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特集タイトル



地方分権の時代を迎え、自治体には高齢者福祉、雇用や環境への対策といった新たな役割が期待されている。だが一方で、不必要な公共事業や不透明な意思決定プロセスなど行政運営の効率の悪さに対する指摘も後を絶たない。地方の競争の時代に勝ち残るためには、自治体も民間の経営手法を採り入れて経営改革を図ることが必要だろう。これからの地域経営と行政サービスの在り方を探る。



 このところ行政改革に関連した話題が再燃しています。
 橋本政権時に決定された、省庁再編の実施時期である平成13年1月が間近に迫っていることがその理由の1つです。あと3ヵ月ほどで総務庁・自治省・郵政省を統合した「総務省」や、建設省・運輸省・国土庁・北海道開発庁を統合した「国土交通省」などの巨大な組織が誕生し中央省庁の数は半減することになります。
 一方で地方自治体に目を向けると、東京都の石原知事に代表されるような新しいリーダーたちが現れ、これまで聖域とされてきた領域にまでメスを入れようとしています。
 しかし、これまで行なわれてきた行革の議論は「官か民か」「国か地方か」という言葉に表れているように、いわゆる行政サービスを「誰が提供すべきか」という観点で論じられることが多かったように思いますが、これからはそれを「どうやって提供すべきか」という視点に発展させ、より踏み込んだ議論がなされるべきではないでしょうか。

求められるのはハイパフォーマンス・ガバメント

 行革というと一般に「スモール・ガバメント(小さな政府)」という言葉が頭に浮かんできます。これは行政機関は非効率だからできるだけ小さい方が良いという考え方で、ご存じのように英国のサッチャー元首相は小さな政府になることで英国経済の再生を果たしました。
 しかし少子高齢化、情報化、国際化などの社会情勢の変化のなかで、行政機関に求められるサービスが拡大する傾向にあります。そう考えると、いまの日本に必要なのは「大きい」「小さい」といった規模の議論ではなく、顧客にとってバリュー(価値)の高い行政サービスを、最小(最適)のマネー(人、モノなどの経営資源)で提供する行政機関「ハイパフォーマンス・ガバメント」だといえるでしょう。
 民間企業の間ではバブル経済崩壊後、サプライ(提供者)サイドからデマンド(顧客)サイドへの転換という流れが急速に広がりました。これは「作り手の都合でものを作っても売れない時代になった。買い手が本当に欲しいものを把握しよう」という発想の転換による変化です。
 自治体をサービスの提供者として考えれば、サービスを受ける住民は顧客ということができます。顧客の側としてみれば「良いサービスを安く提供してくれれば文句はない」というのが本音なのではないでしょうか。ところが、この「良いサービスを安く」という二律背反する要求を実現するのはなかなか難しいのが現実です。行政サービスの場合、サービスの購入者(納税者)と受益者(利用者)は異なる場合が多く、また、サービスの提供現場にはその購入者がいないため、どうしても「安く」より「良いサービス」という視点の方に偏りがちとなってしまうわけです。
 この両者のバランスをいかに取っていくかが、従来の“お役所”がハイパフォーマンス・ガバメントへ変革するポイントとなります。こうした点では、ハイパフォーマンス・ガバメントには、以下の三つのビジョンの達成が欠かせないといえるでしょう。
1. 効率的に顧客バリューを提供する
2. 顧客バリューを追求する
3. 顧客とともに成長する
 これを実現することで、「バリュー・フォー・マネー(お金の支払い甲斐のある)の行政サービス」が提供できるようになるわけです。
 これらは民間企業ではごく当たり前に行われているものですが、これからは自治体も「われわれはサービス業である」と発想を転換して、顧客満足に努めることが必要です。もちろん行政機関は「企業」ではありませんから、ある程度の制約や限界はあるでしょう。重要なのはできない理由を探すのではなく、どうしたらできるかを考えることなのです。

