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しまだ・たつみ 1939(昭和14)年生まれ。中央大学法学部卒。明電舎、財団法人日本生産性本部、横浜商科大学を経て、現、東京都立科学技術大学教授。経営学博士。主な著書に『地方自治体における情報化の研究―情報技術と行政経営』『情報資源戦略』『自治体のアウトソーシング戦略―協働による行政経営』など多数。



新たな年を迎え、地方公共団体における電子政府の構築もいよいよ最終段階となった。残された1年間で何をなすかが、ネットワーク時代の行政経営の成否を分かつことになる。山積する課題をいかに乗り切るか、島田教授に市町村における「経営戦略」を聞く。



◆島田先生には、このほど『情報技術を活かす自治体戦略』を上梓されました。本書の執筆に先立ち「電子自治体アンケート調査」を実施されていますが、今回の調査の狙い、および分析結果について教えてください。
島田 
 この調査の狙いは、電子政府実現に向けて、自治体における情報化の現状を明らかにしようと考えたものです。都道府県、および人口20万人以上の都市、県庁所在地など全国203団体を対象として12年7月にアンケート調査を実施し、うち69%の140団体から回答を得ました。調査結果としては、パソコンの普及率は全体平均で36%とまだ低いものの、着実に増加しています。これを本庁職場だけに限ると51%で、都道府県では92%とほぼ1人1台のパソコン環境が整いました。また、庁内LANは全体の90%が導入済みで、うち半分以上がインターネットに接続しています。組織の情報化の状況については、「電子メール」が74%で利用され、「施設管理」(39%)、「電子掲示板」(35%)がこれに続いています。調査時点では、まだ「スケジュール管理」(18%)、「起案文書データベース」(15%)、「入札情報インターネット提供」(12%)、「電子決裁」(7%)の導入率は低かったものの、これらについても今後、急伸するでしょう。さらに情報化計画については「策定済み」が71%、「計画中」が13%で、策定済みと回答した自治体のうち6割が、電子政府対応のため「情報化計画を改訂済み」あるいは「改訂を計画中である」としています。これらの結果を各種調査と比較してみると、ここ数年で庁内の情報化を進めなければという意識が高まり、「情報系」のシステム導入が進んだことが分かりますね。
◆各課の定型業務の電算化、いわゆる「業務系」のシステムではなく、組織の枠を超えた行政全体を対象とする「情報系」のシステム整備が進んだということですね。
島田 
 はい。要因としては、やはり情報通信技術の著しい進歩と、政府が国家戦略として『e―Japan計画』を示したことがあげられます。ただ、市町村の方と話をして感じるのは、未だに情報化の進展を測るものさしとして、LANの整備やインターネットとの接続など「情報機器の装備」に基準を置いている人が多いということです。しかし、これは「インプット(予算)」の話であり、本来であれば住民満足度や省力化の度合いなど「アウトカム(成果)」で測られるべきものでしょう。そこを間違うと、せっかくの情報化が行財政改革に資するどころか、かえって財政圧迫をもたらしかねません。重要なのは「何があるか」ではなく「何をなすべきか。それをどう進めるか」という経営戦略です。情報化と構造改革を一体的に進めなければ、期待する成果は得られないでしょう。

