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しのはら・としひろ 1964(昭和39)年宮崎県生まれ。87年4月総務省(旧自治省)入省、7月滋賀県総務課、市町村振興課、89年情報管理官付、行政課、92年外務省ジョルダン大使館二等書記官などを経て、現在、行政体制整備室課長補佐、市町村課課長補佐、市町村合併推進室課長補佐を併任。



先頃、経済財政諮問会議において地方行財政改革の方向が示された。交付税や地方への税源移譲を含む財源配分の在り方を見直し、国の補助金も削減するという。いよいよ本格的な地方分権時代の到来だ。市町村主体の自治体制確立のためには合併による規模拡大も避けられない。正念場を迎えた市町村合併について、総務省の篠原俊博課長補佐に聞く。。



◆ここへきて、にわかに市町村の合併機運が高まっていますが、改めて合併について、総務省としての基本的な考え方を聞かせてください。
篠原 
日本の市町村は、近代的地方自治制度である市制町村制施行に伴い実施された、いわゆる「明治の大合併」以来ずっと合併を繰り返してきました。なぜ、このようなことをしてきたかといえば、その基本に〈地方自治の中心は市町村である〉という考え方があるからです。そのため住民との距離が最も身近で、住民の声が反映しやすい市町村が、その責任と権限の下に、多種多様な事務を総合的に行ってきました。いま、日本には人口規模200人の村から、350万人の横浜市まで実にさまざまな自治体がありますが、この枠組みは昭和30年前後に実施された「昭和の大合併」によって決められたものとほとんど変わっていません。しかし、当時と比べて、いまやモータリゼーションやインターネットなどによって時間的距離、空間的距離の感覚が大きく変わり、住民の活動域も市町村境界を越えて拡大し、市町村の行うべき事務も飛躍的に増加しています。また、近年では、まちづくりや観光資源、環境など、市町村単位ではなく広域で取り組まなければ解決できない問題も増えていますし、財政問題も深刻です。さらに地方分権一括法の施行で、市町村は非常に大きな権限を持つようになる一方で、その責任も負わなければならない時代となりました。こうした状況を考えると、半世紀も前に設定された市町村の境界や体制ではこれからの時代を乗り切ることは困難といわざるをえません。そこで、もう一度自分たちの規模や体制を見直し、今後あるべき姿を考えてみようというのが「平成の大合併」の趣旨です。
◆そのきっかけとして、介護保険制度が深く関わっているのではないかと感じているのですが。
篠原 
おっしゃる通り、平成の大合併は福祉問題がひとつの大きな柱になると考えています。なかでも介護保険をはじめとする高齢者福祉の問題ですね。日本の人口は平成18年をピークとして年々減少していきます。これは見方を変えれば、税を負担する人が減って、逆に使う人が増えてくることにほかなりません。もちろん介護保険制度は、現行の地方行政の体制でも十分対応できるようなものとなっていますが、今後、さらに高齢化が進み、みんながより高いサービスを求めるようになると、このままの体制でいけるかどうか…。早くも来年から保険料を値上げするという話が出ているほどですからね。そのためにも地方の行財政能力を高め、足腰の強い市町村へと生まれ変わる必要があるのではないでしょうか。

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7割の市町村が合併検討を開始

◆ところで、総務省では定期的に市町村における合併協議会等の設置状況を調査されていますが、現状はどうなっているのでしょうか。
篠原 
 今年4月1日時点の調査結果によれば、現在、2226団体が合併協議会や研究会を設けており、全国で7割の市町村が合併に向けた検討を始めています。昨年の今頃は800団体ほどでしたが、ここ1年で急激に増えました。また、前回調査(13年12月末日)に比べて、法定協議会とこれに準ずる任意協議会の数も倍増しており、今後、この任意協議会が法定協議会へと進化し、全国各地で具体的な合併計画が浮上してくるだろうと期待しています。以前から申し上げてきたことですが、合併特例法の期限は延長しない方針です。こうした調査結果を見ると、残り3年を切ったいま、いよいよ議論を始めないと間に合わなくなるということが理解してもらえたかな…と考えています。ただ、検討にあたって重要なのは、今後の地域社会を展望し、自分たちのまちをどのようにしていくのかを考えることでしょう。合併は単に市町村の枠を取り払うものではなく、21世紀の新しいまちづくりに向けた手段です。議論をした結果、合併した方がいいというのであれば、ぜひその考えを推進していただきたいと思います。
◆中山間地域や離島などでは、「うちは合併できない」など消極的な意見も聞かれますが。
篠原 
 その場合でも、最初から合併は無理だと決めてかかるのではなく、まずは議論を始めていただきたいですね。
◆そうした市町村合併の機運が高まる一方で、逆に、大きすぎるところは「適正な規模に分割した方がいい」というような議論はないのでしょうか。
篠原 
 そのような意見もありますが、それも地域が決めることであり、いまの合併特例法の下ではいかなる場合も国が合併や分割を強要することはありません。いまのところ大都市が分割を検討しているという話は聞いていませんが、山梨県上九一色村では合併する際に分村しようという動きもあるようです。

