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今年7月、「e―Japan戦略II」が策定され、電子自治体もいよいよインフラ整備の段階から、これを使ってどんな地域経営をするか――いわゆる「eまちづくり」の段階へとステップアップする。市町村は今後、どんな点に留意しながら新しい地域社会を創り上げていけばいいのか。総務省自治行政局自治政策課の牧慎太郎企画官に聞いた。


大詰めを迎えた
電子自治体基盤整備の現状

◆来年2月、名古屋国税管内において国税の電子申告がスタートしますが、これに向けて、近く全国で「公的個人認証サービス」の実用試験を実施されるとうかがいました。
牧 
「公的個人認証サービス」については、これまで公的個人認証サービス都道府県協議会とともにシステム開発を進めてきましたが、全国実用試験の最終段階であるシステム統合テストを12月1日から実施する予定です。ご承知の通り、公的個人認証サービスとは、申請や届出などの行政手続きが24時間・365日オンラインでできるよう、ネットワーク上における本人確認の手段を全国どこに住んでいる人に対しても安い費用で提供するものです。これにより今年度中には、電子自治体の実現に欠かせない3つの基盤「住民基本台帳ネットワーク」「総合行政ネットワーク(LGWAN)」「認証基盤」がすべて整うことになり、今後はこれらの基盤を活用して電子行政サービスの普及に向けた具体的な取り組みが進展していくことになります。
◆来春以降、電子自治体はこれまでとは違ったフェーズに入るわけですね。
牧 
そうですね。そして、もうひとつ総務省が取り組んでいるのが、共同アウトソーシングによる電子自治体の推進です。全国3200の市町村がバラバラにシステムを導入していては、かえってコストが高くつきかねませんし、電子化が遅れるところもでてくるでしょう。そこで国が都道府県と連携してモデル的な業務処理ソフトを開発し、その成果をほかの自治体にも導入することにより、全国的に共同委託方式で電子自治体を実現していこうというものです。サーバの管理やセキュリティ対策なども複数団体が共同で行うことで、大幅なコスト削減や高い水準での運用が可能になるでしょうし、共同処理センター(地域iDC)の運用を民間へアウトソーシングすることで地場のIT産業の育成や雇用の創出、ひいては地域経済の発展にも寄与できるのではないかと考えています。
◆市町村においては、電子行政サービスの実現に向けた取り組みと併行して、庁内のレガシー(旧式)システムの見直し検討も急がれますね。
牧 
申請件数が多数にのぼる業務では、典型的なレガシーシステムが多く、へたをすれば電子申請されたものを一度紙に打ち出して、再入力するといった事態にもなりかねません。そこで16年度には、これらのレガシーシステムと電子申請の受付をつなぐモデルシステムの開発・実証を行いたいと考えています。また、全国の自治体を結ぶLGWANと霞が関WANが接続されても、これまで郵送やFAXでやりとりしていた文書を単に電子メールの添付ファイルに置き換えるだけでは、オンライン化の効果を十分に発揮できません。さらに、複数省庁から同じような照会が繰り返し行われるといった地方からの不満の声も耳にします。10月24日には「電子行政推進国・地方公共団体協議会」が発足しますが、こうした場における協議を通じて、国と地方を通じた業務改革を推進していきたいと考えています。

