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2003年、日本で『電子政府』が動き出す。それは同時に『電子自治体』が動き出すともいえる。国と地方を合わせ約650億円の債務を抱え崩壊寸前の状況にある日本の建て直しは、もはや目先のコストや人員の削減だけではなしえない。国も地方も、ともに「IT」を武器として経営改革を図らねばならないのだ。21世紀に向け、いま市町村が何を考え何をなすべきか、MRIの中村部長に聞く。



◆中村部長は、御社のサイト上の『MRI TODAY』のコメンテーターとして、定期的に市町村に向けた提言をされておられます。そのなかで、「IT(情報通信)は技術問題ではなく、経営問題としてとらえるべきだ」と述べておられますが、これは民間企業に限らず地方公共団体にもいえることですね。
中村 
そうですね。いま世界的規模でIT革命が進行していますが、これは18世紀末に起こった産業革命が当時の人びとの価値観やライフスタイルにインパクトを与えた以上に、私たちの日常生活へ大きな変革をもたらすでしょう。すでにIT革命は、日本の産業界や経済だけでなく地域社会にも大きな影響を及ぼしています。もう市町村もその変革の波に巻き込まれているんですよ。そこで申し上げたいのは、この「IT」は単にいままでの業務をコンピュータ化するものではなく、自治体の業務を根本的に改革するためのツールだということです。
 いま、市町村は地方分権や合併といった制度改革に直面しています。また、少子高齢化や広域化、多様化する住民サービスといった将来の課題に加えて、厳しい財政状況や経済システムの変化など自助努力ではどうすることもできない現実的な問題も抱えています。これらの課題は、小手先の対応で解決できるものではありません。市町村も自治体を「経営」するという点では民間企業と同じで、急激に変わる社会環境へ追いついていけない企業が淘汰されるように、いつまでも“お役所”意識から抜け出せない市町村は、いずれ強い自治体に吸収されてしまうかもしれない…。民間でいうM&Aですね。だからこそ、市町村も自治体を経営するという発想に立って、これまでの「戦略」「業務プロセス」「人・組織」を見直し、抜本的な業務改革を進めていかなければなりません。そのために、ITを最大限に活用することが求められているわけです。
◆なるほど。そうしたことでは、沖縄サミットでも「IT」が主要議題の一つとして挙げられていますが、国によって取り組み方に多少違いがありますね。
中村 
ええ。米国ではよく「民間主導で物事が進む」といわれます。確かにその面は否定できませんが、実際にはマーケットをつくっているのは「国」、つまり行政なんですね。
 ご存じのように90年代になって冷戦構造が崩れ、米国の軍事産業の技術は行き場所がなくなりました。ところが、この軍事技術というのはITの固まりのようなもので、当時、米国で開発されていた「コンピュータ・シミュレーション」「暗号通信」などは世界最高水準のものだったんです。そこに注目した米国政府が、軍事技術の民需転用を図るために積極的なIT投資を行い、これまで民間をリードしてきました。
 ところが日本の場合は、どうも最近の傾向として「行政主導はよくない」という風潮が強まっていますよね。これにはバブル経済の崩壊で懲りたということもあるのでしょう。日本でも、ようやく今年から『電子政府』『電子自治体』といった国レベルの取り組みが本格化してきましたが、基本的に「政府はインフラ整備、あとは民間主導で進める」というスタンスでいるようです。

