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特集タイトル



地方分権法改正から2年―いま自治体に、中央からの“自立”が迫られている。そこで注目されるのが、民間の経営手法を導入しようという「行政経営」の考え方だ。なぜこれが必要なのか、企業経営から何を学ぶべきか、先進県・鳥取に話を聞く。



◆鳥取県では今年1月に『IT社会実現に向けたアクションプログラム〜とっとりIT戦略プログラム』を公表されましたが、IT基盤整備への取り組みはいつ頃から始められたのでしょうか。
岡村 
片山善博知事が就任した11年4月からです。知事は「開かれた県政。県民とともに歩む県政」という目標を掲げ、現場の職員に対しても「過ちを怖れず、慣例にとらわれることなく、スピーディーに行動せよ」と改善努力を促しています。県が抱えている過疎化、少子高齢化、産業低迷という深刻な問題を打破するためには大胆な構造改革が必要ですが、県庁だけがいくら改革へ取り組んでも意味がない。ITによって県民が都市並みの生活を享受し、行政とともに地域も元気になる新しい仕組みを創ることが求められています。このための“打ち手”が『とっとりIT戦略プログラム』で、県が平成15年までに取り組む施策と方向を示しました。
◆プログラムを拝見しましたが、とても画期的な内容ですね。
岡村 
片山知事は、金太郎飴的な総合計画というのが嫌いで…(笑)。ともすれば総合計画は各部局から出された内容を総花的に取りまとめることになり、逆にそれが「しない・できない」ことの免罪符となりかねません。しかし、行動の伴わない計画には意味がない。そこで具体的な戦略を練るための専門チームとして、12年4月に情報政策課を発足したんです。その最初の作業が行動計画案の策定でした。情報政策課が「これからの福祉はこう展開しよう」「過疎地域の公立病院へ遠隔医療を導入しよう」という具合に具体案をまとめて、これをトップダウンで各部局へ投げ、実現性の可否やニーズとの整合性を検討しました。こうしてできたIT戦略の骨子をインターネットで一般公開して、市町村や経済界などにも議論してもらったんですよ。

県民参加の県政へ、180度転換

◆具体的な戦略と、その実施計画を作るプロセスから公開したわけですね。
岡村 
これまでの行政では、試案段階のものを外部へ公表するなど考えられないことでしたが、議論のたたき台となるものがないと話が前へ進みませんから、骨子を公表し広く意見を募ったわけです。実は県政全般のビジョンである『21世紀ビジョン』も、県民と団体、人口も61万人と少なく、過疎・高齢化が進んでいるため、都市部と地方の情報格差を調査研究する国のモデル県に選ばれたんです。そこで国と一緒になって各方面へヒヤリング調査を実施したことで、市町村の情報化の現状や今後の方向性を知ることができました。また、平行して県では行政分野別に現状を分析し、さらにアクションプログラムを作る段階で、これらをベースにして、より詳細なニーズ調査も行いました。このような「マーケティング調査」を行ったことで、現状の仕組みの課題点がどこにあるのかに気づき、それが『とっとりIT戦略プログラム』を策定する上で役立ちましたね。例えば、鳥取県では山間地域の方が情報化へ意欲的ですが、こうした過疎地では公立病院が改築時期を迎え、これを機に遠隔医療導入のニーズもあるのですが通信回線がネックとなっていた。情報ハイウェイを整備すれば、こうした問題が解決されるわけです。

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『鳥取情報ハイウェイを核とした全県ブロードバンド構想』

◆国や先進県のプランを真似るのではなく、県民参加で、地域の実状を踏まえた独自プランを計画されたんですね。
岡村 
残念ながら、地方が『e−Japan戦略』をそのまま採用するのは難しい。「民間主導で5年以内に世界最先端のIT国家を目指す」といっても、採算ベースを考えれば過疎化の進む農山村へ民間企業が参入するわけがなく、そうした地域では、ある程度の公的関与はやむを得ません。その点では、むしろ農林水産省の農村型CATVによる高度情報通信網の整備事業に注目しています。実は、鳥取県でも情報ハイウェイを核にCATVを結んで、地域の伝統芸能やフォーラム等の全県中継と農村部での高速インターネット網を整備する『全県ブロードバンド』を構想中なんですよ。いずれ、市町村ともつなげたいと考えています。また、今年中には学校のインターネット環境を拡充する計画で、これにより8割近くの学校で1.5Mbps以上の高速回線が整備されます。さらに県単独の事業として、県立学校の全教職員へパソコンを配布することも決め、6月の補正予算で約1600台を配備しました。

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◆それは、県立学校だけですか?
岡村 
明日の鳥取県を担う子供たちを育ててくれる先生ですからね。市町村と協力して小中学校にも整備したいと考えています。いま県内300校を『教育ネットワーク』でつないでいるのですが、肝心の先生にパソコンがない。いずれ、このネットワークを使って、地元の鳥取大学や鳥取環境大学、米子工専などの協力を得て、小中高校の教育支援をしたいと考えており、そのための環境整備ですね。その次のステップとして、県内の大学や研究機関の『学術ネットワーク』を構築し、これとの接続も視野に入れています。また現在、議論をしているのが農業分野におけるITの活用です。農業は鳥取県の基幹産業です。現在、農業改良普及員はモバイル・パソコンを持参して農家の技術・経営を指導していますが、今後、職員では対応できない時に研究機関のデータベースへアクセスし、指導に役立てようとするものです。ここに大学も加われば、さらに面白い動きとなるでしょう。このように鳥取県では、国の計画ではカバーされない部分へ積極的に取り組んでいます。

