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 これからの地方公共団体の運営に欠かせない視点を考えてみると、(1)少子・高齢化、(2)広域化、(3)歳入漸減による歳出抑制――などがある。また、技術的ファクターとしては、(1)高速インターネットの普及、(2)携帯端末/情報家電/多機能ICカード、(3)WBC(Web Based Computing)、(4)可視化(図、グラフ、地図、動画)要求――などが浮上してくる。
 それに的確に対応することが、いわゆる「レガシー改革」の基本的な考え方であるに違いない。

千葉県7市が協議会

 一つの事例として注目されるのは、千葉県内の7市が平成14年度から取り組んでいる「共同アウトソーシング」計画(電子自治体経営推進協議会)である。
 参加しているのは、市川市(平成16年9月現在の人口、約46.5万人)、市原市(同28.0万人)、浦安市(同15.1万人)、木更津市(同12.3万人)、君津市(同9.1万人)、船橋市(同56.8万人)、松戸市(同47.4万人)で、人口規模からいうといずれもかなり大規模な「独自システム」を構築・運営する体力(ヒト・モノ・カネ)を持っているところだ。それがなぜ共同アウトソーシングなのか――である。
 同協議会の事務局を担当する浦安市の醍醐恵二氏(経営企画部情報政策課)によると、「国の権限が地方公共団体に委譲されつつあるなかで、地域の主権者である住民へ的確に情報を提供し、行政機関と住民が協調した“まちづくり”を進めていく共通の基盤が必要」という。
〈地域の主権者である住民〉という言葉が光っている。
 個々の行政事務・管理系システムは、それぞれが長い歴史の積み重ねで形成されているため、それを共同型に移行しようというのは無理がある。“点から面へ”の展開が不可欠な対住民サービス系システムを、7つの市が共同で構築しようというのだ。

「浦安市e-MAP」(http://gis.city.urayasu.chiba.jp/emap/


 取り組んでいる具体的なシステムは、インターネット(Web)対応のGISが中核に位置づけられている。Webサイトにアクセスし、住所を入力するだけで地図が表示される仕掛けは、すでに広く利用されている。これを行政機関と住民とのコミュニケーションの手段である電子メールと結びつける。
 「地方公共団体と住民との間で交わされる情報は、〔住所〕と〔氏名〕が基本なんです。住民が役所に出す申請や届出、要望、役所から発信するお知らせやアンケートなど、地図が添付されていると便利というケースが少なくありません」
 浦安市の場合、平成14年度現在で、1041種の申請・届出手続きのうち164種が、何らかの形で場所の説明や地図(略図)の添付が必要なものだった。同市はPDFの穴埋め方式で電子申請・届出ができるシステムを開発しているが、これにデジタル地図を添付することが可能となっている。受け取った市職員にとっても、ビジュアルで分かりやすい。

見えなかった課題が見えてくる

 アンケート調査でも、例えば樹木や公園、駐車場の所在状況、下水道、消火栓の新設、交通量の把握、通学通路の設定、防犯対策など、地図でビジュアル化すると「それまで見えなかったものが見えてくる」という。下水があふれる原因が、そばにある公園の樹木の落ち葉であるらしいこと、不正な駐輪やゴミの投棄と人通りとの関係など、地域住民の協力なしでは解決しない課題が浮上してくる。
 同協議会では「e―map」(地図付きメール、地図付き掲示板、地図付き申請・届出)のシステムを、情報公開や情報発信にも活用することで、地域住民とのコミュニケーションを密にし、さらに「地域住民参加型の行政サービスへの転換を推進する」という。市民団体や小中学校の活動にe―mapを公開することも検討しているというから、これによって実現するのは行政CRMシステムといっていい。また「LGWAN接続で他の多くの市町村にも利用を広げて行きたい」と意欲を見せる。

新居浜市ではASPサービスを採用

 このような動きは、決して首都圏にとどまらない。愛媛県新居浜市は、人口約13万人の工業都市だが、電子申請・届出など電子自治体の中核システムは、愛媛県と県内市町村が共同開発したASP型サービスを採用している。
 「個々の地方公共団体は、地域特性に合わせた住民密着型の行政サービスを目指す」というのが基本方針だ。
 そこで取り組んだのは、住民の約7割が保有している携帯電話を対象にした情報発信・収集システムだった。個人が保有する携帯電話から、大雨、河川の増水、土砂崩れ、工事、イベントなどによる道路交通規制の情報を入手できるようにしたり、市のアンケートに回答できる。

「新居浜eネット」(http://www.city.niihama.ehime.jp/


 サービス利用のための事前登録は、いわゆる「ハンドルネーム」でいい。ということは、域外の人も同市のコミュニティに参加できるのだ。「市外から工場に通勤している方、またこの町の出身者、この町に関心を持っていただいている人たちも、広義の市民なんです」(企画部情報政策課・武田眞人課長)
 同市の行政事務・管理系システムは大型サーバーで稼動しているが、携帯電話向けシステムはオープンソースのLinuxサーバーで動いているし、また、電子自治体のコアシステムはASP型共同アウトソーシング、庁内の職員系システムはWindows…と多岐にわたる。共同アウトソーシングを含めた柔軟なシステム構成、言い換えればシステムの“適材適所”こそ、現時点で最も現実的な「レガシー改革」の姿ではあるまいか。


プロフィール
つくだ・ひとし 1951(昭和26)年生まれ。74年、中央大学経済学部卒。大手ソフト会社を経て、IT関連の取材・執筆活動に従事。市町村アカデミー講師、東京都中央区情報化検討委員会など歴任。『日本IT書紀』などの著書のほか、現在『月刊LASDEC』に「電子自治体を行く」を連載中。



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