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特集タイトル


『総合行政ネットワーク』接続にあたって、「公共IDC」を活用した共同アウトソーシングへの注目度が高まっている。公共IDCとは何か。どんな点に留意して活用すれば、人・コスト・時間の不足という電子自治体実現の“ボトルネック”解消に役立つのか。日本でいち早くIDCへ着目し、電子自治体の基盤として普及啓蒙活動に取り組んできたiDCイニシアティブ・大橋会長に話を聞く。


◆いま市町村においては、電子自治体の実現に向けた安心かつ安全な情報システムの構築が課題となっており、これを実現する情報インフラの要として「IDC」が注目されています。しかし、言葉としては頻繁に聞かれるようになったものの、その実態はあまりよく理解されていないようで、改めてIDCについて教えていただきたいと思います。
大橋 
IDCとはインターネットデータセンタの略で、ひと言で説明すれば〈電子社会の基盤として、安心・安全なネットワーク社会を築くため、コンテンツやセキュリティなどのいろいろな仕組みを提供する場所〉ということになります。残念ながら姿形が見えないため、一般の方にはあまり馴染みがないと思いますが、すでに私たちが使っている電子メールやホームページのほとんどは、IDCやそこに設置されたサーバを経由してサービスが提供されており、今後、提供される電子行政サービスでもIDCが活用されることになるでしょう。自治体の情報システムといえば、これまでは基本的に行政機関内を対象とする「閉鎖型システム」で、利用者や利用時間も限られていました。これが電子政府・電子自治体の推進によって、インターネット等を介した「開放型システム」となり、利用者は地域の住民や企業へと広がって、近い将来、24時間・365日のノンストップサービスも可能となります。こうした電子自治体システムを構築するには、回線やサーバなどの整備に初期投資がかかり、技術革新へ対応するために頻繁なアップグレードを余儀なくされ、また、システムを安定稼働させるには高度な専門性を有した人材の確保が欠かせません。しかし、小規模市町村が単独でこれらの課題へ取り組むのはかなり困難です。そこで総務省が14年5月に『共同アウトソーシング・電子自治体推進戦略』を発表し、これを受けて、いま全国各地で都道府県が主体となって、IDCを使った共同運営の枠組みが検討されているというわけです。
◆実は、TKCも今年10月にIDCを開設するのですが、公的な組織によって設立されたものだけが「公共IDC」と呼ばれるのでしょうか。
大橋 
これは、IDCが公共の用途で利用されているという意味で、「公共IDC」と呼んでいるものです。形態としては、PFIや第三セクター方式で運用するものもあれば、民間のIDCへアウトソーシングされる場合もあります。都道府県ごとに1〜2か所のIDCを設置する予定ですが、必ずしも都道府県という行政区画にこだわるものではなく、実際、大阪府のように近隣の県や市との共同運営を計画するところや、もっと広域での利用を検討している自治体もあるようです。

