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宮城大学教授・公認会計士 天明 茂
実践!成果重視の行政経営
企業会計手法導入のノウハウ
てんみょう・しげる
1942(昭和17)年生まれ。明治学院大学卒業後、中堅・中小企業約150社の経営コンサルティングに従事。公認会計士。現、宮城大学事業構想学部教授。主な著書に『自治体のバランスシートーー公会計に企業会計手法を導入するノウハウ』『利益計画・資金計画の立て方』『実践経営分析』など。


 膨張する国と地方の借金、頻発する政治家や行政官の不正を背景に、税金の使い方に対する住民の関心が高まっており、地方自治体はこれまで以上に経営の透明性やその成果が問われるようになった。しかし、これまでの自治体の羅針盤である歳入歳出決算書は現金主義、単年度主義、どんぶり勘定で財政状況の実態を示し得ない。
 そこで総務省は平成12年に「貸借対照表」、13年には「行政コスト計算書」のガイドラインを発表した。最近はこの2表に加えて、歳入歳出決算書の様式を組み替えた「キャッシュフロー計算書」の3表をもって、財務情報の体系とするのがスタンダードになりつつある。
 さて、本稿ではこの3表を中心に、企業会計手法の導入の着眼や活用法を述べる。

貸借対照表で財政状況を把握する

 公会計と企業会計の違いは多岐にわたるが、単式簿記ゆえの「ストック情報」の欠如と、現金主義ゆえの「コスト情報」の欠如という2点にあるといって過言ではない。
 まずストック情報であるが、歳入歳出決算書は年間の現金収支というフロー情報であり、自治体が形成してきた資産の額や、抱えている負債との対比により自治体の財政状況を把握することができない。これに対して企業会計の貸借対照表は資産と負債を一覧表示することによって、企業の財政状況をつかむことができる。そこで自治体でも表1のような貸借対照表を作成することが奨励されるようになった。
 自治体には、ストック情報がないとはいえ、現金などの流動資産、投資、基金などの資産や地方債などの負債は正確に把握している。しかし物品等について、自治体の管理の基本は数量管理であり、金額管理が行われていないことが問題である。
 具体的には、有形固定資産のうち最近購入したものについては公有財産台帳に記載されているが、10年以上前に購入したものは取得価額が記載されていないものが多く、また土地台帳は土地の面積は記載されていても取得金額は記載されていない。さらに道路、橋梁、上下水道などのインフラ資産については公有財産台帳に記載されていない。有形固定資産を正確に調べるためには、道路や建物等は過去の施工記録を、また機械や備品については現物を確かめ、過去の購入記録を参照しなければならない。しかし、この作業はかなりの手数を要する。そこで総務省のガイドラインでは、昭和44年以降の決算統計から普通建設事業費を累計する一方で、減価償却分を控除して有形固定資産を把握することにしているのである。
 有形固定資産や貸借対照表を作成するソフトウェアは整備されており、決算統計さえあれば簡単に貸借対照表を作成できるので、まだ作成していない自治体ではぜひ作成してほしい。

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貸借対照表の分析と限界

 作成された貸借対照表を使って、新たな観点から財務分析を行うことができる。ここでは、筆者の手元にある10県の貸借対照表から、主だった比率を計算してみた(表2)。この表から自治体の財政状況を分析してみよう。

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 まず総資産に対する正味資産の割合である「正味資産比率」は企業会計の株主資本に相当するもので、この比率が高いほど財政状況が安全なことを示している。最も高いのは佐賀県の68.7%、最も低いのは兵庫県の36.4%と2倍近い開きがあることが分かる。正味資産比率が低いということは、県の資産形成にあたって負債、すなわち地方債への依存度の高さを示している。
 次に、負債の大半を占める地方債の償還能力を見る指標として「流動比率」が使われる。これは1年以内に現金化される流動資産と、1年以内に支払うべき流動負債を比較したもので、高いほど償還能力があると判断する。すなわち流動資産が多いほど短期的な債務の返済能力があると判断できる。企業では銀行家比率と言って、金融機関が融資する際に最も参考とされた指標で、200%以上あれば優秀、少なくとも130%以上とされる。10県の中では鳥取県が315.2%ともっとも高く、次いで徳島県、静岡県、青森県と続く。これらの県は企業の判断からすれば優秀と評価されよう。他方、愛知県は22.2%と飛び抜けて低い。このことは、財政調整基金や減債基金など債務の返済のために取り崩せる基金や歳計現金が、総資産に対してどれほどあるかを見る「現預金比率」にも表れており、愛知県の0.0%に対して鳥取県は6.8%と高い。
 表2から鳥取県や佐賀県の財政状況は優秀で愛知県、兵庫県が悪いように見える。しかし、人口比で見ると必ずしもそうとは言い切れない。「1人当たり負債額」は鳥取県が90万円であるのに対して愛知県は50万円、兵庫県は70万円である。ところが「1人当たり資産額」では愛知県が80万円、兵庫県が110万円と低いのに比べ、人口の少ない鳥取県は260万円、佐賀県が230万円である。大きな自治体ほど1人当たりで見ると資産形成も少なく負債も少ないことが分かる。
 これらの比率は資産と負債、正味資産に関わるものだけであったが、これに行政コスト計算書のコスト総額や、キャッシュフロー計算書の収支を組み合わせた分析を行うと状況はもっとはっきりする。しかし、行政コスト計算書やキャッシュフロー計算書を公表している自治体が少なく、残念ながら現状では比較が難しい。
 貸借対照表の分析だけでも有効であるが、その限界には注意しておく必要がある。限界の第1は貸借対照表の正味資産についてである。「資産総額―負債総額」で計算される正味資産の中身は国庫支出金等と、当該自治体における剰余金の合計である。このうち国庫支出金等は、固定資産を形成するにあたって国から支出を受けた金額、いわば国から出資してもらった金額である。ところが国はこの資金の多くは国債によって調達したものである。すなわち負債である。にも関わらず、それが地方自治体に支出されると正味資産を形成するという矛盾である。この矛盾は国と地方の連結決算をすれば解決するが、地方の単独貸借対照表では正味資産と表示され、財政状況がいかにも良好なように誤解されるおそれがある点は留意が必要である。
 第2点は有形固定資産である。貸借対照表の有形固定資産は決算統計の普通建設事業費を累計しているので、実在の資産とは食い違うことはすでに述べたが、併せて、その価額は取得時のものであり、時価を表していない。このために実際には含み益や含み損が存在する。
 第3点は普通会計だけでなく公営事業会計を連結しなければ実態が把握できないことである。とりわけ土地開発公社や病院事業は赤字や表面化していない不良債権を抱えているところが少なくない。これらと連結した貸借対照表を用いた分析は欠かせない。

