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特集タイトル


多様化する住民ニーズ、厳しい財政状況、地方分権への対応――など、依然、地方公共団体が抱える問題は山積している。これらを解決するには“ヒト・モノ・カネ・情報”を最大限に活用して、行政経営の刷新をはかることが必要だ。そんななか、明確なコンセプトを掲げて地域の活性化へ取り組む地方都市がある。トップが率先して住民と接し、組織一丸となって次々と新たなチャレンジを続ける福島県棚倉町。住民や民間企業まで取り込む、そのユニークな経営戦略について藤田幸治町長にうかがった。


◆棚倉町は、江戸時代には城下町として栄え、歴史的文化遺産も多いところですが、近年ではスポーツや文化交流を核とした地域の活性化へ取り組んでおられます。なかでも第三セクター方式のスポーツリゾート施設「ルネサンス棚倉」が、大変好調とうかがいました。
藤田 
はい。宿泊者だけでも年間5万人、施設の延べ利用者は年間40万人に上ります。敷地面積は全体で24ヘクタールと関東近県では最大級の規模を有しており、テニスや乗馬、水泳などあらゆるスポーツが可能で、また、温泉を利用したクアハウス、さらに480名の宿泊施設を完備しているため、学校関係の利用も多くリピート率が高いのが特徴ですね。これは平成2年に旧自治省のリーディングプロジェクト事業第1号の採択を受けて整備したものです。投資額は45億円ほどでしたが、お陰様で毎期黒字で、失敗していない第三セクターとして全国でも注目されているんですよ。この事業へ取り組んだ狙いは、交流人口の増加でした。棚倉町でも近年、少子化の進行や都市部への人口集中、あるいは長引く不況による企業の地方移転の鈍化などによって定住人口が減少しています。しかし、「年間100万人の交流人口は、定住人口が1万人増えたと同じ経済効果がある」ともいわれ、棚倉町では、ルネサンス棚倉などを拠点としてスポーツ・文化の交流事業を積極的に展開してきました。ただ、施設開設にあたっては、広告宣伝費が8000万円ほどかかりましたが(笑)。JR山手線の車内広告やテレビCMに加え、女性誌、『旅行読売』『るるぶ』などへも広告を出しましたからね。
◆それは、これまでの行政組織にはなかった感覚ですね。
藤田 
そうですね。それで第三セクター方式としたんですよ。施設のオープンにあたり、集客はJTB系列、宿泊施設はワシントンホテル、乗馬はクレイン――という具合に“プロ”の協力を得ました。以来、民間企業の活力とノウハウを活用して施設の運営を行っています。観光をメインに地域の活性化をはかる自治体は少なくありませんが、やはり個性を競わないと他所と差別化できず、経営面も安定しませんからね。このため棚倉町では、ほかに例がない「スポーツ」をコンセプトに掲げたわけです。背景には、もともと棚倉町では地域単位で運動会やソフトボール大会が盛んに行われるなど、住民生活にスポーツが浸透しているという素地もあります。また、スポーツは一生を通じて楽しめ、住民も施設を使え、都会から人を呼ぶこともできる。学生時代に利用した人が、社会人となっても棚倉町を訪れたいと思ってもらえるのが理想ですね。

