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連載 第3回 なぜ進まない? 戸籍の電算化
目的は効率化にあらず
大切なのは住民主役の視点だ



 これまで見てきたように戸籍の電算化にはコストや人手など多くの課題がある。だが2003年度までに電子政府へ完全移行するためには、全国3300の市町村が情報システムの整備に前倒しで取り組まなければならない。そこで最終回は、改めてなぜ戸籍を電算化するのか考えてみる。

 埼玉県北部に位置する騎西町は首都圏から50キロ圏内で、町の人口20,711名の33%が町外へ通勤するという典型的な大都市近郊の町だ。戸籍数は7491件、1日に30〜50件の戸籍発行、年間1281件の届け出がある。
 この町で今年2月、戸籍情報システムの稼働式が執り行われた。10ヵ月間にわたって、戸籍の電算化を指揮してきた住民課の加藤美津枝課長は「紅白テープにはさみが入った途端、それまでの苦労も消えた気がしました」と話す。

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加藤美津枝住民課長(左)石川三郎町長(右)

長期的な視野に立った業者選定を

 騎西町では、平成10年から戸籍の電算化に関する調査研究を進めてきたが、予算がついた途端に担当者が異動し、その後任となったのが加藤課長だった。
 「住民課は初めての経験で、戸籍の電算化といわれても何から手を着けたらいいのか見当もつきませんでした」(加藤課長)
 そこで課長がとった行動は、精力的に先進地視察に赴き、ベンダー各社の営業担当者と会って情報を収集することだった。そうしたなかで「電算化するのに何がポイントとなるか考えることができた」という。
 「まず業者選定にあたっては、コストだけではなく長期的な視野に立ち、あらゆる点で検討し判断しようと考えました。システムの機能や使いやすさは当然ですが、サポート体制や戸籍に対する知識が豊富かどうかも重視しました。例えば〈法改正時にどうやって、どのぐらいの時間で対応してくれるのか〉〈戸籍の記載例や項目など疑問点に的確に回答をくれる能力があるのか〉などです。一度システムを導入すれば簡単に取り替えられるものではなく、将来の戸籍事務に大きく影響するわけですからね。また使い勝手や文字のことを考えると住記システムとの連動も外せませんでした」
 いまでこそ、加藤課長は「無我夢中だったから何とかなった」と笑うが、疑義照会が478件発生し、それを1件ずつ“しらみ潰し”に確認していくなど電算化への基盤整備は相当大変だったに違いない。
 特に騎西町では平成5年に除改籍システムを導入していたが、すべてをコンピュータ化していたわけではなく和紙再生のために一部をマイクロフィルム化していただけだった。そのためデータと紙で保存されていたものとを突き合わせることから始めなければならなかったのである。メンバーは住民課戸籍住民係計5名。それぞれ国民健康保険係や国民年金係などの受付事務も担当し、日常業務をこなしながらの作業は土日返上で行うこともあったという。
 あらかじめ作業ポイントを洗い出していたにもかかわらず、思わぬところで手間取ることも…。例えば告知。騎西町では1568件の告知書を出したが、一斉に発送したため問い合わせが集中してしまったのだ。そうした住民には職員たちが説明し理解を求めたが、「受話器を取った途端、いきなり怒鳴られたこともあった」そうだ。これについて加藤課長は「告知書の発送を数回にわければ混乱を回避することができたのではないか」と当時を振り返る。

戸籍電算化の目的は何なのか?

 行政のスリム化という観点からは自治体の関心はどうしても“コスト削減”に向きがちである。すでに戸籍の電算化を終えた、あるいは進行中の市町村でも人員削減を目的にシステムを導入するところが少なくない。だが人員削減は一時的な効果はあるかもしれないが、IT(情報通信)をうまく活用すればそれ以上の効果が期待できるのだ。
 そのためにも戸籍の電算化は長期的な行政ビジョンのなかで考えられるべきで、目的なくしてシステムを導入しても、それは単に紙の戸籍簿をデータ化したに過ぎないのである。
 騎西町では、電算化の目的を当初から「住民サービスの充実」のためと見定めてきた。だからこそ「今年9月から窓口の営業時間を夜7時まで延長する」という発想も出てきたといえる。コンピュータを手段として、職員の増員はしないまま住民サービスの幅を広げたわけだ。
 町の試算では、夜間の証明書発行で多少コストは増えるが「コスト面よりも利便性を第一に」という。
 騎西町の石川三郎町長はこう語る。
 「いま盛んにIT革命といわれていますが、それは行政が便利になることではありません。行政の主役は住民であり〈住民に何を還元できるのか〉という視点で何をすべきか考え、そのためにITをどう活用していくかということなんです。住民に必要だと判断すれば、あとは果敢に挑戦するだけでしょう」
 住民が主役であれば、窓口の人員削減を目的に戸籍の電算化を進めるのは論外だ。住民基本台帳ネットワーク構築に向け、恐らくここ1、2年が戸籍電算化のピークとなる。そこで大切なのは、なぜ、それをやるのかだ。もはや事務の効率化だけに満足していてはならない。地域住民の身近な存在として、さまざまな住民ニーズに応えていくことが、これからの行政に求められている姿勢なのである。


 町全体に“北埼玉の穀倉地帯”と呼ばれる肥沃な農耕地が広がる騎西町。ここの歴史を語るならば、まずは騎西城だ。永禄6年に上杉謙信が松山城救援に越山し、騎西城を攻略したのは有名な話。現在の建物は昭和50年に再建されたものだが、昔ながらの土累が往時の面影を忍ばせている。また、大宝3(703)年創建という玉敷神社には樹齢400年をこす大藤があり、ゴールデンウィークには藤祭が開催され多くの人出で賑わう。
 最近では、環境をテーマとした町づくりへ積極的に取り組んでいることでも知られる騎西町。昨年から、職員たちが率先して環境対策を実施する「きさいエコオフィス行動計画」がスタート、今春には「環境科学国際センター」もオープンした。21世紀をリードする環境の町として、今後の動きが注目されている。



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