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特集タイトル


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新日本監査法人 公会計本部企画開発部長
社員 公認会計士 加藤暢一
昭和30(1955)年生まれ。明治大学商学部卒。昭和55年監査法人太田哲三事務所(現新日本監査法人)入所。平成12年より現職。

新日本監査法人 公会計本部
公認会計士 山下康彦
昭和38(1963)年、長崎市生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了後、平成元年太田昭和監査法人(現新日本監査法人)入所。



小泉政権の掲げる「聖域なき構造改革」の旗印の下、日本でも国をあげて大胆な改革が始まった。電子政府・電子自治体は、いわばその序章に過ぎない。多くの市町村が行政の情報化という目前の課題に追われるなか、先進的なところではより優れた行政経営を目指し、すでに次のチャレンジを始めている。電子自治体の先にあるものとは何か…。公認会計士であり、外部監査などで自治体と関わりの深い加藤暢一、山下康彦両氏とともに「行政評価」の視点から考えてみる。



◆総務省の調査によると、都道府県および政令指定都市のほとんどが行政評価を導入または検討中とするなど、この1年で自主的に行政運営の改善へ取り組む動きが活発となっています。なぜこれほどまでに行政評価が注目されるのか、改めて整理していただけませんか。
山下 
 その背景には、(1)地方財政の状況が逼迫していること、(2)長引く不況によって税負担感が高まり、税の使われ方に対して住民の厳しい目が向けられていること、があげられると思います。昨年、諫早湾の干拓事業や長良川河口堰などが新聞報道等でも取り上げられ話題となりましたが、1度計画されるとその後ほとんど見直されることのない行政の硬直性や、住民の意識とそぐわない事業運営の在り方が問われているわけですね。そうした環境変化を受けて、三重県の北川正恭知事が、1995年に生活者起点の行政運営を目指し「事務事業評価制度」を策定。次いで97年には、北海道庁が長期間停滞している事業計画を見直す「時のアセスメント」を導入しました。これらをきっかけとして全国各地へ行政評価の取り組みが広まったものです。

なぜ、いま行政評価なのか

◆行政評価のほか政策評価などといわれる場合もありますが、その違いがはっきりしていませんね。
山下 
確かに行政評価には明確な定義や概念がなく、用語も統一されていないため判りづらいですね。これを整理すると、行政の活動は〈政策〉〈施策〉〈事業〉の3段階に大別でき、それぞれの段階を企画(Plan)→実行(Do)→評価(Check)→改善(Action)のマネジメント・サイクルに則って、目的達成に向けて改善していく手段が「政策評価」「施策評価」「事務事業評価」などといえるでしょう。その目的はいずれも〈住民が主権者として意志決定するために必要な判断材料を提供する〉ことであり、そうした取り組みの総称が「行政評価」なのだととらえています。いろいろな評価方法がありますが、残念ながらどの自治体にも当てはまるような理想的な手法はありません。行政の提供するサービスは多様ですし、地域特性などもありますからね。そうした評価の限界も十分理解した上で、目的や分野に応じて最適なものを組み合わせることが肝要でしょう。
◆なるほど。行政評価はもともと欧米で始まったものですが、各国ではどんな取り組みが行われているのでしょうか。
加藤 
例えば、米国では80年代に多くの地方政府が財政危機に見舞われました。この時にオレゴン州が導入したのが「オレゴン・ベンチマーク」です。ベンチマークとは組織のパフォーマンスを類似した機関のものと比べ、その差の要因を分析する手法で、現在では米国各地で採用されています。その他、ニュージランドなどの取り組みも有名ですが、国情が日本とよく似ている英国の動向は興味深いですね。70年代の英国では、官僚主導、安易な補助金の濫用、問題の先送り体質などが経済の非効率化と停滞をもたらしていました。これを打破するためサッチャー首相が取り組んだのが政府主導による行政改革です。その特徴は住民とのコミュニケーションの工夫やきめ細かい「市民憲章」の設置など、住民から見て具体的で分かりやすい点に配慮していることでしょう。その後、メジャー、ブレアの両首相によって多少の改善は加えられたものの、改革の基本路線は継承されてきました。最近では、サービスの提供方法に加えて内容についても利用者の意見を広く反映させる「サービス・ファースト(Service First)」や、各行政機関に対して効率性や有効性とともに質の高いサービスを提供することを求めた「ベスト・バリュー(Best Value)」など、サービス水準の向上や顧客志向といった側面が一段と強化されています。

