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03_11 さるわたり・ともゆき 熊本県出身。1985(昭和60)年、東京大学法学部卒業後、旧自治省へ入省。消防庁救急救助課課長補佐、栃木県財政課長、自治省固定資産税課課長補佐、青森県企画部理事、総務省自治政策課理事官などを経て、2002年より現職。



電子自治体実現の準備に残された時間もあと1年余り。住基ネットやLGWANなどインフラ整備にめどがつき、いよいよ電子申請・届出など“電子自治体”化のための本格的な仕掛け作りが始まる。行く手には、ユビキタス社会も見えてきた。そこで中長期の視野から、いま市町村が電子自治体システムの構築にあたり留意すべき点は何なのか、総務省自治行政局自治政策課の猿渡知之情報政策企画官に聞いた。



◆オンラインによる申請・届出などの受付システムや、申請書を処理する業務アプリケーションの開発など、いよいよ電子自治体化への具体的な作業が始まります。そこで改めて電子自治体実現の意義について、うかがいたいと思います。
猿渡 
電子自治体を実現する意義は、3つあると思います。ひとつは地方分権の進展のなかで、自治体が主体的に施策の立案・決定を行うために不可欠な〈情報収集・分析(意味付け)・処理・発信といった行為をITによって容易に可能〉とすることですね。現在、市町村合併の推進や国庫補助負担金、交付税、税源移譲を含む税源配分の三位一体の改革など、地方行財政の改革が進められていますが、これからは歳入・歳出の両面で地方が自立し、各地方公共団体による自主的な政策を選択することが期待されます。この場合、わが国だけでなく世界的な経済動向や施策の流れ、あるいは他団体の施策の状況などを把握する必要があり、今後は総合行政ネットワークを活用してこれらの情報を入手し、ホームページ等で広く情報を公開して意見収集に努めることなども必要となるでしょう。また、2つ目が〈住民サービスの質的な向上〉です。電子申請・届出の実現とは、いわば住民の自宅にあるパソコンの画面上に“24時間”開いている総合窓口を開設することです。さらに、3つ目として、このようなサービス形態の変化は、現状の行政にも影響を与え〈業務や組織のあり方を見直す契機〉となることが期待されますね。
◆ワンストップやノンストップのサービスが当たり前と考えると、現在の行政ではいろいろな制約も見えてきますね。
猿渡 
電子自治体化とは各種手続を電子化するものではなく、いわば〈人間とコンピュータの役割分担の見直し〉を図ることです。そのためには、誰に対してサービスを提供するのか、長期計画や予算制度等によって業務の管理単位や業績評価の仕組みはどうなっているのか。あるいは、どのような手段で情報が流通し、責任の所在はどこにあるのか――などを整理する必要があります。これによって業務処理プロセスを見直す契機となり、また、この見直しが組織体制の再考へとつながります。この意味は大きいと思いますよ。現状では、特に中長期の業務管理や財務管理、資材の調達など複数の部門にまたがる間接業務は、組織や業務間で情報の流通が遮断され、いわゆる縦割りの“セクショナリズム”が蔓延しがちとの指摘があります。そうなると部分的には的確な業務を行っていても全体としてはまったく整合性がない状態に陥り、住民の要求へ柔軟に対応することはできません。これを機に現在の分業体制を見直して、決裁権限の移譲や並行作業の導入、調整作業の縮小、チーム制の導入などを考えていくべきではないでしょうか。

目指すのは電子化ではなく組織と業務プロセスの見直しだ

◆おっしゃる通り、電子自治体システムという新しい手段の開発は必要ですが、その前に組織体制や業務プロセスの見直しを行うことが重要ですね。
猿渡 
結局のところ、それをどこまで変更できるかによって、導入するシステムも(1)現行業務に適したオーダーメイド、(2)標準の業務パターンに必要な手直しを加えるイージーオーダー、(3)既存のパッケージソフト――のいずれにするか決まってきます。このうちパッケージソフトは、最も少ないコストで導入できますが、現状ではまだ必要な商品が出揃っているとはいえませんし、オーダーメイドは導入やその後のバージョンアップ等のコストを考えると現実的な方法ではありません。この点、自治体の業務にはそれぞれ標準的なパターンがあるため、“型紙”となるシステムを開発し、必要に応じてカスタマイズする「イージーオーダー」が最も適した方法といえるのではないでしょうか。総務省の『共同アウトソーシング電子自治体推進戦略』もこのような考え方にたっています。
◆電子申請・受付システムの整備も地方公共団体の事務だけで6000手続あり、これを個別開発するのは困難ですね。
猿渡 
その通りです。市町村は電子申告、電子入札、電子調達、情報公開などそれぞれの「フロントオフィス業務」ごとに調査・分析を行い、目標と現状のギャップを把握し、業務の簡素効率化を図りながらアプリケーションを開発し、それらを格納するサーバを安全に保管するための施設を確保しなければなりません。その上で、業務処理を行うサーバの管理、システムのメンテナンスやセキュリティ対策等の体制づくりも必要です。さらには財務会計、人事給与、文書管理、行政評価資料の作成など「バックオフィス」の各業務についても同じことをしなければならない。これらを単独で行うことは経費、作業の困難性、多大な重複投資のいずれの観点から考えても疑問です。特にサーバの管理やシステムのメンテナンス、セキュリティ対策等については、都道府県や複数の市町村が共同で行うことによって大幅なコスト節減と高い水準による運用・管理が期待できます。ただし、そのためには、高度なITスキルやノウハウがなければなりません。例えば、データセンターに勝手に立ち入られてサーバを壊されたり、データを持ち出されたりしないよう厳重な警備が欠かせませんし、停電や災害への十分な備えや24時間連続した安定運転が可能な運用体制も必要です。さらには、データセンターと各市町村間の安全な通信サービスの提供、ネットワークの保守・運用、メンテナンス等の需要が発生しますし、職員の教育・訓練も求められるでしょう。このような業務については、専門の民間企業へアウトソーシングするのが適当と考えています。この他にも共同化の効果としては、アプリケーションを共有することで互いに業務のあり方を検討し業務改善につながる、また、それらのシステムを開発した民間企業の能力を評価できる、などが挙げられます。さらには地元企業を活用することで、地域経済の活性化も期待されるのではないでしょうか。
◆その場合、都道府県をひとつの単位としてとらえているようですが、高速ネットワークに接続された状態では地理的条件は関係ないと思うのですが。
猿渡 
共同のアプリケーションであっても、各地域の実情に応じた不断のバージョンアップが必要です。仮に、全国統一のシステムだとすると、各市町村の新しい提案が反映されるのか疑問です。このため標準化を図るには、最大でも都道府県単位が限界ではないかと考えています。
◆なるほど。今後、どのような作業が予定されているのでしょうか。
猿渡 
概ね7つのプロセスを想定しています。(1)都道府県がコーディネーターとなり県内市町村と共同で検討する枠組み(協議会等)を設定する、(2)当該都道府県協議会で先進的に開発しようとするアプリケーションを選定する、(3)選定された業務について各市町村における実態を調査する(様式や手順等についての対象業務の調査・分析)、(4)業務の標準化を図る(新しい業務フローに基づく様式や手順の共通化)、(5)標準化された業務について基本設計・詳細設計を行う、(6)設計に基づき机上テストを行い参加市町村間で共同システムとして採用する旨の意志決定を行う、(7)採用が決定したバージョンの詳細設計にコーティングを施し、テストを繰り返した後、実装する(プログラム開発の終了)――なお、平成15年度においては、これらのプログラム開発費は原則として国費を充てる予定です。また、ここで開発されたアプリケーションはすべて公開し、ほかの地域の市町村でも導入することができるようにします。

