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特集タイトル


地方財政の深刻な財政実態が次々と表面化し、いま行政経営のあり方へ納税者の厳しい監視の目が向けられている。地方公共団体の行財政改革にも拍車がかかっているが、改革推進の“羅針盤”となるのが「公会計」だ。国が3年後までの整備を打ち出した「公会計制度」とは、一体どんなものなのか。新地方公会計制度研究会、新地方公会計制度実務研究会の委員であり、長らく「公会計制度」の研究を進めてきた桜内文城・新潟大学経済学部大学院現代社会文化研究科助教授に話を聞く。


◆今年4月、総務省は「新地方公会計制度研究会」を設立し、また7月には「新地方公会計制度実務研究会」を発足させるなど、「公会計」整備に向けた動きが一段と加速しています。
桜内 
そうですね。これまでの動きを振り返ってみると、平成17年12月24日の閣議決定『行政改革の重要方針』において〈国及び地方公共団体の資産・債務の管理等に必要な公会計の整備については、企業会計の考え方を活用した財務書類の作成基準等の必要な見直しを行うなど、一層の推進を図る〉こととされました。これを踏まえて、総務省では「新地方公会計制度研究会」を設置し、5月18日には早々と地方公共団体の公会計整備についての提言をまとめた研究会報告書を公表しました。その後、6月2日に『簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進に関する法律(行政改革推進法)』が公布・施行され、次いで7月7日には『経済財政運営と構造改革に関する基本方針(骨太の方針)2006』が閣議決定されました。この『骨太の方針』には〈公会計制度について複式簿記のシステム化の検討を行うなどその整備を促進するとともに、財務書類の公表を迅速化させ分析・活用を図る。地方には、国の財務書類に準拠した公会計モデルの導入に向けて、団体規模に応じ、従来型モデルも活用しつつ、計画的な整備を進めるよう要請する〉との文言が盛り込まれました。これを受けて、総務省は8月31日付・総務省事務次官通知として『地方公共団体における行政改革の更なる推進のための指針』を公表し、〈3万人以上の都市では3年後まで、町村および3万人未満の都市では5年後まで〉という具体的な期限を示しました。こうしてみると平成18年は、地方財政の歴史を画する年だったといえるでしょうね。


原則、3年後までに運用開始へ

◆報告書のポイントを教えてください。
桜内 
報告書では、(1)発生主義・複式簿記の導入、(2)関連団体等(地方独立行政法人、一部事務組合・広域連合、地方三公社、第三セクターなど)も含む連結ベース、(3)「基準モデル」と現行の「総務省方式改訂モデル」の提案――などを掲げ、今後、地方公共団体が参考とすべき財務書類のモデルとその考え方について提言しています。ここで提案している財務書類のモデルは、資産・債務の適切な管理等の観点から資産評価を行うとともに、世代間負担の衡平等の観点から「貸借対照表(バランスシート)」「行政コスト計算書」「資金収支計算書」「純資産変動計算書」の4つの財務書類の作成を求めたのが特徴です。報告書は、総務省のホームページで公開されており、詳細はそちらをご覧いただきたいと思います。
◆なぜ、2つのモデルなんですか?
桜内 
住民等に対し他の団体と比較可能な形での公表という趣旨から考えると、将来的には一本化されると思います。ただ、現行の「総務省方式」によるバランスシート作成も行っていなかった自治体が多いなかで、いきなり「基準モデル」で財務書類の作成や資産評価だといわれても実践はなかなか難しいでしょう。そこで、決算統計をベースとする「総務省方式」の改訂モデルも並列的に残し、どちらを選ぶかは個々の自治体の判断に委ねる形としました。
◆とはいえ、自治体側にはまだ切迫感がないように感じます。
桜内 
報告書を見て、いきなり財務諸表を作成できるところは恐らくほとんどないでしょう。実際には、いま「新地方公会計制度実務研究会」で取り組んでいるマニュアルや、自動仕訳のソフトウェアなどが揃って対応できるもので、それがない状態で「さぁ、公会計ですよ」といわれても“頭の中が真っ白”という状態かもしれませんね(笑)。
◆その「新地方公会計制度実務研究会」の活動状況について教えてください。
桜内 
これは先の研究会を改組・改称したもので、現在、報告書で示された2つのモデルの実証的検証および資産評価方法等の諸課題の検討を行っています。メンバーとして倉敷市と浜松市が新たに参加し、それぞれの市に受け皿となる委員会を設置してもらい、実際の数値を入れた財務書類を作成して、2つのモデルの検証を行いました。また、単に財務書類を作成するだけでなく、全国の自治体へ普及させるためにモデルの改善点の検討も進めています。さらに、研究会では、2つのマニュアル作りにも取り組んでいます。1つは「資産評価に関するマニュアル」で、これはバランスシートを作成する際に必要な資産評価を、簡便かつ実際評価額との乖離がないようにすることと、今後取得する固定資産の評価、特に再評価をどうするかを示したものです。もう1つが「財務書類作成に関するマニュアル」で、これは2つのモデルごとに財務書類の表示科目や、実際の作成手順を示すものです。現在、自治体の方と一緒に「款・項・目・節・細節」から財務諸表作成に必要な勘定科目へ変換する際の“流れ”について検討しており、最終的には自動仕訳が行えるソフトウェアが提供される予定です。今後のスケジュールとしては、平成19年1月末をめどにマニュアル等も含めて報告書をとりまとめる計画で、総務省ではこの活動成果を踏まえて今後、全国の地方公共団体への普及促進に取り組むことになります。「3年以内」という期限から考えて、早いところでは平成19年4月1日から実際に運用できる体制を整備することが想定されるでしょうね。この研究会の議事内容は逐次公表されていますので、ぜひ今後の動向に注目していただきたいと思います。


なぜ公会計が必要なのか?

