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特集タイトル


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総務省自治行政局地域情報政策室
地域情報化係長 高島 史郎
奈良県水道局、自治省消防庁消防研究所、国土庁地方振興局特別地域振興課などを経て、平成13年4月より現職。

総務省自治行政局地域情報政策室
課長補佐 宮原則幸
自治省大臣官房情報管理室主幹、地方公務員災害補償基金訟務課次長などを経て、平成13年10月より現職。



市町村の事務や住民サービスを、その根本からがらりと変える可能性を秘めた「総合行政ネットワーク(LGWAN)」がいよいよ稼働する。だが、その将来像は意外と理解されていない。その先には、どんな世界が広がっているのか…。総務省の宮原則幸課長補佐と高島史郎係長にLGWANの世界を聞く。



◆電子政府・電子自治体の基盤となる総合行政ネットワーク(LGWAN)が、いよいよ動き出します。今後、行政の事務の電子化や手続のオンライン化が急速に進むと思われますが、その実態はまだきちんと理解されていないようです。そこで、改めてLGWANについてご説明いただけませんか。
宮原 
LGWANとは、Local Government Wide Area Networkの略で、地方公共団体を相互に接続する「行政専用ネットワーク」のことです。都道府県や市町村の組織内ネットワークを接続して、地方公共団体相互のコミュニケーションの円滑化や情報の共有化を図るほか、国や住民などとの間の情報交換手段にも活用します。『e―Japan重点計画(平成13年3月29日/IT戦略本部決定)』において、〈13年度までに都道府県・政令指定都市、15年度までにすべての市町村における接続を要請する〉ことが決定され、これまでに都道府県と政令指定都市を含め85団体が接続を終えました。この活用によって得られるメリットは、(1)電子化されたデータの共有や連携により「行政事務の効率化・迅速化」が可能、(2)個別業務にとらわれない柔軟で汎用的な情報通信ネットワークを“共通仕様”の下に構築することで、地方公共団体におけるシステムへの「重複投資を避ける」、(3)日常生活に欠かせない行政情報の提供や申請・届出等の手続きの電子化、これまで国と地方が個別に提供してきたサービスの一体化などにより、「住民サービスの向上」を図ることができる――の3点が挙げられます。特に住民サービスについては、インターネットのアクセスポイントを設置して、住民や企業からの「申請手続」などがLGWANを通じて市町村の関係窓口へ届く仕組みを整備する計画です。

すでに八五団体が接続済み

◆LGWANを使って、地方公共団体ではどのようなことを行うのでしょうか。
宮原 
基本的には、電子メールや電子文書交換、情報掲示板など地方公共団体における情報の収集・交換・提供に関するサービスが行えます。「電子メール」については、今年4月に各府省を結ぶ『霞が関WAN』と接続し、国と地方との間で相互にメール交換が開始されたところです。LGWANを使った電子メールは、行政の閉じられたネットワークの中でやりとりされるため、インターネットとはセキュリティ面で大きな違いがあり、安心して情報の交換ができるようになります。また「電子文書交換」については、紙ベースの公文書のやりとりをネットワークに置き換えるもので、公印のかわりに電子署名を使い、文書を暗号化して送受信します。この電子文書交換については、今年7月から国の各府省との間で運用をスタートする予定です。また、このほかにも現在ASP(Application Service Provider)サービスの提供を考えています。ASPとは、ネットワークを通じてアプリケーションを提供する事業者のことをいいます。品質やサービスレベルの高いアプリケーションをASPで提供することによって、自治体間のIT格差を解消し、独自に構築するよりも安いコストでシステムを導入・運営することが可能となるわけです。また提供するアプリケーションとしては、「フロントオフィス」と「バックオフィス」の2つの業務分野を考えています。いずれも聞き慣れない言葉だと思いますが、フロントオフィスとは〈顧客(住民)に関わる部門と、それを間接的に支える部門〉で、例えば、電子申請受付、電子入札・調達や情報公開等の業務が考えられます。一方のバックオフィスとは〈行政組織内部の業務を担う部門〉のことを指し、例えば、財務会計、人事給与や文書管理等の業務が考えられます。なお、ASPによる業務の共同化・アウトソーシングの推進については、5月13日に開催された経済財政諮問会議において〈フロントオフィス業務については15年度中、バックオフィス業務については17年度中の実現を目指す〉ことを公表したところです。
◆先日、民間企業へLGWANを開放するという記事が掲載されましたが。
宮原 
残念ながら、あの記事は誤解です。総務省としては、民間のASP事業者にもLGWANへ参加していただき、いろいろなサービスを地方公共団体に対して提供して欲しいと考えていますが、LGWANはあくまでも行政専用ネットワークであり、民間企業へ開放するということはありません。

