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今年2月、総務省は『新電子自治体推進指針』(案)を公表した。新指針が掲げる重点テーマは、「行政サービスの高度化」「行政の簡素化・効率化」「地域の課題解決」の3つ。今後、地方公共団体は、本指針を参考に〈利便・効率・活力を実現できる電子自治体〉実現へ創意工夫をこらした取り組みが求められていくことになる。


 このほど公表された『新電子自治体推進指針』(案)は、旧指針策定から3年が過ぎ、地方公共団体を取り巻く環境変化に合わせて見直されたもの。〈2010年度までに利便・効率・活力を実感できる電子自治体の実現〉という実施目標からも分かる通り、『IT新改革戦略』を踏まえた内容へ改められた。また、新指針では重点事項として「行政サービスの高度化」「行政の簡素化・効率化」「地域の課題解決」を掲げ、実現に向けた方針とベンチマーク(進捗度を把握する指標)も示している。
 「行政サービスの高度化」では、まず〈サービスを単に電子化することではなく、サービスへ新たな価値を付与し住民の利便性を高めるもの〉と、改めてその目的を明らかにした。そして、今後の取り組みとして〈特に公共施設予約等多くの住民が利用する身近な手続や、地方税に係る申告等の手続〉など、利用者と行政双方にメリットがあるものは早期の実現を示唆している。
 また、「行政の簡素化・効率化」では“脱レガシー”と合わせて〈業務フローを見直し、システムで対応できる部分はシステムで対応し、真に必要な業務に重点的に職員を配置転換するなどメリハリのある〉行政経営を、と“全体最適”の見地から簡素化・効率化の推進を促している。
 さらに、「地域の課題解決」では、安全・安心な地域作りや子育て支援、高齢者福祉など、住民やNPOなど官民協働による取り組みを求めた。
 加えて、共通課題として指摘するのが「情報セキュリティ対策」の徹底だ。ここでは「緊急時対応計画の策定と訓練の実施」として、災害など緊急事態が発生しても行政サービスをできるだけ中断しない、中断しても早期再開を可能とする「事業継続」の実施にも言及。この計画整備率と訓練実施率がベンチマークに明記されたことから今後、自治体には積極的な取り組みが求められるだろう。

カギは住民視点と費用対効果

 さて、新指針が示す電子自治体――いわばICTを有効活用した“戦略的な地域行政”へ挑む自治体はすでに存在する。
 ただ、一般に先進例として紹介されるのは中核以上の都市がほとんどで、市町村の大半を占める人口10万人以下の団体としてはもっと身近な事例も知りたいところだろう。そこで本特集では、新潟県魚沼市と和歌山県新宮市の事例を取り上げた。期せずして、いずれも平成の大合併を経験した団体であるのは、市町村合併で「業務・組織の見直し」「基幹システムの世代交代」が進み、また、全庁をあげて自立した地域経営を担う“筋肉質”の行政への転換に努めた結果、“電子自治体”としても一歩リードすることになったためと推測される。
 魚沼市(ケース1)では、合併協議の当初から「市民との協働による地域経営の実践」を目標としてきた。情報公開を徹底し、行政の意思決定プロセスへの市民参画を促すことで、共通認識を持って互いが果たすべき役割を考える。その目標達成のための手段がICTというわけだ。統合型GISの整備に加え、今年1月には「法定調書の電子申告」にも取り組んだ。そうした情報化推進策は、ITガバナンス体制に関する調査においても都道府県と並び高く評価されている。
 同じ“市民起点”で、時代にふさわしい行政の“存在価値”を模索する事例でも、魚沼市とは違ったアプローチを取るのが新宮市(ケース2)だ。
 新宮市では、総合窓口によるワンストップサービスや、行政サービスのオンライン化で市民の利便性向上へ積極的に取り組んでいる。これを可能としたのが“レガシー改革”だ。サービスの高度化とともに、情報化コスト削減と経費の透明性の確保へつながったという。また、東南海・南海地震に備え、ICTを活用した「事業継続」対策の強化にも努めている。万一の場合でも、住民に必要なサービスを止めないことは行政だからこそ担える“使命”といえるだろう。
 さらに安全・安心な地域づくりでは、岩手県奥州市(人口・13万人)の「登下校通知システム」の実証実験が興味深い。子供を狙った犯罪の多発を受けて、各地で「不審者情報の提供」「位置情報の確認」などのサービスが広まりつつあるが、こうした地域の課題解決へのICTの活用は、今後一層の発展が期待される分野だ。今回は実証実験のため簡単な紹介となったが、奥州市の例は「住基カード/公的個人認証」「電子申請・届出システム」の新たな活用例としても注目されることだろう。
 こうしてみると、電子自治体には「何から始めるのが正しい」というものはなく、また、規模の大小も関係ないことが分かる。とはいえ、3つの事例には共通点がある。それは取り組みの“軸”に「住民起点」「費用対効果」という2つの視点を置いていることだ。新指針でもこの2つの視点は不可欠と述べている。このほかにも、電子自治体の手本となる事例はたくさんあるだろう。そうした市町村については、今後も折に触れて本誌で紹介していくつもりである。
 かつて石炭の町として栄えた夕張市の例を見ても、いまや行政経営の成否が地域社会の衰退を決めるといっても過言ではない。“地域”をどう変えるかは、行政がどう変わるかにかかっている。〈まず隗より始めよ〉ということだ。



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