◆公会計に取り組むため、市町村はどんな準備が必要なのでしょうか。
桜内 
公会計基準ができたからといって、何も特別なことをする必要はないと考えています。複式簿記を熟知していなくても、執行データを自動仕訳するシステムの開発はTKCなどベンダーの役割ですよ。むしろ、いま重要なのは「なぜ公会計なのか」「誰のために、何のために、財務書類を作成するのか」その目的をきちんと理解することだと思います。住民から「一体、あなた方の仕事は何ですか? その仕事をどのように評価するんですか?」と聞かれた時に、何も基準がなければ評価できないでしょう。それが公会計なんですよ。自治体職員の多くは公会計に対して「面倒だなぁ」という印象を抱いていますが、単に事後的に「決算情報」を開示するだけでは結局、面倒なだけで終わってしまうでしょうね。
◆企業会計でも、単に制度会計のために決算書を作成するのではなく、そのデータを経営に役立てるという視点が必要ですが、特に中小企業経営者の場合、税金計算のため、仕方なく決算書を作成するという意識が少なからずあります。
桜内 
その点では似ていますよね。中小企業は市場の評価にさらされているわけではなく、オーナー経営者だと「自分の金をどう使おうと勝手だ」という意識もある(笑)。そこには「アカウンタビリティ(説明責任)」の考え方はありません。アカウンタビリティとは「会計(アカウンティング)」に関連した非常に厳しい概念です。「お金を出す人(ガバナンスレベル)」と「お金を預かる人(マネジメントレベル)」がいて、お金を預かった人は「受託者責任」を負います。企業で言えば前者が「株主」であり、後者が「経営者」ですね。経営者はまず受託者としての責任を遂行するために、経営に関するさまざまな意思決定と業務執行を行い、期末に会計基準に従って財務書類を作成して株主へ開示します。これを株主が承認すれば経営者の受託者責任は解除されますが、承認されなければ“クビ”ですよ。
◆おっしゃる通りですね。
桜内 
公会計では「パブリック・アカウンタビリティ」と呼びますが、「受託者責任をどのように遂行したか会計的に説明する」という点では公会計も企業会計もまったく同じですね。ただ、観点や尺度が公会計と企業会計とでは異なります。企業会計では、意思決定と業務執行の善し悪しを評価する尺度は「利益」です。これに対し、そもそも利益獲得を目的としない公会計では、「どこからどれだけの資源・資本を調達し、配分するか」という予算の編成と、意思決定と業務執行の結果として「将来にわたって、どれだけ多くの人々の利益が図られるのか」を具体的に数字で示すことが重要で、公会計の目的もまさにここにあるわけです。
◆ということは、新しい公会計制度によって、必然的に予算編成プロセスの見直しにもつながるわけですね。
桜内 
そうですね。公会計制度の整備と予算編成プロセス改革を車の両輪として進めることで、最終的に将来の財政シミュレーションが可能になります。その結果、例えばリアルタイムで予算執行状況を記録・計算し、四半期決算報告を作成したり、また次年度予算の概算要求の段階で予測財務諸表を作成したりすることを通じて、中長期を見据えたまちづくりにも役立つのではないでしょうか。

できると信じることが大切

◆研究会の会議資料によれば、遅くとも平成19年秋までには必要なソフトウェア等を準備する目標を掲げています。
桜内 
実際に行政経営へ役立てるためには、システムだけでなく専門家によるコンサルティングも必要になるだろうと考えています。自治体に限らず企業もそうだと思いますが、単にこれまでの仕事のやり方をIT化するだけではほとんど意味がありません。まずは「あなたの仕事は一体何ですか? その仕事の評価の仕方はどうするんですか?」という点をきちんと定義する必要があるでしょう。
◆地方公共団体では、公会計の整備とともに公共サービスの見直しなど行財政改革へ向けた取り組みを推進していますが、その道程はなかなか険しいといわざるをえません。
桜内 
そうですね。大切なのは「できる」と思うことでしょう。これは自分自身にも言い聞かせていることですが、まずできると思わないと、何かうまくできなかった時に「どうすれば上手くいくのか?」という方向では考えられなくなります。できると思っていれば、食らいついてやっているうちに何とか形になっていく。公会計であるなしにかかわらず、ITによって仕事のやり方が変わるのは当然の流れですし、新しいことを始める時には抵抗や反発も多いものです。ただ、私の経験談を申し上げれば、世の中物事が進む時には、必要な時に必要な人が集まって必ず一つの形になる。そのためにもまずは、公会計は面倒だとか、見たことがないから嫌だという人間の「感情」ではなく、ロジカルな会計の「勘定」を通して、これからの地方公共団体としてのあり方を考えていただきたいですね。

プロフィール
さくらうち・ふみき 1965(昭和40)年愛媛県生まれ。88年東京大学法学部卒、大蔵省(現財務省)入省。大臣官房秘書課、熊本国税局加治木税務署長、在マレーシア日本国大使館一等書記官、大臣官房文書課課長補佐などを経て02年より現職。会計士補(公認会計士試験合格者)。米・ハーバード大修士、マレーシア・国立マラヤ大博士。財務省・財政制度等審議会(財政制度分科会)専門委員、総務省・新地方公会計制度研究会委員、内閣府・経済財政諮問会議(資産債務改革の実行等に関する専門調査会)専門委員などを歴任。著書に『公会計』(NTT出版/日本公認会計士協会学術賞受賞)、『公会計革命』(講談社現代新書)など。



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