新たなる住民サービスの基盤

◆LGWANは住民から直接見えるものではありませんが、その生活には密接に関わってくるものなんですね。
高島 
そうですね。LGWANは新たな住民サービスの基盤になるといえるでしょう。例えば、住民が住民票の交付申請を行う場合、これまでは役場へ直接出向かなければなりませんでした。すでに一部の市町村では、インターネットを使った電子申請や電子入札・調達、情報公開なども始まっていますが、今後、行政手続のオンライン化のための法制度が整備されることで、住民がインターネットを通じて自宅や職場などから24時間・365日、いつでもどこでも申請や交付を行うことが可能となります。
◆その点では、今春、実証実験も行われました。
高島 
 はい。これは13年度から3か年計画で予定している『電子自治体推進パイロット事業』の一環として実証実験を行ったものです。全国の8市町村(深川市、葛尾村、浦安市、横須賀市、藤沢市、小田原市、大垣市、岡山市)と、各地が募集した住民・企業等のご協力をいただいて、住民票の写しの申請や公共施設の予約などを行い、実装技術や運用性、セキュリティほかの検証を行いました。詳細については、13年度実証実験の報告書および『汎用受付システムの基本仕様』『汎用受付システム調達の参考資料』などを公表していますので、そちらをご覧いただきたいと思います。この実験から、LGWANの活用によって、これまで住民や企業が負担してきた費用が大幅に削減されることが判りました。試算では、8団体合計で1年につき約45億円という結果が出ています。また、アクセス状況を見ると、平日の午前中に集中した一方、夜間(19〜24時)にも一定の利用ニーズがあることが明らかになりました。今後の計画としては、14年度に「公的個人認証サービスと地方公共団体の組織認証基盤」「マルチペイメントネットワークを使った決済基盤」との連携検証および汎用受付システムと密接にかかわるシステムの連携検証、また15年度については、引き続き汎用受付システムと密接にかかわるシステムとの連携の検証を予定しています。これらが実現すれば各府省と地方自治体との間に太いパイプが整備されることとなり、これまでの“縦割り”が解消され“横連携”の行政サービスが期待できるのではないでしょうか。

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◆なるほど。その結果から、市町村がLGWANへ参画していく上で参考となる例などはありませんか。
宮原 
残念ながら、今回の実験は汎用受付システムの仕様策定を目的としており、まだLGWANの実践例として参考となるものはありません。ただ、実験に参加した先進的な団体では、LGWANを使って早い段階からフロントオフィス・サービスを提供することになるでしょうから、そうした動きにはぜひ注目していただきたいと思います。

何をするかは使う側が決めること

◆ところで、回線についてはブロードバンド時代を考慮した準備が必要ですか。
宮原 
それについては何を目的として使うのかによりますね。例えば地図情報をやりとりするのであれば、初めから高速回線を整備するのが理想です。とはいえ、そのためにはより多くのコストがかかりますので、地域の実状に応じて各々判断していただくことになるでしょう。
◆将来性と財政的な負担をどう考えるかですね。
宮原 
LGWANの接続にあたっては、回線整備に加えて、いろいろな機器の導入に費用がかかりますが、15年度まではこの8割を特別交付税で措置することとしています。これを過ぎれば財政措置はありませんので、自前で整備していただくことになります。LGWANは、住民基本台帳ネットワークのように法律的な接続義務はありません。しかし、電子政府・電子自治体の実現の鍵を握る重要なインフラであり、現在、30ほどの都道府県が県下の市町村を『情報ハイウェイ』でつないで一気にLGWANと接続する計画があると聞いています。市町村としても「15年度中にやればいい」とのんびり構えず、できるだけ前倒しで作業を進めていただきたいですね。先延ばしにすれば、それだけ準備にかかる労力や費用が一時に集中して大変な思いをするわけですし、民間企業では「変化への対応が遅ければ淘汰される」といわれるいま、行政がぐずぐずしていると地域の競争力をそいでしまうことにもなりかねません。
◆市町村としては、そうしたことも念頭に置きつつ、取り組みを進めなければならないということですね。
宮原 
そうですね。ただ、LGWANはあくまでも手段であり、目的ではありません。行政事務の電子化や手続きのオンライン化などは、LGWANで実現できるほんの一部分であり、これを使って何をするかは市町村自身が決めることかと思います。いずれLGWANを通じて他の市町村や住民と接する機会が増えれば、地域社会におけるまったく新しい活用法も生まれてくるでしょう。また、地域経済の活性化の点でも、地元のIT関連企業にとってビジネスチャンスとなります。そのためにも、できるだけ早くこの新しいインフラ整備に取り組んでもらうことが重要だと考えています。


電子自治体推進パイロット事業
平成13年度実証実験報告書から

 電子自治体推進パイロット事業は、地方公共団体が扱ういろいろな申請・届出などに対応する「汎用受付システム」の基本仕様を策定し、複数団体による広域的なシステム整備の可能性を検討するために3年間かけて実施されるもの。
 平成13年度の実証実験においては、ASPを利用して各種業務の運用方法などの検証が行われた。実験に参加したのは、北海道深川市・福島県葛尾村・千葉県浦安市・神奈川県横須賀市・神奈川県藤沢市・神奈川県小田原市・岐阜県大垣市・岡山県岡山市の8団体および住民、企業など。対象業務となったのは、電子申請が住民票の写し交付申請など13業務・27申請、情報提供がアンケートなど4業務、施設予約が保養所抽選予約など4業務。
 これからLGWANへ接続する市町村にとって、この結果は大いに気になるところだろう。

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 実験結果によれば、役所へ出向いて交付申請を行う場合と比較して住民の費用削減効果は8団体合計で年間45億円となった。この試算でいくと人口10万人の市における費用削減効果は約2億円になるという。一方、行政における経費削減効果については、実験に参加した職員からの意見は分散した結果となったが、そのなかでも情報化担当課からの意見の半数以上が経費削減効果を期待しているものであった。また、「タッチパネルの採用」「システムの操作性」「携帯電話からの利用」などの具体的な要望・意見が多いことを見ると、汎用受付システムへの期待感は高いといえそうだ。
 また業務については、「従来業務との並行処理で事務負担が増えた」「庁内の決裁フローや内部システムとの連携」などの指摘が目立つ。これらの課題について、報告書は「事務の効率化の観点から既存システムとの連携も考慮し業務フローを見直すことも重要」とし、またセキュリティ管理についても「セキュリティポリシーの策定」が今後の課題と述べている。


※本報告書は、財団法人地方自治情報センター(http://www.lasdec.nippon-net.ne.jp/)からダウンロードすることができます。



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