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特集タイトル


いま行財政改革の有力な手段として、アウトソーシングを活用しようという意識が高まっている。電子自治体実現に向けた「共同ITアウトソーシング」もそのひとつ。電子自治体というとどうしても情報化整備に目を奪われがちだが、目標とすべきは“最高のサービス”を“最低のコスト”で実現すること。そのための手段はいろいろある。肝心なのは最も適した方法をどう選択するかだ。


 最近、自治体向けのアウトソーシング・セミナーが盛況だ。この分野で先進的な高浜市(愛知県)、志木市(埼玉県)、宗像市(福岡県)には自治体の見学者が相次いでいるという。超高齢社会を目前にして財政危機が深刻化しており、これまで行政需要の拡大に応じて肥大した事業を“選択と集中”によりスリム化しようとするものである。
 アウトソーシングとは「ある組織から他の組織に対して、組織の機能やサービスの一部を委託すること、あるいは組織に外部経営資源の一部を導入すること」だ。行政においては、これまで補助的・定型的な周辺業務で一部アウトソーシングを行ってきたものの、基本的・非定型的な基幹業務では民間に比べて少なかった。しかし、ここ数年で行政のアウトソーシングは急速に広まっている。

行政のコア・コンピタンスとは何か

 オズボーン(Osborne,D.)とゲーブラー(Gaebler T.)が、19992年に著書『リインベンティング・ガバメント』の中で次のように述べている。
 〈お役所仕事の非能率性は、行政に働く人々にあるのではなく、システムすなわち行政制度そのものにある。そして、「船を漕ぐ行政」から「舵取りを行なう行政」に変革することが必要である〉
 この「船を漕ぐ」とはサービスを提供すること、「舵取り」は政策の決定を比喩している。政策立案の能力や公権力の行使にあたるもの(許認可、土地収用などの強制執行、税の差し押えなど)などは、自治体が内部に保有すべきコア・コンピタンスである。もちろん、政策立案の一部は外部委託が可能だが、その場合でも枠組みや仕様は委託する側にないと主体性が失われてしまう。政策立案は結局、人材によって支えられるからである。
 要するに、行政は「舵取り」に集中し、得意でない「船を漕ぐ」のは専門的な民間事業者を活用した方が、結果的にさまざまな住民へ対処できる。行政は必ずしも自ら公共的サービスやモノを生産する必要はなく、それらが正当な基準にもとづいて適切に提供されているかどうかを確認すればよいという考えである。納税者である住民の側からみると、公共サービスが官によって供給されるか、民によって供給されるか、あるいは両方の混成によって供給されるかはどちらでもよく、要は税金の払いがいのあるサービス水準が確保されればよいのである。
 このように考えれば、自治体業務は単に庁舎清掃、警備、ごみ収集、電話交換、庁舎受付・総合案内、施設管理などの周辺業務のみならず、上下水道、交通、税務、福祉、住民台帳管理、情報システムなど基幹業務を含む多くが民間に委託可能であることが分かろう。すでに、競争力のなくなった周辺業務が民間委託に移行したように、今後は基幹業務が委託の是非の対象になってくるだろう。現に、三次市(広島県)のように、水道事業について管路の維持管理を除いて運営委託に踏み切るところも出てきている。

電子自治体をめぐるアウトソーシング

 さて、アウトソーシングが最も進んでいる施設は公園・児童遊園で、次いでコミュニティセンター、市区民会館・公会堂、市区営病院・診療所の順である。施設以外では本庁舎清掃、可燃ごみ収集で多くの自治体が業務を委託している。公園や市民会館など公共施設の管理運営が大幅に増えているのは、規制緩和による「指定管理者制度」の影響が大きい。これは、民間活力を住民サービスに生かすことを狙いとして平成18年より本格実施される制度で、すでに北九州市や東京都では先行的に導入されている。
 ほかにも民間資本を活用して社会資本整備を行う「PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアチブ)」や、最近注目されている「市場化テスト」がある。指定管理者制度やPFIが公共施設を対象とするのに対し、市場化テストはサービスを含む全般について民間と官の間で競争入札を行い、優劣の判定を第三者機関が担うという制度だ。政府の規制改革・民間開放推進会議では、平成18年から市場化テストの実施を計画している。
 電子自治体をめぐるアウトソーシングも、そうした行政アウトソーシング潮流の一部と捉えられる。21世紀に入って政府主導の下にe―Japan構想が打ち出され、電子政府・電子自治体の構築が進められてきた。これまでに、共通基盤については公的個人認証サービス、組織認証、住民基本台帳ネットワーク、総合行政ネットワークなどが、また自治体ごとには行政や教育機関などを結ぶ地域イントラネットが整備されている。
 そして現在推進されているのが、諸外国にも例のない官民連携による、住民サービス(フロント・オフィス)業務と内部管理(バック・オフィス)業務に関する「共同ITアウトソーシング」である。民間企業に比べ、もともと自治体の業務は類似性・共通性が高く、相互の競争性も低い。したがって、複数自治体の共同開発・運用は個別のそれに比べて効率性が高い。それを都道府県ごとに、各市町村の住民サービス業務と内部管理業務を民間へ委託する計画が共同ITアウトソーシングだ(図1参照)。


