bannertokusyu.gif


特集タイトル


斬新な行政手腕で地方改革に大鉈を振るい、日本中の注目を集める知事が増えてきた。そうした“個性派”知事の筆頭に挙げられるのが片山善博・鳥取県知事だ。住民視点の「現場主義」に徹して地域の自立へ取り組むその言動は、規模の違いこそあれ市町村も学ぶべき点が多い。地方自治体が抱える多くの難題をいかに解決し、どう地域運営を行うか―2期目を迎え、ますます意欲的な姿勢を見せる片山知事に聞く。


ルネッサンス運動や雇用対策など
地域自立へ新機軸を次々繰り出す

◆いま地方自治体は、緊縮財政下における地域経営の舵取りに加えて、失業者の救済や地場産業の再生、あるいは教育・福祉など多くの難題を抱えています。そうしたなか、片山知事は県政方針に“地域の自立”を挙げ、既成概念にとらわれない独自の政策を相次いで打ち出しておられます。鳥取県における地域自立戦略について教えてください。
片山 
地域の自立とは、いろいろな分野で中央依存からの脱却を図り、地域住民や地方自治体自らが主体的に判断、決定し実行できる力をつけていくことです。鳥取県に限らず日本の“地域”は、明治以降の中央集権国家体制のなかで分断され、財政面はもとより経済基盤においてもその自立性を失ってきました。エネルギー資源や食糧面も同様で、鳥取県のように農業が盛んな地域でも食糧自給率は低く、その分、ほかの地域や諸外国へ依存しているわけですが、こうした状態がいつまでも続くとは限りません。そこで完全に自立することは不可能ですが、できる限り自主自立して地域へ活力を甦らせようというのが基本的な考え方です。
◆それが現在進行中の『鳥取ルネッサンス運動』ですね。
片山 
はい。そのためには、鳥取が培ってきた「人」や「文化」「食」「もの」「環境にやさしいエネルギー」といった地域資源の価値と活用の効果を県民一人ひとりが再認識し、意識的に活用することが欠かせません。例えば、いま日本人はお米を食べなくなりパン食が増えていますが、これを経済効果や雇用の面から考えると、よその国の小麦畑をせっせと耕して、その農家に所得を移し、その分、鳥取県では休耕田が増え、農家の所得が減って後継者もいなくなり、農村地帯が疲弊していく…ということが起こっているわけです。パン食がいけないというわけではないが、一人ひとりがライフスタイルを見直して、お米を食べる回数を増やし、地元の食材を購入する“地産地消”を心がけることで、地域の農家の雇用や所得を確保することができます。これは食に限った話ではなく、人や文化などさまざまな分野において、こうした運動を展開することで産業・経済の自立につながり、ひいては地域の総合力を高めることになるのではないでしょうか。
◆なるほど。雇用対策ということでは、昨年度から鳥取県版「雇用のためのニューディール政策」もスタートされました。
片山 
政府が進める緊急雇用対策では、半年からせいぜい1年といった短期的な雇用しか確保できませんが、働く側は長期安定雇用を求めており、ここに大きなミスマッチが生じています。こうした現状を打破するため県としても雇用対策に乗り出したわけですが、そのための財源がない。そこで、県民の痛みを共有すべく、県職員をはじめ公立学校の教職員や警察官、県立病院の職員など1万2000名の給与を3年間5%削減し、ここで浮いた40億円を雇用対策の財源に充てることにしました。これにより新たに従業員を雇い入れる民間企業を支援するほか、行政分野においても「小学校1・2年生の30人学級」「DV(家庭内暴力)被害者支援事業」の実施等、これまではコストがかかるため十分な対応がとれなかった教育・福祉の分野でスタッフを採用するなどして、新たな雇用の創出を図っています。
◆人件費の単価を下げて総コストを切りつめ、雇用数を拡大したわけですね。一種のワークシェアリングといえるのでしょうか。
片山 
広い意味では、そういう考え方ができるでしょうね。

