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特集タイトル


03_10 1969(昭和44)年、東京大学教育学部卒。行政管理庁、総務庁において主として行政の情報化推進政策に従事。その間、国連ESCAPにおいて、政府情報システムアドバイザーの任に就く。92年総務庁を辞職、現在に至る。専門分野は情報政策。



電子自治体実現を目指す上で、市町村合併が避けて通れない課題となっている。問われるのは〈限られた時間で、どれだけスピーディに統合・再構築実務を推進できるか〉ということだ。そこで「市町村合併に伴う情報システムの在り方に関する調査研究」会の座長である大橋有弘教授に、その中間報告書からシステム統合・再構築のポイントをまとめていただく。



 全国半数の市町村が、なんらかの形で合併問題に取り組み、あるいは検討しているという。日本の行政制度上、これほどの規模での合併はいままでにない。
 背景として、財政の逼迫から行政経営の効率化が迫られてきていることが挙げられようが、情報化社会の進展が、合併を側面から促進しているのではないか。市町村境界が地理的な条件で設定されている場合が多いとすると、情報通信技術の活用により地理的制約を超えた行政経営、行政サービスが可能であることはいうまでもない。逆に、合併を機にシステム統合・再構築を行い、いままで以上に効率化、サービスの質の向上を図ることが可能であるし、まさにそれが期待されているのであろう。市町村合併におけるシステム統合・再構築が焦眉の課題となっている所以である。
 合併状況の違いで、システム統合・再構築の考え方、方法論が異なってくるが、本稿では主な共通的ポイントをまとめる。

1.重要性の認識

 情報システム統合・再構築の成否が、市町村合併の鍵を握るといってもよい。重要性だけではなく、統合・再構築作業には時間も費用もかかることから、首長から担当者まで、全庁的に情報システム統合・再構築の重要性を理解する必要がある。トップの重要性の認識が低いため、システム統合・再構築開始のゴーサイン、団体間の要調整事項の裁断が遅れたり、予算が不十分であったりすることによる問題、困難さは多く報告されている。
 ただでさえ、タイトなスケジュールでさまざまな課題を抱える合併時に、システムの統合・再構築にしわ寄せがきがちなのである。ただし、理解・認識不足をかこつのではなく、システム部門等の管理者が幹部の理解、特に首長のリーダーシップを得るべく努力することが重要である。また、トップだけではなく、関連部局の管理者、担当者の理解・協力を得ることも重要であることはいうまでもない。
 情報システム統合・再構築は短期的には費用がかさむことから、財政部局の理解を得ることは、情報システム部門の責任者の重要な任務である。情報システムの開発や運用コストなどは、市町村合併のなかでも統合の効果が期待できる分野のひとつであり、その長期的な視点の効果について把握し、トップ、財政部局の理解を求めることが肝要である。

2.参加団体間の調整

 複数の団体がひとつになるのであるから、合併に伴い調整を要することは非常に多い。実際の合併に従事した経験のなかで、要調整事項が当初の予想をはるかに上回り、その調整作業量と難しさが最も苦労した点であるという話が多い。


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 条例レベルでの整合性を図ることは不可欠であるが、その調整はきわめて労力を要するものが少なくないことも覚悟する必要がある。例えば、情報システムの統合・再構築に関連するものの例でいえば、「個人情報保護条例」の理念や規定振りの違いの調整は、最も重要な事項のひとつであろう。
 また、小さなレベルではあるかもしれないが、団体間の用語の違いがあまりに多く、調整も難しくて困った挙句、新しい統一用語集を作成したという苦労話もある。


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(http://www.lasdec.nippon-net.ne.jp/)

市町村合併に伴う情報システムの
在り方に関する調査研究中間報告

(市町村合併に伴う情報システム統合マニュアル)
 財団法人地方自治情報センター(LASDEC)は平成14年度研究開発事業として、市町村合併に伴う情報システムの在り方に関する調査研究を実施。平成14年12月に、その中間報告をまとめた。
 これは市町村の「何から手をつけたらいいのか分からない」という疑問に対して、合併に伴い想定される各種事務手順に沿って実施すべき項目の道筋を網羅的に整理したもの。〈合併協議会対応編〉〈システム統合検討編〉〈実践編〉の3部で構成されており、市町村へのヒヤリング調査等をもとにポイントが整理されている点が特徴だ。
 主として市町村の情報システム部門の担当者を対象としているが、組織内の他部門の担当者に関連する項目についても適宜本文中で解説されており、「最終報告書」の一日も早い発行配布が待たれる。

3.システム統合・再構築の基本方針

 新しい団体における情報システム構築の基本方針を比較的早い時期に定めることが重要である。合併時に、すべての情報システムを新たに構築する例はほとんどなく、既存のシステム資源を選択的に活用することになるが、選択の仕方によって統合・再構築の作業内容や作業量は大きく変わる。まず基幹業務について、どの団体のシステムを母体にするかひとつずつ決定し、その後に個別小規模アプリケーションを同様に選択していくのが実践的な方法であり、いままで筆者が見聞した範囲内では、この方式を採用したケースが多い。


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 予算措置、プロジェクト・チーム等の推進・運営体制の確立、スケジュールの確定、委託業者の選定等、合併参加団体間の調整等も早い時期に決めておくべきものであろう。
 一度決定した基本方針が途中で変更されることによる混乱、手戻りは避けたい。その意味でも、基本に係る方針決定は変更がないように慎重であるべきである。

