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1969(昭和44)年、東京大学教育学部教育行政学科卒。同年、行政管理庁(現総務省)入庁。行政管理局などを経て92年退職後、現職。高度情報通信社会推進本部委員、住民基本台帳ネットワークシステム大臣懇談会委員等を歴任。現在、財団法人地方自治情報センター・市町村合併に伴う情報システムの在り方に関する調査研究会の座長を務める。



『新風』7月号で、総務省に市町村合併の動向や基本的考え方などについてお話しをうかがったところ、合併の重要課題として情報システムの問題が指摘された。市町村合併に伴うシステムの統合・再構築はいかにあるべきか…。現在、市町村とともに同テーマを研究している明星大学の大橋有弘教授に聞く。



◆財団法人地方自治情報センターでは、14年度研究開発テーマとして「市町村合併に伴う情報システムの在り方に関する調査研究」に取り組んでいます。大橋先生はこの座長とうかがいましたが、活動の目的などを教えてください。
大橋 
現在、地方公共団体を取り巻く情勢が大きく変化するなか、住民サービスの向上や行政の高度化・効率化を図るため、全国各地において市町村合併が検討されています。そうした合併に伴う諸問題のなかで最も重要な位置づけにあるのが〈情報システムの統合・再構築〉です。そこで研究会では、システムの統合・再構築の手法を調査分析するとともに、技術的および運用面での課題について検討を行っています。メンバーは実際に合併を経験した団体が中心で、メンバーの経験談やその他の市町村に対するヒヤリング調査の結果をもとに問題点を整理し、年内にも中間報告をまとめる方針です。
◆総務省の調査では、現在、8割の市町村が合併協議会・研究会に参加しており、そうした市町村にとって一番知りたいのは実際に合併を行ったところの話です。報告書の完成が待ち遠しいですね。
大橋 
先に言い訳をすると、すべての市町村に共通して「情報システムの統合・再構築はこうあるべき」というマニュアルやガイドラインを作成することは不可能です。それぞれのケースによって規模や合併にいたった経緯が異なり、これらを理論的にまとめることはできませんからね。しかも、最後のところは本当に泥臭い世界です。ただ、基本的な考え方や方向性を整理することで、これから合併をする団体が「どんな点に留意して準備を進めればいいのか」ヒントを提示することはできるだろうと考えています。

軽視されがちのシステム統合・再構築

◆その中間報告を先取りすることになりますが、合併に伴うシステムの統合・再構築の現状をどう考えていますか。
大橋 
システムの「統合」、「再構築」に際して、まず、みなさんに理解していただきたいのは、単に技術的にコンピュータとコンピュータをつないだり、どこかのシステムへ乗り換えれば済むというほど単純なものではないということです。例えば、市町村の業務はそれぞれ法的根拠の範囲で行われており、本来、同じ業務については同じ処理が行われているはずです。だが、実際には3200通りの“似て非なる”システムが存在している。いまでこそ汎用アプリケーションが意識されるようになりましたが、この考え方は20年前からあったにも関わらず、これまで多くの市町村が、独自仕様のものを創り上げてきました。その結果、システムの整合性をとることが極めて困難な状態となってしまったわけです。しかも、そうしたシステムが個別業務ごとにある…。また、システムの統合・再構築の問題は、合併後の事務処理や組織運営などとも密接に関わるため、従来業務の整理統合や条例・規則などの見直しと並行して考える必要がありますが、これがまた市町村ごとに微妙に異なる…。市町村合併とは、これらを無理矢理ひとつの“器”に納めようというものなのです。
◆そもそも違う文化を持つ組織同士が一緒になるわけで、場合によっては、長年築き上げてきたソフト資産を放棄するぐらいの意識改革も必要ですね。
大橋 
ええ。その点では、みずほ銀行で起こったシステム障害が記憶に新しいところですが、市町村合併に伴う情報システムの統合・再構築は、それ以上に大変だと覚悟した方がいいでしょうね。銀行のオンラインシステムは仕掛けは大がかりですが、処理をする事務の種類は市町村の方がはるかに多い。整合性の問題を考えれば、すべてのシステムを作り直すのが理想ですが、実際には時間や費用の制約があってなかなか難しい。そうなると残された選択肢は〈どこかひとつの団体のシステムへ統一する〉〈業務別またはアプリケーション別にシステムを選択する〉のいずれかですが、それぞれにメリット・デメリットがあります。
◆具体的にどんなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
大橋 
前者の場合、大幅なシステム変更はありませんが、従来、ほかのシステムを使っていた市町村の職員にとっては負担が大きく、簡単には受け入れ難いでしょう。一方、後者の場合は大きな業務単位、あるいはアプリケーション単位ごとにシステムを選択するという方法で、実際の合併事例ではこのパターンが一番多いようです。この場合、個別にいいものを選択できる自由度がある反面、それらのシステムを連携させる仕組みづくりが欠かせません。どの方法を選ぶかによって作業量や費用、期間などは異なりますが、それぞれの特徴を理解して新しい体制に最も適した方法を選ぶことが肝要です。