ネットワークでつながることは
地方にとって“諸刃の剣”だ

◆電子自治体というと行政の話題ばかり注目されますが、住民側の利用環境の整備も着実に進んでいるようです。
牧 
『情報通信白書』によれば、14年度末におけるインターネットの利用人口は6942万人となり、いまや国民の2人に1人がインターネットを利用している状況です。なかでもブロードバンド加入者は1000万人を突破し増加していますが、その背景には月々3000円程度と世界で最も低廉な料金を実現したことが挙げられます。一方で課題となっているのが地理的な情報格差で、例えばブロードバンドの世帯普及率を見ると、東京や神奈川では30%を超えているのに対し、地方ではまだ10%に満たないところも少なくありません。採算性などの問題もあって民間事業者によるインフラ整備が遅れている地域では、行政が一定の役割を果たす必要があるでしょう。総務省では、17年度までに学校、図書館、公民館などを高速・超高速で接続する「地域公共ネットワーク」の全国整備を目指しており、過疎地域などでは自治体で整備した光ファイバを民間に開放するといった手法も活用して、地域情報化を進めていただきたいと考えています。ただ、情報通信ネットワークが整備されたからと安心してはいけません。地域にとってネットワークにつながるということは“諸刃の剣”となりかねない怖さがあります。
◆それはどういうことでしょうか。
牧 
ネットワークは、これを戦略的に活用すれば住民の生活が便利になり、地域経済の活力を高める効果も期待できますが、無策なままでネットワークにつながってしまうと地域の企業や人材、消費が域外に流出し、かえって地域経済の衰退を招きかねません。例えば、新幹線の開通によって日帰り圏が拡大し、かつて京都、岡山、広島、小倉などにあった企業の支店が次々と消えていきました。また、過疎化が深刻な島根県の中山間地域では、立派な道路が開通したことによって都市部からの車通勤が可能になり、コミュニティ活動の貴重な担い手だった学校の先生や県庁出先機関の職員が地元に住まなくなったという話もあります。さらに、瀬戸内の離島、広島県下蒲刈町では、悲願だった本州との架橋が実際にできてみると5年前に比べて人口は3割も激減、その後、呉市と合併することになりました。つまり便利につながることで、“強いところはより求心力を高め、その周辺は吸い取られる”ということにもなりかねないわけです。これと同じようなことは、情報通信ネットワークでも起こってくるでしょう。インターネットショッピングができれば、消費者としては便利になりますが、地元商店街の売り上げは減少しかねません。また、情報通信ネットワークの整備によって「地方でも東京と同じように仕事ができるようになる」といわれてきましたが、これを裏返せば「東京にいれば地方はカバーできる」ということでもあります。かつて日本の高度成長を牽引した鉄鋼、家電、自動車といった製造業では、地方に立地する工場にも少なからず高度な技術者がいましたが、情報通信ネットワークの整備によって高度な人材の東京一極集中が加速することが懸念されます。しかも、より高度な技術者ほどその傾向が強い。最近、情報通信ネットワークを活かした地方への企業立地の例としてコールセンターがもてはやされていますが、これは日本語の壁に守られているだけで、そこで働く社員の給与は東京のファーストフード並みという話もあります。さらに、日本語に関係ないシステム開発などは、国境を越えて中国などに外注されるケースも少なくありません。これからの高度情報化社会では、新しい付加価値を生み出す人材の動向が地域経済を左右するようになります。そうした人材が住みたくなるようなクォリティ・オブ・ライフの実現、そして地域の知恵と工夫を活かした個性豊かで活力ある地域づくりが求められています。
◆それに対して国ではどんな施策を講じているのでしょうか。
牧 
なかなか難しい問題で、ひとつの施策でカバーできるものではありませんが、総務省では『地域情報化モデル事業交付金(eまちづくり交付金)』を打ち出しています。これは14年度補正予算において新たに創設したもので、総額15億円、全国で100件を採択しました。モデル事業の内容を見ると、地域の創意工夫が随所に盛り込まれていることが分かります。例えば、青森県板柳町では、町が制定した「りんごまるかじり条例」の実証手段として、生産・流通の現場にトレーサビリティシステムを導入しました。板柳町産のりんごにはURLと番号が記載されたシールが貼られており、そのホームページにアクセスするとりんごがどこでどのように栽培されたのかが分かるようになっています。ITの活用により、全国の消費者に「安心」という付加価値を提供しているわけです。また、福島県浪江町は過疎地でバスの便もないため、地元タクシー会社と連携しGIS(地理情報システム)を活用したディマンド型の乗合タクシー事業を展開しています。住民にとっては、多少時間がかかっても乗合タクシーなら交通費は安上がりでしょう。群馬県草津市ではGPS(全地球測位システム)付き携帯電話を活用した観光ナビゲーションに取り組んでいます。これは観光スポットに近づくとリアルタイムで観光情報がメール配信されるというものです。兵庫県西宮市ではWebGISを活用して、車いすやベビーカーを使う住民のために段差のないルートの検索ができるバリアフリーナビゲーションシステムを開発しています。東広島市ではネット上に「お試しベンチャー」を開設し、地元中小企業の新商品やアイデアが実際に売れるものかどうかをテストマーケティングできる仕組みを構築しました。さらに長崎県福江市では、昼間独りになってしまう高齢者のために、何かあれば家族の携帯電話や漁船に連絡が行く安心ネットワーク配信システムに取り組んでいます。

電子自治体の次の課題は
住民が実感できるeまちづくり

◆なるほど。いろいろなアイデアがありますね。電子自治体というと「行政事務の効率化」など何となく無機質な印象を受けますが、eまちづくりの事例からは夢とか人の温もりのようなものが感じられます。
牧 
こうした観点から、もうひとつ総務省が取り組んでいるのが「地域通貨」です。地域通貨は、これまでも紙幣方式や通帳方式などにより、いくつかの地域においてボランティア活動への謝礼として使われたり、地元商店街などで利用されたりしてきましたが、従来方式では利用者は数百人程度に限られていました。そこで「住基カード」に地域通貨のアプリケーションを搭載するなどIT関連技術を活用することで、地域内で消費を循環させる仕組みをつくるとともに、コミュニティの活性化に役立てることができないかと考えています。
◆そうなると、もはや電子自治体の枠を超え、“eコミュニティ”実現に向けた取り組みといえますね。行政も知恵を絞らなくてはいけません。
牧 
おっしゃる通りですね。いまや携帯電話が便利だということは誰もが理解できますが、住民に電子申請・届出の利便性を説明しても実感は湧いてこないでしょう。そのためにも、今後は住民の目に見える形で電子自治体のメリットを示すことが求められています。そして、地域の情報化は行政だけで進めるのではなく、住民や地域の企業、あるいはNPOなどの“知”を結集して“公私協働”で創り上げていくことが必要です。こうしたなかからこれまでにない新しい価値観が生まれ、クリエイティブな人材や企業が育ち、結果として地域の活性化につながっていくのだと思います。無策のまま情報化時代に突入すると、地域の活力はどんどん失われる怖れもありますが、逆に考えれば知恵と工夫次第でどこでも中心になれるのがこれからの時代です。この千載一遇のチャンスを活かし、いかにしてキラリと個性が輝く地域を創造していくか――それが市町村における電子自治体戦略の次なる課題といえるのではないでしょうか。


まき・しんたろう 1964(昭和39)年生まれ、兵庫県出身。86年東京大学法学部卒業後、自治省入省。北九州市企画局調整課長、通商産業省基礎産業局総務課長補佐、島根県企業振興課長、同財政課長、北海道財政課長、総務省情報通信政策局地方情報化推進室長などを経て、2003年8月より現職。



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