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せんぼ・かずお  1943(昭和18)年生まれ。中央大学法学部卒、68年司法書士に。75年市議会議員となり、市議会議長を経て、90年より現職。



分権時代をリードする自治体には、必ず斬新的なリーダーが存在する。大田原市の千保市長もその1人。行政経営のすべての価値を「住民の幸せ度」への貢献に置き、小さくてもキラリと光る地方都市の創造をめざす大田原市の行政経営についてお話しをうかがった。



◆千保市長は、以前から「住民の幸せ度への貢献」とおっしゃっていますが、これはどのようなものなのでしょうか。
千保 
大田原市では、まちづくりの指針として『おおたわら新世紀レインボープラン』を掲げています。名前の通り七つの基本テーマに沿ったもので、今年度から後期5ヵ年計画がスタートしました。そのテーマの1つが「幸せ度の高い、人が優しい」まちづくりです。大田原市は、築城450年の大田原城があるように大変歴史の古いまちなのですが、残念ながら東北本線、4号国道、新幹線、高速道路といった高速交通網から外れてきたことで、近隣地域ほどこれらの時代の恩恵を受けていません。そんな大田原市がほかと同じ土俵で競っても敵うはずはなく、ならばいっそのこと「高速交通網がなかったからこそ、素晴らしいまちになった」といわれるようになろうと考えたわけです。固有の歴史や伝統に加え、教育や福祉、スポーツなどの施策を充実させることで、市の“長所”を伸ばし“短所”を補う。そんな個性的なまちづくりによって派生する経済効果を狙おうと。そのためには、リーダーがどんなまちづくりを目指すのか、職員や住民に対して分かりやすく示すことが重要で、これが「幸せ度」というわけです。行政が施策を行う場合、経済効果はどうか、生活利便性や生活環境が向上するかという視点で考えますが、大田原市ではすべての施策に共通し優先する価値基準に「幸せ度」を置いています。

「人がやさしい」をキーワードにまちの魅力を創り出す

◆しかし、抽象的な住民の「幸せ」をどうやって測るのでしょうか。
千保 
それについては各施策の効果を数値化し、達成度を客観的に検証できるようにしています。その一例が「平成17年度の市民の平均寿命を全国平均並みにする」こと。先頃、厚生労働省が公表した『2000年簡易生命表』によれば、日本人の平均寿命は、女性が前年に比べて0・63歳延びて84・62歳、男性が0・54歳延びて77・64歳となり、いずれも過去最高を更新しました。大田原市民の平均寿命は、90年時点で女性が81・7歳、男性が75・6歳と、県平均より少し上だが全国平均を下回っています。これを男女ともに全国平均並みとするため、95年に『健康長寿都市宣言』を行い、97年には『市民が健やかに長生きするための条例』を施行して各種施策を実施してきました。例えば、99年にはインフルエンザが原因で亡くなる高齢者が全国的に増加し、男女ともに寿命が短くなったのですが、市では昨年、高齢者へのインフルエンザの蔓延を未然に防ぐため、国民健康保険に加入する70歳以上の市民を対象に無料で予防接種を受けられるようにしました。
◆それは全国でも珍しい制度ですね。
千保 
そうですね。また、寿命が延びても病気では幸せとはいえません。そこで昨年から健康に長生きするための3つの運動を推進しています。1つは「成人病検診の受診率を高め県内一とする」こと。これは成人病にかかり始める35歳を基準に日曜祭日も検診を行い、病気の早期発見・治療を心がけるものです。次が「痴呆予防」。痴呆症にかかると寿命も短くなるため、その予防・治療に力を入れています。そして最後が「寝たきり者ゼロ作戦」です。寝たきりの場合、多くは心ならずも“寝かせきり”にしてしまっているのが実状です。そうなるとやはり寿命が短くなる。そこで訪問介護でできるだけ“起こす”ようにして、寝たきり者ゼロを目指そうというわけです。一方、元気老人対策としては憩いの場『ほほえみセンター』を造り、現在12ヵ所まで増やしました。誰でも介護保険の世話にはならず、笑顔で暮らせるのが一番でしょう? こうした施策それぞれの目標達成度が「幸せ度」というわけです。
◆なるほど、それが一番の幸せです。
千保 
ほかにも市町村レベルでは全国初の『大田原市骨髄バンク登録推進協議会』を設立し、事務局を民生部健康福祉課内に設置して市民の1%、500名のドナー登録達成を目指しています。骨髄バンクができて10年。骨髄移植推進財団では当初、国民の0・1%、10万人の登録があればいいといっていました。今年6月末現在の登録者は13万8402名、移植を待つ患者は全国に1557名います。手術の成功率は30〜70%で、患者が若く、発病してから早ければ早いほど成功率も高まるのですが、非血縁者間では数百〜数万人に1人しか適合者はいません。こうした現状を踏まえ財団も目標を30万人に改めましたが、最近、登録数は伸び悩んでいます。
◆登録しても休暇制度がなく、実際の提供は難しいともいわれていますね。
千保 
ええ。そこで市では、こうした場合の『職務専念義務免除』制度を設けています。よくバリアフリーなど「人にやさしいまちづくり」といわれますが、私は「人がやさしいまち」とすることが究極のまちづくりだと思っています。骨髄バンク登録推進もそんな考えを形にしました。そのためには何よりも「ひとづくり」が欠かせません。最近流行の『米百俵』ではないが、市では校舎の改築計画を保留する一方でソフト面の充実に力を入れています。ユニークな例では、小学生と中学生を対象にした『ゴルフ講座』があります。子どもたちに思いっきり体を動かす場を提供しようというものですが、不登校児童にもいい影響を与えるようでニコニコとコースを回っています。これは市内にゴルフコースが多いことから実現した企画ですが、そうしたことが縁となり、いまでは英国の名門、セント・アンド・リュース・ゴルフコースの地元と互いに高校生のホームスティを受け入れるまでとなりました。

