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●特別寄稿 海外視察レポート◆税理士・公認会計士 久田英詞●
オーストラリアの自治体における
情報開示の現状



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ひさだ・ひでし 1962(昭和37)年生まれ。85年、監査法人朝日会計社入社、88年、公認会計士・税理士登録、同年久田会計事務所入所。現在、TKC全国会監査問題研究特別委員会委員などで活躍

1.はじめに

 9月上旬、私は今世紀最後のオリンピックの開催をほぼ1週間後に控え大変活気づく街、オーストラリアのシドニー市(ニュー・サウス・ウェールズ州)とメルボルン市(ヴィクトリア州)を訪問する機会を得た。TKC海外視察研修団の一員としてである。連邦制をとるオーストラリアでは、州・地方自治体は近年さまざまな行政改革を行っており、地方自治には門外漢ながら、職業会計人として自治体の財務報告・外部監査に関心を持ち、見たまま、感じたままをお伝えしたい。

2.年次報告書にみる情報開示

 オーストラリアの自治体の近年の行政改革には、ゼネラルマネージャー(GM)の採用など企業経営の手法を取り入れた経営効率化、自治体の権限拡大に伴う住民監視の関心の高まりに応えるための情報開示の諸制度などがある。このうち特に重要なもののひとつが『年次報告書(アニュアルレポート)』だ。
 これは各地方自治体の活動内容を、毎年度、住民に報告することを各州地方自治法で義務づけている冊子である。地方自治体は州の法規制に従うことになるので、シドニー市とメルボルン市では若干異なるものの大体においては同様の内容となっている。  この報告書には各地方自治体の毎年度の歳入・歳出状況、資産状況、活動実績、環境状況、公共事業の実績、訴訟費用、主要職員とその給与の情報などが法定報告事項として含まれており、その他の内容は各自治体の個性的な編集になっている。本冊子は各戸に配布され、閲覧にも供されている。
 以下に、両市役所において入手した年次報告書をひもといてみた結果を報告したい。
 シドニー市の年次報告書(98/99年度版)は、カラー印刷A4版・100ページにわたる。シドニーは一般に400万人都市といわれるが、正確にいえば行政上のシドニー市は居住人口2万2000人(昼間労働者人口は23万5000人)と決して大きくはない。にもかかわらず、この年次報告書の豪華さ・充実ぶりは、その重要性に対する意気込みを推し量ることができる。一方のメルボルン市(居住人口2万1000人、昼間人口40万人)の年次報告書も、カラー印刷A4版・171ページに及ぶものとなっている。

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シドニー市などのアニュアルレポート

 シドニー市の報告書をみると、その構成は〈概観〉〈組織〉〈活動の総括〉〈法定の報告事項〉〈財務諸表〉となっている。随所に写真や図表が含まれているものの、決して写真誌的なものではなく、いわゆる広報誌の域を超えた立派な読み物になっている。概観の項では、市長・助役からのメッセージや業績の要約など、組織の項では市会議員の写真や説明がある。また活動の総括の項では都市景観の変貌や、町づくりの様子、人々の暮らしぶりを紹介している。さらに、オリンピックにおける市の役割や安全について、また街を美しくといった呼びかけもみることができる。
 圧巻なのは、33ページを占める財務諸表(関連注記事項も含む)である。その特徴は何といっても、〈基本的に民間企業と同じ会計の基準に従って財務諸表が作成されるとともに、外部監査人の監査報告書と財務諸表の作成者の宣言書が報告されていること〉である。
 わが国でも上場企業などの公開会社は有価証券報告書としての年次報告がなされ、この中の主要部分で監査報告書とともに財務諸表が公表されているが、オーストラリアの自治体における年次報告書の内容開示は、日本の公開企業にかなり近いといっても過言ではないように思う。しかも財務諸表は州地方自治法で要求されているものの、民間企業と同一の会計基準(オーストラリア会計基準)に従って作成されている。これは先進的であり特筆に値する。
 例えば、損益はいわゆる発生主義により認識され、固定資産は減価償却により費用化され、投資項目については市場価格で評価されていることなどである。これらの点で、財務諸表の読者にとって広く感心を持ちやすい状況が整備されている。
 財務諸表の構成は、『活動報告書(損益計算書に相当するもの)』『財政状態報告書(貸借対照表に相当するもの)』『資本勘定変動報告書』『キャッシュフロー計算書』ならびにこれらに関する注記で構成されている。さらに『外部監査人の監査報告書』とともに、財務諸表の作成者の『宣言書(日本でも公開会社は監査人に対してこの書類を提出している。財務報告は、関係法令等に従って作成され、そこに虚偽や誤りがない旨の宣言書のこと)』が市長・GM・議長・財務長官の署名入りで掲載されており、意識の高さを伺い知ることができる。

3.むすび

 わが国でも地方自治法の改正により、都道府県・政令指定都市・中核市などには監査委員制度とは別に外部監査制度が導入され、情報開示に関心が高まりつつある。また、監査報告もなされているが大体は自治体公報での公表に止まるのではなかろうか。
 オーストラリアでは住民に配布される年次報告書において、財務諸表とともに監査報告が開示されていることは、情報開示に対する先進さを表していると思われる。公開企業は資本の委託者たる株主のもので、「経営者はそれの受託運用の責任と報告義務がある」という意識と、オーストラリアの自治体の年次報告書にみる「自治体は構成員たる住民が主役である」との思いが伝わってくる情報開示内容は相通じるところがあるように感じる。
 わが国でも、自発的にこういう開示に取り組む自治体が現れつつあることに今後も大いに関心を持ち、会計人の立場で支援できることを考えていかねばならないと感じさせられた今回の訪問であった。



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