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政府は開会中の通常国会に、介護保険制度改定法案を提出。平成21年度をメドに、給付の見直しや現在40歳から徴収している介護保険料の徴収範囲の見直しなど抜本改正を行う。介護保険だけではなく、18年度は医療保険制度改革、19年度は年金一元化問題、消費税率引き上げを含む税制改正を控えている。自民、公明、民主は19年3月までに段階的に社会保障制度全般を見直す3党合意をしているが、受給者への給付抑制と負担増大がセットになっている。少子高齢化時代において、社会保障の先行きが見えない、大波乱時代が幕を開けた。


 厚生労働省は平成12年度にスタートした介護保険制度17年の改定で、(1)要介護度の低い軽度介護者に対するサービスの抑制、(2)障害者を対象にした支援費制度と統合し、保険料徴収年齢を40歳から20歳に引き下げる――との2つの柱を掲げた。高齢者や、要介護認定の申請者増でサービス給付費は増え続けている。現在、介護保険料は月額約3200円だが、不正受給者の摘発や、給付を抑制してもこのままだと、18年からの次期改定では3900円以上にアップする。
 しかし保険料徴収年齢引き下げについては、現役世代保険料の半額を負担する経済界の反対や、選挙への影響を心配する自民党などの消極的意見が反映。介護保険制度改革を議論してきた社会保障審議会介護保険部会(厚生労働相の諮問機関)は16年12月10日、保険料徴収年齢(現行40歳以上)を引き下げ、障害者福祉制度の一部を統合する必要性は認めながらも、結論を先送りした。
 これを受けて、厚生労働省は今年1月召集の通常国会に提出する介護保険法改正案に、対象拡大策の盛り込みを断念。今回の改革では、「要支援」と「要介護1」と認定された要介護度が軽い人に対する訪問介護サービスを、(1)筋力トレーニングなど重度化を防ぐ「新予防給付」に切り替える、(2)現在は保険給付されている介護施設入居者の居住費、食費を自己負担とする――などを決めた。新予防給付は18年4月から、施設入居者の負担増は17年10月から実施される。

平成21年度をめどに介護保険受給者・徴収範囲を拡大

 介護保険受給者拡大について意見書は実施する時期に関して「『2009(平成21)年度以降』と明確化すべきだという意見と、時期尚早という意見があった」と両論を並べ、「速やかに検討を進め、結論を得ることが求められる」と記した。
 厚生労働省は通常国会に提出する介護保険法改正案の「本則」に介護保険の拡大を明記し、18年度から実施する方針で臨んだが、自民党や経済界の根強い反対を受け、「付則」に盛り込むよう与党に働きかけた。この結果、自民、公明両党は2月1日、「社会保障に関する制度の一体的な見直しと併せて検討を行い、その結果に基づいて、21年度をメドとして所要の措置を講じる」との文言を盛り込むことで合意した。自民党は受給者拡大に慎重で、具体的な年限を入れない方針だったが、公明党は賛成論を主張、野党民主党の一部もこれを支持した。自民党は国会で、民主党が法案に反対した場合、昨年の年金国会に続いて、審議が混乱することを恐れ、「付則なら拘束力はない」と国会対策上、妥協したとみられる。


 また、介護保険制度の改革に続いて、医療保険制度改革の論議も本格化する。
 政府は、平成15年4月からサラリーマンの医療費と家族の入院費自己負担を2割から3割にアップし、厚生労働省は医療保険制度改革の基本方針を示した。これによれば75歳以上の後期高齢者の新しい保険制度を創設し、公費負担を現行の3割から5割にアップ。高齢者にも1割程度の保険料を負担してもらうシステムや、政府、市町村、健保組合に分かれている保険者の都道府県単位への統合などを導入する方針。18年度、改革関連法案を通常国会に提出し、20年度の実現を目指すことにしている。
 しかし、公費負担を増やす際に、その財源をどこに求めるか、高齢者医療制度の対象者に、どれだけの保険料負担を求めるのかなど課題も多い。

市町村など医療保険者を都道府県単位で統合へ

 厚生労働省は1月26日の社会保障審議会医療保険部会に、中小企業のサラリーマンが加入する政府管掌健康保険の見直しに関する「論点」を提示した。政管健保は社会保険庁が政府保険者として運営しているが、これを都道府県単位に再編、運営から切り離し独立行政法人化することも検討される。
 社保庁は年金保険料の事務費、職員厚生費への流用、幹部職員の汚職事件などが続発。与党は同庁解体案を議論しているが、政管健保業務が都道府県単位に分割された場合、残る年金業務は大幅に民間委託し、年金運営組織を独法化する案が浮上している。平成15年3月の閣議決定で政管健保について、「財政運営の都道府県単位化」が決まっている。政管健保を分割した場合、完全分離なら、長野県は保険料率が7.5%だが、北海道は8.7%になるという。都道府県ごとの保険料率(現行は年収の8.2%、労使折半)にどの程度地域差を反映させるか、などを検討課題にあげている。
 また、市町村が保険者の国民健康保険についても財政赤字が問題になっているが、都道府県段階への統合に関しては自治体側の反対意見が強い。