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インターネットは、要望を聞き施策の達成度を測る一つの手段

◆電子自治体実現に向けた取り組みは、いかがですか。
千保 
来年度には1人1台のパソコンを整備して庁内LANを構築する計画です。また行革推進本部では、例えば税務課、農務課、農業委員会、農業公社とで地図情報を共有化し二重投資を排除するなどの検討も始めています。だが、これがなかなか大変で…。税務課が税関係の証明を出す場合、年度途中で変更があっても3月の縦覧内容しか出してはいけないため、地図情報は1年に1度修正されればいい。しかし、農務課や農業委員会では随時、最新情報がほしいといいますからね。また、行政がいくらインフラを整えても住民がこれを使えなければ意味がなく、いまIT講習会にも力を注いでいるところです。
◆IT講習会は、受講者が集まらないところも多いと聞いていますが。
千保 
大田原市では、そんなことはありませんね。先日も、1つの教室に指導者1人のほか、補助者をもっと増やすよう指示したばかりですよ。さらに電子自治体を推進するには周辺環境の整備も大切です。以前、固定資産税の課税明細通知を出す際、司法書士としての経験をいかして法務局に掛け合い「この体裁であれば評価証明書の代わりとする」と認めていただいたことがあります。これにより住民の手間が省け、税務課の窓口業務も軽減されました。この方式は現在県下全域へと広まりましたが、住民の利便性を第一に、こうした周辺整備も考えていかないといけないでしょうね。
◆おっしゃる通りです。法務省では平成19年度までに全国の不動産登記情報をコンピュータ化し、インターネットを通じた閲覧サービスも開始する計画です。すでに商業登記は昨年からサービスを開始しています。こうした流れは、今後、中央から地方へと加速度的に広まっていくでしょうね。
千保 
そうですね。我われも体制づくりを早急に進めなければいけないと考えています。でも所詮ITは道具で、それを使って何をするかが重要です。いま大田原市では、住民からの苦情や要望を電子メールでも受け付けていますが、10件中9件はとても前向きな意見ですね。これまでにもフリーダイアル『もしもし市長さん』や『市民の声ポスト』を設置していましたが、いまでは県外や外国からもメールが届く。こうした直接的な接点が増えることで、住民が何を求めているのかをリサーチし、施策がどこまで住民の役に立っているのか測ることができ、行政の緊張感にもつながります。とはいえ、パソコンはなかなか難しい…(笑)。
◆そうおっしゃらず…(笑)。要望に対する回答はどうされているのですか。
千保 
その場で答えられなければ折り返し連絡するようにして、すべての意見・要望に必ず答えを出しています。匿名の場合でも、2週間以内に玄関前の掲示板へ回答書を張り出すんですよ。

住民参加を働きかけ地域経営のさらなる充実を

◆そうした千保市長の発想の原点はどこにあるのでしょうか。
千保 
やはり市民感覚でしょうね。住民生活に密着している地方行政は、その感覚を忘れてはいけません。100人の住民がいれば100通りのニーズがある。行政はそうした1人ひとりのニーズにも細かく応えていかなければなりませんが、時にはNOということも大切です。その点、市民の一人として私はいまの行政依存型の住民意識に疑問を呈したい。住民の参画なくして地方の自治はありえないんです。多くの住民に参画意識を持ってもらうのは容易ではないが、行政としてもさまざまな仕掛けやアプローチを行っていく必要があると思っています。
◆米国のケネディ大統領は、その就任挨拶のなかで「わが同胞よ、アメリカがあなた方に何をするかではなく、ともに人間の自由のために何ができるのかを問うてもらいたい」と述べていますが、これと同じ考えですね。
千保 
はい。以前、野崎地区の都市公園がオープン前にスプレーで落書きされる事件がありました。それまでにも公共施設が壊されたりするたびに、行政が修繕してきましたが、私が決裁文書に黙って印鑑を押せば市民は落書きされた事実もみんな忘れ去ってしまう…。そこで“負のモニュメント”として放置することを決断し、そのまま公園をオープンするよう指示しました。それを新聞が取り上げ、騒ぎとなったことで、市民の間に「自分たちの手で消そう」というムードが広まり、700名のボランティアが集まりました。おそらく行政が呼びかけたのであれば、これだけ多くの人は集まらなかったでしょうね。
◆大田原市では、住民との新たな関係づくりを模索されているんですね。
千保 
 自分が住んでいる地域に関心のない人はいないはず。住民と市町村とは利害が一致するパートナーなんです。行政が個性的なまちづくりを続けていけば、自分のまちに愛着や誇りを持つ市民がもっと増えることでしょう。今後も「大田原市民でよかった」と思ってもらえるようなまちづくりを心がけていきたいですね。


大田原市DATA 住所 栃木県大田原市本町1-4-1
電話 0287−23−1111
面積 133.97平方キロメートル
人口 5万6034名(H13.7.1現在)
URL http://www.nasu-net.or.jp/~ohtawara/



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