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特集タイトル



ITを活用して自治体のリエンジニアリングを進める三春町。民間人を登用し、行政支配人を配置して従来の組織を大胆に変革した、この小さなまちの動きが注目されている。地方分権の時代を生き抜くための伊藤町長流「行政経営改革」のシナリオについて話を聞いた。



◆昨年、三春町が実施した教育長の公募は、新しい手法として注目され、これを採り入れる自治体が全国に広まっています。今春からは、大胆な組織改革にも着手されたわけですが、伊藤町長が進められている行政改革について、改めてその背景などご説明いただけますか。
伊藤 
 地方自治体は民間企業のような競争原理が働かないだけに、時の経過とともに組織の肥大化や事務事業の劣化現象を来しやすいといえます。ましてや国も地方も厳しい財政構造改革を迫られているなかで、自治体は厳しく自己改革に努めなければなりません。そのためには職員の能力を高め、町独自の政策を練り上げていける“強い自治体”になることが肝要です。そこで今年4月、従来の16課40係を廃し、町長部局を「総務」「町民生活」「事業」の3部門に再編し、各部門のトップには米国のシティーマネージャー制度を参考とした「行政支配人」を置くという大胆な組織改革を行いました。また、課長や係長といった中間管理職を廃止し、行政支配人が直接指揮監督するように改め、さらに職員の指示待ち状態を解消するために仕事の「個人担当・個人責任」制を打ち出しました。
◆なるほど。住民の立場で新しい行政を創造するという戦略に従って組織を作り直したわけですね。まさに“行政ビッグバン”と呼ぶに相応しいものです。
伊藤 
 よく民間企業では、PLAN(計画)・DO(実行)・CHECK(評価検証)・ACTION(行動)というマネジメント・サイクルが語られますよね。行政事務をこれに照らし合わせてみると、これまでは計画部分が徹底的に弱く、また、実行という点でも前近代的なマネジメントをそのまま引きずっており、また評価はほとんどされていない状態でした。これを変えるには、単に組織の名称を改めたり、民間企業のノウハウを部分的に採り入れるといった取り組みでは不十分です。十年一日のごとく同じことを繰り返している行政組織を一度分解し、新たに組織し直すほどの大胆な手法が必要だと考えました。

「21世紀の行政モデルを創る三春町の「3本の柱」

◆そうした発想の原点は、伊藤町長が農業協同組合におられた経験にあるのでしょうか。
伊藤 
それもあるとは思いますが、やはり、行政に関わるようになって強い危機感を覚えたことの方が大きいですね。いままでの行政組織の概念は、首長にすべて権限が集中するピラミッド構造となっていました。これを建物に例えると、あり合わせの短くて細くて弱い柱をたくさん使った3階建ての建物で、課長、課長補佐、係長と何階層にもなっているのにグラグラして国や県の支えがないと倒れてしまうような脆弱なものでした。こんなことをいうと職員から怒られそうですが(笑)。これは、いわば首長がスーパーマンであることを前提とした組織ですが、そんな首長などいるはずもない。ましてや、いま現実に突きつけられている行政課題は複雑化・多様化していて、行政の専門家ではない首長1人で担えるものではありません。そこで三春町では、3本の太くて大きな柱を構造材として、これに補強材を配置し、丈夫で使い勝手のいい平屋建ての建物を造ろうと考えたわけです。
◆そう説明されると具体的にイメージしやすいですね。
伊藤 
このための3つの柱として、(1)政策形成過程を透明化するための「政策協議機関」の設置、(2)実務者機関を強化するための組織機構改革と「行政支配人」方式の導入、(3)職員の意欲を高め、人材を育てるための「人事制度の改革」、を掲げました。一本目の柱である政策協議機関とは、いわば「司令塔」ですね。従来は政策立案をするにしても誰が発議者で、どこに課題提起を行い、その選択を誰が行ったのか、政策の形成過程や決定責任が不明瞭でした。つまり、司令塔が明確に存在していなかったんです。そこで政策部門と執行部門を切り分けて、政策課題の提起から成案審議まで一元的に協議する「政策協議機関」を新たに設置しました。メンバーは住民代表である議会と首長で、場合によっては学識経験者などにも参画していただく。〈三人寄れば文殊の知恵〉というでしょう? ただ〈船頭多くして船、山に登る〉ことにもなりかねないため、いかにバランスよくやるかが大事です。とはいえ、議会や首長は住民の立場での政策づくりは行えても行政は素人で、これを支える実務者機関の役割はますます重要となるでしょう。
◆DO(実行)の部分ですね。
伊藤 
はい。司令塔からの指令を受けて、それを具体的な目標に整理して、自ら目標管理のできる執行体制が整備されていなければ改革はなしえません。そこで、2本目の柱である「行政支配人」制度を導入したわけです。米国では議会と首長の下で行政機関の最高責任者として実務を取り仕切る行政支配人は当たり前で、全国公募をしても、ここだけはしっかりさせたいと考えました。また、実務においては、スピーディな行政サービスを提供するために、できるだけ現場に近いところへ権限を移すことも重要で、首長から行政支配人へ事務の管理執行と職員の監督指揮の権限を移譲しました。このように政策責任は「政策協議機関」が、執行責任は「行政支配人」が行う、というように、それぞれの役割と責任を明確にしたわけです。また、最近、福島県がフラットでフレキシブルなFF型の行政組織にするといっていますが、三春町の場合も中間管理職をなくし実務者機関をFF型に切り替えました。これによって柔軟性、透明性、経営感覚を備えた行政の仕組みが整ったといえるでしょう。
◆なるほど。三春町では、住民を主役として、行政組織と議会と首長がそれぞれの役割分担を見直したわけですね。
伊藤 
はい。これまでにない新しい発想を採り入れることで、職員たちは目に見える変化を実感したと思いますよ。改革の担い手は現場の職員ですから。一人ひとりの変化が起きてこそ行革も本物になるだろうと考えています。こうした職員たちの意欲を高めるため、3本目の柱である「人事制度の改革」を行いました。これまでの年功序列を改め、明確な職能資格基準に基づいて昇格審査・能力評定を実施する「職能」制度を導入したんです。評価は「業績」「執務態度」「能力」の3つをバランスよく考慮し、この結果は勤勉手当や昇給・昇格にも反映させます。新しい制度の導入で、研修などによって個人の能力開発を支援したり、能力に応じた適材適所の人事も可能となるでしょう。まだ制度はスタートしたばかりですが、効率的に人事情報を管理・支援できるシステムがあると便利ですね。これはぜひ、TKCさんに期待したい。
◆そうですね。勉強させていただきながら、ぜひ対応していきたいと思います。