 一般にASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)の形態をとる場合が多く、サービス対象は図2のとおりである。これによって効率性向上のほか、住民サービス向上やIT関連産業との連携による地域の雇用創出も期待される。
 共同ITアウトソーシングでは、住民サービス業務である、(1)電子申請・届出・申告、(2)電子入札、(3)電子調達、(4)電子認証・公証(5)電子収納――などの実証実験がすでに行われ、また内部管理業務では、平成18年を目途に、(1)文書管理、(2)財務会計、(3)人事給与、(4)電子決裁、(5)税務、(6)住民記録、(7)福祉――などの実施が計画されている。適用業務は新規業務のみならず、レガシーシステムのリニューアルも視野に入れられている。
 都道府県を中心とする共同化については、今年1月現在で、市区町村と共同して取り組むところが45団体(96%)と、多くの都道府県が推進中である。また、39団体において推進連絡・協議会が設立されている(5月現在)。
 ただ、すべてが順調に進んでいるわけではなく温度差がある。協議会では、適用業務の選定、業務フローの調整、賦課金の分担方法、インターネット・データセンター選定基準、SLA(サービスレベル・アグリーメント)案の作成や契約方法などを検討し、合意形成が必要だが、そのためには都道府県のリーダシップが求められる。理論的にはいいこと尽くめでも、「どのような適用業務を選定するのか」「何団体が参加するか」「賦課金がどの程度になるのか」「技術革新など環境変化に柔軟に対処できるのか」など、対応次第では効果が上がらないことにも注意が必要だ。また、自治体における知識・ノウハウの集積不足をどう補うかも課題である。

ポイントは最も適合するものを選ぶこと

 アウトソーシングは行財政改革の有力な手法であるが、いつの場合でも最適なわけではない。自治体にサービスやコストで民間に対抗できる競争力があるならば、それは当然内部で行うのが望ましい。
 しかし、ほとんどの自治体では、これまで行政需要の多様化に応じて多くの事業を抱え込み、本格的な行財政改革・業務改革をしてこなかったことから高コスト構造となっているのも事実である。いまこそ“選択と集中”によりコア・コンピタンスへ資源を集中することが必要だ。それはとりもなおさず、自治体がそれぞれ光り輝く“オンリーワン”を目指し特徴づくりをすることでもある。そのため、コア・コンピタンス創りには「Buy―In型(外部経営資源の一部導入)」のアウトソーシングを活用し、高コスト構造の事業には「Push―Out型(機能やサービスの一部委託)」のアウトソーシングを活用することだ。
 ひと口に共同ITアウトソーシングといっても、前述の都道府県単位の方法以外にいろいろな選択肢がある。市町村によっては、以前から広域行政協議会を組織して情報センターを設けたり、地域のITベンダーに共通業務を委託し実績を上げてきたところもある。また、横須賀市が都道府県の枠を超えて電子入札の一部業務を複数団体で共同運用したように、同一規模程度の自治体が連携する方法もある。さらに事例で取り上げた鹿沼市(栃木県)や三芳町(埼玉県)のように、ITベンダーが提供するASPサービスを効果的に活用する手段もある。
 総務省は今年8月、ユビキタスネット社会に向け『ICT(情報通信技術)政策大綱』を発表し、e―Japan構想に代わって、平成22年を目標とする「u―Japan構想」を打ち出した。時代が再び大きく動き出そうとするいま、自治体には多様な選択肢のなかから最も適合するものを選び、他の自治体や住民・地域と“Win&Win(共存共栄)”を図ることが求められているのである。


しまだ・たつみ
中央大学法学部卒。大阪市立大学博士(経営学)。都立科学技術大学教授を経て、02年より現職。総務省「電子自治体のシステム構築のあり方に関する検討会」、「地域づくり懇談会」委員などを務める。『自治体のアウトソーシング戦略――協働による行政経営』(ぎょうせい)など著書多数。



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