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将来あるべき姿をイメージすると真の“電子自治体”が見えてくる

◆共同化などによって外部との連携が増えてくると、個人情報保護や情報セキュリティ対策のあり方が気になります。
猿渡 
住民の安心を確保するためにも、「個人情報保護の徹底」や、インターネットを通じた脅威から行政情報を保護し、内部者や委託業者による不正行為を防止・抑制する「情報セキュリティ対策の強化」が欠かせません。このため、まずは基本方針となる「セキュリティポリシー」の策定を行い、ファイアウォールなど技術的な対策を強化し、職員の教育・訓練の徹底等によって組織全体でセキュリティへの意識を高めることが大切です。総務省では、すでにセキュリティポリシー策定のための「ガイドライン」を公表しており、今年度内にはセキュリティ対策の「チェックリスト」を提示することを考えています。これは外部監査の際の基準にもなりえるものであり、ぜひ参考としていただきたいと思います。また、これと並行して「個人情報保護条例」についても、未制定団体では速やかな条例制定を、また制定済み団体においては住民の意識の高まりに対応した内容の充実を、それぞれ行う必要があるでしょう。その場合、「データの収集制限」や「住民の自己情報の開示請求権」に加えて、「訂正・削除・利用中止に係る請求権のあり方」なども十分に議論されることが望まれます。
◆電子自治体化に向けた作業は、限られた職員と財源のなかで、より高い成果を生み出す組織づくりにほかなりませんが、これを継続的に改善するための仕組みも考えなければなりません。
猿渡 
その点では行政評価や情報公開の進展とともに、「ABC(Activity Based Costing/活動基準原価計算)」や「BSC(Balanced Score Card/バランススコアカード)」など、民間企業の経営手法を検討する自治体も増えています。ABCとは、活動時間をもとに業務ごとのコストを算出し、費用対効果を明らかにして業務改善を図る指標です。一方のBSCとは、〈財務〉〈顧客満足〉〈業務プロセス〉〈学習と成長〉の4つの視点から戦略の遂行状況を測る業績評価の仕組みです。90年代後半から日本でもBSCを採用する企業が増えていますが、特に注目されているのは、BSCが経営陣から第一線の社員に至るまで、それぞれの立場で「自分が何をすればビジョンや戦略の実現に貢献できるのか」が明確となり、組織全体のベクトルを合わせるのに有効な手法だという点です。今後は市町村においても、こうした経営手法を積極的に導入していくべきだと思いますよ。ただ、単純に手法を導入しても職員の作業が増えるだけという結果になりかねないため、まずは「自分たちの自治体は将来どうありたいのか」をイメージし、それに沿った経営手法を予め電子自治体システムへ組み込んで構築することが肝要です。そうすれば職員への負荷も軽減され、より高い業務改革の効果が期待できるのではないでしょうか。
◆大切なのは「しっかりとした戦略と高い目標意識を持つ」ということですね。そうした取り組みのなかから、ユビキタス社会に見合った新たな住民サービスも創造されていくことでしょう。
猿渡 
そのためのツールは何もパソコンとは限りません。すでに小型化し低価格化したコンピュータ・チップが、テレビや携帯電話などさまざまな場所に埋め込まれており、これらを相互に連携させた多様なサービスも可能となるといわれています。例えば携帯電話がバイブレーション機能とメール機能によって耳の不自由な方々にとって貴重な通信手段となっているように、サービスの進化はすでに始まっています。こうしたIT技術の活用で、生活自立化支援やコミュニティ活動支援など、高齢者や障害者に係るサービスの高度化・多様化が可能となり、本当の意味で誰にでも優しい“ユニバーサルデザイン”の社会が拓かれていくのではないでしょうか。



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