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連載 第1回 なぜ進まない? 戸籍の電算化
コストの問題をいかに解決するか



 これまで、市町村の電算化といえば行政事務の効率化が主な目的であった。しかし今後は『電子政府』や『住民基本台帳ネットワーク』などの流れを受け、直接的な住民サービスの面で幅広く活用されるようになるであろう。例えば、どこにいても住民票の写しが取り出せる「広域ネットワーク」などがそれだ。
 こうしたなか、重要課題として急浮上してきたのが〈戸籍事務の電算化〉だ。平成12年3月末現在で電算化を終えているのは、3300団体中わずか410団体ほど。そのほとんどが戸籍数1万以下の町や村だ。戸籍法の改正から6年。国の推進策にもかかわらず、電算化が進まない理由とは何か、また、その解決策とは…。市町村の現場をリポートする。


 戸籍の電算化が遅れている背景には〈昨今の景気低迷による厳しい財政事情〉〈介護保険制度の導入などによる人手不足〉がある。そのため多くの市町村で対応が先送りとされてきた。
 そんななか、栃木県那須町では平成11年2月に『戸籍事務システム』を稼動させた。しかも、前年8月には集中豪雨による水害発生というアクシデントに見舞われ、それを乗り越えての稼働だった。電算化を担当した住民生活課鈴木實課長補佐は、当時を振り返りこう語る。
 「高齢者消除や戸籍の見直しなど、それまで準備など何もしていなかったので、いざ戸籍を電算化しようと決まっても最初は戸惑うことばかりでした。作業を始めた途端に、あの水害ですからね。我われも防災交通係を手伝って水害の復旧活動に追われ、電算化の準備は1ヵ月以上ストップ。実際に作業にかかったのは10月も近くなってからで、支所にも応援を頼み何とか5ヵ月間で立ち上げました。法務局からは『非常事態のためシステム稼働の指定日を遅らせては』という話もいただきましたが、当初の予定に間に合わせることができました」

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鈴木 實住民生活課課長補佐

リース契約で年間負担を軽く

 那須町の人口は約2万8000人、世帯数は約8400世帯、戸籍数は約1万2000となっている(平成12年3月末現在)。鈴木課長補佐によれば近年、人口はほぼ横ばいで推移しているものの、若年層は年々減る傾向にあり、いまや町の老人比率は20%を超えたという。また、370平方キロメートルもの広い町全体に集落がまんべんなく存在しているという地域特性により、住民の利便性を考え3ヵ所の支所を設置しているが、従来は各支所に原簿があったため、本庁やほかの支所では戸籍の写しを取ることができなかった。
 「それでは住民は不便です。5年前に除改籍を光ディスクへ移行した時から戸籍の電算化も検討していたのですが、コストの問題などにより実現が遅れていました」(鈴木課長補佐)。そんななか平成9年に戸籍係が1名減ることになり、それを機に『戸籍事務システム』を導入する運びとなった。
 那須町に限らず、コストの問題から戸籍の電算化に取り組めない市町村は意外と多い。国の地方交付金の対象とはいえ、一般交付税では「戸籍の電算化の分はいくら」と内訳が決められているわけではなく、このため市町村としても多額の支出に踏み切るのが困難というのが現状だ。
 この点、那須町の場合、ハードウェアは除改籍で光ディスクのシステムを導入していたため、端末のパソコンをそのまま利用し、サーバーの変更をするだけで済んだ。また、リース契約方式を選ぶことで、コスト面で一度に多大な負担がかからないようにしたのである。さらに、那須町では戸籍の発行手数料として年間400万円程度の収入があり、これをリース代金に充てることも当初計画に盛り込んだ。もともと、戸籍の電算化を事業計画に上げていたこともあり予算もすんなり了承されたそうだ。
 こうして那須町では、本庁で戸籍データを一括して管理することによって、どこでも戸籍を取ることができるようになり、その整合性と安全性をも高められたのである。
 

ここ1、2年が電算化のピークに

 那須町では「ある程度の事故簿は覚悟していた」というが、電算化に伴う誤字俗字の告知に対して返事が戻ってきたのは1割未満と住民の反応は意外にあっさりしたものだった。
 とはいえ、なかにはミスが表面化するのを嫌い自分の代では電算化をしたがらない担当者もいると聞く。これについて鈴木課長補佐は「もっと前向きに考えてほしい」と語る。「うちでもミスはありました。戸籍数1万2000件のうち400件は修正分として法務局へ提出しましたし、除改籍の分も入れると恐らくもっと増えるでしょう。でも今後のことを考えれば、いまのうちにミスを訂正し基盤を整備しておくことが必要なんです」
 国の施策によって行政事務のネットワーク化が急速に進められているいま、もはや市町村に“待った”は許されない。
 実際、那須町には昨年度だけでかなりの数の団体が視察に訪れている。特に、これまで対応が遅れていた中核都市で電算化への気運が急速に高まってきているため、恐らく戸籍はここ1、2年の間に電算化のピークを迎えるだろう。その場になって慌てないよう、早めの事業計画策定が肝要といえる。
●本文中の役職は、平成12年3月1日現在のものとしました。


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 那須町は県の最北端に位置し、その豊かな自然環境を背景に、近年では国内有数のリゾート地として発展してきた。新幹線を使えば東京や仙台からも約90分で行けるという気軽さも、人気を高めている理由の一つである。
 那須連山の主峰、那須岳(茶臼岳)。その中腹の那須温泉郷には、歴史のある旅館やリゾートホテルが点在している。そして麓に雄大な広がりを見せる那須高原には、テーマパークや美術館、スキー場やゴルフ場、遊園地や観光牧場などのリゾート施設が充実しており、季節を問わず観光客で賑わっている。
 西行や芭蕉の詠んだ遊行柳、九尾の狐伝説で有名な殺生石、源頼朝が平家追討の挙兵をしたときに義経が平泉から鎌倉に向かって駆けたとされる旧東山道。これらの場所で歴史に思いを馳せるのもいいだろう。
 現在、那須町は「人がきらめき、緑かがやくまち」を将来像として、第5次那須町振興計画に沿ったまちづくりに取り組んでいる。首都機能移転問題でも候補地のひとつに挙がっていることもあり、今後の自然と共生するまちづくりに期待が寄せられている。

那須町 http://www.nasu-web.or.jp/nasumati/




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