bannerkantou.gif


“住民”誘致こそが地方の発展戦略
慶應義塾大学経済学部教授
島田晴雄
しまだ・はるお 1970(昭和45)年、慶應義塾大学大学院修了後、米ウィスコンシン大学で博士号取得。学術研究の傍ら、2001年9月から内閣府特別顧問、今年4月より富士通総研理事長を務めるなど日本有数の国際派エコノミストとして幅広い分野で活躍。



 いま全国の地方自治体は、大変厳しい環境下におかれている。地方経済もまた同様だ。日本全体では景気は上向きつつあるが、改善傾向にあるのは首都圏と輸出関連産業などに限られ、地方は地域産業の衰退や雇用悪化、中心市街地の空洞化などの問題を抱えたまま、一向に回復の兆しが見えてこない。
 戦後、日本は経済資源を大都市圏に集中させ、その富を地方へ再分配することで発展を遂げてきたが、ここ10年ほどでその構造は大きく様変わりした。もはや地方交付税や補助金、公共工事に頼ることはできない。そうした地方に、果たして再生のシナリオはあるのだろうか。
 私は、地方発展の唯一の戦略は、「人の誘致」にあると考える。
 いま、大都市圏に暮らす人々の半分は、多くの資産を持ちながら、一方で住宅や介護、健康など将来の暮らしに不安を抱いている。そうした人々は、きれいな水や空気があり、食材が新鮮なところで、健康で安心・快適な老後を過ごしたいと願い、それを叶えるために必要な「情報」を求めているのだ。こうした人々の“ウォンツ”に着眼すると、経済発展の大きな可能性が見えてくる。
 逆説的にいえば、地方でこそ彼らの“ウォンツ”を満たすことができるといえるだろう。実際、そうした可能性を秘めた地域は日本各地に存在するが、これまで多くの地方には「人を誘致する」認識がなかった。
 間もなく団塊の世代たちが定年退職を迎えるが、年間120万人に達する彼らを“誘致”すれば、自然と商店が興り、地域産業も活性化する。工場を誘致しても事業が赤字では税収を期待できないが、生活者は赤字でも税金を払ってくれるのである。
 数は少ないが、すでに「人の誘致」を進める自治体はある。“北の湘南”といわれる北海道伊達市では、地域を挙げて住宅や高齢者ケア、スポーツの充実などに取り組み、定年退職者へアピールしてきた。それが道外からも注目され、転入者が年々増加。国土交通省の『平成15年都道府県地価調査』では、地価の年間上昇率で全国トップと3位になっている。
 人を誘致するために、特別なお金はいらない。道路や土地の整備なども不可欠な条件ではない。必要なのは、地域に未だ根強い「余所者」へ対する排他的な考え方を改めることである。都会のカルチャーを持つ人々が地方の人々と一緒に楽しく暮らせるまちをつくり、人々をお招きする。これを主体的に行うのは民間企業であり、地域住民だ。
 行政は「このまちへいらっしゃい。一緒に住みましょう」と情報発信するだけでいい。情報を求める人々へ、いかに“こっちの水は甘いですよ”とアピールすることができるか――地方の腕の見せ所である。



バックナンバーへ戻るspacer新風トップへ