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英国行革が日本へ示唆するもの

◆そうした事例の理念や方法論などから、行政改革に取り組む際に市町村が見習うべき点は何だとお考えですか。
山下 
やはり、“住民=顧客”指向を追求する行政姿勢でしょう。そのために英国の事例からぜひとも学びたいのが、(1)発生主義会計に基づく公会計の導入、(2)客観性の担保、(3)経済性と有効性の視点、の3点だと思います。まずは地方財政の一層の透明性が求められているいま、市町村でも発生主義に基づく公会計をきちんと考えていくべきですね。
◆日本の公会計といえば、これまで「単式簿記」「現金主義」といわれてきたわけですが、欧米ではどうなのでしょうか。
山下 
基本的には現金主義ですが、最近では発生主義の会計方式と併用するところも増えています。英国では99年に「リソース・アカウンティング・アンド・バジェッティング(Resource Accounting and Badgetting/資源会計・予算)」を公表し、一部の行政サービスに発生主義を導入しました。これは行政がサービスを提供する場合に投入する人や予算などいろいろな資源(リソース)の消費に着目して会計データを作成しようというものです。また、発生主義の併用によって道路を除く固定資産について再評価額を織り込んだ取得原価による評価を実施し、減価償却の考え方なども採り入れています。その結果として「貸借対照表(バランスシート)」「キャッシュフロー計算書」に加えて、部門目標別の「資源報告書」などを開示。こうした情報は自治体ランキングとして広く公表されるため、行政へ市場競争原理をもたらしました。
加藤 厳しい財政事情のなか今後もサービスの質や量を維持するためには、日本の市町村も英国に倣って発生主義を導入して行政の資源を正確に把握し、配分の見直しなども検討すべきですが、この点で日本の対応は遅れていますね。現在、日本の行政機関で使われている公会計は、もともと独国の「カメラル簿記」を模範として明治時代に導入されたものです。ご存じのように企業会計には、単期の収入・支出とその差額である利益と損失を記録する「損益計算書」と、長期にわたる負債と資産を示す「貸借対照表(バランスシート)」があります。民間企業では、このバランスシートを基礎にして負債をどう削減し、資産の価値をいかに高め維持するかという戦略を考えるわけですね。最近、自治体でもバランシートが作成されるようになりましたが、それを使ってどうするか何も検討されておらず、取り敢えず作っただけというところも多い。有効に使えば大まかな財政状況を住民へ説明するのにいい資料なのですが…。
◆おっしゃる通りですね。
山下 
また、企業会計には外部へ財政状態や経営成績を報告するための「財務会計」と、現状を見直し業務改善に役立てる「管理会計」という2つの側面がありますが、今後はこの管理会計の部分を意識すべきですね。例えば、行政評価もひとつの事務事業といえますが、その導入コストとして思い浮かぶのは外部コンサルタントへ依頼する外注費でしょう。しかし、実際には行政評価に直接・間接的に参加している人の退職給与引当金も含めた人件費、そのための執務室の減価償却費など、事業活動の単位でかかる費用をトータルで把握する必要があります。

変わる行政と住民の関係

◆客観性の担保という点では、いかがでしょうか。
山下 
先述の通り、行政評価の目的は住民へ判断材料を示すことであり、客観的なデータに基づく情報の公表が不可欠です。そのためには第三者評価が欠かせません。しかし現状では多くの場合、行政自身の“自己採点”であり、ややもすれば現状追認型の評価となっているところもあります。この点、英国では中央政府の下に監査委員会が設置され、地方の行政活動を統一的に評価するようになっています。日本においても各府省ごとに有識者による評価委員会が設置されていますが、自治体でも同様に独立した第三者機関を置き、その機能を強化させて評価内容の客観性を高めるべきでしょうね。また、評価結果はできるだけ数値で示すことが大切です。成果を定量的に評価することで事業活動の妥当性や改善点が明らかとなり、その評価結果を翌年の予算・施策へ反映させることも容易です。
加藤 さらにそこで大切なのがアウトカム指向です。アウトカムとは例えば、道路を何キロ造ったかではなく、それによって経済効率がどの程度高まったかなど住民にとってどんな価値を生み出したのかを見るものです。成果を定量的に測るのはなかなか困難ですが、ひとつの方法としてはアンケート調査で住民満足度を測定し、これを評価に採り入れることが考えられます。実際に欧米では「市民調査」が数多く採用されています。また、3つ目の経済性と有効性の視点とは、評価項目を選ぶにあたっても目標値を設定するにも、経済性と有効性の両面から考えることが必要だということです。行政は民間企業とは異なり、例え赤字でも住民に必要なものであればやらなければならない役目があります。これを経済性だけで考えるとそうしたサービスは不要となりますが、一方でいくらコストを削減しても時代の使命が終わった事業は住民にとって何も価値を生み出しません。
山下 いま国をあげて行政改革が推進されるなかで、行政と住民の関係も“保護するものとされるもの”から地域社会における“対等なパートナー”へと変わりつつあります。政策形成の課程や活動結果などをきちんと評価し公表することは、行政と住民の情報共有にほかなりません。その点では、行政が納税者の厳しい視線に晒されているのと同時に、住民にも単なる“観客”ではなく主体的に行政活動へ参画していく責任が問われているといえるでしょうね。
◆なるほど。そうした意味で、行政評価は、住民との“協働”で新しいまちづくりを始める第一歩というわけですね。市町村にとって行政評価の導入は避けて通れない課題といえますが、未だに考えていないところが1426団体もあるのは、すべてをカバーしようとして何から手をつければいいのか悩んでいる現れのような気がします。
加藤 
そうですね。行政サービスは社会経済情勢や住民ニーズに応じて提供されるものですが、これらは常に変化します。変化が生じればそれに応じたサービスを提供する――そう考えると行政評価は特別なものではなく、当たり前のことなんですよ。ところが、本格的に取り組むには数名の専任者を置いて膨大な作業をこなさなければならず、また時間もかかるため、なかには昨年の評価結果をそのまま流用するというところもある。それでは意味がありません。“手段”であるはずの行政評価が、いつの間にか“目的”となってしまっているわけです。むろん評価やチェックに必要以上の予算や人手を費やすのは問題外であり、今後はこれらの業務分野を支援する情報システムが欠かせなくなるでしょう。
山下 将来的には、施策の企画や実施といった行政活動なかに評価を組み入れ、継続的な改善を定着させることが望まれますが、最初からあまり難しく考えない方がいいでしょう。これから導入するのであれば、まずはやりやすい部分から始めて段階的に対象範囲を広げていけばいいと思います。重要なのは試行錯誤しつつも、とにかく前へ進むことなんですからね。





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