4.段取りの重要性

 一般的に、限られた資源の範囲内で、さまざまな作業を伴うプロジェクトを期限内に完了させるためには、いわゆる段取りが必要である。主な段取りとして、以下のような点が挙げられる。
(1)意思決定体制の明確化
団体間・組織間にまたがる調整、意思決定
(2) プロセスの明確化
統合・再構築作業全体のスケジュール、手順
(3)アプリケーションのプライオリティ(優先度)の設定
(1)合併時にすべての業務を統合することが理想的であるが、時間のないなかで、効率よく情報システム統合を実施していくために、アプリケーションのプライオリティを設定することが重要
(2)確実に時間をかけるもの、短縮が可能なもの、前倒しができるもの、長引かせず即決を要するもの、後戻りしてはいけないものを見極める
(4)安全かつ確実な統合方針の決定
安全性および確実性を精査し、実現性の高い統合方針を決定する。この観点から、委託業者等の提案を評価、精査する必要がある。
(5) 合併日の設定
合併日の設定は、情報システム側からだけではできないであろうが、少なくとも新システムへの移行にかなり時間を要するのが普通であり、システム部門としての要求は主張すべきである。通常、連休明けや、少なくとも月曜日に設定するのが望ましい。


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5.合併を電子自治体への飛躍に

 合併を単に団体間のシステムの統合・再構築にとどめず、電子自治体構築への機会と捉えるという考え方もあるべきであろう。合併自体がいわゆるBPR(Business Process Re-engineering) であるということができるし、実際、組織の再編成、業務運営の見直しを伴うことが必然であるとするならば、システムの統合にとどまらない、電子自治体への展開のよい機会であるとして、最大限有効に活用すべきである。
 そのためにも電子自治体の動向を注視する必要があろう。
(1) 電子自治体プロジェクトとの調和
国や都道府県の電子政府、電子自治体の動向を把握しつつ、それと調和を図る方向でシステムの統合・再構築を進める。住民基本台帳ネットワークシステムへの対応、総合行政ネットワークへの接続はもちろんのこと、総務省の電子自治体パイロット事業の検討結果や、都道府県で取り組みが進んでいることも考慮に入れる必要がある。
(2) 共同処理、アウトソーシングの検討
各合併参加団体は、何らかの形で委託業者を活用してきているはずである。合併を機に、部分的な外部委託を見直し、トータルなアウトソーシングを実施する機会である。参加団体で共同センターを設立することや、民間のASP(Application Service Provider)を採用することも検討されてよい。
 さて、財団法人地方自治情報センターが、「市町村合併に伴う情報システムの在り方に関する調査研究」を行い、14年12月に中間報告として、11のポイントをまとめた(図2)。なお、中間報告書は会員限定となっているが、最終報告書(15年3月末予定)は会員外にも実費頒布の予定。詳細は、いずれも同センターへ問い合わせされたい。


お役立ち関連書籍

『動かないコンピュータ』
1,500円(税別)
 行政の情報システムは住民や地域に密接に関わるだけに、万が一トラブルが起こった場合の影響度は測り知れず、ましてや「コンピュータが動かないので本日はサービスをしません」で済まされるものではない。この点、巨大銀行の失敗が市町村に警鐘を発したように民間の事例から学ぶべき点も多いのではないか。
 『動かないコンピュータ――情報システムに見る失敗の研究』(日経コンピュータ編/日経BP)は、日経コンピュータの名物コラム「動かないコンピュータ」を再編集したもの――ちなみに昨年12月16日号では東京都の事例が取り上げられていた。本書は過去に取材した事例から50件を紹介し、〈システムトラブルはどのようにして起こり、どうすれば防げたのか〉について徹底分析している。
 すべて実話だけに〈コンサルティング会社へ依存し過ぎた結果、残ったのは10冊の議事録と当初目的とはかけ離れた情報システム……〉など、教訓とすべき点は数多い。動かないコンピュータは今後も増えると本書。回避策は関係者全員で立ち向かうしかないのだ。
 猿渡企画官へのインタビューに登場したABCとBSCについて学ぶならば、少し難しいが『ABCとバランスト・スコアカード』(櫻井通晴編著/同文舘出版)がある。この分野の第一人者・櫻井氏は専修大学経営学部教授で、本誌(99年7月号)特集でも「行政経営の効率化とABC」についてお話しいただいた。
 本書は、戦略や業務改善を通して経営効率化を図るABCと戦略実行のマネジメントシステムBSCを中心に考察したもの。副題に〈企業価値創造のための〉とあるが、行政組織も重要な研究領域のひとつとして取り上げている。いずれも企業の経営革新手法とはいえ〈総務省が自治体職員の生産性を評価するシステムを開発、15年度に一部自治体で運用を始める〉という新聞報道もあることから、その動向には注目しておきたい。
 取り敢えず入門編をという向きには、ABCはHPで新風のバックナンバーを、またBSCに関しては『図解バランス・スコアカード』(松永達也/東洋経済新報社)『バランス・スコアカード入門』(吉川武男/生産性出版)などが役に立つ。

『ABCとバランスト・スコアカード』
3,000円(税別)



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