経営改革を実現する5つの柱とは…

 では、ハイパフォーマンス・ガバメントの三つのビジョンを実現するためには何が必要なのでしょうか。それが、〈行政評価〉〈eガバメント〉〈プロセス・エクセレンス〉〈ヒューマンリソース・マネジメント〉〈アウトソーシング〉です。
 以下に、それぞれの課題について「何に取り組み」「取り組む上での留意点は何か」を見ていきましょう。
ポイント1 お役所の通信簿「行政評価」
 行政評価の仕組みの整備とその実施は、どの自治体においても最優先事項となっています。いうなれば行政評価とは、お役所の“通信簿”。これからは仕事の成果を通信簿として納税者へ公表していかなければなりません。
 行政評価には、計画の妥当性について評価をする「政策評価」と結果の測定を行なう「事業評価」の2種類がありますが、もっとも重要なのは評価結果を次のアクションへと結び付けていくことです。評価のしっぱなしや評価のための評価とならないよう、PLAN―DO―CHECK―ACTION(PDCA)のサイクルを回していくことが大切です。
 その行政評価のためのツールとしては、財務、顧客、業務プロセス、学習・成長という四つの視点から多面的な評価のフレームワークを提供する『バランススコアカード』や、すべての投下資源をサービスに直接割り当てることでサービスの原価を割り出す『ABC(Activity Based Costing/活動基準原価計算)』といったものが標準になっていくでしょう。
 しかしながらこれらの評価結果を使って自治体間に競争原理を導入するためには、構造的な課題もあります。民間シンクタンクなどでも、さまざまな尺度による自治体ランキングを発表していますが、いまだかつてこれらのランキング向上を目指して実施された取り組みについて聞いたことはありません。例えば、米国州政府はそれぞれ独自の判断により州税の徴収基準を決めていますが、将来は日本の自治体でも住民が直接的な利益・不利益を感じることができる仕組みにより、行政に対する住民の関心度を高めていくことが重要となるでしょう。