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合併の“主役”は住民だ

◆これを機に、これからのまちづくりをきちんと考えようということですね。
篠原 
そうですね。くれぐれも忘れないでいただきたいのは、合併の「主役」は住民だということです。住民に十分説明をしないまま行った合併では、合併後の運営に対して住民の理解と協力がなかなか得られないでしょう。地域はそこで生活している人々によって支えられているのであり、当然、地域の将来像を考えるにあたっても住民に参加してもらいオープンな議論を行う必要があります。行政の考えに賛成の住民がいれば、反対の住民もいると思いますが、いろいろな意見を聞きながら今後のまちづくりを考えていくことが大切なのではないでしょうか。そのためには住民がきちんと判断できるだけの、行政からの十分な情報提供が欠かせませんね。
◆ところで、金融機関の合併でシステム障害による混乱が生じたことが、いまだ記憶に新しいところですが、市町村合併の場合も情報システムが住民の生活へ密接に関わるだけに十分な配慮が必要と思われます。この点については、どのようにお考えなのでしょうか。
篠原 
昨年8月に、総務省の市町村合併法定協議会運営マニュアル研究会が『合併協議会の運営の手引―市町村合併法定協議会運営マニュアル』をまとめました。これは先進事例などを参考に協議会の設置から合併の実現までの具体的な手順を示したものですが、そのなかで合併に関する重要課題のひとつとして「電算システムの統合」をあげています。住民サービスの維持・向上のためには、円滑な情報システムの統一が不可欠ですが、合併する市町村数が多いほど、この調整作業が大変で、また時間もかかります。どこのシステムに統合するのかという問題に加えて、例えば、4月1日に合併する場合には1月1日が固定資産税の賦課期日になるといったスケジュールも厳しく想定しなければなりません。このため十分に論議する時間が必要なのですが、現実には合併が議決された後でなければ本格的な作業の着手が困難なため、みなさんかなり苦労されているようですね。
◆昨年4月、茨城県潮来町と牛堀町が合併して潮来市となった際に、TKCのシステムで統合していただいたのですが、その経験から申し上げて、最低でも10か月程度は準備期間が必要ではないかと感じています。
篠原 
潮来市からも「システム統合にかける時間がもっとあればよかった」と聞いています。ほかの事例を見ても半年が標準で、1年あれば恵まれているようですね。この点については、合併協議会の下にぜひ電算システム分科会を設置して「限られた期間でどう統合するか」、あるいは「緊急度や重要度に応じて時期を数回に分ける」など、いろいろなやり方を検討していただきたいと思います。

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まずは全市町村でまちづくりの議論を

◆いま最も力を入れておられること、あるいは今後の展望などについて教えてください。
篠原 
平成11年と13年の指針を踏まえて、今年3月に3度目の指針『市町村合併の協議の進展を踏まえた今後の取組』を公表しました。そのなかで、〈速やかに平成14年度末までに法定の合併協議会の設置を期待〉と、すべての市町村においての検討をお願いしています。ただ、合併協議会は合併するかどうかも含めて、合併についてのあらゆることを論じることができる場です。まずはすべての自治体で法定協議会を立ち上げ、“議論を始める”というスタートラインに立っていただくことが当面の目標ですね。そのようにして市町村の自治能力が高まり、機能が充実してくれば、当然、都道府県の役割も変わっていくでしょう。都道府県は、これまで小さな町村、弱い町村の後見的な役割も果たしてきましたが、今後は広域的な仕事に特化していくようになる可能性もあります。すでに青森・岩手・秋田の各県が道州制も視野に入れた検討を始め、また中国、四国、九州など再編に向けた考えを明らかにする知事さんが登場しています。合併か、連合か、連邦制なのか道州制なのかは分かりませんが、将来的には都道府県も再編されるでしょう。つまり地方制度の在り方自体が大きく変わろうとしているのです。その点で、市町村合併は、いま日本が取り組もうとしている構造改革達成の“橋頭堡”に位置づけられるといえるのではないでしょうか。
◆市町村にとっては、この1年が正念場といえますね。
篠原 
 そうですね。合併するにしろ、しないにしろ、地域の将来や住民の生活にかかわる大きな問題です。住民と行政が問題意識を共有し、自分たちのまちをどうするのか、市町村合併の是非も含めて、早急な議論を始めていただきたいと思います。



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