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写真右:岡山県高度情報化顧問(前・岡山県企画振興部IT戦略推進監)
新免國夫氏

しんめん・くにお 1945(昭和20)年生まれ。71年岡山県入庁、情報処理システムの開発・運営、地域情報化の推進等に従事。LGWAN運営協議会会長、電子政府・電子自治体推進本部有識者懇談会委員、電子自治体のシステム構築のあり方に関する検討会委員等を歴任。2005年4月より現職。現在、岡山県総合グラウンド事務所長、総務省電子政府推進員、財団法人地方自治情報センターITアドバイザー。

写真左:稲垣隆一法律事務所 弁護士・ISMS主任審査員
稲垣隆一氏

いながき・りゅういち 1953(昭和28)年生まれ。東京地方検察庁で検事任官後、90年第二東京弁護士会に弁護士登録。弁護士で唯一のISMS主任審査員でもあるリスク・マネジメントの第一人者。個人情報保護法、電子政府・電子自治体の位置づけや役割など著書・講演多数。情報セキュリティ政策会議セキュリティ文化専門委員会委員、地方公共団体における情報セキュリティ監査の在り方研究会委員などを歴任。



誰のため、何のための電子自治体か

稲垣 いま、民間企業などでは、いわゆる「ユビキタスネット社会」の実現を予感させるさまざまな取り組みが始まっています。そうしたなか自治体の“電子化”も新たな局面を迎えたと思いますが、この5年間を振り返って電子自治体の現状をどう捉えておられますか。
新免 なかなか評価が難しいですね(笑)。まぁ、寄り道しながらも目標へ向けて着実に進化はしてきたと思います。ただ、ここにきて求められるもののレベルが上がり、今後何をすべきか具体的なテーマを見失ってしまった気がしますね。これまで曖昧な印象だった電子自治体を、住民や企業に本当に実感してもらえるものとするにはまだ時間がかかると思いますが、ここで立ち止まってはいけません。
稲垣 確かに、パソコンが1人1台配備され、住民基本台帳ネットワークやLGWANも整備されました。法律家が厳しい目で見て辛口の意見を言わせてもらうと、民間企業がそれだけの投資をするには経営戦略や具体的な成果が求められますが、電子自治体の投資効率については皆さん自分の懐が痛まないのかあまり意識していないですよね。企業なら「これで何を実現する。これでこう稼ぐ」といった戦略なしには、これだけの投資は絶対に認められませんが、自治体では「仕事のツールが変わり、内部事務が合理化できた」という経費の話ばかりです。これからは電子自治体で誰のために何をするのか――がテーマになってきます。改めて電子自治体とは何かを突き詰めて考える必要があると思いますね。電子自治体に最も期待される効果は、住民や企業が自らの判断で意志決定するための“参加インフラ”の確保で、データベースとネットワーク技術を活かした迅速でパーソナライズされたきめ細かな行政サービスであって、職員の業務の迅速化・合理化とは質的に違います。だが、多くの自治体は相変わらず「住民は電子自治体の恩恵を受けるぞ」「○○が電子化されるぞ」と既存の役務の電子化ばかり議論している。もうそんな時代じゃないだろうといいたいですね。
新免 おっしゃる通りですね。現状では「生活の利便性向上」という言葉だけが先行している感もありますが、住民や企業の利便性を目に見える形で表現できる一歩手前までは辿り着いています。自治体はこれまで以上に本気で、住民や企業が便利になり豊かになる仕組みやサービスを考えないといけません。「公共施設予約」などを見ても、台帳や予約の管理、窓口業務の合理化というのは施設管理者側の利点です。利用者にとって電話やFAXがインターネットに替わっただけではダメなのですよ。ビジネスでも一方が儲かるだけでは関係が長く続かないように、住民と行政の間での契約行為を担保する電子申請であり、処理であるべきです。

