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平成9年12月20日、「行政情報化推進基本計画」の改訂が閣議決定された。ここで初めて「電子政府」という言葉が使われて以来、5年あまりの間で霞が関WAN、住基ネット、LGWANと基盤整備が急速に進み、行政手続の電子化も進展するなど、国も地方も“最先端のIT国家”を目指して急激な変貌を遂げてきた。本誌では、これまで5回にわたって「地方自治の明日を考える」と題した特集を組んできたが、今年、電子自治体がいよいよ実行段階を迎えるにあたり、改めて市町村における情報化の現状と今後の展望について整理してみる。



 平成13年1月、高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)は『e―Japan戦略』を公表。その後わずか2年ばかりの間に『e―Japan重点計画』(13年3月)『e―Japan2002プログラム』(同年6月)『e―Japan重点計画、e―Japan2002プログラムの加速・前倒し』(同年11月)『e―Japan重点計画2002』(14年6月)と立て続けに施策を打ち出してきた。
 そして政府は、ここにきて新たな“IT戦略”をまとめる方針を固め、専門調査会を設置して今春の立案に向けた協議を開始したのである。
 検討のポイントは、(1)IT利活用の視点の重視、(2)産業再生と国際競争力の強化、(3)情報家電など日本の強みを活かした戦略の立案、(4)高齢者・障害者等を含む利用者の視点、および安全性・信頼性の視点の重視、(5)アジア地域を視野に入れた国際的な視点の重視、(6)2006年後も世界最先端のIT国家であり続けるための戦略の立案――の6つ。電子政府はすでに第一段階の整備を終え、次なる目標を目指して動き始めたわけだ。
 一方、電子自治体の進捗度は、多くの市町村がいまだ“庁内インフラの整備”に取り組んでいる状況だ。
 『地方自治情報管理概要』(総務省/14年10月公表)を見ると、庁内LANとホームページについては9割以上が対応済みで、2208団体が「メール・電子掲示板等による住民との意見交換を行っている」という。ところが、行政手続の電子化となると「電子入札」が8団体、「電子調達」が3団体という具合にトーンダウンする。また、現在の取り組み状況として最も多いのが「庁内LANの整備」(2094団体)で、次いで「1人1台環境の整備」(1901団体)となっており、「行政手続きの電子化」や「文書管理システムの導入」などへ着手したのは2割程度に止まっている。
 こうした現状は、電子商取引推進協議会(ECOM)と三菱総合研究所が実施した『電子自治体構築におけるアウトソーシング活用に関する実態調査』からもうかがえる。調査によれば、8割の市町村が申請受付以外の電子行政サービスは「未計画」と回答しており、これについて報告書では〈電子自治体の推進が地域にもたらす効果に対する認識が明確になっていないことが要因〉と分析する。
 ここで気になるのは、わずか2年ほどで市町村間にかなりの格差が生じたことだ。先進的な自治体が「eコミュニティ」「eデモクラシー」といった新社会システムの創造を始める一方で、未だ「行政効率化」を主眼とするところも少なくないのである。地域性や財政事情、あるいは合併など事情はあるものの、その根底には「電子自治体」の捉え方自体に“格差”があるといわざるをえない。
 富士通総研の榎並利博氏は、『電子自治体――パブリックガバナンスのIT革命』のなかで〈電子自治体を捉える場合、(1)行政経営、(2)地域経営、(3)住民との新たな関係の創造、の3つの視点が必要〉と語る。また榎並氏は〈世の中は我われの予想を超えたスピードで動いており、これに合わせて電子自治体の捉え方も当然変わるべきだ〉ともいう。こうして見ると、多くの市町村は時代の荒波に翻弄されるばかりで、積極的な舵取りをしないままここに至ってしまった――というのが現在の姿ではないだろうか。

「IDC」と「GIS」が本格普及へ

 だが、そうした市町村の意識も“現実”に追いつきつつあるようだ。それを表しているのがアウトソーシングへの取り組み意欲の高まりである。
 先に紹介したECOMの調査では、56.0%の市町村が「全面的・一部の業務についてアウトソーシングを活用・検討」していると回答。その理由としては「専門ノウハウの活用」(73.7%)「人材不足への対応」(56.6%)「コスト削減」(30.9%)などへの期待が高い。また、地方自治情報センターが都道府県を対象に「市町村等のフロントオフィス業務・バックオフィス業務の共同アウトソーシングに関する調査研究」のモデルシステムを公募したところ、予定を上回る30以上の団体が応募したという。
 市町村では従来から一部業務を外部へ委託してきたが、摂南大学の島田達巳教授は「アウトソーシングは従来の業務代行とは違い、競争力強化のための手段だ」という。つまり、行政がコア・コンピタンス(中核的組織能力)へ経営資源を集中させるために必要というわけだ。


