財団法人地方自治情報センターでは、ITサポート事業の一環として、ITアドバイザーの派遣を実施している。これは市町村が独自に行う研修会へ講師を紹介・派遣するもので、今回、お話しをうかがった諸橋昭夫氏もその一人だ。
諸橋氏は、民間企業の立場から、30年にわたって地方自治体の情報化に関わってきた。
退社後、3年半前に行政情報研究所を設立。これまで培ってきた知識を広く還元したいと、週1回のペースで購読無料のメールマガジンを発行してきた。現在、この読者数は5800名にものぼっているという。
このメールマガジンをまとめ直し、このほど出版したのが『電子自治体へのアプローチ―行政情報化の課題を克服する30のステップ』(学陽書房)である。
「本書を通じて、職員の意識改革の重要性を伝えたいと考えました。その目指すところは、地方自治体をジリツさせる―『自立』ではなく自分を律するという意味での『自律』です。職員一人ひとりが、この自律の意識を育む役に立てれば嬉しいですね」と、諸橋氏は本書をまとめた狙いについて語る。
新たな革袋には新たな酒を……
本書は、市町村に期待される電子行政サービスを実現させるため、何が問題点となり、それに対して何をしなければならないかを具体的に説明したもの。今後のスケジュールなども図式化されているので、計画的な基盤整備や環境整備などを行う上で役立ち、職員研修の資料としても使用できる一冊である。
特筆すべき点は、事例が数多く掲載されていることだ。市町村の実状に即した電子自治体の構築が求められているいま、同じ悩みを持つ市町村の事例はとても参考になるといえるだろう。
諸橋氏は、市町村の情報化担当者に向けて、こうアドバイスする。
「電子自治体について考えるとき、基幹システム、内部事務の改革、インターネットを使った住民との双方向の対話を、つい一緒に考えがちですが、それぞれアプローチの仕方が違うため、はっきり分けて考えなければなりません」
また、ITアドバイザーとして日頃多くの市町村職員と接する諸橋氏は、職員たちのよき相談者でもある。
「財政不足や人材不足、あるいは管理職の理解不足にがっかりして落ち込む人も少なくないが、そんな時は『落ち込まないでください。あなたが落ち込んだら誰も時代を変えられないんだから』と伝えます。それでも後ろ向きになりがちな人には、ほかの市町村の熱く元気な職員さんを紹介する…(笑)」
電子自治体の実現に向けて、まだまだ課題は山積みだ。だが、同じ悩みを持つ市町村はほかにもあるはず。何よりも“前向き”に考え、解決に向けて積極的に取り組んでいきたいものである。