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特集タイトル


たかはし・かつのり
1957(昭和32)年生まれ。明治大学法学部卒。参議院議員秘書を経て、96年栃木県議に。98年8月より現職。



既成概念を根底から覆し、独自の見地から21世紀のまちづくりを進める高根沢町。目指すのは、住民と行政が価値観を共有する新たな関係の構築だ。そのために自分たちの手で「行政評価」も創り上げた。強烈なリーダーシップを発揮し、住民や地元大学も巻き込んで大改革へ挑む、高橋克法町長に話を聞く。



始まった住民とのコラボレーション

◆高根沢町では今年夏、すべての事務事業を対象とする「行政評価システム」を導入されました。その内容については、町のホームページ上で広く公開されていますが、トップダウンで検討を始められてから導入に至るまでには、いろいろ試行錯誤があったとうかがっています。改めて、行政評価に取り組まれた狙いなどについて教えてください。
高橋 
高根沢町は、昔から災害が少なく関東の穀倉地帯として発展してきました。いまでも農業は主要産業のひとつですが、近年ではキリンビールや本田技研工業などが進出し、またIT産業などを中心に研究開発型企業の立地・集積を進めるソフトリサーチパーク『情報の森とちぎ』も整備されるなど、豊かな自然や農業と最先端技術が共存するまちとなっています。こうしたなか、高根沢町では環境を守る「循環型のまちづくり」と、21世紀にふさわしい新たな「行政と住民の関係」の構築に取り組んでいます。正直いって、いま住民は行政のことを信頼していませんよね。すべてがそうだとはいいませんが、この不幸な関係を改めて新たな信頼関係を築くために、行政の仕組みを住民の視点から再定義していく必要があると考えています。
◆なるほど。高根沢町における新たな行政モデルの創造ですね。
高橋 
ええ。窓口業務を例にあげると、役所は住民に対して迅速で正確な対応が求められますが、極端なことを申し上げれば“ヒト・モノ・カネ”を投入すればサービスは格段に向上します。しかし、我われは、その一方でコスト削減も課せられています。この相反する課題を解決するためには新たな仕組みが必要です。そこで最初に取り組んだのが、品質保証の国際規格ISO9001の認証取得でした。これは「行政はサービス業である」という理念の下、住民へより高いレベルで均一なサービスを提供するため行政の仕組みを継続的に改善させるものです。昨年11月に高根沢町全庁において、〈行政サービスの企画および提供〉を対象に認証を受けました。そしてコスト削減を解決するために取り組んだのが、行政評価です。私は「行政評価とは、住民が自分たちの税金がきちんと使われているかどうかを測るための“ものさし”を作る作業」と考えています。これによって行政と住民が知識や感覚、価値観を共有することも不可能ではありません。その究極の目標は、納税者にサービスの価値に見合った税金を納得して払っていただくことです。
◆仕組みの再定義という点では、行政サービスの企画・提案の仕組みも見直そうとされているそうですが。
高橋 
例えば、保育園の遊具が古くなり、保育園長から改修のための予算要求が出されたのですが、こうした場合、これまでは役所がベストと考えるものを選び、それを整備してきたわけです。従来の行政の“常識”では、これが当たり前で、住民にも喜ばれていると考えられていました。しかし、実際には役所がよかれと思って提供しても、それが必ずしも町民のニーズに合っていたわけではありません。サービス創造の起点は、住民に置くべきです。そこで園長に指示をして、保護者による遊具の検討委員会を立ち上げてもらい、子どもたちにとって本当にいいものを検討していただきました。つまり行政のお仕着せではなく、住民自身に汗を流してもらったわけです。その結果まとめられた提案書には、子どもたちの未来へ自然を残すためにも「県産の間伐材を使った遊具」を作ってほしいというもので、また、「最後の仕上げは子どもたちと保護者でペンキを塗り、毎年これを続けたい」という提案も出されました。
◆行政が意識を変えたことで、住民側の「自分たちも環境保全や公共資産のメンテナンスへ参画していこう」という意識改革につながったわけですね。
高橋 
 最初、保護者たちは「検討委員会といっても行政のポーズではないか」と不安だったそうです。これまで住民が発想・企画し、行政がそれを受け止めて実践するという関係は皆無でしたからね。従来のように、例えば500万円の予算で行政が遊具を整備したら、そこで子どもたちが楽しんで終わりですが、やり方を少し工夫すれば500万円が2倍にも3倍にも見合う価値を生む。こうした参画意識の高まりは、今後のまちづくりにおいて大きな力となるでしょうね。