コスト情報を事業の費用対効果に生かす

 さて、コスト情報であるが、現行の公会計では、何年にもわたってその効果が及ぶ建設投資と、人件費、補助費など当該年度の支出を同じ「支出」として扱っている。このため、当該年度のコストが把握できない。すなわち、このコストを効果と対比して費用対効果を把握することができないのである。
 これを具体例でみてみよう。
 いま10億円でプールを建設したとしよう。財源はすべて地方債で、5年間で均等額返済。プールの耐用年数は10年、人件費や電力料などのランニングコストは毎年1億円。計算を簡略化するために地方債の金利は各年度3000万円とする。公会計では、各年度の歳出は表3のように初年度が13.3億円、2年度以降は3.3億円となる。これでは各年度のプール利用料と対比して費用対効果を把握することはできない。
 これに対して企業会計では、プール建設の10億円を、10年間にわたって費用化し、減価償却費1億円をコストとする。また、借入金の返済は資産の減少であってコストとは考えず、金利3000万円だけをコストとして認識する。この結果、コスト合計は各年度とも2.3億円となる。これならプール利用収入と対比することにより費用対効果の判断が可能となる。
 この例で分かるように、コストの把握に企業会計を導入するポイントは減価償却費にある。総務省の行政コスト計算書は、有形固定資産を把握する際に使用した減価償却費を用いて款ごとのコストを把握する。
 しかし行政活動の成果を費用との対比で見ていくには、款ごとの行政コストにとどまらず、項・目・細目に分けてコストを事業ごとに把握することが望ましい。事業ごとのコストがつかめれば費用対効果が明らかになり、行政評価を客観的に行うことができる。また、公共事業に適用することによって公共投資の評価や決定に役立つし、民営化、民間委託、PFI(Private Finnance Initiative/公共サービスの提供に民間資金等を用いること)の判断にも役立つ。この結果、行政経営の効率が高くなることによって地方債の返済能力も高まり、結果として貸借対照表も改善されていくことになる。
 宮城県がこのほど、新たに造った道路脇に「この道路の建設費は1キロメートル当たり○○円です」という表示をして話題となったが、これは企業会計で使われる原価計算手法を自治体の事業ごとのコスト計算にうまく応用している事例といえよう。

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キャッシュフロー計算書の作成を

 歳入歳出決算書は企業会計でいうところのキャッシュフロー計算書であるが、どんぶり勘定のために経営成果の判断には使えない。しかし、企業会計にならって(1)行政活動の収支、(2)投資活動の収支、(3)財務活動の収支、に3区分すると自治体の活動が良く分かるのである。
 ひとつ目の「行政活動」とは、議会や補助・扶助など経常的な行政活動。また、次の「投資活動」は自治体が主体で行う設備投資であり、最後の「財務活動」は不足資金の調達や余剰資金の運用などである。
 健全な収支は表4のように、行政活動で十分な黒字が計上され、この行政活動の黒字の範囲内で公共投資が賄われるので、その余剰資金を地方債の返済に充当できる。これに対して不健全な収支は行政活動でわずかな黒字または赤字にもかかわらず多額に上る投資活動を行うため、不足資金が生じ、これを地方債で賄うというものである。表5は宮城県の例であるが、行政活動で104億円の赤字にも関わらず公共投資に1392億円を投じており、このために地方債を多発せざるを得なくなっていることが分かる。
 キャッシュフロー計算書は決算統計資料から簡単に作成できるので、ぜひ作成し、財政健全化への指針としてほしい。
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 企業会計の導入は、自治体が住民等に対する行政活動の説明・報告の役割を果たすだけでなく、行政担当者が行政活動を行うにあたって必要な情報を提供し、住民が行政活動に参加するにあたって必要な情報を提供するという効果がある。
 地方分権が進み、自治体経営の成果がいっそう求められる中で、現行の公会計が企業会計手法を導入することにより、“経営の羅針盤”として機能していくことを願っている。



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