求められるのは新しい発想による住民サービスだ

◆いま全国の市町村が、『電子自治体』への変革を進めているところと思いますが、やはりこれまでとは行政の在り方も大きく変わっていくのでしょうね。
中村 
住民に対して最高の価値を与えるということが、電子自治体の究極の目標になると思います。その点で、いま市町村に必要なのは「行政はサービス業である」という発想でしょう。例えば、行政の電子化というと、まず思い浮かべるのが「24時間いつでもどこでも住民票の予約ができる」といったことです。こうしたワンストップやノンストップのサービスは、これはこれで大変な技術進歩ですが、住民票を年に1回必ず取りに行くという人は実際にはそれほどいないんですよ。だから、そこだけ電子化してもさほど喜ばれません。市町村が単なる手続きの電子化だけで満足していては、真のサービス業とはいえないんですよ。
◆サービス業としては、さらに付加価値が必要だということですね。
中村 
「ええ。住民は、住民票の予約ができるとともに、コンサートチケットの予約もできるというような新しい環境を望んでいるんです。もともと、市町村が行う住民サービスとは、老若男女を問わずその地域に住むすべての人たちが明るく健康的な生活を送ることができるようサポートするものですよね。このように地域に住む人が生まれてから亡くなるまでトータルで支援するサービス業は民間ではありえません。市町村が唯一無二の存在なんです。だからこそ、住民に対してどんなサービスが提供できるのかということを考えなければならないわけです。
 ただ問題なのは、こうしたサービスを提供する「手段」イコール「インターネット」と考える人が多いことです。今年の通信白書によれば、いま日本のインターネット人口は2700万人ほどといわれていますが、家庭で利用している人は全体からみればまだほんの一部です。かくいう私も家庭ではインターネットに接続していません。そうした人たちにとっては、インターネットを使えば便利なのかもしれないが、コンピュータをオープンな場所につなぐという怖さや運用の安定性など、いろいろな意味でハードルが高いものなんです。
 確かにマーケティングの1つの考え方として、現段階では、インターネットはセグメントされたハイレベルな顧客に対する有効なアプローチ方法といえますが、市町村の場合は限られた一部の人たちだけではなく、地域に住むすべての住民が“お客さん”なんです。インターネットは、あくまでも行政サービスを提供するための「手段」の1つであり、場合によっては衛星放送でも構わないわけです。またツールもパソコンとは限りません。一般的というのであれば、ほとんどの家庭にテレビが普及しているわけですから、これを情報端末として利用しない手はないでしょう。市町村はITを視野に入れながらも、こうした全住民に対応できる全方向性をどう確保するかという点を忘れてはいけないと思います。
◆なるほど、その辺りはよく考える必要がありますね。ネットワークや情報システムを導入するのが「目的」ではなく、大切なのは、それを使って何を行い、どういうメリットを住民に提供するかということですからね。ところで、ネットワーク社会では「地域社会の再構築」や「ヒューマン・コミュニケーションの再活性化」が起こるとおっしゃっていますが。
中村 
再構築といっていいのかわかりませんが、簡単にいえば「コミュニティ意識を改めて作り直そう」ということです。私はよく『パブリック』という表現をするのですが、これはプライベートとガバメントの中間部分で、いわば〈住民のものであり、かつ公共のもの〉ということです。日本には江戸時代からこうしたパブリックな場所が存在してきました。例えば、ひと昔前までは会社や学校がそうだったわけです。まぁ、最近では会社はリストラでおかしくなって、学校は学校崩壊といわれていますが…(笑)。
 でも「高齢化」「福祉の充実」「生涯教育」といったことを考えると、これからも地域社会の重要性が失われることはありません。その点で、自治体の電子化は、地域社会の新たな構築のきっかけになると考えているわけです。
◆その辺りについて、もう少し詳しくお話しいただけませんか。
中村 
ITは地理的境界や時間的制約を消滅させ、コミュニケーションから人間の存在を消してしまいます。それによって効率化・高度化が図られるわけです。しかし、人間が活動し生きていくためには人と人とのコミュニケーションが不可欠です。それはネットワーク社会になっても変わりません。かえってコンピュータ化によって市町村の作業が効率化される分、これからは住民との間でコンピュータでは実現できない人間的なコミュニケーションの部分が重要になっていくでしょう。市町村は電子化できる部分と人が担う部分とをしっかり選別して、前者はITの導入によって省力化を徹底し、それによって生じた人員を後者の分野につぎ込まなければならないと思います。
◆そうしたことでは、社会のフラット化も進むと指摘されていますが、これは従来とは異なる行政対住民の構造ができるということですか。
中村 
構造というよりは、対等の立場になるととらえていただければいいかと思います。例えば、現在の日本企業はいかにも“ヒエラルキー(上意下達)”型になっていますが、少し前までは社長だろうが新入社員だろうが、同じマインドで会社を考えるという  “フラット”型でした。80年代には、これがすぐれた経営システムとして世界中の企業経営の手本となったほどです。つまり、もともと日本はフラットな風土だったわけです。ITはそれに戻す絶好の機会といえるのではないかと思います。例えば、電子メールでは社長もヒラ社員も、市町村長も住民も、同じ土俵で“フラット”にコミュニケーションすることができますよね。そのように、「国」→「都道府県」→「市町村」→「住民・企業」という流れから、これからは「国」=「住民・企業」=「自治体」という構造への転換が求められています。特に地方公共団体は、これまでヒエラルキー的傾向が大変強かったわけですが、最近では「行政改革」や「分権化」で話題になるような“フラット”化が進んだ自治体も増えてきました。こういった自治体は今後とても魅力のあるものになっていくでしょうね。

これからは、住民が自治体を選ぶ時代になる!

◆さて、電子自治体を構築する上でのポイントは何でしょうか。
中村 
ひとつは先ほどもいったように〈サービス精神の発揮〉で、もうひとつが〈自治体も選ばれる時代になった〉ということだと思います。
◆自治体が選ばれるとは?
中村 
これまで日本では、特に都会の場合ですが、住民が「自治体を選ぶ」という意識はほとんどありませんでした。例えば、ある人が住む場所を選ぶ場合、自分の給料や通勤時間などを考え合わせて選択していましたよね。そこが、たまたま〇×市だったということにすぎなかったわけです。でもこれからはそうではなく、「こういう地域に住みたい」「こういう行政サービスのあるところに住みたい」という人が増えてくると思いますよ。そして「選挙」という手段によって、市町村長も選択されるようになります。数年前、東京都民が知事選挙で都市博を中止させたように、これからは住民のニーズに応えられない、意思にそぐわないサービスには、住民がはっきり「NO」と意思表示を行う時代となるでしょう。
◆その時、どんな自治体が住民に選ばれるのでしょう。
中村 
「行政サービスの内容」「税額」「居住水準」「就業機会」「環境」など、その人の価値観やライフスタイルによって自治体を選択する基準は異なるでしょう。ただ、長い目で見ればこうした地域格差は少しずつ是正されていくでしょうね。すると、どこで差が出るのか…。それがいわゆる「温かさ」「親切さ」といったヒューマン・コミュニケーションの部分です。今後はITも含めて、こういったものの水準が高い市町村を選ぶ人が確実に増えていくと思います。そうした点で、いま市町村に求められているのは、〈画一的ではなく住民のニーズや地域の実状に応じた特色ある地方行政を行うこと〉といえるのではないでしょうか。

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