分権時代の主役として
市町村行政の“質”の向上が課題

◆知事は、常々「地方分権時代の主役は市町村だ」と述べておられますが、これからの時代にあるべき市町村像をどうお考えですか。
片山 
今後、地方分権時代を迎えると、市町村の自主性・自立性が求められるとともに、市町村が主役となる行政分野はますます増大するでしょう。職員にとっては大変だが、住民が一番頼りにできるのは最も身近な存在である市町村ですからね。県の仕事は、そうした市町村をサポートすることだと考えています。すでに福祉分野では介護保険に次いで障害者向け支援費制度も市町村が中心となってサービスを開始しており、このほかにも教育、IT、環境行政、防災、人権など、行政が取り組むべき課題は目白押しの状況です。市町村の今後あるべき姿としては、こうした今日的な課題を鋭敏かつ的確に処理できる力量を備えなければなりませんが、現状を見ると人材やスキル、体制などとても十分とはいえず、専門スタッフの育成など自らの能力向上に努めていく必要があるでしょう。また、これらの課題に対応するには、ある程度の規模も必要で、人口数千人の町村では合併もやむなしと考えます。その場合、近隣の大きな市へ編入されるのもいいし、似たような規模が集まるのもひとつの方策だと思います。
◆なるほど。
片山 
ただ、最近の市町村合併に関する論議は財政問題ばかり注目され、特例法によるハード事業につられて合併する機運がある。これは好ましい状況ではありません。また躍起になって猫も杓子も合併させようとする国のやり方にも違和感を感じています。確かに財政問題は深刻だが、問われているのは行政の“質”の問題です。量的には人口5万人規模でも十分ですよ。日本はこれまでも質を転換しなければならない時に、量で誤魔化そうとして失敗してきました。典型的な例が金融機関で、合併してメガバンクと呼ばれるようになっても根本的な問題は解決されていませんよね。なのに市町村合併で、また同じ過ちを繰り返そうとしている。いま市町村がなすべきなのは、民意と役所の行動にズレがないかどうか、ゼロ・ベースから見直すことです。この点では、私は行政の監視役としての地方議会の機能や議員の構成・選出方法なども点検する必要があると思うのですが、現在の分権改革ではこれについて一切触れていませんよね。現状の点検もせずに、合併して規模の利益だけを追求するのは、その政策自体が不十分だといわざるをえません。
◆合併ありきでものを考えるのではなく、時代に適応する力量をつけるという目的と方法論を分けて取り組むべきであるということですね。
片山 
はい。また、時期的にもいまはタイミングがよくない。財政的にも能力面でも余裕がある時に合併を進めるのであればいいが、情報システムや制度の統合、あるいは人事問題などで余計な労力を費やし、本来やらなければならないことに集中できないようでは本末転倒です。住民のために、いま市町村が取り組むべき課題は山ほどあるんですよ。

http://www.pref.tottori.jp/kikakubu/kikaku/runesansu/

リーダーの使命(ミッション)とは
現場にこだわり続けること

◆市町村が今後取り組むべき課題のひとつにITを挙げられましたが、鳥取県では15年度を目標年次として『とっとりIT戦略プログラム』を推進し、インフラ整備へ取り組んでおられます。地域の自立においてITへ期待する点は何ですか。
片山 
地域の自立にはIT重視の社会資本整備が欠かせません。率直にいって、鳥取県は高速道路など交通インフラではかなり遅れをとってきました。この上、IT社会においても遅れをとるようでは取り返しのつかないことになる。首都・東京から遠く、人口集積も少ないといったハンディキャップを抱えている地域だけに、この基盤整備を重点課題ととらえ、厳しい財政状況のなかでも集中的に取り組んでいるところです。
◆公共事業を大幅に見直し、不要なハコモノ建設の中止を決断された一方で、必要不可欠な経営資源には十分量の投資を行ってきた…。まさに選択と集中ですね。
片山 
そうですね。具体的には、光ケーブルによる『鳥取情報ハイウエイ』とその支線を県内全域に張り巡らせ、高速・大容量・低料金のIT環境を実現します。県が『鳥取情報ハイウエイ』を整備し、幹線と市町村の間、および市町村からそれぞれの家庭・地域を結ぶいわゆる  “ラストワンマイル”については市町村が主体となって整備しています。今年3月には鳥取―米子間が開通し、今年度末までには県内39市町村を接続して、行政サービスの効率化や産業振興を図るほか、将来的には遠隔授業や遠隔医療などにも役立てていく計画です。課題は、住民や行政にこのインフラをいかに有効活用してもらうかで、この部分では市町村に推進役となってもらわなければなりません。地勢や産業状況、住民構成などによって地域差がありますからね。なかなか思い通りに全体が一挙に進むというわけにはいかないが、IT先進県としての将来像は見えてきたかなと感じています。
◆今後の動向が注目されますね。さて、最後に知事にとってリーダーの使命とは何かお訊ねします。
片山 
私が公務員になった原点には、「行政は一人ひとりのためにあり、その一人ひとりのためにいい仕事をしたい」との思いがありました。いま官僚から知事へと立場が変わりましたが、その思いは未だに持ち続けています。だが、現状を見ると国も地方も役所の論理や組織の利害・体裁などに縛られ、クライアントである国民や県民の意識とは、大きくズレているのではないか。われわれは、いま一度原点に戻るべきですね。そのためには現場に出向き、クライアントの視点で考えることが大切だ。辛いことや見たくないものもありますが、それが現場です。課題は常に現場にあり、解決のヒントも現場にある。また、首長は半分は組織の代表として、半分は住民の代表としての2つの意識を持つべきでしょう。そして、現場から汲み取った課題を自ら政策として取り上げ、実施する――それが私の使命だと考えています。


かたやま・よしひろ 1951(昭和26)年、岡山県生まれ。1974年東京大学法学部卒、同年自治省へ入省。鳥取県財政課長、自治大臣秘書官、自治省国際交流企画官、鳥取県総務部長、自治省固定資産税課長、府県税課長を歴任後、98年同省を退職。翌99年4月、鳥取県知事に当選、現在に至る。



バックナンバーへ戻るspacer新風トップへ