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いかに解決するか? 電子政府実現を阻む6つの要因

◆そういった点では、今回の調査では行政経営の視点から「電子政府実現に向けた阻害要因とその対応」についても調査・分析しておられますね。
島田 
はい。阻害要因として挙げられたのは「財政難」「セキュリティ確保」「個人情報保護」「古い組織体質」「情報化機器・通信機器等の不足」「トップ層の理解」「国の法令等」「自治体の条例・規則等」「管理職の理解」などです。このうち「財政難」については、七割近くが阻害要因であるとしています。こうしてみると、情報機器の装備が進む一方で、構造改革が遅れているという実態が浮き彫りとなってきますね。ただ、「財政状況」については、業務改革や既存システムのスリム化、あるいは開発・保守の見直しによって新たな情報化費用を捻出することが十分可能です。そうした視点から、改めて電子政府実現の阻害要因を整理し直してみると、(1)トップの認識の壁、(2)官民の壁、(3)法令、規則、制度などの壁、(4)BPR(業務改革/BusinessProcessReengineering)の壁、(5)セキュリティの壁、(6)組織文化の壁、の6点に絞られるでしょう。
◆それをいかに改革していくかが、鍵というわけですね。
島田 
そうですね。特に今回の調査で分かったのは、多くのトップが「情報化」を自分たちの問題ではないと考えていることです。例えば、民間企業では経営幹部がCIO(最高情報責任者/ChiefInformationOfficer)を担当するのは珍しいことではありません。なぜならば、情報化は構造改革と一体で進めるべき戦略的重要課題であるからです。しかし、自治体の場合、課長クラスが担当するか、あるいはこれに相当する役割はないというのが現実で、まずはこの認識を改めるべきでしょう。首長がCIOを兼務できなければ助役を任命する、あるいは民間から登用するなどを考えるべきですね。
◆確かに、先進的な自治体を見ると、いずれもトップが情報化推進の旗振り役を果たしていますね。
島田 
はい。ただ、トップだけが突出していてもだめで、成功例を分析すると「ミドル・トップダウン」というか、ミドルが仕掛けてトップが号令をかける、という具合に連携プレーで推進していますね。また「連携」という点では、住民・地域とのコラボレーション(協業)も期待されますが、ここにも「官と民の壁」がある。これまで内外を問わず自治体には連携という意識が希薄でしたが、いま情報化に限らず多くの政策的課題を抱えているなかで、住民や民間企業、近隣自治体を巻き込んで衆知を集めることが問題解決への早道です。欧米では、官民の人材交流が活発に行われ、また民間で実績をあげている経営手法などもごく自然に採り入れられています。日本でもようやく藤沢市や大和市などが、ホームページを使って政策に対する住民からの意見参加を始めていますが、硬直的な仕組みを打破するためにも、今後はこうしたことを勧んで実施すべきでしょう。
◆おっしゃる通りですね。しかし、未だに外部ネットワークとの接続を禁止する自治体も少なくありません。
島田 
残念ながら、調査でも8割以上が「全面禁止」「原則禁止」と回答しており、見直しが急務ですね。この背景には、自治体の組織文化が非常に安全主義だということがあります。これに内部志向や減点主義人事があいまって、セキュリティへ過剰反応するあまり、外に向かっていこうという積極姿勢が抑制されている。これが「セキュリティの壁」「組織文化の壁」というわけです。確かに安全面への十分な配慮は必要ですが、ハッカーを怖れていたら何もできません。「受け身」の危機管理から「攻め」の危機管理へと発想を転換すべきでしょうね。
◆その点では、電子自治体に向けた準備期間は長かったが、日本人の特性として、走り始めたらものすごい進展を見せるのではないかと期待しているのですが。
島田 
そうですね。基本的に自治体の職員さんは、勤勉だし責任感があり人材も揃っています。日本のIT技術だって世界トップレベルです。これまでは「法令・規則・制度などの壁」がありましたが、政府がこれらの見直しに着手したことで、うまくやれば数年後には世界でも有数のIT国家に生まれ変わると思っています。

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電子政府は地方から始まっている 先進事例の知見に学べ

◆さて、平成14年を迎えて『住民基本台帳ネットワーク』『総合行政ネットワーク』も実施段階となりました。残された阻害要因である「BPRの壁」も急ぎ打開しなければなりませんね。
島田 
そうですね。BPRというと、これまで行政が最も苦手としてきた分野ですが、実際にはそう難しいことではありません。要は、電子自治体としてあるべき姿から現状を見直すことです。そうするといろいろな改善点が見えてくる…。画一的・形式的に決められているだけで、現状にそぐわなくなっている制度や手続きなどが結構あると思いますよ。簡素化できるものは徹底的に簡素化する、まさに“シンプル・イズ・ベスト”ですね。事務やプロセスがシンプルになれば、自ずとスピードアップにもつながります。
◆民間企業では、「業務のスピードアップ=コストダウン」と考えます。時間コストが減るわけですからね。行政にも同じことがいえるのでしょうか。
島田 
例えば、横須賀市役所では、インターネットによる電子入札を実施し、指名競争入札から条件付一般競争入札に切り替えたことで公正な調達と手続きの簡素化を実現し、結果として費用削減につながっています。これは情報化と業務改革を一体的に進めた良いお手本ですね。横須賀市の場合、この他にもICカード実験などへ取り組むなど地域やまちづくりにおいて積極的に情報化を推進しています。皆さん、そのITの仕掛け部分ばかりを注目しますが、その根底には、自らを「情報産業である」と定義し、〈駅ビル等へミニ窓口『役所屋』を設置して休日や夜でも証明書発行などのサービスを提供する〉〈地元の企業や大学など外部資源を有効活用する〉といった柔軟で新しい発想があることを忘れてはいけません。いま学ぶべきは、こうした先進事例のITを活用した構造改革の仕組みや地域に根ざした経営手法でしょうね。
◆なるほど。重要なのは技術論ではなく、戦略論ということですね。その点ではASP(ApplicationServiceProvider)サービスを活用して、情報システムをシンプルにすることも考えられます。
島田 
そうですね。『介護保険制度』以後、事務の広域化やシステムを共同開発するなど自治体の考え方も随分と変化しましたし、ASPはその延長線にあると考えています。財政難に加え、情報通信技術が陳腐化するリスクを最小限とすることなどを考えても、今後、その方向に向かっていくのではないでしょうか。自治体の場合、それぞれ特異性はありますが、民間企業と比べれば基本的に業務の共通性は高い。むしろ、いままでオーダーメイドでやってきたことが問題でしたね。住民にすれば市町村独自の帳票レイアウトなど大した問題ではなく、いわば“役所の都合”だった(笑)。そのコストを住民サービスに直結する部分へと振り分けるべきです。
◆市町村にとっては、この1年が改革の踏ん張りどころといえますね。
島田 
地方が国に先駆けて改革を実施した例は少なくありません。個人情報保護条例や情報公開、また最近では行政評価制度など、いずれも地方で芽吹き、それを国が追随しました。そして、いまアウトカム思考の情報化についても、すでに地方から始まっています。そうした先進的な自治体をベンチマーキングし、各市町村が創意に満ちた独自の行政経営モデルを構築していってほしいものですね。



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