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 アウトソーシングによって民間企業並みの「行政BPR(Business Process Re-engineering)」を推進するという意識も急速に浸透しつつあり、また、市町村間連絡会等を設置して共同化・アウトソーシングに関する議論を始めた都道府県もある。こうしたなか、市町村と住民・地域を結ぶ“中継点”として期待されるのが『地域インターネットデータセンター(地域IDC)』だ。
 IDCとは、万全なセキュリティ対策が講じられた災害に強い堅牢な情報技術の集積施設であり、顧客のサーバ一式を預かり、インターネットの接続、サーバの運用、監視環境(ファシリティ)を提供する情報サービス拠点のこと。サービス拠点となるサーバには速い・安全・確実の3要素が不可欠といわれるが、新たに地域IDCを建設しようとすると少なくとも数十億の投資が必要となることから、県によっては民間事業者のものを活用しようという動きも見られる。
 また、地域IDCとともに地域経営の視点から注目されているのが『地理情報システム(GIS)』である。
 GISとは、〈地理的位置に関する情報を持った電子データを総合的に管理・加工し、視覚的に表示し、高度な分析や迅速な判断を可能にするシステム〉のこと。もともとは米国空軍の軍事技術として開発されたもので、日本では昭和五十年代から政府機関などが活用。その後、自治体においても地図や図面を作成する特定業務で利用されてきたが、阪神・淡路大震災をきっかけとしてGISの普及と空間データ基盤整備に向けた取り組みが本格化した。現在、総務省では自治体が利用する道路・街区・建物・河川といった地図データを庁内で共有化する「統合型GIS」の導入を促進している。
 今後、環境や医療・福祉、教育といった分野での急速な普及が予想されるが、その先進事例といえるのが神奈川県横須賀市のWebGIS『よこすか わが街ガイド』だ。これは住民がインターネットで公開されているGISを使って、公共施設や医療機関などを検索したり、地区計画などの行政情報を得ることができるという仕組み。近く、道路工事情報の閲覧も開始されるという。


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「よこすか わが街ガイド」
http://www.city.yokosuka.kanagawa.jp/gis/


 横須賀市企画調整部情報政策課の渡部良次氏は「市ではかねて庁内の地図データの統合化を進めてきたが、市民にもその利便性を提供するため情報公開型GISのサービスを開始した」と語る。行政関連の情報に限らず、地元の医師会や商工会などと共同でいろいろな情報を提供しているのが特徴で、アクセス数は1日平均で2000件を超えるという。興味深いのは、隣接する自治体の地理情報も検索できることだ。これは「境界に住む住民にとっては隣町のデータも閲覧できる方が便利」(渡部氏)という配慮から始められたものである。
 市では、このほかにもGISと火災感知器と連動した『緊急通報システム』も構築している。これは高齢者が緊急ペンダントを押すと自動的に119番通報が行われ、消防指令台のGISにその人の医療情報や要介護情報、障害情報などが表示され、迅速かつ最適な救護活動を可能とするものだ。火災の場合も同様に、仮に住民が認知していなくても火災感知器が自動通報するという。

全国各地で住民起点の動きが活発に

 さて、高速インターネットの利用はここ数年で飛躍的に拡大し、現在、全国民の4.4%にあたる562万6000件が加入した。また、国は「17年度末には2000万世帯がブロードバンド回線を利用する」(総務省「全国ブロードバンド構想」)とも推計する。その頃、電子自治体はどう変わっているのだろうか。
 シリーズ特集にご登場いただいた明星大学の大橋有弘教授は「政府が担当するのは市町村全体に共通するインフラ整備であり、今後、市町村は自らの意志と判断で住民や地域を起点とする電子化を進めなければならない」と語っている。
 また、栃木県高根沢町の高橋克法町長は「21世紀となったいま、行政の仕組みを住民の視点で再定義しなければならない。サービス創造の起点は住民にある。そのために住民と行政が一緒に汗をかくことが必要」と、住民との新たな関係づくりの重要さを訴える。


高橋克法高根沢町長
「蒲原町ホームページ」
http://town.nifty.com/gov/shizuoka/kambara/
全国に先駆けて町長室・町長車を廃止した山崎寛治蒲原町長も、現代を代表するリーダーの一人だ


 直接利害に関係するだけに、住民や地域にとって市町村の動向は注目されるところだ。実際、NTTデータシステム科学研究所が全国の3000名を対象に実施した調査によれば、4割の人が「自治体の政策づくりや地域振興のイベントへ参加したい」という意向を示している。しかも、その大半は「過去に参加したことがない」という人びとだ。これは、これからのまちづくりにとって大きな原動力となる。
 こうした住民との新たな関係づくりは全国各地で始まっている。代表的なところでは、小泉純一郎首相が始めた『タウンミーティング』や田中康夫長野県知事の『車座集会』があるし、先述の横須賀市のGISサービスなどもその一例だ。また最近では神奈川県藤沢市の『市民電子会議室』や三重県の『e―デモクラシー』などITを活用してより多くの住民から情報やアイデアを集め、その結果を行政経営に反映させていこうという動きもある。
 さらに、小規模団体のなかにも面白い動きをするところが登場している。
 静岡県蒲原町では役場のホームページを「住民ポータル」と位置づけ、住民や地域との双方向コミュニケーションを開始しているが、そのコンテンツのひとつとして被災情報を閲覧できるコーナーを整備した。一般に災害時には優先電話以外の電話はかかりづらくなるが、「インターネットであれば比較的つながりやすい」という利点を活かしたものだ。災害時の情報提供手段だけに、まだ稼働はしていないが、蒲原町では今後、台風の被害情報などでの活用も考えているという。
 こうした各地の取り組みは国の構想に基づくものではなく、ITを有効活用して個性的な行政経営を目指した結果にほかならない。
 新年を迎え、いよいよ申請届出など各種行政手続の電子化に向けた準備が本格的に始まるが、それは電子自治体のひとつの通過点に過ぎない。そろそろ次の時代を見据えて、ITを活用して何をするのか本腰を入れて考えるべきだろう。
 日本の歴史を振り返っても、時代は常に地方から変わってきた。現時点で多少後れを取っていても、まだ巻き返しのチャンスは十分にある。地方の挑戦はまだ始まったばかりなのだから。



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