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特集タイトル


 地方公共団体における情報システムのアウトソーシング(外注)は、いまに始まった話ではない。1970年代から80年代にかけて、市町村がコンピュータを利用するには地域の共同センターに委託せざるを得なかった。コンピュータが高価で、プログラムを作ったり運用する技術者が絶対的に不足していたためだ。
 これに対して現在はどうかというと、ハードウェアは小型化し、性能が向上し、値段がどんどん下がっている。クーラーをがんがん利かせた専用ルームは要らないし、操作も簡単になった。事務処理用のプログラムはパッケージで販売され、ないしパソコンにプリインストールされている。インターネットという便利なコミュニケーション手段もある。
 つまり「情報処理」あるいは「データ加工」という観点では、年に1、2回の頻度で行われる大量一括処理を除けば、アウトソーシングの価値は相対的に低下している。ところが、ここ数年、地方公共団体におけるアウトソーシングが再び脚光を浴び、7年間・総額115億円というような大型契約を結ぶケースも出てきた。アウトソーシングの位置づけが、質的に変わってきたのである。

岐阜県ホームページ(http://www.pref.gifu.lg.jp/

県内産業の振興もテーマ

 7年間・総額115億円というアウトソーシング契約を結んだのは岐阜県である。3年前、同県は「電子県庁」の構築を主目的に既存システムの統合、IT関連コストの削減、事務の効率化を図ることを決めた。併せて「地域ネットワークを活用した県内産業の活性化」というテーマを掲げ、外部のIT専門会社に総合的・戦略的な提案を求めたわけだった。
 115億円という契約は、一見すると大変な金額には違いない。だが、情報システムの再構築とネットワークを含む運用管理および、サービスレベルの保証などによって派生するコスト(ハード、ソフト、設置スペース、人的資源など)の圧縮は約36億円というから、その通りにコトが運べば住民にとってのメリットは大きい。
 ただちに情報システムにかかわるわけではないけれども、都道府県レベルでは大阪府や静岡県が総務業務を外部の専門会社に委託し、例えば大阪府ではそれによって350人程度の人員削減が見込まれている。静岡県は各部局が個々に行っていた総務業務を一元化する「総務事務センター」を開設し、ここに専門会社から要員を派遣してもらう形を取った。
 先進的な取り組みが注目されているのは福岡県だ。同県は福岡、北九州という区政を敷く2つの大都市を抱え、九州経済の中心的な存在だが、電子自治体に向けた動きでも“フラグシップ”の役割を果たしている。2.4ギガビットの基幹ネットワーク「ふくおかギガビットハイウェイ」で福岡、行橋、北九州、宗像、直方、田川、飯塚、久留米、大牟田の県内9か所を結び、福岡市にある民間のデータセンターを全県規模の共同センターに位置づけたのだ。

福岡県ホームページ(http://www.pref.fukuoka.jp/

 総合行政ネットワーク(LGWAN)のアクセスに80を超える県内市町村が利用しているのをはじめ、「電子自治体共通基盤」として税務、人事給与、財務会計、文書管理、電子決裁、電子申請、電子調達、住民向け/職員向けポータルといったアプリケーション・サービスをデータセンターで提供する構想を推進している。ポイントはギガビット・ネットワークを民間にも開放し、IT人材の育成までカバーしていることだ。
 表立ってではないが、同県のネットワークはインターネット・エクスチェンジ機能を独自確保したことに最大の特徴がある。情報の蓄積、交換、処理、加工、アプリケーション・サービスなどは民間のデータセンターにアウトソーシングするが、基盤となるネットワークは県と市町村の自前だ。それをベースに、電子行政システムと民間の団体・企業、教育機関などのIT活用が展開されている。

基幹系システムを外部に

 市町村でも新しい形態のアウトソーシングが始まっている。

静岡県蒲原町ホームページ(http://www.town.kambara.shizuoka.jp/

 静岡県蒲原町は住民情報の第2次データバックアップをTKCインターネット・サービスセンターに委託したのをきっかけに、現在は庁内で運用しているサーバーの完全撤去――ホスティングを含めたアウトソーシングを検討しているし、福島県喜多方市は住民登録、国民年金、国民健康保険、各種税金関係などすべての基幹業務システムを市内にあるデータセンターへアウトソーシングする。今年度内に庁内に設置されるのはクライアント・パソコンだけになる。
 ユニークなのは千葉県市川市だ。首都・東京のベッドタウンであり、松戸、船橋、浦安といった首都圏東部衛星都市の中核的存在でもある同市は、情報システム部門そのものが庁内から出て、官民連携の情報化推進拠点「いちかわ情報プラザ」内に設けられた電子行政サービス窓口へと進化。情報システム部の職員が市民とカウンター越しに対話する環境を作ってしまった。さらに行政職員が担当してもおかしくはない業務を、市民パワーによるNPO(非営利事業法人)に移管している。

いちかわ情報プラザ
http://www.city.ichikawa.chiba.jp/plaza_top/index.html

 市民を対象にしたパソコン講習やいちかわ情報プラザ、インターネット・カフェの運営をNPOに委託しているほか、市内のコンビニエンスストアに電子行政システム用端末を設置し、酒屋さんや薬屋さんなどで電子的に申請された住民票が交付されている。さらに起業支援、インターネット対応の市民大学講座、域内空きマンションの情報提供もNPOに委託するなど、「行政への市民参加」から「市民参加型の行政」への転換が図られている。
 山形県長井市はある大手コンピュータ・メーカーに基幹系情報システムの開発から運用・保守までを一括してアウトソーシングする契約を結んでいる。契約期間は五年、契約金額は5億6600万円で、1億円のIT関連コストの削減が見込まれている。当面は基幹業務システムが対象だが、将来は電子自治体システムの管理、運営も視野に入れているという。

