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日本経済新聞編集委員
中西晴史
●市町村合併を取り巻く動向●
焦点は小規模自治体問題へ


 11月27日、東京・渋谷で開かれた全国町村長大会。壇上には「切り捨てるな小規模市町村」「強制するな町村合併」などのスローガンを書き込んだ垂れ幕がかかり、出席者約3200人の多くがかぶる紙帽子にも同じ文句が見える。あいさつした全国町村会の山本文男会長(福岡県添田町長)は「まさに今、町村自治は存亡の危機にある」と訴えた。
 町村の危機感には理由がある。首相の諮問機関である地方制度調査会の西尾勝副会長(国際基督教大学教授)が、人口が一定規模以下の団体は自治体としての役割を終え(1)窓口業務だけにする、(2)他の自治体に編入する、との2つの選択肢を含む私案を公表したこと。西尾氏は地方分権推進委員会の委員を務め、平成7年以降の分権論議をリードしてきただけではなく、総務省の「地方自治制度の将来像についての研究会」委員長も務める人物だけに、町村側は警戒を強めた。
 連動する形で自民党地方行政調査会の「地方自治に関するプロジェクトチーム(PT)」も同様の小規模市町村解消の中間報告を打ち出した。
 いずれも人口基準について明示していないが、おおむね1万人未満の自治体が“切り捨て”の対象になるとされている。旧自治省は11年の事務次官通知(「市町村合併の推進についての指針」)で「基幹的な行政サービスを適切・効率的に提供するためには最低1万〜2万人程度は必要」とすでに明示した。中学校、デイサービス・デイケア、在宅介護支援センター、特別養護老人ホームなどの設置の標準人口規模がいずれも1万〜2万人であることが背景にある。
 町村長会に出席した小泉純一郎首相はスローガンを見やりながら、「自主的に、今の規模で本当に皆さんが税財源を維持できるのか、自己決定権のもとにいろいろな福祉サービスなどの公共サービスをできるのか、今のままに交付税を堅持して地方の自主権が拡大するのか」と疑問を投げかけ、合併推進への理解を求めた。

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合併しない市町村は干ぼしに?

 政府は市町村数を現在(3200)の3分の1の1000にまで減らすという「平成の大合併」の旗を振り、目標に向かってばく進する。国、地方合わせて700兆円に迫る債務(14年度末予定)を抱え、財政の危機打開のためには国から地方への地方交付税、補助金を削減しても耐えられる自治体の行財政基盤を確立する。小泉構造改革路線に伴う合併推進の最大の狙いだ。
 当然、合併対象の力点になっているのが各分野の専門職員や財政力でぜい弱な基盤の小規模市町村でもある。図表1に見るように、人口1万人未満の市町村が全国の48%を占める。これらの自治体合併が実現するだけで、政府目標に向けて大きく前進する。一方、図表2にあるように、人口3500人未満の自治体の歳入総額に占める地方税の割合は10%にも満たない。2万3000人以上になって、ようやく30%を超え、「3割自治」ともいえる段階に到達する。
 政府は合併推進のためには容赦なくアメとムチをふるう。合併すれば特例債の起債をたっぷり認め、その元利償還金の70%を交付税で措置する、人口3万人でも特例で市に昇格させてあげましょう(地方自治法本則は5万人)等々、あの手この手のアメで誘導する。
 一方、合併しない小規模市町村は交付税の段階補正と呼ばれる特例優遇措置を引きはがしていく。言葉は悪いが干ぼしにして、合併しか選択肢がないように追い込んでいく。
 合併特例法に基づく優遇措置の期限は17年3月。15年5月ころまでには合併の基本合意をしておかねば事務の詰めをするにも間に合わない、と総務省はせっつく。公共事業削減で干上がる地域経済にとっても慈雨のようにおカネがいただけ、同時に遅れたインフラ整備ができるのならばと、全国の市町村の8割が雪崩を打ったように各地で合併協議を本格化させる。
 総務省幹部は「1000は無理としても2000は切ると思う」と1900台まで減らすメドがついたと自信を示す。ただ、仮にそこまで進んだとしても「合併しない宣言」をした福島県矢祭町(人口7000人)のように応じないところもある。残った小規模自治体をその段階でどうするか、ということで西尾私案や自民党PT案が次の策として登場したわけだ。

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特別地方公共団体として権限縮小との案も

 自民党PTに属する元自治官僚の森元恒雄参院議員は合併後の旧町村を「特別地方公共団体」とする案を提唱する。現在、都道府県―特別地方公共団体(広域連合、一部事務組合)―市町村となっているのを、都道府県―市町村―特別地方公共団体(合併後の旧町村)とし、旧町村の権限は大幅に縮小するが、公選の首長、議員は置くことを可能にする。もっとも無報酬かそれに近いわずかな報酬のボランティアに近い職とする。
 この方式だと旧町村の行政改革は合併で高まる一方、現行法で設置を認める地域審議会よりも地域の意思を明確に新市に伝えることができて自治の保障にもなるという。「長」「議員」の肩書も一応続くとあって、小規模町村も乗りやすいとみる。
 11月下旬に大阪・和泉市で開かれた日本自治学会(会長・西尾勝氏)。富野暉一郎・竜谷大教授(元神奈川県逗子市長)は「プライドを持って頑張っている小さな町をなくす必要があるのか」と西尾会長を突き上げた。西尾氏は「自民党が都市部の選挙で大敗したのが原因」と政治主導の現実に理解を求め、釈明した。
 住民無視の合併の是非論には疑問が残るが、いずれにせよ今後、小規模市町村のあり方を巡って、激しい論争が起こるのは必至だ。



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