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摂南大学の島田研究室は今夏、全国の自治体を対象に電子自治体の進展度調査を実施。このほどその結果の一部を公開した。調査結果から浮き彫りとなってきたのは、ITを有効活用した成果として行政経営の効率化・高度化を手中にしつつある市町村と、そうではない市町村との経営格差の拡大だ。情報化を進める上で留意すべき点は何か――島田達巳教授に聞いた。


◆このほど、昨年に続き「電子自治体の進展度」調査を実施されましたが、まずその概要など教えてください。
島田 
この調査は、e―Japan戦略が掲げられてから5年が過ぎ、各自治体における情報化がどのあたりまで進展したのか総合的に捉えようというものです。狙いは主に2つあります。まず、(1)庁内情報化、(2)行政サービス、(3)情報セキュリティ――の3つの評価項目について全体的な傾向をデータで分析しようというものです。また、もう1つが、都道府県、市・特別区、町村ごとに総合および評価項目ごとのランキングを行い、優れた自治体については広く報せて、その努力を称えようというものです。アンケート調査のため深く掘り下げた質問は困難で、特に情報セキュリティ関連では「機密事項のため無回答」とするところもあり、今回の調査結果が自治体の現状を完全に示しているとはいえません。ただ、集計結果を見た限りでは、単にコストをかけるだけではなく、首長を筆頭に職員の皆さんが電子自治体の構築に向けて積極的かつ地道な努力をしているところが上位に並んだなと思ってます。調査結果については回答団体へ報告するほか、分析結果を地方自治情報化推進フェアに合わせて『自治日報』等で公表する予定です。自治体の皆さんには、この結果から電子自治体における“ベストプラクティス”を掴んでもらい、他と比べて自分たちがどういう位置付けにあるか確認し、今後どうすべきかを考える機会としていただければ嬉しいですね。
◆自治体にとっては、いわば情報化の通信簿ですね。全体的に今回の調査からどのような印象を持たれましたか。
島田 
集計を終えたばかりで詳しい分析はまだこれからですが、今回、新たに町村を調査対象としたことで全体の傾向がより明確になったと思います。結果を総括すれば、まず庁内LANや1人1台のパソコン環境など情報通信インフラの整備は概ね完了したものの、各分野の進捗度を見ると自治体によって格差があり、それに伴いいろいろな課題も浮き彫りになった――というところでしょう。

IT進展も、セキュリティに課題

◆調査票を拝見すると、かなり具体的な内容について質問されています。
島田 
はい。質問項目は全部で69問あり、電子決裁や電子入札、電子納付など比較的新しい分野についても実施状況を聞いています。例えば、「電子決裁」では都道府県が75%と進んでいますが、市・特別区が23.1%、町村が6.1%と随分差があります。また「電子入札」は都道府県が61.4%で、市・特別区が10%、町村が0.2%ですが、これは必ずしも格差とはいえないでしょう。特に町村では年間の入札件数も少なく、採算面でも電子入札が適しているか疑問ですからね。さらに、税金や手数料などの「電子納付」は都道府県でも11.4%とまだ低い結果が出ています。
◆なるほど。情報セキュリティについては、いかがでしょうか。
島田 
「コンピュータルームへの入退室管理」やネットワーク環境における「クライアントパソコンの使用制限」については、ほとんどの自治体がすでに対応済みとなっていますが、詳しく見ると規模によって明らかな傾向が出ていることが分かります。ここで気になるのは「ファイルやアプリケーションに関して職務・職階によってアクセス制限を設けているか」についてで、町村が58.5%と最も低いのですが、都道府県が69.2%と市・特別区の79%よりも低いことです。これは詳しく分析してみないといけません。また、「情報セキュリティポリシーの策定」は、総務省の調査とほぼ同じ結果となっています。
◆まだ、100%ではないんですね。
島田 
「はい。情報セキュリティでは、「情報管理規則の制定」「セキュリティレベルの設定とレベルごとの対応策」「職員教育」など全部で19項目について質問したのですが、回答を見ると情報セキュリティ対策が不十分な自治体がまだ多いようです。情報セキュリティへの取り組みはまだ始まったばかりで、対策の継続的な改善を図る「PDCAサイクル」へどう展開していくかが今後の課題といえそうですね。なかでも喫緊の課題といえるのがデータバックアップでしょう。「データのバックアップの保管場所はコンピュータ室とは別の場所に設置しているか」については、都道府県が84.2%に対して、市・特別区が57.7%で、町村は29.9%と、市町村では総体的に低い結果が出ています。災害対策の面からも早急に対応する必要があり、その点では、TKCさんのASPサービスへ期待するところ“大”ですよ(笑)。

