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今年3月、「地域における情報化の推進に関する検討会」の最終報告書が公表された。ここで提言されたのが、全国規模で自治体の情報システムを連携させようという「次世代地域情報プラットフォーム」だ。電子自治体が本格稼働する際のモデルとも位置付けられ、総務省も推進策を打ち出している。レガシーシステム改革と新たな情報化基盤へどう対応すべきか――総務省情報通信政策局地方情報化推進室・村手 聡室長に聞いた。


◆地方情報化推進室がいま取り組んでおられる施策について教えてください。
村手 
地方情報化推進室では、これまで地域情報化の一助とすべく「都道府県情報ハイウェイ・地域公共ネットワークの整備推進」事業に力を入れてきました。地域公共ネットワークの整備状況は、市町村合併等の影響もあって、昨年7月現在で1962団体(62.8%)と当初計画より遅れていることから、目標年次を平成22年へ延長し、引き続き整備事業を進める計画です。ただ、地域情報化の今後の方向性を考えると、ハード整備だけではなく、その上を流れる情報を高度化し流通量を増やす“ソフト面の整備”が必要となってきました。そこで、平成17年度より新たに取り組もうとしているのが「次世代地域情報プラットフォーム」です。

次世代地域情報プラットフォームとは?

◆「次世代地域情報プラットフォーム」とは、どういうものなのでしょうか。
村手 
一言でいえば〈多様なアーキテクチャで構成される情報システムを連携する標準的な枠組み〉のことです。これまで、自治体の情報システムは個別業務の効率化のために随時導入されてきましたが、その結果、現状を見ると個々のシステムが異なるアーキテクチャで構成され、個別にデータベースを持ち、データの整合性がとれなくなっています。しかし昨今、業務の多様化に伴い、「各システムを連携させて情報を有効活用できないか」と考える職員の方も増えています。私自身、つい先日まで地方自治体の担当者として悩んでいた一人なんですが、現状のままシステム連携をしようとしても、個々のシステム改修に多大な労力とコストがかかり、なかなか難しい…。部局内でさえそんな状況ですから、部局間や自治体間となると、到底、ひとつの自治体だけで解決できる問題ではありません。


◆おっしゃる通りですね。
村手 
これは住民にとっても非効率です。例えば、住民は出産や死亡、転居などライフイベントごとに行政や民間へ何種類もの申請手続きを行います。私も今回転居をして、改めて「人は情報をこんなにも引きずって生きているんだな」と実感したのですが(笑)、これだけ情報化社会といわれているなかで、同じような手続きをするために役所の窓口を何か所も回らなければならないのは住民にとっては相当のストレスです。もし自治体内部の各種システムが連携していれば、1回の申請ですべての手続きを完了することができますよね。これはひとつの例えですが、そのほかの行政サービスでも住民の負担を技術的に解決できる部分は少なくありません。さらに発展すれば、地域公共ネットワークを活用して、行政と病院、地域社会が一体となった「子育て支援」を行うなど、新たなサービスを創出することも期待されます。その実現のためには、地域情報化に関わるすべての情報システムをつなぐことが必要で、その基盤となるのが「次世代地域情報プラットフォーム」というわけです。また、そうした地域情報化の核となるのは、やはり自治体でしょう。このため平成19年までの3年間で、自治体内部の情報システムの標準仕様を策定する計画です。
◆なるほど。具体的にどのような事業計画をお考えなのでしょうか。
村手 
計画の推進にあたっては、(1)システムの構成単位(粒度)、(2)業務の手順(業務プロセス)、(3)情報(データ)、(4)システム連携技術――の4つの標準化が必要になると考えています。また、この計画には自治行政局の協力が不可欠であり、両者が必要な連携を図ることとしています。具体的には、情報通信政策局では「Webサービス技術」のあり方や民間との連携を含めた地域情報化を、また、自治行政局では「XMLタグ」や「業務プロセスフロー」などの標準化を行います。ただ、現在の自治体の情報システムを将来型へ一気に移行するのは困難なため、まずはデータベースを介したシステム間のデータ連携から始め、次のステップで各システムからデータベースを分離して統合データベースを構築し、さらにインタフェースの標準化など順次機能を拡張して、最終的に業務プロセスを連携する――という具合に、段階的な移行を提案しています。