重要なのは“インソース”だ

◆ネットワーク社会を支えるインフラの一部として、IDCにはどんな機能が求められているのでしょうか。
大橋 
IDCには、主に3つの機能があります。ひとつは「電子社会を維持するための安心・安全な基盤」として、セキュリティや認証基盤などを提供することです。これはIDC自体の安全性・信頼性に加えて、ネットワーク利用者のセキュリティを確保する仕組みを提供するものです。2つ目は、「技術革新、およびサービスの多様化・拡大への柔軟な対応」で、これは技術革新やサービスの多様化・拡大など環境変化への対応能力を備えるとともに、ピーク時にシステムがダウンしないよう負荷を分散する仕組みを提供します。そして、3つ目が「地域の情報拠点・情報基盤としてのマネジメント」の提供です。これはネットワークシステムの運用・監視など狭義のマネジメントだけではなく、公共IDCを核として地域全体をマネジメントする仕組みを提供するものです。ただ、いまのところ国内のIDCの多くは、「ハウジング」「ホスティング」などを提供している程度で、ここで挙げたような今後の社会システム基盤に欠かせない諸要素を備えたところはまだ少ないのですが、TKCのIDCにはぜひこれらの機能を持つセンターへと育っていただきたいですね。
◆ありがとうございます。ところで、iDCイニシアティブでは「自治体iDC利用研究会」を発足し、自治体の方とともに公共IDCを研究されていますが、市町村の共同化やアウトソーシングへの取り組み状況をどうご覧になっておられるのでしょうか。
大橋 
電子政府・電子自治体の実現といっても、これまでのところはネットワークやLANを構築し、たくさんのパソコンをつないだだけに過ぎず、残念ながらこれを使って何をするのかは、まだ十分に検討されていないのが実情です。いま一度、何のための電子化なのか考えてみる必要があるでしょう。公共IDCも同様で、「アウトソーシングすることを目的とした共同化」と考える人が多く、それでは現行の行政手続や仕組みが各自治体からIDCへと移動するだけで、共同化やアウトソーシングの効果は期待できません。実は、日本には「アウトソーシング」という言葉しかありませんが、米国ではいま「インソースが重要だ」といわれています。「インソース」とは文字通り「アウトソース」の逆の意味で、自分の企業、自治体、地域がどのような強みを持っているのか――いわゆるコアコンピタンスへ集中することが重要だというものです。いま自治体がアウトソーシングを考えるということは、逆にいえば「あなたのコアコンピタンスは何か」を問われていることにほかならないと、まずは理解する必要がありますね。
◆なるほど、その点は行政も民間企業もまったく同じですね。
大橋 
はい、その通りです。例えば、人事であれば給与計算や旅費計算などはアウトソースできるが、人事考課や中間管理職の配置などはできません。もっとも米国の場合は、これもコンサルタントへ任せるようですが…(笑)。そのためには業務プロセスの抜本的な見直しを行い、自分たちのインソースは何で、そのためにどの業務をアウトソーシングすればいいのか見極めることが大切です。例えば、行政のコアコンピタンスとは、「住民一人ひとりが満足するサービスを提供するために、人員をどう割り振るか」「地域産業育成のためにどういう政策が必要か」といったことを考えることでしょう。こうしたインソースの部分で、いかに地域の独自色を出せるかが今後の課題だと思います。
◆単に公共IDCだけの話ではなく、行政の在り方やものの見方という観点からも、認識を新たにする必要がありそうですね。
大橋 
そうですね。また、欧米と比べて、日本には安全かつ安心な電子社会のインフラとして“ネットワークをマネジメントする”という発想が不足しています。例えば、米国ではIDCの発展とともにデジタルデータが爆発的に増え、企業のデータ量は半年間で倍増したといわれていますが、日本でも今後同様のことが起こるのは必定で、いまから対処法を考えておく必要があるでしょう。これについて米国では、すでにひとつのデータをいかに多目的に使うかという「ワンソース・マルチユース」という考え方が広まっています。さらに、データバックアップについても、欧米と日本とでは違った捉え方をしています。市町村では不測の事態に備えて、データのバックアップをしていると思いますが、実はネット社会ではデータが重要なのではなく、何か起きても業務を継続できることが重要なんです。その点、米国のIDCでは、いざという場合のための執務スペースを設けており、(1)アプリケーションも含めて、いつでも稼働できる環境を提供する「ホットスタンバイ」、(2)データだけをリアルタイムでバックアップする「ウォームスタンバイ」、(3)機械だけを準備しておく「コールドスタンバイ」――といった機能も提供しています。日本では、汎用機で特定OSに依存した基幹業務システムを構築している市町村も少なくありませんが、こうしたところでは万が一の場合、システムが復旧するまでにかなり時間がかかることが予測され、その間の業務の継続性をどうやって確保するのか疑問です。仮にシステムが停止してもサービスの入口だけはIDCに確保しておき、後日、復旧後に処理をする、といった“損害を最小限に抑える対策”を講じておくべきでしょう。
◆それを判断するには、CIO(最高情報責任者)など、高いITスキルを持った人材が必要ではないでしょうか。
大橋 
大橋 人材はいるにこしたことはないが、仮にいない場合でも自分たちの強みを考え、場合によっては外部と協調しながら“行政のプロ”として政策的な部分に集中し、専門的な部分は外部リソースの活用を考えることが肝要です。

