bannertrendnews.gif


自治体総合フェア講演 要旨紹介
BCPで安心して暮らせる町づくり
講師 埼玉県皆野町住民福祉課住民係長 本橋典雄氏




7月12日、「自治体総合フェア2006」(主催・日本経営協会)が開催され、平成17年度地域づくり総務大臣表彰(情報化部門)を受賞した埼玉県皆野町の講演「BCPで安心して暮らせる町づくり〜行政サービスの継続とバックアップ〜」が行われた。当日は定員を上回る90名が受講し、BCP(事業継続計画)への関心の高さがうかがえた。同講演の要旨をご紹介する。
 埼玉県皆野町は、秩父盆地の一角、秩父市と長瀞町の間に位置します。中央には関東の吉野山と称される美の山があり、赤平川、日野沢川、三沢川が荒川に接続し、町を縦断する自然豊かなまちです。また、ここは秩父音頭発祥の地で、毎年8月14日の「秩父音頭まつり(合歓の盆)」には流し踊りコンクールを開催しており、昨年は79チーム・1200名が参加しました。

脅威は自然災害だけに限らない

 阪神淡路大震災や宮城県沖地震など、日本ではこの10年ほどで「M7.0以上で人的被害があった地震」が相次いで発生し、まだ記憶に新しい新潟県中越地震では、死者59名、負傷者4805名、家屋の全壊が3175戸、半壊が1万3770戸という被害を受けました。特に、近年は「揺れにくい」とされてきた地域でも地震が発生しており、東海、東南海、南海地震の該当地域はもちろん、それ以外の地域でも絶対に安心とはいえません。また、ここ数年、地震以外の自然災害でも被害規模が拡大する傾向にあり、新潟県中越地方では震災と同じ年に大水害にも見舞われ、この時には旧中之島町(現長岡市)庁舎も被災し数日間公証サービスが停止しました。
 IT化によって行政事務の簡素化・効率化が進んだ反面、業務におけるITへの依存度が高まった現状を踏まえると脅威は自然災害だけに限りません。例えば、システムがダウンしただけでも行政サービスは中断してしまいます。その時にどうすれば行政サービスの継続性を担保できるのか…。
 皆野町では従来、通常のバックアップとは別に業務の継続性の観点から3か月に1度“紙”にプリントアウトし、その間は異動データを取って、システムダウンしても手書きで処理できるようにしていましたが、社会環境の変化に合わせこの体制を見直したものです。


 さて皆野町では、現在、LGWAN―ASPサービスを活用して(1)第2次バックアップ、(2)ウイルス対策、(3)サーバ監視――の3つのセキュリティ対策を導入しています。ご承知の通りLGWANは地方公共団体を結ぶ専用ネットワークで、インターネット等と比べればセキュリティ面でも信頼性が高いため、これを活用したサービスを採用しました。このうちBCPにおいて“鍵”となるのが「第2次バックアップ」です。
 一般に自治体の多くは、サーバに保管された住民情報などのデータベースとは別にDAT等を使った行政情報の「第1次バックアップ」を実施しています。しかし、庁内のバックアップだけでは、庁舎が倒壊した場合には使用できない怖れもあり、やはり遠隔地での分散保管によって重要なデータを保護することが必要です。そこで、皆野町では「第2次バックアップ」の仕組みを使って、(1)30分ごとに最新のデータを遠隔地で保管し、(2)災害時にはサーバ自体が破損して使えないことも想定されるため、データ復旧と一緒にサーバなど必要な機材も準備する――対策を講じています。
 また、皆野町では平成14年にセキュリティポリシーを策定していますが、ここで示しているのは方向性であり、災害が起こった場合に「どういう方法でいつまでに復旧するのか」など細かい点については別途、手順書として定めています。例えば〈行政サービス、特に公証制度は72時間以内に復旧する〉というようなことです。実際のデータ復旧に要する時間は7時間程度ですが、災害時には人命救助が優先されるため72時間以内の復旧を目標としています。


BCPも継続的改善が重要

 さらに、当然のことながらBCPも継続的改善が重要です。そこで皆野町では、対策が形骸化しないよう毎年、行政情報システムの復旧訓練を実施しています。
 昨年は9月1日・防災の日に、庁舎の一部を災害復旧対策本部に見立て、(1)復旧用データベースを作成、(2)役場のサーバへデータをセットアップ、(3)動作確認――という工程で訓練を行いました。
 やはり、実際に体験してみると身近なものとして感じられるとともに、改善すべき点も見えてきます。昨年は一般の電力会社からの電源を使って復旧訓練を行いましたが、今年の復旧訓練では臨時電源(発電機等)やコンパクトなプリンターなど、より非常時に近づけた環境でシステム復旧の検証を実施したいと考えています。
 最後に費用についてですが、皆野町の場合、「3つのセキュリティ対策」にかかる年間経費は住民一人当たり296円となっています。皆野町も厳しい財政状況にありますが、この程度であればさほどの負担ではないと感じています。また、費用をかけなくても、水害や建物倒壊を想定してサーバを安全な場所へ移設するなど、すぐにでも取り組めることはあります。大切なのは、行政サービスを継続するためにできることは何かを考えることです。
 従来、行政は“データ”を簿冊で持っていましたが、いまやネットワーク化によりデータ自体が脅威に晒されています。その代表例がWinnyなどによる情報漏えいであり、また、昨年には東証のシステム障害なども発生しました。
 地方公共団体の情報セキュリティ対策は着実に進化していますが、このように次々とセキュリティリスクが発生する現実社会において、その対策は後手に回っていると言わざるを得ません。万一の場合でも、住民が安心して暮らせるためにサービスを継続するのは行政としての責務です。これを機に、皆さんのところでも改めて情報セキュリティ対策を見直していただければと考えます。



バックナンバーへ戻るspacer新風トップへ