長期的視野に立ち、優先順位を示せ

新免 電子自治体を進めるにあたり、現実的な課題として既存の条例や業務ルールなどとのギャップも表面化しています。例えば、これまで公共施設を予約する場合、多くの団体は前払いで、利用料を払わないと予約が確定しませんでしたが、これらについては従来の業務形態や条例等を見直す必要があります。ところがこれが結構やっかいなのですよ(笑)。どのタイミングで予約を確定するのか。当日、申込者が来なかった場合、どの時点でキャンセルと見なすのか。最後の10分でも私はテニスをするのだという人がいるかもしれない。実は一番簡単な公共施設予約でもそういう問題があります。また、本人認証のあり方や添付書類をどう少なくしていくかも考えなければいけません。ただ、同じ業務でも自治体によって認証を必要とするところと不要なところがあるため、この問題をどうするのか。さらに先頃、『電子自治体オンライン利用促進指針』が公表されましたが、利便性の向上という観点ではオンラインによって申請から支払い、交付といった一連の手続を完結させる仕組みが不可欠であると考えています。
稲垣 申請だけではダメだと。
新免 はい。加えて今回、総務省が示したような利用件数の多い手続に集中して電子化をするという方法は確かに有効ですし、法律等の改正が不必要な簡単なものからやるというのも賛成ですが、その一方で長期的な視野に立てば利用者が少ないからといって切り捨てるのではなく、手続の種類をできるだけ増やす努力もしなければなりません。それもパソコンに限らず、さまざまなツールを使ってより多くの住民・企業の利便性を高める仕掛けづくりが必要でしょう。利用者から見れば、例え年に1度しか使わなくても電子申請できれば便利なものがあります。そんなものになぜ金をかけるのかと言われるかもしれないが、これをやっていかないと仮に短期的に50%を達成しても次の10%を上げるのが至難の業となりますよ。
稲垣 おっしゃる通りですね。テニスコートの予約ができてもそれだけでは不十分だと思いますよ。申請業務の電子化は初めの一歩で大切なのはその先の話なのですが。もう少し落ち着いてどんな風にITを利用していくのかという議論が望まれますね。いまや家庭内のテレビが情報端末として社会に認知されつつありますが、そんな時代に電子自治体というインフラを使って住民のニーズと自治体業務をどのように結びつけるのか。これからは“住民を豊かにする”とスローガンを掲げるだけではなく、自治体のリソースを有効活用することで、あなたの生活がこれだけ良くなるのだと具体的に示すべきでしょう。ただ、電子化とはいわば“現実”を変えることだが、住民や企業の現実や文化を急激に変えてはいけません。例えば、表彰状は金の枠と墨書きがあるからありがたいので、電子交付して自宅のプリンターで印刷した白黒のものではだめなのですよ(笑)。
新免 確かに(笑)。
稲垣 そのためにも仕掛ける方は中長期の戦略を立て、将来どんな自治体を目指すのか、住民とどういう関係を築くのかというビジョンにまで思いを馳せてほしいですね。もちろん首都圏近郊の都市と地方都市とでは目指す方向や取り組むべき課題も違います。それぞれの自治体が実現すべき価値やコスト、優先順位をきちんと住民に示すことが肝要です。
新免 高度情報化については、自治体の方針や基本的な考え方などが議論されていますが、単に情報化というスパンで見るのではなく、総合計画や振興計画の中でどう位置づけていくのか。まだ具体的なものまで描ききれていませんね。
稲垣 それは自治体だけではなくITベンダーもきちんと意識すべきですよね。また、電子自治体の取り組みが日本社会へ与える影響の大きさにも気づいていない。情報処理実態調査などを見ても、日本の中小企業の情報化コストや人的リソース、あるいはセキュリティ対策はまだまだ貧弱です。個人情報保護法でも自治体は民間に対する「支援」や「指導的な立場」がうたわれていますが、電子自治体や共同利用システムの実験で培われた技術やノウハウを民間企業へ転用すれば、彼らが抱える問題をかなり改善することができます。電子自治体はそうした高い役割も担っているのですよ。

電子自治体を住民満足度で評価せよ

新免 気になっているのは、市町村合併を機に個々の自我意識が強まったのではないかということです。むろん他団体で成功したものを真似るという意識では自主性に欠けますが、自分独自のシステムにこだわる“電算化”時代に逆行してはいけません。生活者視点に立つと、最早1つの行政単位ではサービスを考えられなくなっています。県の立場で意見を述べると、県民は県下の市町村ではどこでも同じレベルでサービスが受けられるのが基本です。そのためには市町村ごとにプラスアルファする、他に置き換えるといった選択肢はあるにしろ、市町村が一緒に議論することも必要でしょう。また、まだ行政が主導的とはいえ地域住民を巻き込んだ「まちづくりプロジェクト」も各地で見受けられるようになりました。住民の知恵や技術、ノウハウを吸収していこうという試みは大きな進歩ですし、そうした中から新たなサービスや仕組みが創造されていくと期待しています。
稲垣 生活者視点ということでは、ぜひ全国の自治体で「電子自治体住民満足度指数」を作成してほしいですね。自治体には会計監査はあるが、住民満足度の観点から評価を行うという思考はこれまでにありませんでした。しかし、初期投資やランニングコストで考えれば、電子自治体とは一定の負債を抱えたのと同じで、戦略や行動計画、どこまで実現されたのかということが納税者である住民や企業との間で逐次評価できるものが必要です。電子自治体で実現する成果は、行政サービスにお年寄りが直接触れ、消防車がちゃんと来たり、災害の防止や地域の安全を守ったり、道路を直したりなど住民一人ひとりの“現実”を変えることであり、専門家が専門的見知に立って評価・指導するというものではない。あまり難しく考えず“現実”について生の評価指標を作って他の自治体へも公開し、情報を蓄積していけば立派な指標が完成しますよ。
新免 それは面白い。電算処理の時代には、かなりシビアな導入効果の評価基準がありましたが、私もそういったレベルの評価が必要だと思いますね。「住民の立場に立つ」といっても、アンケート調査のようなものでお茶を濁しているのが現状ですから。住民や企業の視点で豊かだなぁと思える尺度での評価――発想としては、先に公表された自治体職員が自己点検するためのセキュリティレベル評価リストのようなものを、ぜひ作成したいですね。
稲垣 セキュリティレベルということでは、我々が調査研究委員を務めた「自治体ISAC(地方公共団体の各種インシデントの適切な予防及び復旧に役立てる仕組み)」で検討されるような技術的な部分とは別の“個々の職員の意識の問題”で、自治体ごとの現実に即したセキュリティレベルが必要だと思います。
新免 おっしゃる通りですね。いまのセキュリティは対策の問題ではなく、意識の問題であり、そのレベルも首都圏近郊の都市と、住民はみんな顔見知りだという地方とでは自ずと異なります。それぞれの実状に合った「守るべきセキュリティ」を意識した対策を講じなければなりません。実際、セキュリティの外部監査といっても監査人が自治体の業務処理の仕組みや現状を理解できないとなかなか監査も難しい。その意味では、多少時間がかかっても十分に内部監査で評価を重ねて、その成果を踏まえて自治体のスペックに合った外部監査の形を作り上げていくしかないでしょう。
稲垣 そうですね。電子自治体の構築もこれまではただ流れに乗っていれば良かったが、もう甘えていられる時期は過ぎました。これからは5年先、10年先を見据えて自ら考え行動していかなければなりません。ただ、個々の職員はきっと自分のまちをこうしたいという熱い想いを持っているはずです。全国の自治体職員へ変化の時代を楽しみ、まちの発展のために頑張れとエールを贈り、本日の対談を終了します。



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