bannertokusyu.gif


特集タイトル



地域の自立には行政運営の転換が欠かせないことから、「行政評価」を導入・検討する自治体が増えてきた。仕組みの円滑な運用にはITの有効活用が欠かせないが、情報システムの導入・運用には膨大なコストもかかる。そこで、中小規模でも容易に取り組める標準システムを検討した行政評価システム研究会の皆さんに、現状の課題点やシステムの方向性について語ってもらった。



◆地方分権の時代を迎えて、いま「行政評価」が大変注目されています。
塩路 
わが国における行政評価の登場は、1993(平成5)年に米国のデビット・オズボーンとテッド・ゲーブラーがあらわした1冊の本に遡ります。この本は日本でも平成7年に『行政革命』(日本能率協会マネジメントセンター)の邦題で出版されましたが、これを参考としたのが三重県の事務事業評価です。以来、8年ほどの間に行政評価は全国の自治体へ拡まりました。総務省の調査では、都道府県と政令指定都市ではほとんどが導入済あるいは試行中で、市区町村では導入済・試行中は16%だが、49%が検討中と、今後もさらに拡大することが予想されます。これほど急速に地方自治体へ普及したのには、行政改革や財政事情などいくつかの背景があるが、私は(1)職員の意識改革、(2)職員の政策形成能力の向上、(3)説明責任、の3つの要因に集約されると考えています。(1)と(2)はニュー・パブリック・マネジメント(NPM)手法による行政経営の改革であり、(3)は対住民、つまり「行政に対する不信感の払拭」と「行政への参画意識の形成」を図るものですね。ただ、行政評価が関心の的となる一方で、その評価方法や評価シートの構成・内容など標準的なものがなく、また導入目的や運用の仕方も自治体ごとに異なるため、みんな試行錯誤の状態で、制度として確立するまでには至っていないのも事実です。そこで、すでに行政評価に取り組んでいる市町村が中心となって研究会を発足し、行政マネジメントの問題と政策評価から事務事業評価までをトータルで支援する行政評価支援システムの開発を目指し、研究・意見交換を行ったわけです。


事業点検から行政経営の確立へ

◆南那須町と三春町では、すでに行政評価に取り組んでいますが、現状を教えてください。
坂本 
南那須町が取り組み始めたのは平成12年度で、振興計画の見直しにあたり自治体経営の観点から行政評価を導入することにしたものです。当時は、行政評価という言葉自体がまだ一般的ではなく、県内でもまだ高根沢町と宇都宮市ぐらいしか取り組んでいなかったため、われわれも手探り状態で進んできました。このため最初の2年間は、職員の理解を深めることに重点を置き、繰り返し研修会を実施しました。ちなみに、研修会へは議員やNPO団体の方などにも参加してもらいました。また、併行して13年度には、係ごとに事業をひとつ選び実験的に先進自治体の調書を使って評価を試みたのですが、やはり他団体に倣っただけではうまくいきません。そこで14年度は町独自の考え方を採り入れた調書を作り、また対象範囲も主要事業へと拡大して評価を行いました。現在、各担当が実績をまとめています。まだ試行段階ですが、この結果を踏まえてさらに改善を図り、仕組みの完成度を上げていこうと考えているところです。
佐久間 三春町では平成10年度と比較的早い時期から取り組んでいます。当時は市区町村で導入していたところはなく、三重県の事務事業評価管理表を参考に見よう見まねで始めました。きっかけは職員の意識改革で、職員に「自分の仕事は何のためにあるのか」を考えさせるため、調書に到達目標、手段、評価などを細かく文章で記載させています。実は三春町では13年度に(1)政策形成能力の向上、(2)多様化・複雑化する行政需要に対応した高度な専門性の発揮、(3)執行体制の強化、を目的として大幅な機構改革を行いました。NPMの考え方を採り入れ、米国のシティマネージャー制度を参考に、課係を廃止して新たに3つの部門にまとめ直したもので、このPDCA活動を支える基盤として事務事業評価を位置づけています。このため事後評価を重視していますが、現状では評価の時期が決算時期と合わないため、目下この改善策を検討しているところです。率直にいって、いまだに行政評価とは何か自問自答しています。ただ、三春町が特徴的なのは「やりながら常に課題の点検を行い、改めるべきところは改善しながら進めていけばいい」という柔軟な姿勢で取り組んでいること。一般に行政には失敗は許されないという雰囲気があるが、あまり計画にとらわれ過ぎると予算管理ばかりに目が向き、本来の目的が疎かになる…。行政評価の目的は精密な評価結果を出すことではなく、改革の推進ですからね。
塩路 その点では、南那須町でも評価をあまり厳密にはしていないそうですね。
坂本 はい。あまり厳密にすると職員の負担感が増し、それが阻害要因となりかねません。現段階では仕事の成果を推し量ることが重要で、実績評価については、例えば「担当者として実績をどう評価するか」「成果を客観的に評価するにはどういう指標を考えるか」などQ&A形式で回答できるようにしています。
塩路 研究会メンバーからも「振興計画と現場意識の乖離」「目標や手段が抽象的」「前年踏襲意識から抜けきれない」「公会計と企業会計との考え方の相違」など、いろいろな課題が挙げられましたが、これらの問題は行政評価というよりも現行の行政組織の限界といえます。そこで研究会では、行政評価をいわゆる事務事業の“点検”に終わらせるのではなく、本来の行政評価――つまり、行政活動の成果を客観的に測定し、これを評価する「パフォーマンス・メジャーメント(業績測定)」ととらえ、その結果を「行政運営の改善に活かす継続的かつ組織的な活動」と定義しました。
佐久間 確かに現場には変革への抵抗感はありますが、一方でそれを上回る期待感もあると感じています。その職員のモチベーションを向上・維持するためには、やはり行政評価を人事評価へ反映させる必要があります。そこで、いま三春町では事務事業評価と個人や組織の目標管理のシステムを一緒にできないかと考えていますが、これがなかなか難しい…。
坂本 南那須町でも行政評価の仕組みを人事評価の一環として活用したいと考えています。また、行政評価の新たな役割として、市町村合併への活用がありますね。現在、南那須町では近隣3町との合併を検討中ですが、市町村合併の特例に関する法律第3条では「合併協議会において市町村建設計画を策定すること」を定めています。関係市町村の既存の計画を寄せ集めただけでは“水ぶくれ”となってしまうが、ここで事業を取捨選択する際のひとつの基準として、行政評価の考え方を採り入れてはどうかと思います。さらに、新しい自治体が特例債を使って事業活動を展開する際にも、行政評価の視点が欠かせない。事業の必要性を説明できないものは実施しないという明確な方針を持たないと、将来、膨大な借金を作ることにもなりかねません。


