bannerkantou.gif


市民が求める電子自治体とは?
日本経済新聞社 編集局地方部 編集委員(論説委員兼務)
谷 隆徳



 今から約6年半前、21世紀の最初の日(2001年1月1日)の弊紙の紙面でこう書いた記憶がある。
 「日本では行政というと役所の窓口が浮かぶが、欧米ではパソコンの画面が住民との接点になってきた」
 直前に取材で訪れた米国の幾つかの都市の電子自治体への取り組みをルポした記事だったのだが、当時、「近い将来、役所という物理的な建物は要らなくなるのだ」と妙に興奮しながら執筆したことを覚えている。政府がIT戦略本部を立ち上げたころだったのではないか。
 だが、その「近い将来」はなかなか来ない。現状では、いつ来るのかもわからない。
 「Web2.0」という言葉に象徴されるネット革命の第二幕が始まり、情報と通信の融合、携帯端末の飛躍的な機能向上、電子マネーの急速な普及と、生活の場では情報革命の恩恵が着実に広がっている。しかし、役所に行くと今でも窓口は混雑し、住民がITで便利になったと感じることはあまりないだろう。
 総務省が新電子自治体推進指針を策定した。「2010年度までにオンライン利用率を50%以上とする」、「官民連携ワンストップサービスを実現する」など目標は意欲的だ。しかし、実現への道筋が明示されているわけではない。
 オンライン利用が増えない理由ははっきりしている。住基カードが十分に普及せず、公的個人認証サービスが広がらないためだ。住基カードの交付枚数は昨年8月末段階で100万枚を突破したが、総人口の0.8%、世帯数でみても2.1%に過ぎない。そもそも、住基カードの存在を知らない国民が大半だろう。住民票の自動交付機を増やし、図書館や公共施設の予約で使えるようにする程度で、今後、カード保有者が急増するとはとても思えない。
 なぜ、保有者が増えないかといえば、コストに見合う利点がないことに尽きる。住民票や各種証明書をもらうのは年に何回もあることではない。納税も同じ。引っ越しに至っては十年に一度かも知れない。
 それでもカードを普及させ、オンライン利用を増やすなら、目に見える特典をつけるしかない。電子納税すれば税金を減免する、ネットで施設予約をすれば利用料を大幅に安くする、などである。民間への公的個人認証サービスの開放や、各種証明書を自宅で印刷可能とすることなどもそろそろ具体化してはどうか。
 特典を付けた上で、国や自治体の職員が住民に「営業」活動する。例えば、航空券を電話で予約すると、「ネットで予約していただければもっと安くなりますが」とオペレーターは最後に必ず付け加える。同じことを自治体や税務署の窓口職員やオペレーターがするのだ。
 個人情報の保護や情報弱者の問題はあるだろう。しかし、それらの問題が電子自治体の構築の遅れの言い訳になっているような気がしてならない。要するに、国や自治体の本気度が試されているのである。



バックナンバーへ戻るspacer新風トップへ