地域経営の核となるIDC

◆さて、市町村がIDCを有効に活用するためのポイントを教えてください。
大橋 
IDCを利用することで「行政コストが節約できればいい」というのではなく、これをもっと戦略的に利用することを考えるべきですね。“公共”IDCといっても、これが根ざすべきは“地域”にほかなりません。行政には、これまで地域コミュニティの創造を担っているという意識が低かったと思いますが、これは改める必要があるでしょう。例えば、行政が公共IDCに構築した電子入札・調達の仕組みを民間へ開放すれば、地域の中小企業のIT化促進が可能ですし、複数のコンテンツを組み合わせて新しいビジネスモデルを作り、新規産業や雇用の創出へとつなげることができます。さらには、住民や企業、NPOとの協調や知識の活用・発信なども夢ではない。このように垂直型から水平型へ考え方を変えれば、IDCを核としてさまざまな地域経営のシナリオが描けると思います。
◆今後の行政には、そうしたコーディネート能力も必要だということですね。
大橋 
そうですね。IDCというと、何となくデジタル社会の“権化”のようなイメージを抱きますが、IDCはアナログの世界とデジタルの世界を結びつける接点なんです。最近、「情報弱者(デジタルデバイド)」という言葉をよく耳にしますが、実は電子社会のなかで最もメリットがあるのは情報弱者で、そうした人ほど利用できる情報の価値も高い。例えば、身体障害者の方がITを活用して自宅でヘルプデスクの仕事をしている例がありますし、高齢者が遠くまで出かけなくてもいろいろな用事や趣味ができるようになるかもしれない。「ユビキタス社会」といわれるなか、今後より使いやすいITツールが続々と登場することも予想され、その時に地域の情報基盤や仕組みがしっかりしていれば、こうした人びとの活躍する場はどんどん増えていくでしょう。電子自治体への取り組みには、地域によってまだ若干の温度差があるようですが、多少の遅れは気にすることはありません。ITの世界には「リープフロッグ(蛙跳び)」という言葉があります。電子化社会でなぜ日本が東南アジア諸国に追い抜かれたかといえば、ITは一番新しいものが一番安くて一番いいものだからです。いまは後れていると思っていても、先進自治体を追い越すチャンスは、まだ十分にあることを認識すべきですね。


インターネットデータセンタ(IDC)とは…
ネット上の各種取り引きを支える情報拠点のこと。地震対策、電源の二重化、厳重な入退室管理など災害やトラブルに強い堅牢な施設となっているのが特徴で、高速回線への接続やネットワークの多重化により、利用者は信頼性の高いIT運用環境を利用することができる。
 基本的なサービスは、顧客のサーバ一式を預かる「ハウジング」や必要なハードを貸し出す「ホスティング」があるが、最近では大量データを保管する「データストレージ」、アプリケーションを貸し出す「ASP」、ネットへの不正アクセスなどを24時間体制で監視する「情報セキュリティ監視」が提供されるなど、IDCがサポートする分野はどんどん広まっている。


おおはし・まさかず 1949(昭和24)年生まれ。83年、中央大学大学院理工学研究科博士課程修了、93年に中央大学総合政策学部教授、97年に中央大学大学院総合政策研究科教授に。iDCイニシアティブ会長、地方自治情報センター「電子広域生活圏研究会」委員など歴任。主な著書は『インターネットデータセンター革命』『公共iDCとc-社会』など。



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