ITの有効活用で“小さな行政”実現へ

◆スポーツや文化を地域経営の軸に据え、住民や民間企業をパートナーとしてまちづくりを進めるという柔軟な発想は、町長ご自身の経営者としての経験が影響しているのでしょうか。
藤田 
そういう面もあると思いますが、行政も民間企業も“経営”という点では、顧客満足の最大化を志向し、内部的には業務の効率化を追求することに変わりはありません。いま、棚倉町では行政改革へ取り組んでいるところで、今後10年間で職員数を約2割・30名削減し“小さくて効率的な行政”を実現します。いわゆる2007年問題で、数年後には毎年5名から10名ずつ職員が退職しますが、少ない人数でも良質なサービスを提供できる仕組みをいまのうちから考えておく必要があるでしょう。そこで今春、庁内の組織体制の見直しを行いました。目指したのは、係の担当職務を限定せず、それぞれ複合的に仕事ができるようにしようというもので、従来の17課を13課へ、また、40係を27係へと整理統合しました。ここで留意したのは、組織変更で住民を混乱させないことです。このため「○×グループ」という名称は使わずに、どこが何をやっているのか分かるよう従来の組織名は残しました。
◆つまり、個々の職員が“行政サービスの専門家”となることを期待されているわけですね。
藤田 
「そうですね。職員数の減少に比例して、一人ひとりの仕事量は確実に増えます。それを補うためにもITの有効利用を考えなければなりません。棚倉町では平成13年9月に、情報化推進計画『コンビニエンス・プラン21〜棚倉町電子社会の実現に向けて』を策定し、行政サービスのコンビニエンス化――つまり  “いつでもどこでも”ノンストップ、マルチアクセス、ワンストップのサービスを目指し、地域の情報化へ取り組んできました。ここで立案したアクション・プランは、ほぼ計画通り実現していますよ。
◆9月1日には、住基カードを活用した自動交付機も稼働し、住民が休日にも証明書の発行サービスを利用できるようにされています。
藤田 
「はい。これまでは毎週水曜日に窓口サービスを夜7時まで延長していましたが、住民の利便性を考えると自動交付機の方が便利ですからね。特に、棚倉町の場合、できるだけ多くの町民に使っていただくため、印鑑登録証明書と住民票の写しのほかに、納税証明書と所得証明書も取れるようにしたのが特長です。サービスの開始にあたっては、低価格のカードを成人町民全員に配布することも検討したのですが、最終的には全国共通で使え、今後の拡張性も期待できる「住基カード」を採用しました。棚倉町の住基カードの登録者はまだ100人程度ですが、これを機に『広報たなぐら』を通じて利用促進を図るとともに、窓口へ来た町民へカード作成を勧めており、今後、サービスの利用者は着実に増えていくと見ています。また、自動交付機は行政事務の効率化の観点からも期待できるでしょう。いま、税と住基だけで年間約2万件の証明書を発行していますが、これを自動交付機へ移行できればその分のパワーを別の業務へ充てることができますからね。
◆また、9月1日には、災害発生を想定して「行政データの復旧訓練」も実施されました。
藤田 
庁舎がある地域は、自然災害のリスクはほとんどありませんが、絶対にないといえないのが災害です。また、ウイルスなどサイバー攻撃や、人為的ミスという脅威もあります。いまや庁内は1人1台以上のパソコン環境となり、役場や文化センターなど公共施設にも住民が自由に利用できるパソコンが設置されています。いずれは自動交付機をコンビニなどへ設置したり、戸籍謄本・抄本の自動発行なども可能となるでしょう。さらには電子申告・納税や電子申請・届出などもあります。こうした住民の利便性向上につながるIT化は、今後も積極的に進めていきたいと考えていますが、一方でデータの多重化をはじめ、データの管理体制やシステム運用体制の強化、危機管理体制の整備、情報セキュリティポリシーの策定など、所要の方策を講じて、不測の事態に備えておくことも役所の責務といえるでしょうね。

