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個人情報保護法がスタート
明星大学人文学部 心理・教育学科教授
大橋有弘
おおはし・ともひろ 1969(昭和44)年、東京大学教育学部卒。行政管理庁、総務庁において主として行政の情報化推進政策に従事。その間、国連ESCAPにおいて、政府情報システムアドバイザーの任に就く。92年総務庁を辞職。現在に至る。専門分野は情報政策。



 「個人情報の保護に関する法律(以下保護法)」の施行を目前に控え、地方公共団体が対応すべき事項等をみておく必要があろう。
1.個人情報保護法制定の経緯
 今後の個人情報保護の考え方、具体的な方策を考える上での参考として、保護法の制定にいたる経緯を概括して、同法の意義や性格を明らかにしておく。
 同法は住民基本台帳法改正の国会審議において、国全体の個人情報の保護方策が整っていない状況ではプライバシー保護の点から住基ネットは認められないという議論になり、結局その方策を整備するという前提でかろうじて制定された経緯がある。元々、民間が使うものではなかった住基ネットに、厳しい保護方策が採られていることを考えれば妙な話である。
 その後、高度情報通信社会推進本部においてまとめられた包括的な保護法の大綱をベースとした法案が国会に提出されたが、今度はマスコミから「表現の自由を侵害する」という強い反対を受け、大幅な手直しを余儀なくされた。「プライバシーが危ない」といって住基ネットに反対していた報道機関が、結果的に聖域とされる形で成立したのである。よほど皮肉な運命の元に生まれた鬼子のようではある。
2.保護法のポイント
 今回の保護法によって、昭和63年の「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律」の制定時に宿題とされた「紙ベースの個人情報と民間における個人情報の保護」が、果たされる結果となった。すなわち、保護対象となる個人情報には民間を含むと同時に、「電算処理にかかる個人情報」から「特定の個人を識別することができるもの」へと拡大したのである。このことは、やや変則的な経緯から制定された保護法ではあるが、結果的に民間の個人情報、紙ベースの個人情報を包括的に対象とする諸外国にはほとんど例を見ない“先進的な”保護法の成立へとつながった。
 また保護法は紆余曲折を経た結果、その対象を「個人情報取扱事業者」と「その他一般」に分け、後者には基本原則に沿ったゆるやかな努力義務を課し、前者には厳しい規制を課すという構成になった。個人情報取扱事業者の最たるものの報道機関がその適用除外になったことは既述の通りである。


3.市町村にとっての保護法
さて、保護法施行に伴い、地方公共団体において対応しなくてはならない主要事項は以下の通りである。
(1)保護対象の個人情報(法第2条)
 保護の対象となる個人情報をコンピュータ処理に限定している地方公共団体では、「個人情報の保護に関する条例(以下条例)」を改正し、保護法との整合性を図る必要がある。
(2)条例の整備(法第16条)
 未だ保護条例を制定していない地方公共団体においては、「個人情報の適正な取り扱いが確保されるよう必要な措置を講ずる」ことが求められる。
(3)区域内の事業者等への支援(法第17条)
 地方公共団体の施策として、国は「個人情報の適正な取り扱いを確保するため、その区域内の事業者及び住民に対する支援に必要な措置を講ずるよう努めなければならない」としている。多くの団体が事業者の責務や違反行為に対する指導を規定しているが、「支援」について定めているところは少ない。具体的な方策を含め検討する必要があろう。
(4)苦情処理のあっせん  大半の地方公共団体では、苦情処理、不服申し立ての手続を規定しているが、保護法18条にいう「事業者と本人の間に生じた苦情の処理のあっせんその他必要な措置」を規定しているところはほとんどない。今後、この「あっせん」の具体的な方策、手続を定めていく必要があろう。
(5)罰則の強化
 国会における法案の審議過程で最重要事項とされたのが罰則規定であった。特に国および地方の行政機関の職員の違反行為に対する罰則が国の保護法、地方の条例には規定されておらず、それぞれ国家公務員法、地方公務員法の守秘義務違反の罰則が適用されることと、罰が軽いという点が問題とされ、最終的に保護法の制定と合わせて「行政機関の個人情報保護法」が改正された。このため地方公共団体でも保護法に合わせて条例を改正し、罰則を強化することが求められよう。


4.今後の個人情報保護の考え方
(1)利用と規制
 個人情報の不正利用、悪用等の事件が少なからず発生している状況において、地方公共団体がやや過敏に反応し、条例の運用を厳格に考える傾向がある。個人情報の保護が適正・的確に行われなければならないことは当然であるが、規制すべきことと「行政の適性かつ円滑な運用」のバランスが大切なことを改めて確認する必要がある。行政運営において、住民の個人情報を保有し、利用することは、行政の効率性確保や住民サービスの向上のために是であり、不可欠である。利用するからこそ縛りが必要なのだ。団体によっては、同一機関内での個人情報の相互利用も規制しているが、住民基本台帳の個人情報は機関内で利用すべきであって、各部署がその都度、個々に住民から個人情報を取得するのは現実的でないことは明らかである。
 筆者が個人情報保護審議会会長をしているA市では、機関内の部署間で相応の理由がある範囲内で個人情報を利用する場合、個々の案件ごとに審議会にかけることはなしにしている。そのかわり、一定期間ごとに審議会へ報告する形態をとって、機関内の個人情報の利用が野放図ではないということを明らかにしている。
(2)住民との信頼関係
 日本は世界各国の中で公務員と国民の間の信頼感が最も強い国であるといってよい。今後もこの信頼関係を維持していくことが、個人情報の保護と行政運営の適正かつ円滑さを維持する上で不可欠であることは間違いない。
 その上で、個人情報保護をめぐる新たな環境に対応すべく、組織を挙げての対応や、個人情報保護の重要性に関する職員一人ひとりの意識改革が求められよう。



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