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特集タイトル



欧米先進国に限らず、いまや多くの国々が「知識産業時代」を勝ち残るべく、その基盤となるIT立国実現に取り組んでいる。日本でも急速に整備が進められる電子政府と電子自治体――市町村が今後取り組むべき課題を探る。



◆いよいよ新世紀を迎え、1府12省の新体制のもとIT立国を目指した基盤整備が急ピッチで進められています。行政情報システム研究所ではその“要”である『霞が関WAN』を運営されているわけですが、行政の情報化および電子政府構想の進捗状況について教えてください。
百崎 
霞が関WANには全省庁、および内閣、会計検査院、人事院、国会図書館などが接続され、これを基盤として電子政府実現に向けた準備が着々と進められています。たとえば「電子メールシステム」では毎月40万件ほどのメールが送受信されており、国会関係のさまざまな「連絡システム」や各省庁が共同利用する「白書等データベースシステム」も順調に動いています。また12年3月からは「電子文書交換システム」も稼働し、電子署名つきの“目に見えない公文書”がやりとりされています。なお、これについては今年度中に自治体との間で実証実験が行われる予定です。こうした電子政府実現に向けた動きは地方自治体も巻き込み、今後一段と加速されるでしょう。そこで重要なのは、このインフラを活用して何をするかです。たとえば行政情報の提供ですね。いま多くの国の機関や自治体がホームページ(HP)を開設していますが、役所のHPは内容が平凡で国民や住民が知りたい情報・役立つ情報がどうも少ない。そうした反省に立ち、政府はいま3つのプロジェクトを進行中です。その1つが「総合案内クリアリングシステム」で、これは各省庁が保有している行政情報の所在や入手方法などを案内するものです。行政情報システム研究所が委託を受け12年3月からサービスしていますが、アクセス件数は1日6900件、うち情報検索は約2000件です。2つ目が「総合行政サービスシステム」で、これは各省庁の行政手続きを案内するものです。最後が「総合行政文書ファイル管理システム」で、これは各省庁の電子文書を含む文書のファイル目録を総合的に案内するものです。
 いずれのシステムも各省庁が整備・拡充を行い、今年度中に行政情報システム研究所が全体のシステムを整備します。

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加速する電子自治体への動き地域も含めた行政情報化計画を

◆市町村においても電子自治体への対応が急がれるところですが、IT革命を進める上でいま何をすべきでしょうか。
百崎 
まずは庁内LANの構築です。自治体におけるパソコンの配備状況は、都道府県が1.2人に1台、市区町村が2.4人に1台。また、LANは都道府県はすべて整備済みですが、市区町村では2362団体とまだ1000団体が未整備の状態です。しかし今後は1人1台のネットワーク環境を整備しなければ仕事になりません。これについては自治省も、12年8月に公表した『IT革命に対応した地方公共団体における情報化施策等の推進に関する指針』のなかで、その必要性を訴えています。
◆まずは役場のなかの情報インフラを整備せよということですね。
百崎 
はい。また、そのネットワークをインターネットと接続し、住民がオンライン手続きを行える環境をすみやかに整えるべきです。その場合、KIOSK端末等を人が多く集まる場所へ設置するなど、情報格差が生じないよう十分配慮しなければなりません。その次がHPの開設ですが、これも従来のように一方的に情報を流すのではなく、住民からの意見・要望を集めるなど双方向性をいかした「住民サービスの窓口」としての活用が必要です。当然、提供する情報も地域や住民に役立つものでなければなりません。情報としては、たとえば文書ファイル目録一覧や調達情報の公開などが考えられますが、同時にクリアリングシステムの整備も欠かせませんね。
◆まず、その辺りからのスタートだと?
百崎 
ええ。そして、いまのうちからペーパレス化をはかること。1つは行政事務のペーパレスですね。政府は、今後3年間で人事・会計・総務といった内部事務を徹底して電子化する計画です。さらに住民サービスの観点からもペーパレスが望まれます。それがインターネットを利用した行政手続きのオンライン化です。ミレニアム・プロジェクトの“目玉”として、いま各省庁では15年度までに申請・届け出等手続きの電子化を実現させるべく取り組んでいます。先導的な取り組みとして、経済産業省(通産省)が1800種、国土交通省(運輸省)が1500種、総務省(郵政省)が電気通信分野300種の手続きを電子化するほか、財務省(大蔵省・国税庁)でも有価証券報告書の提出・縦覧手続きや国税の電子申告などをスタートする予定です。市町村でも、できれば15年ぐらいまでには、住民との間で行政手続きのオンライン化を実現してほしいですね。
 また、業務を効率化し行政運営の透明性を高めるためにも、総合的な文書管理システムを早急に整備する必要があります。このほか歳入・歳出手続きの電子化、電子申告、電子投票など課題をあげたら切りがないのですが、こうした情報化施策を推進するには行政内部と地域を別々に考えるのではなく、両方を融合する計画を作り、目標年次を設け毎年フォローアップすることが重要です。今後は、自治体の情報化アクションプランを着実に実施してほしいですね。

