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特集タイトル


いわま・よしひと 1957(昭和32)年12月、静岡県富士市生まれ。東京大学経済学部経済学科卒業後、81年4月、経済団体連合会事務局入局。理財部調査役、広報部総合企画課調査役を経て、96年から現職に。今年2月に経団連がまとめた『「e−Japan戦略」実現に向けた提言』では、事務局として提言の取りまとめを行った。



高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部は『e-Japan戦略』および『e-Japan重点計画』を相次ぎ公表した。これは日本が5年以内に世界最先端のIT国家となることを目指し策定されたものだ。市町村においても、今後はこの“国家戦略”を十分理解し、e-Japan対応を意識した各種施策に取り組んでいくことが求められる。



政府の国家戦略と電子政府

 日本が活力を取り戻すため、産業活動、教育、行政を含むあらゆる分野でITを活用しなければならないことは、いまや国民的コンセンサスになっている。
 去る1月22日に、政府の高度情報通信社会推進戦略本部(本部長:総理大臣、通称IT戦略本部)が決定した『e-Japan戦略』は、ドッグイヤーとも呼ばれるスピードのなかで、「現在の遅れが将来取り返しのつかない競争力格差を生み出すことにつながる」と指摘し、日本を世界最先端のIT国家とするため、「制度改革や施策を当面の5年間に緊急かつ集中的に実行」していくとした。
 これを具体的に示すのが、3月29日にIT戦略本部で決定された、IT国家戦略のアクションプランたる『e-Japan重点計画』である。これまでITが「革命」をもたらしたのは、電子商取引の拡大によるビジネス・プロセスの変化など、民間分野が主であったが、今後は国・地方を通じた電子政府に関心が集まることが予想される。
 電子政府は、官民の接点と行政内部のIT化を通じて、行政業務を簡素化・効率化し、「個人」「企業」の行政コスト負担を軽減し得る。また、行政情報の入手や行政手続に関する時間・空間の制約を取り払い、「個人」の利便性や生活の質を向上させ、「企業」に生産性向上や新事業創出の機会を提供する。
 すでに海外においては、ITを軸にした行政改革が行われ、具体的な成果をあげている。例えば米国では、低価格品の政府調達に省庁横断的に電子商取引を活用した結果、94年度から99年度の6年間に関連間接経費を13%、127億ドル削減することに成功した。シンガポールでも、全国民にICカードが配付され、“ゆりかごから墓場まで”多くの行政手続がインターネットを介してワンストップで行えるようになっている。
 また、多くの国では極めて明確な目標が設定されている。例えば米国では、2003年までに紙による文書作成業務を全廃し、2004年までに連邦政府調達の95%を電子化することが法律で義務づけられている。英国では「Invest to Savebudget」を掲げ、2001年3月までに低価格品の購入の90%をオンライン化するなどの数値目標が設定されている。さらに、当初は2008年までに電子的に提供可能な行政サービスを100%オンライン化することを目標としていたが、進捗状況を分析し、達成年度を2005年に前倒しするなど機動的な対応を行っている。
 わが国においても、政府が明確な目標を持ちつつ、全政府的にITの活用へ取り組む必要がある。企業がグローバルな競争のなかで生き残りや競争力強化をかけてIT化を推進しても、政府への申請・届出などを紙ベースで行わねばならないと、企業努力は水泡に帰すおそれがある。日本政府も国際的な制度間競争にさらされているという意識を持って、国・地方を通じて電子化された「世界最高水準」の政府を目指さねばならない。

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(出典:財団法人経済広報センター『電子政府・電子自治体で日本をこう変える』)

「やるべきこと」を実現すべき

 政府では、昨年7月のIT戦略本部設置以降、電子政府化の動きを本格化させており、それはe-Japan重点計画等にも示されている。例えば政府は、1万541件の行政手続のうち、9960件、94%について平成15年度までにオンライン化を実施する方針を打ち出し、さらに今後オンライン実施時期の前倒しを図ることとしている。加えて、オンライン化の障害とされていた大量データの伝送や国・地方公共団体の証明書等の添付問題については、確実な伝送を実現するための技術開発、添付書類の削減・簡素化、個人・法人認証基盤の活用や戸籍情報の電子化等が進められることになった。
 また、国民や企業にとって身近な地方公共団体のIT化を加速するため、複数の手続きに汎用的に利用できるオンラインシステムについて、平成13年度中に基本仕様を作成し、各地方公共団体に提示することになっている。これにより、〈国・地方全体の共通のプラットフォーム〉〈地方公共団体によるシステム共有〉を促すことが期待される。
 行政への手数料納付についても、金融機関が主体となって構築・運営される民間収納インフラを活用して電子化を図るため、政府において財務省会計センターを中心にシステムを構築し、平成15年度から運用を開始する予定である。
 さらに、民間企業がIT投資を判断する際に行なわれているように、複数年度にわたるIT投資額と、それによって期待される効果を明示した上で予算要求をすることが求められている。これについては、平成13年夏から、概算要求や予算編成時に主要プロジェクトを対象として実施されることになった。
 さて、今後の取り組みに当たって重要なことは、業務改革とIT投資をセットで取り組むことにより、「行政情報へのアクセス改善」「行政手続に係る国民の負担軽減、利便性の向上」「行政業務の簡素化・効率化」「行政運営の高度化」といった電子政府の“配当”を具体化し拡大していくことである。そのためには、従来のように「役所がやりたいこと」や「役所のやりやすいこと」を行なうのではなく、IITを利用する国民や産業界から見て「やるべきこと」を早急に、期限を切って実施する必要がある。
 また、手段と目的を履き違えてはならない。ITは手段にすぎず、目的は「国民・企業の利便性向上、行政の効率化」であり、「IT化」自体が目的となってはならない。申請書の提出だけをオンライン化し、対面の事前説明、膨大な添付書類の提出を民間に求め続けるなど、現在の業務や仕事の流れをそのままオンライン化するだけでは、業務を迅速化・簡略化するITの効果が相殺されてしまう。
 さらに、専用回線を通じたオンライン化では合理化効果は小さく、インターネットを活用する必要がある。情報処理の自動化、効率化とともに、インターネットを活用して組織の壁を超えた迅速な情報の共有・活用を図って初めて、国民・産業界の利便性向上や行政の効率化が進むことを肝に銘じなければならない。国や地方を通じてITを活かすべく、行政の組織、制度や業務を改革することこそが“やるべきこと”である。