マネジメント力が成否を左右する

◆それだけ重要な課題であるにも関わらず、具体的な作業に充てられる時間は6か月程度というのが実状です。
大橋 
これから合併協議をするところでは、できるだけ早い段階から準備をすることが望まれます。合併協定項目の決定や合併協定調印式が完了するまでは実質的な作業がスタートできないという事情はありますが、(1)システム移行計画の策定、(2)システム開発・改修作業、(3)データ移行作業、(4)ネットワーク整備、(5)パソコン配置、(6)研修、といった一連の作業を半年でこなそうとすると、どこかに無理が生じる。これを回避するためには〈キーパソンとなる責任者と意志決定の方法〉を明確にし、各市町村が歩調を合わせて正式なGOサインが出る前でも〈現況調査などできることはどんどん実施しておくこと〉が大切です。それだけでも後の作業がぐっと楽になるでしょう。また、極端なことをいえば、準備期間は合併時に必要不可欠なシステムの統合・再構築に集中して、残りは合併後に整備する、という二段構えで対応する方法もあります。もちろん、それらのシステムも早い時期に整備を完了しなければなりませんが。
◆なるほど。限られた時間のなかで確実に統合・再構築を行うため、経営資源を集中させるわけですね。
大橋 
はい。また、検討体制においては、(1)システム統合・再構築のプロジェクト・チームには企画調整課や原課の職員も加える、(2)実際のシステム開発・改修に関わるベンダーと情報を共有化し、早い時期から協力体制を確立する―などに留意すべきでしょう。特に統合・再構築するシステムの提供会社が同一であればさほど問題ではないが、多くの場合は複数の提供会社が関連しますからね。これも相当大変なようです。さらにベンダーと協力体制を築くといっても、仕様書づくりやシステム評価は面倒だから「すべてベンダーにお任せ」ではいけません。合併に伴うシステムの統合・再構築を円滑に行うためには、ベンダーに何を任せて、自分たちは何をするのか、役割や責任分担を明確にする必要があります。
◆限られた時間でそれらの難問をいかにうまくこなすか。高度なマネジメント力が求められますね。
大橋 
合併の最終的な成否は、住民にとって、より付加価値の高いサービスを提供できるかどうかにかかっています。そう考えると、システムの統合・再構築の問題は、その場限りの“合併対策”というよりも長期的な視野に立った“ITマネジメント”だといえるかもしれません。みずほ銀行の例でも、システム障害の要因として「経営トップの危機意識の低さ」が指摘されましたが、市町村合併の場合もトップ層がシステムの統合・再構築の重要性や困難さをきちんと理解し、リスクマネジメントの一環ととらえて対策を講じていかなければならないでしょう。


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合併は新たなチャレンジのチャンス

◆合併をきっかけとして、業務の処理手順や方法を抜本的に見直す行政版BPR(Business Process Reengineering)を推進しようという動きもあるようです。
大橋 
合併のひとつの大きな柱はオーバーヘッド部分の重複排除であり、意識するしないに限らずBPRは避けて通れない問題でしょう。とはいえ、必ずしも合併施行日までに組織編成や業務の見直しを完了しなければならないというものではありません。積み残した分は合併後も継続して取り組めばいいと思います。
◆合併は目標ではなく、スタートだということですね。
大橋 
 はい。私は、合併は新しいことに取り組む絶好のチャンスだと思います。例えば、文書管理規定ひとつを見ても、情報公開や個人情報保護の問題などがあって、従来のやり方ではもはや対応できなくなっています。また、総合行政ネットワークによって今後、電子文書が増えることも間違いありません。すでに中央省庁では4分の3が電子文書になったといわれており、合併を機に市町村でも文書管理システムの導入を検討すべきですね。さらに、先ほど新しくすべてのシステムを作り直すことが最も簡単な方法だと述べましたが、これに近い考え方として、ASP(Application Service Provider)やアウトソーシングの活用があります。まだイメージ先行の感もありますが、こうしたものを採り入れるのもひとつの方法ではないでしょうか。
◆住民サービスの向上や行財政改革といった合併の本来目的に沿って、将来を見据えて、新しいまちにふさわしいシステムの在り方を十分に検討すべしというわけですね。
大橋 
 電子自治体も市町村合併も広域化による効率性、行政サービスの向上を目指すことに変わりはありません。電子自治体と市町村合併は、いわば車の両輪です。これまでは東京近郊の同じような規模の市町村同士の合併がほとんどでしたが、今後は地方都市において、中核都市とその周りの小さい市や町村が一緒になるというケースが増えていきます。この時、住民サービスに地域格差が生じたり、住民の利便性が悪くなることは、決して許されるものではありません。山間部や中心地から離れている地域でも、インターネットによる各種申請・届出や郵便局等で住民票を発行できるようにするなど、きめ細かな環境整備を行い、サービスの維持向上をはかることは十分可能でしょう。平成15五年を目標として進められてきた電子政府の整備はほぼ完了し、重点は市町村の電子化に移っています。これまで住民基本台帳ネットワークや総合行政ネットワーク、申請・届出など手続きの電子化は国の主導で進められてきましたが、今後は市町村が自らの意志と判断で「eコミュニティー」「eデモクラシー」など住民を起点とした電子化を展開していかなければなりません。合併は過去のいい点を受け継ぐ改革であると同時に、未来への発展のステップです。合併によって新たに生まれた自治体が、これからどう変わっていくのか、学者としても興味がつきませんね。



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