従来以上に問われる情報化の“質”

◆今回、レガシーシステムについても調査を試みておられますね。
島田 
はい。「現在、汎用機やオフコンを用いた旧式システムで運用している業務があるか」については、都道府県では97.6%が「ある」と回答しています。また、市は65.9%、町村が28.7%となっていますが、この町村の回答をどう解釈するか迷っているところです。例えば、計算処理を外部委託している自治体がどう回答しているのかですね。そうしたところでは、レガシーとは考えていないのではないか。この数値は少なすぎると感じているのですが。
◆私は逆に町村で、まだ3割もあることに驚きました。これだけ法制度改正が相次ぐなかで、旧式システムを使い続けるには相当なコストがかかっているでしょうね。お話しをうかがうと、電子自治体に向けた取り組みが着実に進む一方で、課題も山積している状況がよく分かります。今回の調査結果を指針として、市町村が今後、情報化を進める上ではどのような点に留意したらいいのでしょうか。
島田 
ポイントは3つあると考えています。ひとつは「住基カード」「LGWAN」「公的認証」といった情報インフラの有効活用ですね。例えば、市川市では救急活動での住記カード利用を試みていますが、このように各市町村においても新しい用途を自らのアイデアで生み出していく努力が必要でしょう。2点目が「電子自治体」というIT投資を、どうやって住民が実感できるものへつなげていくかで、この点でも市町村の力量が問われていると思います。例えば、札幌市のコールセンターは住民の評判もよく、単に総合窓口の役割にとどまらず、住民ニーズと施策との整合性をとり、行政経営の改善を図っていくための仕組みとして、全国の自治体から注目されています。こうした取り組みは不可欠ですが、すべての自治体が単独でコールセンターを持つのは費用的にも困難で、「共同アウトソーシング」のように複数の自治体が歩み寄って実現する発想が必要ですね。そして最後がBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)への取り組みです。傾向としては、レガシーシステムからオープンシステムへの切り替えが進むのは間違いありませんが、私自身は、自治体の環境条件などによって必ずしも“脱汎用機”が最適な選択肢とは限らないと考えています。ただ、いずれの方法を選択する場合でも忘れないでいただきたいのは、あくまでも電子自治体の最終目標は、情報化によって従来の業務プロセスを改善し、コストを軽減し、新しい行政サービスの原資を生み出すことなんだということです。
◆おっしゃる通りですね。
島田 
最近、若い世代を中心に自治体にも“小さな政府”を望む意識が広まりつつあります。そういう点では、自治体の情報化の“質”が今後ますます問われるようになるでしょうね。今回の調査結果を見ても、都道府県はおしなべて良い結果が出ていますが、市町村を見ると、平均的な県よりも遙かに優れている市がある一方で、大幅に遅れているところもあり、その格差は一段と広がっています。ランキング上位の市町村は、いわばITを有効活用し、行政経営の効率化・高度化に向けて果敢なチャレンジを続けているところともいえ、そのような自治体とそうではないところとでは、いずれ住民サービスにも大きな差が生じていくでしょう。これから個々の自治体が地域の特徴を生かしながら、どんな電子自治体を創造していくのか――。引き続き、その進捗状況を見つめていきたいと考えています。

プロフィール
しまだ・たつみ 中央大学法学部卒。大阪市立大学博士(経営学)。都立科学技術大学教授を経て、02年より現職。総務省「電子自治体のシステム構築のあり方に関する検討会」、「地域づくり懇談会」委員などを務める。『自治体のアウトソーシング戦略――協働による行政経営』(ぎょうせい)など著書多数



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