 厚労省は焦点となっている75歳以上を対象に新設する「後期高齢者医療保険」の運営者を自治体にする意向だが、財政がひっ迫している国民健康保険などに加えて新制度の保険者となることに市町村が反対しており、その調整は難航しそうだ。国の補助金を削減し、地方自治体への財源委譲を進める三位一体改革で、厚生労働省は都道府県への補助金を削減して、都道府県の裁量を拡大する方向を打ち出したが、まだ警戒感も残っている。
 一方、平成16年の年金改定で、与党の強行採決などを経て(1)厚生年金保険料現行13.58%を、16年10月から毎年0.354%ずつ引き上げて、29年度以降18.30%に固定。国民年金は17年4月から毎年月額280円増やして、29年度以降は1万6900円に固定する、(2)国民年金の国庫負担を2分の1に増やす。19年度をめどに消費税を含む抜本的税制改革を実現。21年度まで2分の1への引き上げを完了する――という内容の改定案が決まった。
 保険者の負担増と給付の切り下げを中心にした内容で、さらに年金財政安定化のための国庫負担増は消費税アップを視野に入れている。また平均所得の50%に当たる年金額を確保するというが、合計特殊出生率1.32が1.39に回復するのが前提になっている。


 民主党は「抜本改革になっていない」と対案を提出した。その内容を要約すると「年金を一元化して、所得比例年金に変える」一元化案。これは年金保険料を、払った額に見合う給付を受けるスウェーデン方式を参考にしている。多く払えば多く受け取れ、一方で低所得者は税金で最低保障年金を確保する。財源は消費税3%アップで賄う。保険料は据え置きで、給付は現行額を維持するという。
 これに対し、政府・与党は(1)対案に具体的な数字が入ってないので中身が不明確、(2)厚生労働省が検討したところ民主党試算でも消費税6%アップが必要、(3)国民年金加入自営業者の所得捕捉が難しいため保険料率が公平に決められず早い時期の一元化は無理――と反論している。

年金一元化など与野党合意もこう着状態続く

 与野党の意見は対立しているが、昨年5月、年金制度改革を含む社会保障制度の見直しについて、自民、公明、民主の3党は次のように合意している。
1.衆参両院の厚生労働委員会に小委員会を設置し、年金の一元化問題を含む社会保障制度全般の一体的見直しを行い、2007年3月をめどに結論を得て随時実施を図る。
2.与野党で、2004年から年金の一元化問題を含めた社会保障制度全般の一体的見直しのための協議会を設置する。
3.年金保険料については、社会保障全体のあり方の検討状況や経済社会情勢の変化などの事情を勘案し、必要に応じ検討を加えていく。
 本来は、与野党が協議のためのテーブルに付いていなければならないが、昨年の参院選後、民主党が躍進したこともあり、党内では年金改革を始めとする社会保障制度の改革に対する与党側の姿勢があいまいだとして、3党合意を破棄すべきだとの意見も出ている。自民党は国会外に政党間協議の場を作ることを目指すが、民主党は国会内での小委員会設置を主張。自民党は年金改革について「消費税率引き上げの議論は避けられない」とみており、与野党協議によって民主党を土俵に引っ張り込み、消費税率引き上げの「共同責任」を負わせたい意向。民主党も協議自体は早期に開始したいが、政党間協議では自民党との「密室」イメージを植え付けられかねないとの思いがある。両党とも協議を開始したい思惑で一致しながら、こう着状態が続いている。
 しかし、社会保障の給付・負担費用は伸び続けている。一般歳出の4割以上を占める社会保障費は、平成16年度86兆円だが、平成37年には1.8倍の152兆円に達する。
 受益者の負担もアップするが、公費負担も増える。例えば、介護保険料抑制のための公費負担増、医療保険改革の高齢者医療制度公費負担3割から5割への増、国民年金保険料の3分の1負担から2分の1負担増、と軒並み公費負担増が求められる。いずれもはっきりした財源の手当は付いていない。経済界や、財務当局は消費税のアップは避けられない、との見通しを明らかにしている。
 小泉首相は「消費税の議論をすることは妨げないが、在任中には引き上げない」と言い続けているが、小泉首相の自民党総裁任期は来年9月に切れる。消費税増税のタイミングは、それをにらんで平成19年度以降に集中している。
 三党合意の社会保障制度全般見直しは19年3月▽17年度の与党税制改正大綱は19年度をメドに消費税を含む税制抜本改正▽細田官房長官の私的諮問機関「社会保障のあり方に関する懇談会」が、18年6月までの小泉内閣骨太の方針に会わせて報告書を提出――となっている。

社会保障改革が政権交代をかけた政治テーマへ

 さて、毎日新聞の世論調査(1月6日付)では、介護保険サービスを障害者も使えるようにすべきかについては「賛成」79%、「反対」11%。給付範囲を広げることには賛成意見が多いが、保険料負担の拡大については意見が分かれた。また社会保障費をまかなうための消費税率アップを「理解できる」44%、「理解できない」46%と二分されている。50歳代以上の高齢者は「理解」が「理解できない」を4〜9ポイント上回るが、30代では「理解できない」が55%と、各年代で唯15割を超え、「理解」の38%を大きく上回った。若い年代には負担増への抵抗感が根強い。保険料を支払う現役世代と、受給者世代の高齢者では意見が食い違うのは当然だが、いずれの世代も将来の社会保障制度に一様に不安を抱いている様子がうかがえる。
 これから団塊世代が社会保障の受給者世代に入る。給付と負担のあり方、消費税アップの議論も避けられないだろう。国民にとっては、負担が少なく、給付が多ければ不満は出ないだろうが、これからは痛みや犠牲を伴う改革が伴う。与野党は社会保障改革をテーマに、次期総選挙の政権交代をかけて、議論をすることになろう。



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