住民と向き合い、住民に学ぶ

◆行政は立場上、失敗が許されないため、新しいものに対しては慎重になる傾向がありますが、棚倉町では積極的に挑戦しようという組織風土を感じます。
藤田 
もちろん慎重さは重要ですし、失敗しない努力が必要なことはいうまでもないことですが、挑戦を恐れてはいけません。いま地方は非常に厳しい状態にありますが、そんななかで、どうすれば住民がより楽しく明るく暮らせるまちづくりができるか。いま自治体には、若い人たちが地域に魅力を感じて、都市部へ出て行かないような地域経営が期待されています。しかし、一気にやろうとしてできることではない。「こんな時代に、棚倉町はよく事業をやっていますね」といわれますが、常に先を見通して計画・準備してきたからこそいまがあるんです。これからの自治体には、事務事業を単に“積み上げる”のではなく、明確なビジョンを持って、その実現のために施策を企画するという“末広がり”の発想が大切なのではないでしょうか。その点、棚倉町ではルネサンス棚倉との連携を図りながら、街中の快適性や人びとの回遊性を高め、中心市街地に集客することで商店街の活性化を図る計画です。このため平成15年6月には、町も出資してTMO・株式会社まち工房たなぐらを設立し、また、15年度からは国土交通省所管の補助事業・まちづくり総合支援事業によって棚倉城跡周辺の市街地整備へも取り組むなど、ソフトとハード両面から中心市街地の活性化を図っています。
◆なるほど。そうした未来志向の組織がどうやってできたのか、ほかの市町村にとっても気になるところです。
藤田 
棚倉町の場合、ISO14001認証取得(平成12年10月27日)へ組織全体で取り組んだことが、ひとつのきっかけだったといえるでしょうね。余談ですが、今夏に流行したクールビズも、棚倉町では昔から当たり前のことなんですよ(笑)。そして、組織が変わることへ最も大きな影響を与えたのは町民の皆さんですね。町民が行政を成長させてくれているんです。
◆というと。
藤田 
いま、多くの自治体が真剣に行政改革へ取り組んでおり、そうした動きを住民も注意深く見守っています。もはや、役場だから特別という時代ではなく、行政と住民は互いに協働し合うパートナーでなければなりません。そのため、棚倉町では町民からの電子メールは、すべての職員が確認できるようにしていますし、私自身は毎月19日を「トークの日」と定めて町民の意見を聞く日にしています。苦情や要望を聞くのは町長の務めですから、この日は終日スケジュールを空けておきます。毎月、数組の町民と話をしますが、こうした機会を通じて行政の視点では見えないことや、いいアイデアをいろいろと教えていただいています。
◆ややもすればマイナスイメージのある行政改革ですが、将来に明るい希望が持てるものにしなければいけませんね。
藤田 
国や地方の財政が早急に好転するとは考えにくいことから、地域経営においては政策を十分吟味し、優先度の高い事業を効率よく、重点的に行うなどの工夫が必要でしょう。しかし、厳しい環境でも夢のある地域経営は可能ですし、絶対にやらなければなりません。そのために大切なのは“人づくり”ですね。『第5次棚倉町振興計画』(平成17年度〜平成26年度)でも基本理念に掲げましたが、結局、まちづくりはひとづくりに尽きるでしょう。子供の頃から町の歴史に触れ、郷土を愛す心を育む。そういう子供たちが大人になって、まちづくりへ積極的に参加してもらえるようにしたいですね。そういう人が多ければ多いほど、棚倉町はいいまちとなります。また、行政内部においても豊かな発想力、実行力のあるひとづくりが重要なのはいうまでもありません。棚倉町では新たな振興計画がスタートしたばかりですが、町の将来像である〈北緯37度 自然・歴史 人が輝く棚倉町〉の実現に向けて、さらに創意と工夫をこらした行政経営に取り組んでいきたいと考えています。

プロフィール
ふじた・こうじ 1941(昭和16年)年、福島県出身、神奈川大学卒。79年、八溝砕石会社代表取締役就任。福島県砕石協同組合理事長、社団法人福島県砕石業協会長などを経て、96年より現職。同年、第三セクター方式のスポーツリゾート施設・ルネサンス棚倉の代表取締役へ就任

棚倉町
DATA
住所 福島県東白川郡棚倉町大字棚倉字中居野33
電話 0247-33-2111
面積 159.82平方キロメートル
人口 1万6013名(H17.9.1現在)
URL  http://www.town.tanagura.fukushima.jp/



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