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行政経営の「ナビゲーターバランス・スコアカード」
横浜国立大学大学院教授 エジンバラ大学客員教授
吉川武男
よしかわ・たけお 1986(昭和61)年に横浜国立大学経営学部教授、90年に英国エジンバラ大学客員教授となり、現在に至る。公認会計士二次試験委員、横浜国立大学経営学部長を歴任。『バランススコアカード入門』(生産性出版)など著書多数。



 バランス・スコアカードは、1992年にキャプラン&ノートンの論文によって初めてこの世に誕生した。
 当時、飛行機のコックピットのようだと評されたバランス・スコアカードは、その後さまざまな変貌を遂げ、今日、日本においても企業経営におけるナビゲーターの役割を果たし、総力戦で組織を成功に導く戦略的マネジメント・システムとして定着したといえる。
 これに基づく経営の在り方は、「勘と度胸」や「がんばろう」に代表される精神論的経営ないし有視界経営ではない。企業の将来をしっかり見据えて、明確なビジョンと戦略を掲げ、これを組織のトップから従業員一人ひとりに至るまで浸透させ、チーム・ワークと結束力を強化することで目標の実現に向けて果敢に挑戦していくための仕組み――すなわち戦略経営時代の“ナビゲーション”なのである。
 この手法は行政機関においても活用することができる。キャプラン&ノートンが2002年5月に行った講演資料から、その成功事例として米国ノースカロライナ州シャーロット市の例を紹介してみよう。
 同市が掲げるビジョンと戦略は、〈住民を第一とする市としてモデル・ケースとなる。熟練し動機づけられた職員は、高品質で高価値のサービスを提供する職員として知られるようになる。最終的には、住民や企業の良きパートナーとなり、生活の場としても、働く場としても、さらに余暇を過ごす場としても、最高のまちにする〉というものだ。これを確実に実現すべく、同市では「地域社会の安全性」「最高の市を目指す」「行政組織の再構築」「交通システムの最適化」「経済の発展」の5つの戦略テーマを掲げ、バランス・スコアカードを導入したのである。
 その成果(99年実績)は、(1)民間企業を抑え、汚水処理で全市、ごみ処理で市の75%の入札に成功、(2)入札、民営化および市民満足などに関する2000年度の財政予算を達成、(3)住民1000人当たり火災件数が州平均よりも29%低い、(4)消防署当たりのコストが州平均よりも65%低い、(5)住民の84%が地域の警察官を信用できると回答、(6)警察の事件解決率が全国平均より高い、(7)犯罪発生率は、人口10万人都市の中で97年に比較して減少、(8)トロリー鉄道沿線の地価が16%上昇、(9)税率は州の七大都市の中で最低を維持――などとなっている。
 このようにバランス・スコアカードを有効に活用すると行政経営を戦略志向に革新し、ビジョンと戦略を確実に実現して多くの成果を得ることが可能となる。日本の市町村においても、未来のまちづくりに向けた“ナビゲーション”の活用検討を始めるべきではないだろうか。



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