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連載 第2回 なぜ進まない? 戸籍の電算化
少ない人手で
手際よく作業を進めるコツ



 戸籍事務の電算化が進まない理由として〈厳しい財政事情〉があることは前号でも伝えたが、もう一つ〈人手不足〉の問題もある。特に小規模な町村では職員が戸籍係と住民係を兼務するケースも多く、いまの人員ではとても電算化まで手が回らないのだ。ところが戸籍担当としてはまだ経験の浅い女性職員ばかり5人が、住民係と総合窓口を兼務しながら、戸籍の電算化という難局を乗り越えた町がある。

 平成11年12月13日、氏家町役場のロビーから戸籍謄抄本などの発行を待つ住民の列が消えた。この日、戸籍システムが本稼働したのだ。菅谷貴美子住民課長は、当時を振り返りこう話す。
 「手作業で行っていた頃は謄・抄本の交付に10分ほどかかっていましたが、いまでは2〜3分で済みます。申請書を出した住民の方が、椅子に座った途端に名前を呼ばれ『もうできたの?』と驚いていました」
 いま、消費者意識は大きく変化し、待たされることを嫌うようになったといわれる。こうした顧客の変化へ敏感に対応しなければならないのは、民間も行政も同じだろう。しかし、住民票や印鑑登録証明はほとんどの市町村が電算化したものの、戸籍原本や附票は約8割の市町村が未だ紙で保管しており〈戸籍簿から取り出し、コピーして認承印を押す〉という具合に手間と時間をかけて処理をしているのが実情だ。
 氏家町の場合、戸籍関係の発行だけで年間7000件以上に上るという。新興住宅地として人口が急増する町では届出件数も多く、それを5名の女性職員が次々と処理していく。しかも戸籍係は住民係と総合窓口も兼務するという状況で、これでは「職員は窓口対応だけで精一杯」(菅谷課長)なのも無理からぬことだったろう。
 菅谷課長は「以前はフェイス・トゥ・フェイスの窓口業務がどこか機械的でしたね。それがいまでは住民を待たせることがなくなり、また職員にも時間と気持ちに余裕ができたことでサービスの幅が格段に広がりました」とシステム導入の効果を強調する。

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菅谷貴美子住民課課長(左)中山眞千子住民課副主幹兼係長(右)

導入計画は用意周到に

 人手不足の問題を解決するため、氏家町では、まず平成8年3月に除改籍システムを本稼働させ、次のステップとして戸籍システムに取り組むという二段構えの方法を選んだ。除改籍でパソコンに慣れておけば、後から操作に戸惑うこともないという思惑もあったという。とはいえ戸籍担当の職員はみんな1〜2年の経験しかなく、しかも作業が本格化した頃、職員の1人が育児休暇に入ってしまったのだ。実務を担当した中山眞千子住民課副主幹兼係長は、「とにかく前倒しで作業を進めました」と話す。
 幸い『行政10ヵ年計画』で早くから電算化を予定していたこともあり、事前に2年間かけ、すべての戸籍に目を通しておいたことも導入時の作業軽減につながったといえるだろう。ところが、「古い戸籍をわかる職員がおらず、最初はどこを見ればいいのか要領を得ませんでした」と中山係長。そこで、チェックポイントをマニュアル化し、戸籍を担当したことのない職員も作業に参加できるようにしたのである。
 また、戸籍をそのままコンピュータ化するのではなく、正字に統一したことも作業軽減のポイントとなった。こうすれば将来、外字問題に悩む必要がなく、システム運用も楽になる。だが、それには個人の名前に対する“こだわり”がネックとなるため、町では窓口を訪れる住民に対して機会あるごとに「コンピュータ化されたら正字にしてください」と、理解と協力を訴え続けたのだ。さらに導入直前には広報誌による周知も徹底。その結果、1277件の事前告知に対し「NO」と回答した住民は一人もいなかったという。
 戸籍の電算化は住民サービスの一環だ。だが、行政に限らず、大義名分の立ちやすい“新しいこと”を始めるのはたやすいが、従来の慣習を改めるには勇気がいる。戸籍の電算化が進まない背景には、実はこうした意識の問題もある。氏家町でも当初は、自動交付機の導入を考えていたそうだが、住民の利便性を考え、あえて戸籍の電算化を優先した。そのため庁内外に対し「なぜいま戸籍の電算化をするのか」説得し、積極的に理解を求めたのである。このようなことで氏家町では少人数でも円滑に電算化を進めることができたのだ。

業務を常に見直す文化をつくれ

 さらに、氏家町の戸籍担当者には代々受け継がれた“伝統”がある。それは「戸籍は大切なもの」ということだ。町では、原本と附票が破損したり手垢がつかないようファイルに挟んだ状態で戸籍簿につづり、耐火用金庫でしっかり保管している。金庫には除湿剤と防虫剤も入れるというのだから、いかに大切に考えているかがわかるだろう。氏家町の戸籍原本と附票がきれいなことは、法務局も認めるほど。実は戸籍の電算化も、その伝統の継承にほかならない。
 「作業は大変でしたが、いまベストを尽くすのは、将来、戸籍を担当する職員に対する私たちの責務でしょう」(中山係長)
 コンピュータは事務処理を効率化するための道具から、これを使って住民へ直接的なメリットをどう提供するかに利用目的が移り変わった。そのためには職員の創造力も重要だ。その点、職員1人ひとりが現状に満足せず、未来に向けてよりよい方法を追求する氏家町の伝統は今後、行政の大きな強みとなるに違いない。


 栃木県のほぼ中央に位置する氏家は、町の北部に荒川、西に鬼怒川、中央に五行川が流れる水資源に恵まれたところだ。町の基幹産業は米作を中心とする農業で、農地が町の総面積の3分の2を占めている。近年では、首都圏という立地条件をいかした施設園芸や畜産農家なども増えてきた。
 江戸時代から交通の要所として栄えてきた氏家。近隣町村に比べ面積はさほど広くはないが、鉄道の駅が2つもある。これは全国でも珍しいのだとか…。東京から100キロ、宇都宮から20キロ圏内という交通の利便性も手伝って、最近では都市部からの転入も後を絶たないそうだ。
 そうした新しい住民に向けて、氏家町では広報誌だけでなくホームページもフル活用し、諸手続きや窓口の案内などへ積極的に取り組んでいる。

氏家町 http://www.town.ujiie.tochigi.jp




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