地元大学も巻き込んだものさしづくり

◆いまだ確立した理論がないなかで、独自に行政評価を策定するのは大変なご苦労だったでしょう。
高橋 
確かに行政評価には標準モデルといえるものがありません。三重県の事務事業評価システムは大変素晴らしいが、我われには複雑過ぎました。そこで、外部コンサルタントに高根沢町に合うものを提案してもらい、14年度予算策定で試行したのですが、残念ながら職員の意識が高まっていなかったため思ったほどの成果を得ることができませんでした。ただ、そこで自分たちの問題点が明確となった。これは高根沢町に限ったことではないと思いますが、行政評価を導入して職員の意識改革を図るのではなく、その前から雰囲気を盛り上げておく必要があったわけですね。そこで、外部コンサルタントに依頼して成果品を得るのではなく、庁内で係長以下の若手職員によるタスクフォースを組織して、職員の意識を高めながら行政評価を創り上げようと考えました。こうして完成したのが『高根沢町行政評価システム』です。
◆読者にとっては、失敗をどう乗り越えたのかが一番貴重な情報です。自ら汗をかくという点では、先ほどの遊具の話と共通していますね。
高橋 
はい。実際の研究には宇都宮大学に協力していただきました。やはり内部の人間だけでは客観性の問題がありますからね。その点、大学の先生であれば、第三者の立場から評価の客観性を担保できるのではないかと考えたのです。こうしたテーマで、行政と地元大学が共同研究する事例は珍しいようですね。これが可能だったのは、やはり時代環境の変化によるところが大きい。大学としても地域における存在価値を示すことができ、また社会的な要請である行政評価に関する研究成果も蓄積されます。一方、町としても「少ない費用で大きな効果」が期待できる。つまりお互いのニーズが合致したというわけです。従来の行政の“常識”にとらわれなければ、いろいろな道が開けるということでしょう。
◆それにしてもユニークな発想が次々と飛び出すことに驚かされます。常に問題意識を持っておられるから、そうしたアイデアが湧いてくるのでしょうね。
高橋 
高根沢町の行政評価システムは、主要施策と事務事業を対象に評価を行いますが、主要施策の評価については暫定で、本格的なものは18年度に策定する次期基本計画から実施します。その間で、システム全体の完成度を高めていく方針です。この共同研究で、実効性を担保しながら判りやすい行政評価を創り上げることができれば、標準モデルとしてほかの団体でも活用できるかもしれません。その場合、ビジネスモデルの特許申請をして、その使用料収入で町も潤う…など、夢は無限に膨らんでいきますよね(笑)。

行政の“質”は住民が評価する

◆これから行政評価へ取り組む市町村へ、アドバイスをいただけませんか。
高橋 
まず行政評価の前段として、情報公開の体制を整える必要があります。高根沢町では平成10年4月に情報公開条例を定めました。ちなみに情報公開に関するオンブズマン評価は、94点と仙台市などと並んで日本一です。また、行政評価は住民が理解しやすい内容でなければなりませんね。理想をいえば、指標は多い方が望ましいが、これと比例して内容も複雑となります。評価の実効性はきちんと担保されるべきですが、行政内部における運用が目的となってはなりません。重要なのは、評価結果を公開して、実際の事務事業の内容やその成果、我われの取り組みに対する努力や熱意を理解してもらうこと。住民が理解できない行政評価では、いくら指標が充実していても完璧なものとはいえません。
◆一生懸命に取り組むあまり、かえって本来の目的が見えなくなることは往々にして起こりうることです。また、地域特性の違いを考えると、先進事例に倣うことが必ずしも得策とは限りません。こうして見ると、まずは現状を認識し、最も自分のまちに合う形を時間をかけて見つけることがポイントといえますね。
高橋 
そうです。最初から100点満点でなくてもいい。行政評価の仕組みや指標も、住民のニーズや時代環境の変化によって常に見直されるべきものなのですから。この点、高根沢町の行政評価は満点ではないかもしれないが、住民に分かりやすくなっていると思いますよ。
◆なるほど。高橋町長のいろいろな試みも行政評価でひと段落ですか。
高橋 
行政評価の次は人事評価に取り組みます。本格的には来年以降の話となりますが、試行的に今年から係長と課長補佐の昇任試験を導入します。これは県内でも初めての取り組みです。試験の中身は知識詰め込み型のものではなく、例えば、事例を与えて「これをどう解決するのか考える」というものにする必要がありますね。この人事制度と行政評価は、もちろん連動させます。
◆民間企業と同じような業績連動型の人事戦略をとられるわけですね。
高橋 
新たな行政と住民の関係を構築し、これを定着させていくには、大きなパワーが必要ですからね。ただ、そのためには前提となる基準がなければ客観性を担保できませんし、職員たちも納得できない。これまでの行政の常識や仕組みは、一朝一夕で変えられるものではありません。高根沢町の場合も、最初に情報公開へ取り組み、次いで昨年2月にバランスシートを導入し、ISO9001、行政評価と整備を進めてきました。まどろっこしくとも一歩一歩進むしかない。だが、それができなければ、その地方自治体は淘汰されるでしょうね。
◆それらの成果については、2、3年後に再びインタビューさせていただかないといけませんね。
高橋 
さて、どうなっているか。乞うご期待というところですね(笑)。


高根沢町
DATA
住所 栃木県塩谷郡高根沢町大字石末2053番地
電話 028−675−8100
面積 70.9平方キロメートル
人口 3万330人(H14.8.1現在)
URL http://www.town.takanezawa.tochigi.jp/



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高根沢町 行政評価システム

 高根沢町は今年7月、まちが行うすべての事務事業および主要施策を対象とした「行政評価システム」を導入した。これは宇都宮大学との共同研究でまとめられたもので、経済性および成果の両面から評価するため財務情報と連動させているのが特徴だ。システム化にあたってはTKCも協力させていただいた。
 具体的な評価方法については、主要施策では指標目標を使用して県内市町村と比較するベンチマーク方式を採用し、また事務事業は事務事業調書で実施する。また、評価結果はホームページ上で閲覧できるようにし、住民から寄せられる意見を予算編成へ反映させる方針だ。
 この行政評価システムの詳細な内容は、ホームページ(http://www.town.takanezawa.tochigi.jp/)上で『高根沢町行政評価システム運用マニュアル』として公表している。多少ボリュームはあるが、他団体と比較した現在のまちの姿やバランスシートとの関係にまで触れるなど、実に詳細な説明書となっているので、ぜひ参考としていただきたい。



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