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Aさんは電子文書へある情報処理をほどこし(これをハッシュ値という)、秘密鍵で暗号化する。これを一般に「デジタル署名」と呼ぶ。Bさんは、Aさんの公開鍵でデジタル署名を復号化し、また送付された電子文書をAさんと同じ手順でハッシュ値を作る。この2つが一致すれば「内容が改竄されていない」ことが推定でき、Aさんの公開鍵で復号化できたということは「その文書を暗号化したのはAさんだ」ということが推定できる。

電子自治体の基盤となる「住基ネット」「個人認証」の関係

◆「IT講習推進特別交付金」が新設されましたが、今後、市町村は電子自治体の基盤整備とともに、それを使う“人”づくりも行っていかなければなりませんね。
百崎 
いくら電子政府だ、電子自治体だといっても、サービスを受ける“お客さん”がいなければ何にもなりませんからね。そういう意味では国民全体の情報リテラシーを向上させるのは当たり前の話でしょう。すでに小・中学校ではコンピュータ教育を授業へ組み入れていますが、問題なのは年配層です。市町村においては、社会学習や生涯学習の一環として高齢者まで含めた情報化教育を充実していただきたい。
◆世代間の情報格差の解消ですね。ほかにも行政手続きのオンライン化を進めるためには、個人認証基盤の整備も必要です。
百崎 
そうですね。これまでは当事者が役所の窓口へ出頭し手続きしていたため、「申請者が本当に当該本人か」「申請書が本人の意思に基づいて作成され、かつ内容が改竄されていないか」を、その場で確認できたわけです。ところがネットワーク上ではそれが分からないため、何らかの形で「相手の本人性」と「電子文書の真正性」を証明しなければなりません。これを第3者に証明してもらうのが「認証制度」であり、この認証システムとして考えられているのが「PKI(Public Key Infrastructure/公開鍵基盤)」です。これは「公開鍵」と「秘密鍵」という一対の鍵からなり、ある公開鍵で暗号化したものは対をなす秘密鍵でしか復号化できず、逆にある秘密鍵で暗号化したものは対をなす公開鍵でしか復号化できないという仕組みになっています(図参照)。鍵といっても何十桁、百何十桁という数字なのですが…。この鍵の持ち主を証明するのが「電子証明書」であり、これを発行する機関を「認証局」と呼びます。
◆認証制度については、まだ十分に理解されていない方が多いようですね。
百崎 
難解ですからね(笑)。各種手続きが正当な政府の行政主体により行われていることを示す「政府認証基盤(GPKI)」として、15年度までに各省庁へ認証局を設置し、またこれを相互に接続する「ブリッジ認証局」を構築する計画です。同様に市町村でも、15年度までに正当な地方組織の行政処分であることを示す「組織認証基盤」を構築することが求められています。さらに、個人認証については「電子署名及び認証業務に関する法律」で民間事業者によるサービスが考えられていますが、市町村においても申請者個人を認証するシステムの整備を進める必要があるでしょう。私もメンバーの1人として参加した自治省の「地方公共団体における個人認証基盤のありかたに関する検討委員会」では、その報告書のなかで自治体における個人認証の機関(RA)は「住民の利便性という観点から、できるだけ身近な行政機関である地方公共団体が適当」としています。
◆住民基本台帳ネットワークとはどのような関係になるのでしょうか。
百崎 
住民基本台帳ネットワークは、専用回線という閉鎖的なネットワーク上で本人確認を行うシステムです。一方の個人認証システムは、インターネットというオープンなネットワーク上で、電子署名と電子証明書が附された電子文書が本人によって作成されたことを証明するものです。その点で両者は目的や制度を異にする別のものといえますが、まったく無関係かというとそうでもない…。私は、その接点にあるのが住民基本台帳制度と考えています。例えば、住民に身近な行政機関である地方公共団体―市町村が認証局だとすれば、電子証明書の発行を申請に来た人が本人かどうか確認するには住民基本台帳を使うことになります。また、先述の検討委員会の報告書も「秘密鍵の管理は住民基本台帳カードの空き容量への格納を原則とするのが適当」としています。
 なお、本人確認の厳密さという点では、住民基本台帳ネットワークより個人認証システムの方が厳しい。これは現状でたとえるならばパスポート申請など印鑑証明と実印が必要な手続きで、場合によっては直接本人が出向くほど厳密なものです。一方の住民基本台帳ネットワークは、住民票の写しを付ける程度のものですね。
◆なるほど。そう説明されると、とても分かりやすいですね(笑)。
百崎 
そうでしょう。政府に対しても、基盤整備としてはハード面だけでなく、各省庁のすべての許認可事務を「個人認証が必要なもの」「住民基本台帳ネットワークの本人確認で済むもの」「その他」に分けて手続き業務の見直しをはかるよう提案しているところです。