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ポイント2 役所はポータルに「eガバメント」
 インターネットから何らかの情報を入手しようとする場合、利用者はまずポータル(玄関)と呼ばれるサイト(場所)へいき情報検索しますが、これからの自治体は地域社会における「ポータル」的存在になるべきだと考えています。
 いま時間、距離、形態といった物理的な制約を乗り越え、1ヵ所ですべてのサービスの提供を可能とするためのインフラ整備が急がれていますが、そうした基盤に付加価値をつけるのが、その上を流れる情報(コンテンツ)です。携帯電話の利用状況をみても、もはやハードウェア(電話機)の価額よりソフトウェア(通話、コンテンツ利用)の料金の方が数十倍も大きく、価値が高いことが分かります。
 このように、これからは自治体もハード(公共事業)の整備からソフト(情報)の整備へと、その重点をシフトしていくことが求められています。IT(情報技術)によって産み落とされたニューエコノミーが、民間事業会社のビジネスに多大な変革をもたらしているのと同じように、市町村にもITによる大きな変化の波が押し寄せてきているのです。
ポイント3 効率から創造へ「プロセス・エクセレンス」
 私は個人的には、効率性という言葉をあまり使わないようにしています。これまでも何回となく「事務の改善」「効率化」といった努力が繰り返されてきた事実を知っているからです。
 これまでのそうした努力の多くは、例えば〈A地点からB地点へと運んでいたものを、物理的にもっと速く移動させる〉ためのものでした。簡単にいえば、人が行なっていた仕事を機械に代替させる、いわゆるOA化と呼ばれたものです。
 しかし、もはやそうした方法では大きな効果は期待できません。これからは視点を変えた取り組みが必要なのです。先ほどの例でいうならば、はじめから〈B地点にものを置くことを検討する〉ことです。これはこれまでの手続きの延長線上にはなかったことといえるでしょう。
 故・松下幸之助氏が語ったように、真空管をじっと眺めていてもトランジスタは見えてこないのです。創造力を働かせて、これまでの仕事のやり方を見直してみることが、より高い生産性を実現する自治体経営への第一歩となります。
ポイント4 スペシャリスト集団への転換「ヒューマンリソース・マネジメント」
 いま民間企業に「あなたの会社は人を資産だと考えていますか、それともコストだと考えていますか」と聞いた場合、10社中10社が「資産である」と答えるでしょう。しかし、このところのリストラの状況を眺めていると、過剰設備などよりも人員削減のほうを優先している例が少なからず見受けられます。
 これからの時代に重要なのは、人の数ではなく、その人がどんなバリューを生み出すのかということです。
 役所をはじめ日本の組識では、これまでゼネラリストを厚遇する傾向がありました。終身雇用制度のなかで人材の供給と需要のバランスをとっていくためには、こうした考え方に立たざるを得なかったでしょうし、また求められるスピードもいまとはだいぶ違っていました。さらに、庁内や社内のいろいろな部門の仕事を知り人脈を築くためにも、この方法は極めて有効であったと思います。
 ところが、時代はグローバル化の潮流にのって大きく変わり、競争に勝つためには専門家による速く質の高い仕事が不可欠となっています。自治体も社会経済活動の一部である以上は例外ではなく、スペシャリスト集団への変革が不可欠といえるでしょう。
 まれに自治体から研修依頼を受けることがありますが、ゼネラリストに対する研修はどうしても短視眼的、単発的になりがちです。しかし、これからは長期的視点に立った人材育成が必要であり、そのためにも1人1人のキャリア・パス(人材育成モデル)を明確に定義していかなければなりません。
ポイント5 官から民へ「アウトソーシング」
 リトルリーグや草野球チームにはエースで4番打者はいますが、プロ野球チームにはいません。先述したように、これからの競争に勝つためには「専門家」による速く質の高い仕事が不可欠です。こうした点では、あらゆる組織が、必要な資源をすべて仲間内で調達し専門性が低い「草野球チーム」型から、広く外部へと必要な資源を求め専門家を適材適所に配置した「プロ野球チーム」型へと変革することが求められています。
 最近、こうした考え方に対応するように、自治体でもアウトソーシングを検討する動きが目立ってきました。例えば、情報システムの開発・保守、運用といった業務を民間企業へ委託することを検討するところも少なくありません。時代とともに拡大する自治体の業務領域を限られた資源でカバーするためには、こうした外部の資源を取り込んで既存の業務領域の生産性を向上し、そこから創出された資源を本来の自治体業務へ振り向けていくことが必要となっているからです。
 また最近注目されているのが、自治体の重点施策である地域産業振興を、アウトソーシングによって実現しようとする動きです。優良企業をアウトソーサーとして招へいし、地域の情報産業育成を義務付けることにより、短期的なコスト削減と長期的な財源確保の双方を実現する“戦略的”な取り組みといえます。
 さらに今後の方向性としては、第三セクターの失敗を十分に研究した上で、自治体と民間企業がジョイント・ベンチャーを立ち上げるような、新しい形の官民パートナーシップの構築も予想されます。

 さて、ハイパフォーマンス・ガバメントへの変革は一朝一夕に達成できるものではありません。現行の業務プロセスや管理体制、組織風土・カルチャーといったものを、すべてひとつの方向に向かわせなければならず、場合によっては条例改正や事務作業の見直しなども必要になるでしょう。しかし、大変だと考える前に、まずは計画を始めることです。その場合、いきなり細かい部分に取り組むよりも、青図の青図で構いませんから全体を俯瞰するものを描いてみる。そこから見えてくるものがきっとあるはずです。
 成功のコツは、できることから始めること――それにつきるでしょう。



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『役所の経営改革』
日本経済新聞社03-3270-0251 1600円(本体価格)
本書は、アンダーセンコンサルティングが日本および世界各国の行政機関で実施している取り組みをもとに、これからの行政サービスの在り方について「いかに効率的に行政サービスを提供するのか」「いかに顧客満足を向上させるのか」という2つの観点から整理した1冊。



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