求められる行政評価システムの姿

◆研究活動を振り返った感想、また今後期待されていることは何でしょうか。
塩路 
行政評価にはIT化が欠かせません。そのメリットとしては、まず職員の負担軽減が挙げられます。職員の負担をできるだけ軽減し、その分、成果を次の活動へどう活かすか知恵を絞ることにパワーを集中すべきでしょう。また、もうひとつは行政経営のツールとして、さまざまな角度からのデータの抽出・分析が可能になることです。つまり、行政マネジメントシステムの構築で、まさに研究会の狙いもここにある。例えば、過去の実績データの抽出・参照・活用、あるいは人事評価や予算編成、人件費コストの集計・分析などで、これによって首長―幹部―現場の間の情報共有化ができ、将来的には住民との協働へと発展させていくことも夢ではないと思います。
坂本 そうですね。行政評価には財務会計システムと連携し、実施計画の管理も含めて行政活動全般を支援するシステムの構築が欠かせません。この点では今後開発されるシステムに大いに期待しています。特に運用面では、調書を作成する際に、その項目ではどんな記述が求められるのか、職員の理解を助けるため「ガイダンス」機能を盛り込むことになりましたが、これは今後、行政評価を導入する市町村にとっても便利だと思います。
塩路 私も「ガイダンス」機能は面白いと思います。これには「説明文」のほか、関連する統計データや自治体内の情報など「評価指標」の掲載が考えられるでしょう。行政評価では、何%達成できれば目標が達成されたとするのか最終判定が難しいが、客観的に収集された指標を用いることで誰が見ても説得力のある評価が可能となります。
佐久間 行政評価はそれぞれの自治体で導入目的も運用方法も異なり、しかも、行政評価は毎年細かい部分で進化していくため、Web対応の柔軟なシステムが完成すれば素晴らしいですね。三春町としてもこれを道具として、行政評価制度をさらに進化させることができる。ただ、そのためにはシートの種類など、まだ検討すべきテーマはあります。実は三春町は、研究会に参加しながら別にシートを作ろうという不心得者で…(笑)。いま、全事務事業のルーチン業務についてマニュアル化を検討しており、これと分析部分のシートを分けたいと考えています。マニュアルの整備は、自分たちのやっている仕事がどのような法律に基づき、どんな手順で行われているのかを整理し、人事異動の際の事務引き継ぎに伴うロスを解消して、担当者が不在でも全職員が対応できるよう情報の共有化を図るものです。そこで、パイロットシステムの開発に向けて、改めて三春案を提示させてもらいました。
塩路 よりいいものとするためにも、そうした皆さんのアイデアをどんどん出してもらうことが必要ですね。最初は、はたして行政評価の標準システムができるのだろうかという疑問がありましたが、今回、地方行政の最前線で行政評価へ取り組む担当者の経験や考え方を集めて、ひとつの方向性を提示できたことは大変有意義だったと思います。ただ、ITはうまく使いこなせば非常に効果的ですが、その前提条件としては使う側に改革意欲がなければなりません。社会環境の急激な変化を受けて、市町村には単に社会資本整備を行うこととは異なるスキルが求められており、従来の発想では今日的な課題に対処できなくなっている。また、電子申告や電子申請が開始されれば、市町村の仕事のやり方も大きく変わるでしょう。そうしたなか、行政評価への関心が高まっているのはいいことで、今回の成果が市町村段階で広く行政評価が導入されていく一助となれば幸いです。そのためにもぜひ多くの方々のご意見を伺いたいですね。



バックナンバーへ戻るspacer新風トップへ