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国民から見て「1つ」の電子政府を

 ITの実効を引き出すには、省庁横断的、国・地方一体的に情報を共有・活用し、国民から見て「一つ」の電子政府の実現が求められる。そのためには業務プロセスの改善や、類似業務の統廃合が必須であり、「一つひとつ」の組織ごとに情報を管理し利用する従来の縦割り行政を改めねばならない。国民・企業からみて業務改革の象徴となるのが、ワンストップ・サービスの実現である。
 ワンストップ・サービスは、縦割り行政の常識をITで覆すものだ。特に住所・戸籍関連手続、自動車保有手続、建築確認申請関連手続、輸出入・港湾諸手続、道路占有・使用関連手続など、国民生活や企業活動に関連の深い手続のワンストップ化を加速する必要がある。重点計画では、国民や産業界の要請をふまえて、輸出入・港湾手続きに関して、提出書類の見直し、申請フォーマットの標準化や通関情報処理システムと他のシステムとの接続を図る方針が打ち出されている。
 その際には、単に複数のシステムを接続すればいい、ということではなく、利用者が簡便にインターネットを経由したデータ送信で、関連省庁や地方公共団体すべてに対する手続を完了させることができるようにする必要がある。例えば、現在のように通関手続きのために特別に入力したデータを専用回線で伝送するのではなく、輸出元から送付される電子データを利用した入力やインターネットでの伝送を可能とするとともに、添付書類の提出の廃止等を図る必要があるだろう。また、行政においても、提出されたデータを活用し、事務の効率化、コスト削減を進めることが求められる。
 ところで現在、年間約2億6500万件の国庫歳入・歳出事務処理のうち、歳入金・国税納付については約90%近くが、歳出金・国税還付金については約30%近くが、紙ベースで処理されている。経団連の試算によれば、これらが電子化されれば、手作業でのデータ入力や書類運搬のコストの削減に加えて、窓口納付から口座振替への切り替えに伴う国民負担の軽減などが図られ、政府、国民、金融機関全体で年間1000億円以上のコスト削減効果が期待できる。
 また、インターネット・バンキングや長時間稼動のATMサービスを利用して、税や年金保険料等を納付できるようになれば、納税等に関する時間・空間的制約は取り払われ、国民の利便性が向上する。
 そこで、経団連ではかねてより歳入・歳出事務の電子化の早期実現を求めてきた。ここにきて政府の動きが加速しており、申告納税手続きについても、平成15年度からインターネット等による申告を可能とする方針を打ち出しているが、こうした取り組みが国・地方を通じて本格的に推進されることを期待したい。
 これに関連して、TKCや経団連が強く働きかけた結果実現した税務上の帳簿書類の電子保存について、「取引先から紙の形態で受領した請求書、領収書、申込書などの原始証憑をスキャナー等で読み込んだイメージ・データによる保存が認められていない」「企業内の組織変更のたびに税務署に申請を書面で行わねばならない」などの問題も指摘されている。
 米国ではイメージ・データによる保存が可能だが、日本では認められないため、例えば毎年膨大な保険加入申込書が発生する損害保険業界の場合、税務関連書類の保管に関わるコストが年間50億円かかっているという試算もある。今後、さらなる電子保存制度の改善が必要である。

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住民との情報交流を強化すべし

 行政情報の公開は、住民から信頼される公正で民主的な政治・行政の確立にとって不可欠である。また、教育の情報化が推進され、教育現場でインターネットを活用する動きが加速しているが、電子的な行政情報は重要な学習用コンテンツとしても強く期待されている。
 日本においても、インターネット上に行政関連情報は掲載されているが、必ずしもタイムリーな情報発信が行われているわけではなく、米国ほど詳細な情報は提供されていない。早急に米国並みの情報掲載を実現するとともに、検索機能付きの電子官報の発行、インターネット上での法律から通達、判例までの検索サービスの提供を拡充する必要があるだろう。さらに、行政活動や政策決定に係る情報公開と住民からのインターネットによる意見受付、対話など、住民との情報交流を強化すべきである。
 日本を世界最先端のIT国家とするためには、今後も総理を本部長にいただくIT戦略本部が、構造改革に向けたIT活用の方向性を積極的に打ち出していく必要があるだろう。
 そのためには、ITの利用者利益の最大化等に向けて、通信分野における自由かつ公正な競争を促進する一方、「世界最高水準」の「一つ」の電子政府の実現に向けた取り組みを強化・加速することが急務だ。特に、従来のような書類ベース、対面ベースではなく、ネットワークを通じた情報の瞬時共有と活用を行政のベースとし、すべての「個人」「企業」「社会」がITを自らのためになることを実感できるような取り組みが求められているのである。



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