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何のために電子自治体を目指すのか求められる市町村の意識改革

◆電子自治体が、かけ声倒れとならないよう自治体も頑張らないといけません。この1〜2年が勝負ですね。
百崎 
おっしゃる通りです。これまで情報化というと内部の大量定型業務を中心とした事務処理のOA化でしたが、今後は住民サービス向上のためのIT活用が期待されています。その点で、住民基本台帳ネットワークが整備される意義はとても大きく、ぜひ住民基本台帳カードの有効活用を考えていただきたいと思います。できれば生活圏を共有する市町村が広域に連携して同じような条例を作り、保健・医療サービスや各種福祉サービスなどの情報をカードへ盛り込むようにすればいいのではないでしょうか。また、1530ほどの自治体で「個人情報保護条例」が制定され、うち525団体がオンライン接続を禁止していますが、これも見直すべきでしょう。現在、政府は全国の小・中学校へパソコンを導入し、インターネットに接続して子どもたちの情報化教育を進めようとしていますが、この条例により接続できないという、いまの時代に信じられない事態が起きています。住民基本台帳ネットワークだけを考えれば、たとえ条例で禁止していても法律が優先されると解釈されていますが、それではこういった問題は解決されません。昨年度は40団体で条例が改正されましたが、ほかの市町村でも1日も早い改正をお願いしたいものです。
◆なかにはパソコンやネットワークを整備すれば終わり…と考える風潮もあるようですが、電子自治体として目指すべき目標を明確に意識する必要がありますね。
百崎 
そうですね。電子政府構想は21世紀の日本の産業競争力を支える基盤となるものであり、市町村には「いま従来の行政情報化を超えたダイナミックな行政変革が起きている」という意識を持っていただきたい。そのなかで今後の行政サービスの方向性を考えると、私は「ワンストップ・ノンストップ・マルチアクセス」を合体させたものになると考えています。24時間・365日、どこに住んでいるか関係なく、ひとつのHPを開けば各種行政情報を入手でき、すべての手続きも可能というものですね。これが電子自治体の究極の目標です。17年頃には、それが当たり前の姿となってほしいですね。政府もここ数年の間で積極的に電子政府へ転換をはかっていきます。市町村も、こうした動きと歩調を合わせて変革に取り組んでいただきたいと思います。



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