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財務、業務の成果で示す行政改革の達成度と改善サイクル

◆さて、CHECK(評価検証)の部分ではいかがですか。
伊藤 
正確な行政評価なしに経営戦略は立てられませんし、また、事業活動の成果を正しく評価して内外に公開しなければ、せっかくの改革運動も自己満足で終わって継続されません。事務事業ごとのPDCAサイクルのなかで、半期あるいは予算期内にどこまで目標を達成できたのか、達成できなかった場合は、どこに原因があったのか、などを分析する必要があると考えています。また、従来は、財政面でもトータルに見て経常収支比率や公債費比率がどうなっているかという大雑把な見方でしたが、これではどこをどうするかという判断が下せませんでした。やはり業務単位でどこに問題があるのかをチェックするようにしないと経営改善にはならない。そこで事務事業を実施した結果、得られた目標達成度など業績と財務面の成果を測る尺度として「事務事業評価管理表」と企業会計方式に基づく「管理会計システム」を導入しました。これによって、現行の事務事業の効率化もさることながら、事業の括り方の見直しや、現状ではカバーできていない業務の掘り起こしができるだろうと考えています。さらに、これを議会で評価してもらうことで、職員自身が継続してPDCAのサイクルを自分で工夫していく土壌も整ったといえるでしょう。
◆部門別業績管理の仕組みをどうやって作るかということは、経営トップにとっては非常に悩ましい問題ですね。ところで、新財務会計システム研究会では、企業会計の手法を採り入れ、最終的にはプロジェクトごとの評価ができるシステムの研究に取り組んでいます。この点については、いかがお考えですか。
伊藤 
それは興味深いですね。3年ほど前から事務事業評価管理表を作成して事業や業務単位で費用対効果を測り、例えば、ゴミ収集コストはいくらなのか、焼却コストはいくらになるのか、などを細かく分析し、業務改善に取り組んでいます。しかし、これをやろうとすると行政収支計算書を業務単位ごとに作らなければならない。これを職員が個々に計算するのではなく、業務単位ごとの収支計算書が自動的に作成されるようなシステムがほしいなぁと考えていました。
◆なるほど。会計全体としての貸借対照表、損益計算書だけでは行政評価にはつながらないということですね。
伊藤 
その通りです。企業会計でいえば「勘定科目」、公会計では「款・項・目・節」ですが、それに基づいた決算書が行政評価の資料としては使えないのです。そこで、行政収支計算書をコンピュータで容易に組み替え、作成できるといいですね。その場合、現在の「目」が業務ごとに作成できる限界でしょう。しかし、現状では必ずしも行政評価に直結する「目」の構成にはなっていないため、改良の余地がありますね。その上で、さらに細分化して分析する必要がある場合は、担当レベルの作業になるでしょう。そうした点では、来年度には管理単位ごとの収支決算書と事務事業評価管理表を議会へ提出し、質と量の両面から行政評価してもらえるような環境を整えたいと考えています。決算書や管理表自体を作るのが目的ではなく、そこから現在および将来予想される課題を明らかにして必要な改善にどう結び付けるかが大切ですからね。ぜひ、これらを支援するシステムの開発をお願いしたい。
◆かしこまりました。21世紀の行政モデルを構築すべく、一歩踏み出した三春町の今後の動きが注目されますね。
伊藤 
ほかに人が通ったことのない道を切り拓いていくのは大変です。細かいところでは、まだ不完全な部分も多々ありますが、問題があれば歩きながら解決していけばいい。所詮、初めから完璧な制度などはあり得ないんですよね。


三春町DATA 住所 福島県田村郡三春町字大町1-2
電話 0247−62−2111
面積 72.76平方キロメートル
人口 2万308名(H12年7月1日現在)
URL http://www.asaka.ne.jp/~miharu/



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