範は企業の「経営」手法

◆周到な戦略を描いておられます。まさに県庁の役割がどうあるべきか、将来像を示しているといえますね。
岡村 
これまでの行政は、ややもすれば国のメニューにそって予算を消化するために事業を行ってきたようなところがありましたが、鳥取県では「これからは県民のニーズを踏まえて、まず県に必要な施策を決め、それを事業化するために活用できる国の施策があるかを調べて、なければ単独事業としてやっていこう」と話しています。また、『とっとりIT戦略プログラム』のなかには、まだ議論が煮詰まっていないものもあります。なにせほかの県が3年かかって実施するものを、1年でやろうとしているので“荒削り”なんですよ(笑)。しかし、これだけ技術革新が急速に進む時代には、細部まで決めてしまうと却って身動きがとれなくなるため、毎年、計画のフォローアップとレビューを行い、その結果を広く公開して、さらに次のプランを練っていきたいと考えています。
◆PDCAサイクルですか。まさに企業の経営手法そのものですね。
岡村 
ええ。目下、知事とBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング=業務革新)について議論しているんですよ。ITは確かに地域活性化の手段だが、忘れてならないのが仕事のやり方だろうと。この点、BPRに代表される企業の抜本的な改革手法は範とすべきです。いま県庁には3600名ほどの職員がおり、2300台のパソコンがネットワーク化されていますが、昔もいまも仕事は全然変わっていない。そこで今年度当初予算では、あえて庁内LANの整備計画を凍結しました。クレームをいう課所に対しては、「ネットワークで仕事がこれだけ効率的になる、こんな高度なサービスができる、というプランを示してくれ」といっています。そうした改善努力をする課所には、優先的にシステムを整備するというインセンティブをつけたわけですね。一方で仕事の流れも見直しています。例えば、少紙化対策として知事との協議はすべて電子メールで行っていますし、予算要求も、個人の休暇届、出張伺いもネットワークを介して行うように変えてしまいました。
◆ほかにも同じような発想で取り組んでいる県はあるのでしょうか。
岡村 
東京都など先進県では、電子行政の推進策としてBPRやCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント=顧客に対する情報管理を高度化し、より効率的な活動を行おうという考え方)などを採り入れようとしているようですね。この2つの手法は、今後、行政が電子化を進める上でも重要で、いま我われも真剣に勉強しているところです。
◆まさに「行政経営」への発想転換ですね。
岡村 
実際、そのぐらいの発想転換がないと改革なんてできないでしょうね。今後の課題は、IT戦略を担う“人創り”です。市町村や産業界でも若手のITリーダーが必要で、今年度から市町村向けに5日間のリーダー養成と首長向けトップセミナーを実施しています。

大胆発想で新しい行政モデルの創造を

◆成果がいよいよ見えてきましたね。
岡村 
ここまでできたのは、IT先進県である岡山県や中国地方の各県がいろいろアドバイスをしてくれたからです。行政には、これまで他県に学ぶという意識が希薄でしたが、企業であれ、行政であれ、世の中の成功事例に学び、それを自分たちの組織に適した形で導入して、大きな改善に結びつけていかなければなりません。いわゆる「ベンチマーキング」ですね。いまや県を越えてシステム整備することも十分考えられる時代なんですよ。例えば、いま中国地方5県をネットワーク化しようという動きがあります。そうすれば、例えば農家の支援システムとして、それぞれの県が持っている得意分野のノウハウを他県の農家にも提供することができます。また、現在では県ごとに同じような試験研究施設を設置していますが、情報ハイウェイでネットワーク化できれば、各県が特化し共同利用することで、従来よりも少ない投資でより大きな効果を得ることができる。同じことが、市町村にもいえます。鳥取県の人口は岡山市とほぼ同じで、岡山市であれば一つのシステムで済むところを、39の市町村が個々にシステムを整備しています。これを共同運用すれば遙かに効率がよくなるでしょう。その点では『公的ASP』のようなものがあってもいいし、場合によっては情報部門をまったく別団体として分離、共同設置したっていい。行政運営を根本的に見直す時期になっているんですね。
◆そういう大胆な発想も必要ですね。
岡村 
鳥取県は企業や農家の数、耕地面積が他県に比べて少ないのですが、技術力、農業総生産額はともに高いんです。これは鳥取・池田藩の時代から一生懸命に開墾や産業興しに力を入れてきたからだといわれており、その風土は現代にも脈々と受け継がれています。「IT戦略」「行政経営」といっても、出発点は池田藩が取り組んできたことと変わりません。つまるところ、県民・産学官が協力し、知恵と力を出しあって、みんなが健康で明るく毎日を生活するため、どんな地域づくり、産業興しをしていくかなんですよ。



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