「レガシー改革」は始めの一歩

◆計画では、実際のサービスを想定した実証実験も予定されていますね。
村手 
詳細は、自治体業務のモデリングの進捗状況と合わせて今後検討することになりますが、平成18年度は庁内の各種業務システムの連携の実証実験を行う予定です。例えば、転居した時に住民が窓口をいくつも回るのではなく、総合窓口ですべての手続きが完了するワンストップサービスなどが考えられます。また、平成19年度には、さらにこれを一歩進めた官民連携による実証実験を想定しています。例えば、転居の際の申請手続きを拡張して、電気・ガス・水道といった民間事業者への住所変更も同時に行える「引っ越しポータルサイト」などは典型的なモデルですね。
◆自治体間、あるいは地域コミュニティとの連携を考えると、庁内のレガシーシステムの見直しが急がれますね。
村手 
そうですね。巷では、汎用機を「レガシーだ」と批判する声もありますが、我われとしてはこうした状況は本意ではありません。自治体の情報システムは、いずれも導入した時には最良の策として採用されたものです。ただ、その後の時代環境の変化によって、いま、(1)システム運用・改修の困難性、(2)運用経費の高さ、(3)単一ベンダーへの依存性、(4)電子自治体への対応の困難性――など問題点が生じているのも事実であり、これらを反省点として早晩レガシーシステムを見直すことは必要でしょう。特に深刻な財政状況を考えると、情報システムのトータルコストの軽減は喫緊の課題です。実際、都道府県や政令指定都市、特別区を対象に行ったアンケート調査を見ても多くの自治体がレガシー改革を指向しており、すでにシステムを見直すことでコストを大幅に削減したところもあります。この点、「次世代地域情報プラットフォーム」が目指すのは、技術が変化しても常に柔軟にシステム対応ができる“マルチベンダー化”です。その上で、自治体が「この部分はコスト面を重視してASPを選択する」というのであればそれでいいし、「やっぱり自前でやりたい」というのであればシステムを開発すればいい。あるいは、小規模なところは「共同アウトソーシング」事業として、周辺自治体と一緒に運用することもできます。いずれの場合でも、標準仕様に沿っていればシステムや業務アプリケーションの自由自在な連携や組み替えが可能であり、自治体は規模や地域特性に合わせて適材適所の方法を選択することができるでしょう。また、これによって情報システム全体のコスト削減も実現できます。そのため「次世代地域情報プラットフォーム」の検討では、自治体や多様な民間事業者にも知恵を出してもらいながら一緒に研究を進めていく考えです。そうしないと、我われ自身が“第2のレガシー”を生むことになりますからね(笑)。

時代は“e”から“u”へ

◆行政情報化の推進役として、自治体CIO(情報統括役員)の育成も計画されていますね。
村手 
はい。業務プロセスと情報システムを一体で改革することはもちろんですが、それ以上に大切なのが情報システムの適切な運用・管理です。いまや自治体にも責任をもって、そうした情報戦略の立案・推進ができる人材が必要でしょう。そこで今年から、中核市以上のシステム担当者を対象に、CIO研修を実施することにしました。毎年30名程度育成する予定です。この研修は単なる座学ではなく実践的なトレーニングの場と位置付け、今年はレガシーシステム改革をテーマに1週間程度のカリキュラムを組みます。また、来年度のテーマには、情報システムの運用管理などを予定しています。
◆u―Japanの実現に向けて、いよいよ「次世代地域情報プラットフォーム」「レガシーシステム改革」「CIO育成」という3つの大きな施策が本格的に動き出すわけですね。
村手 
e―Japan戦略によって、技術レベルはかなり進展しましたが、これまでの電子自治体は「行政の情報化」ばかりが注目され、実際に住民が情報化のメリットを実感できるようなアプローチが不十分だったのではないかと感じています。我われのミッションは、自治体を核として地域コミュニティの多様な活動を支援し、地域のサービスを盛り上げていくことにあります。それが「ユビキタスネット社会」の実現であり、そうした目に見える利用者本位の公共サービスが広がっていくことで、住民にも情報化のメリットを肌身で感じてもらえるようになるのではないでしょうか。ただし、そこへ辿り着くまでには地道な作業が続きます。自治体の業務や法令をしっかり把握した上で、実務に沿ったシステム連携や業務の流れを考えなければならず、また、同じ業務でも自治体ごとに慣習やノウハウが異なるといった現実も踏まえながらシステム作りを進めなければなりません。この点では、自治行政局の「自治体EA事業」でも取り組みが始まろうとしています。かなりの力仕事ですが、我われも頑張らないと。電子自治体構築にはレガシーシステム改革が不可欠ですが、そこでまた個々の自治体が個別に情報システムを構築するようでは、同じ失敗を繰り返すことになりかねません。そのためにも、一部の担当者やベンダーへ任せきりにするのではなく、首長の意志決定の下、職員の皆さんが一丸となってシステム改革と業務改革を一体的に進めることが大切です。住民に負担なく、どれだけ肌身で感じられるメリットを享受できるか、それぞれの自治体には長期的な視点にたって最適な解決策を考えていただきたいと思います。


プロフィール
むらて・さとし 1964(昭和39)年、愛知県生まれ。88年自治省入省(税務局企画課)、93年八戸市財政部長、97年熊本県総務部財政課長、02年総務省自治財政局調整課課長補佐(15年1月から同理事官)、03年高知県森林局長を経て、今年4月より現職



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