背景に制度改革と税収減

 こうした動きが活発になった理由は、次のいくつかに集約できるだろう。
 まず制度改革がある。きっかけは公的介護制度だったのではないか。行政が所管する領域だが、介護の実務は外部に委託せざるを得ない。情報システムの構築や運用ばかりでなく、業務そのもののアウトソーシングという認識が生まれた。むろん民間企業における間接業務の外注化という動きが背景にあって、地方公共団体にそれが波及したことは否めない。
 もう一つは社会・経済の環境変化である。端的なのは税収の減少がコスト削減の必要性を認識させ、特に情報システムでは「目に見えないコスト」やネットワークのセキュリティ(ハッカー、コンピュータウイルス)、データのセーフティ(バックアップ、情報漏洩)、サービス品質(情報公開、行政レスポンス)などを含めたトータルコストに目が向いた。
 第3の要因は、旧来から指摘されてきたアウトソーシングのメリット(新しい技術の習得、専門技術者の養成、システムの保守・管理、ハードウェアの設置場所、物理的な安全対策や国際基準に準拠したセキュリティ認証など)が理解されたことだ。ハード、ソフトの小型化、高性能化、低価格化がエンドユーザー・コンピューティングを促進し、メインフレームやオフコンを中核とする「レガシー・システム」の硬直性、自己運営によるシステム拡張や個々のニーズへの不都合が浮き彫りになったのである。
 結果、センター型の一元管理と客観的な効果測定が要求されるようになった。ただし臨時的に発生する情報処理やアプリケーション開発のニーズにどのように対応するか、データ管理のルールをどう定めるかなど外部の専門会社との取り決めが重要であることはいうまでもない。例えば岐阜県ではIT専門会社と120件のシステム開発とIT振興政策について、業務の品質保持のために65項目の客観基準を設定した。それに基づいてサービスレベルの協定を締結し、責任範囲を明確化するとともに効果測定が行えるようした。実務が動き始めたとき、この協定が大きな意味を持つはずである。

住民向けにCRMシステム

 政府が「e―Japan重点計画」で掲げた電子自治体システムは、こうした動きに拍車をかけるトリガーになった。総務省の指針に「オープンソース」と「アウトソーシング」が取り上げられ、事実、LGWANの稼働がデータセンターの利活用に結びつきつつある。共同センターのサーバーにインストールされたアプリケーション・プログラムをネットワークで利用するASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)はその一環であるし、福岡県のケースがこれに当たる。


 一方、市町村では「地域コミュニティの再生」というテーマが浮上している。札幌市が導入した住民向けCRM(カスタマ・リレーションシップ・マネジメント)システムは、市民による行政評価に道を開く一つの事例であろう。同市の場合は自己運営だが、システムそのものは外部からの導入であって、実務は外部要員によって行われている。地域住民のコミュニティ形成をITによって支援する場合、行政事務管理系のシステムでは対応できず、しかもその運営を庁内で行うには限界がある。そこで市民パワーを活用しようというのが市川市の提案だ。
 ITを活用した地域産業の育成・振興は岐阜県のアウトソーシング・プロジェクトで大きなウエイトを占めている。直接的な行政事務としては電子調達や電子申告・納税などが想定されるが、結果としてそれが地域産業の情報化に結びつく。市町村のインターネット・ポータルの多くが地域の観光地やイベント、物産などの情報を取り込み、外部に向けて発信しているのは、そうした動きを端的に示している。
 電子商取引推進協議会が行った「電子自治体システムに関する調査」(有効回答686団体)によると、 都道府県では「申請様式等のダウンロード」(80%)、「統計情報提供サービス」(70%)、「条例規則データベース」(60%)など、情報提供・公開面での電子行政サービスの実現が進んでおり、「電子申請」「電子調達入札システム」「電子申告」について、7割以上が「検討中/構築中」と回答している。一方で「電子自治体システムの構築」について、市町村の約4割が「アウトソーシングは考えていない」と回答しており、アウトソーシング活用の効果についても「専門ノウハウの活用」「人材不足」「コスト削減」を認める回答は3割にとどまっている。
 なぜアウトソーシングに踏み切れないかというと、「業者選定の基準」が確定できず、「トラブル時の対応」や「予算確保」「機密保持」が課題となっている。いずれも地方公共団体の内部の課題であり、運用形態を含めた指針や民間事業者のレベルを判断する客観的基準が求められることを意味している。先進的な取り組みを示すいくつかの事例が、今後“基準”を作っていくことになるのだろう。


つくだ・ひとし 1951(昭和26)年生まれ。74年、中央大学経済学部卒。大手ソフト会社を経て、IT関連の取材と執筆に従事。日韓IT協定に協力したほか、市町村アカデミー講師、東京都中央区情報化検討委員など歴任。現在、講演活動のほか『月刊LASDEC』(財団法人地方自治情報センター発行)などで執筆活動を展開中。



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