急患者をまずは受け入れ、救急部(ER専門医)が初動的な処置(診断、初期治療)をしたうえで、必要に応じて専門の診療科に引き継ぐというやり方です。救急患者の「たらい回し」を防止できるほか、効率的に急患の治療が行えるという利点があります。さらには診療科の当直体制も軽減できる。
最近ではER型を採用するようになった大病院が全国に少しずつ増えてきましたが、長く米軍統治下にあった沖縄県はその先駆けともいえます。周辺の総合病院でもER型を採用しているところがいくつもあります。そのなかで私たちは、CTスキャンをはじめ高額な医療機器が充実している点を特徴としています。
――ここ数年、好調な業績推移を続けているそうですね。
宮里 右肩あがりに売上を伸ばすとともに、確実に利益を出しています。
――医療とビジネスの両立は難しいと思いますが…。
宮里 患者さんの病気を治すという「医療活動」と、病院経営を成り立たせるための「収益活動」という2つの概念は相反するように見えるかもしれません。しかし病院が医療活動を通じて収益を獲得していかなければ、より高度な医療サービスは提供できないと考えています。
現在、医療機器類や医薬品は日進月歩でよくなっています。当然、古い機械よりも新しい機械のほうが、患者さんの病気を治したり、早期発見予防をするうえで有効です。だから、そうした新しい機器を積極的に購入していくためにも、確実に利益を出せる体制を築いていかなければならない。そのためにはもちろん、業績管理をきちんと行っていく必要があります。そのために有効活用しているのが『FX4』なんです。
――『FX4』の導入はいつ頃ですか。
宮里 今から7年ほど前です。導入の決め手になったのは、部門別管理機能が充実していることがまず1つ。他にも、病院で独自に開発した業務系システムとのデータ連携が簡単に行えるところや、病院経営の実態に即した「勘定科目体系の設計」が可能という点を高く評価しました。
――部門別管理はどのように?
宮里 病院の組織体系に合わせて階層別の部門設計をしています。まず「法人(敬愛会)全体」があり、次の階層として「中頭病院」と「ちばなクリニック」の業績を把握できるようにしています。さらにその下に、「人間ドック」「訪問介護」「居宅介護サービス」「外来」「PET」という部門を設けて、より細かい業績管理をしています。部門を細かく設定することで、「どの部門が法人全体の業績向上に貢献しているか」などが容易に掴めるところが嬉しいですね。
――主にどんな帳表を意識して見ていますか。
宮里 私を含め、各部門の管理者がもっともよく見ているのは、やはり《変動損益計算書》です。売上、経常利益、そして限界利益の数字がタイムリーに掴める。さらに、当期の実績と前期との比較対比が簡単にできるのも『FX4』の優れたところです。
――限界利益率を高めるために工夫していることはありますか。
宮里 たとえば定期的に「棚卸し」をしているのがそうです。医薬品や診察材料などの棚卸しを現場スタッフに任せることにより、「余剰在庫が多すぎないか」「無駄遣いをしていないか」などを再確認してもらうことができます。そうやって少しでも余計な経費を減らしていくことが大切なんです。
こうした工夫のアイデアは、医師や看護師たちの間からはなかなか生まれません。やはり事務方のスタッフから出てくるものです。近年、事務スタッフの人数を増やしているのは、効率的な病院経営を実現するために必要だと思っているからです。2年前に「経営企画本部」というセクションを新設したのもその流れからで、病院全体がより良い方向に進むためには何をするべきかを考えてもらっています。医師、看護師、技師などは国家資格を有する各分野の専門家であるため、「病院全体を見渡す」という広い視野は持ちにくい。経営企画本部には、みんなの主張をうまく調整する“管制塔”としての役割も期待しています。
――『FX4』を使って予実管理を行っていると聞きました。
宮里 はい。毎年3月に策定する単年度計画を月別の予算に落とし込むかたちで、予算と実績の管理をしています。毎月の予算達成を目標にした業績管理を通じて、より安定した経営が目指せると思っています。
――安定した財務体質が評価され、格付け機関から高い評価を得たといいます。
宮里 外資系のフィッチ・レーティングスに格付けを依頼したところ、信用力はAマイナス、財務状況は「安定的」という高い評価をいただきました。格付けをしてもらったのは、(1)経営の透明性アピール(2)金融機関へのアピール(3)職員に対して安心して働ける職場であることを伝える(4)資金調達の多様化、という4つの目的からでした。
じつは近い将来、中頭病院の全面的な建て替えを予定しています。今後、金融機関からの資金調達をするうえで、格付け機関から高い評価を得られたことは有効なアピール材料になると思っています。
( 本誌・吉田茂司)
| 名称 | ● | 社会医療法人敬愛会・中頭病院 |
|---|---|---|
| 業種 | ● | 総合病院 |
| 代表者 | ● | 大山朝弘 |
| 所在地 | ● | 沖縄県沖縄市知花6-25-5 |
| TEL | ● | 098-939-1300 |
| 医業収益 | ● | 約120億円 |
| 職員数 | ● | 1148名 |
| URL | ● | http://www.nakagami.or.jp/ |
CONSULTANTS´ EYE
地域に根ざした医療活動を財務の面から支援したい
税理士 喜屋武清
喜屋武清税理士事務所
沖縄市照屋3-28-4 電話098-939-7011
中頭病院様とのお付き合いは平成2年頃から始まりました。以前は本土にある公認会計士のお世話になっていたそうですが、その後、地元の会計事務所に顧問を依頼したいという話の中で、私どもとの関係がスタートしました。
当初は、手書きで経理処理していましたが、タイムリーな業績管理をしたいという要望を受けて『FX4』の導入をご提案しました。大手をはじめ複数の他社システムと比較検討した結果、最終的に『FX4』を選んでもらったという経緯があります。
最初の導入作業のお手伝いをするなかでは、一般の企業と異なる病院独特の設定にしなければならないところに多少苦労しました。たとえば病院内では「売上」や「利益」ではなく、「医業収益」「医業利益」という呼び方をします。だから勘定科目の設定変更がどうしても必要になるわけです。
他にも、IT化が進んでいた病院ということもあり、財務以外の各種システムと『FX4』をどうデータ連携させるかについても考える必要がありました。例えば「医療器具等の仕入データ」や、受診者の「口座引き落としデータ」といった類です。
監査業務などで病院内に足を踏み入れて感じるのは、いかに地域に根ざした医療活動をしているかということです。中頭病院とちばなクリニックの運営母体である「敬愛会」が今年3月から、従来の特定医療法人から「社会医療法人」(へき地医療や小児救急医療など地域で特に必要な医療を提供する医療法人)になったことを受けて、その傾向がさらに強くなったように感じます。苦情処理の専門員を設置して、そこに寄せられた患者たちの要望等を、理事会等で審査して改善すべき点は迅速に直していくという姿勢は立派です。
私たち会計事務所も、中頭病院様の財務面のサポートを通じて、地域医療活性化の一端を担えればと思っています。