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今年3月、総務省は〈2010年度までに利便・効率・活力を実感できる電子自治体を実現すること〉を目指し、『新電子自治体推進指針』を策定した。キーワードは“住民視点”と“費用対効果の視点”だ。2010年度に向けて、いま新たなステージへ踏み出そうとする全国の地方公共団体の参考としてもらうべく、本指針をとりまとめた総務省自治行政局地域情報政策室・元岡透室長へ、電子自治体推進のポイントについて聞く。


◆『新電子自治体推進指針』を策定された背景について教えてください。
元岡 
総務省では、平成15年8月に『電子自治体推進指針』を策定し、これまで主に電子自治体の基盤整備と行政手続等のオンライン化などを推進してきました。その結果、電子自治体の基盤整備は着実に進展しましたが、一方で利用者が電子自治体の恩恵を実感できない、業務・システムの効率化が不十分など多くの課題も指摘されています。住民視点や費用対効果の視点が十分でなかったことは、これまでの反省点といえると思います。そうしたなか、昨年1月には『IT新改革戦略』が策定され、〈世界一便利で効率的な電子行政の実現〉という目標が示されました。また世の中の動きに目を移すと、Web2.0に代表される新しい情報通信技術を活用したサービスが登場するなど急速に変化しています。さらに、地方公共団体の現状は、地方分権改革が加速する一方で財政事情は厳しく、地域の活性化や少子高齢化など対応すべき課題も山積しています。電子自治体の取り組みにおいても、こうした社会や環境の変化へ適切に対応する必要があり、これらを踏まえて今後の方向性を示すため『新電子自治体推進指針』を策定しました。

ポイントは住民の“実感”とその“実現”

◆指針では「重点的な取組事項」と「共通的な推進事項」の二つを掲げていますが、この位置付けを教えてください。
元岡 
最終的な目標は〈2010年度までに利便・効率・活力を実感できる電子自治体を実現する〉ことで、ポイントとなるのは“実感”と“実現”です。これまでにも、電子自治体の目的は「住民の利便性向上」「行政の効率化」「地域の活性化」であるとされてきましたが、今後、重要なのは住民にも実感してもらえるよう具体的成果を出していくことです。そこで新指針では、目標実現に向けた取り組み方針を記述するとともに、推進状況を把握するための指標として新たに「ベンチマーク」も示しました。こうした点が従来の取り組みとは異なります。そして、目標実現に向け、「重点的な取組事項」として3分野10項目を、さらにそれを実現するための「共通的な推進事項」として4分野6項目を選定しました。
◆「重点的取組事項」については、どんな点に留意すればいいのでしょうか。
元岡 
まず「行政サービスの高度化」で特に重要だと考えるのは「行政手続等のオンライン利用の促進」「住民への分かりやすい情報提供と行政の透明性拡大」の二つです。なかでもオンラインの利用促進は、各地方公共団体においても重点的に取り組んでほしいテーマです。また、利用者にとっては申請から手数料の納付、証明書等の受領まで一連の行政手続がオンラインで完結してこそサービス価値が高まることから、「完全オンライン化の実現」も合わせて推進していきたいと思います。さらに「住民への分かりやすい情報提供と行政の透明性拡大」に関して強調したいのは、ホームページの刷新・改善です。すでにほとんどの自治体がホームページを開設していますが、本当に住民が知りたい情報が住民視点で分かりやすく掲載されているかというと、まだ改善の余地があるといえるでしょう。次に「行政の簡素化・効率化」でポイントとなるのが「行政改革の推進」ですね。単に情報システムの世界だけではなく、全体最適の見地から、業務や組織の見直しも含めて取り組むことが大切です。そしてもう一つが「調達の改革」です。適正な価格で高品質のシステムを調達するのはもちろん、発注の際に調達単位を分割するとか、契約時に受発注者双方でサービスの水準や運用ルールを明確にする「サービスレベル契約(SLA)」の導入の検討なども期待されます。さらに「地域の課題解決」については、それぞれ地域によって抱えている問題は異なりますが、例えば最近では安心・安全な地域作りということがあり、そうした分野でもITは非常に役に立つと思います。


◆「地域の課題解決」は、従来あまり語られることがありませんでしたが、住民から見ると最も身近なテーマですね。
元岡 
はい。電子自治体というと行政手続等のオンライン化などが注目されがちですが、住民にとってはほかにも“生活レベル”で切実な問題があります。行政だけではなかなか解決できないこともあると思いますが、住民やNPOなどと連携しながら地域の課題解決へ積極的に取り組んでいただきたいと思います。

共同化の流れが一層加速

◆「共通的な推進事項」についてはいかがでしょうか。
元岡 
まず、「電子自治体の推進体制の強化」では、「ITガバナンスの強化」が重要です。いま多くの自治体にCIO(最高情報統括責任者)が設置されていますが、形式的な役割ではなく本来期待される機能を発揮できるよう、CIO補佐官の任用、あるいは情報システムの企画・開発・運用・評価等の業務を統括するPMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)の設置など、電子自治体の推進体制の強化拡充が必要です。次が、「共同化・標準化の一層の推進」です。いま総務省では、「共同アウトソーシング」と「地域情報プラットフォーム」という二つの事業を実施しています。特に「共同アウトソーシング」は、これまでは電子申請などフロントオフィスを中心に進めてきましたが、この範囲をもう少し拡大できないかと考えています。例えば、バックオフィスやセキュリティ対策の共同化、あるいは人材育成で相互に連携・協力することも考えられるでしょう。また、「情報セキュリティ対策の強化」については、依然として情報漏えいが発生しているため、対策の実効性の確保が必要です。
◆共同アウトソーシングの“受け皿”については、どうお考えですか。
元岡 
現在、全国的に先行しているのは都道府県を中心として共同化を実施しているケースであり、これが中心的なものだと考えています。このほかにも市町村単位での共同化もありえるでしょうし、また民間が提供するASPサービスなども社会的な共同化だと思います。特に中小規模の市町村の場合、オンラインシステムを単独で構築・運用することは体力や財政面、セキュリティ管理面からも限界があり、共同化の流れは今後ますます加速していくだろうと考えています。
◆「情報セキュリティ対策の徹底」で、今後セキュリティ対策を導入・運用する際に参考となる指針を作るとありますが、具体的にどんなものなのでしょうか。
元岡 
これまでにも情報セキュリティ対策の全体的な枠組みとして『地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン』を策定し、すでに多くの自治体で情報セキュリティポリシーが作成されています。しかし、各種手続のオンライン利用の本格化や情報システムの高度化などにより、万一、システムが停止した場合には広範囲の業務が中断し、その結果、住民生活や地域の経済活動へ重大な影響を及ぼすリスクも高まっています。このためすべての地方公共団体において、情報セキュリティ対策の実効性を高めるとともに対策レベルを強化することが必要です。そのためにも、まずは情報資産を把握して「リスク分析」を行うことが重要ですが、これがなかなか難しく労力もかかることから、リスク分析の参考となるようなものを作成できないか検討しています。また、もう一つ重要なのが「事業継続計画」です。例えば大地震などが起きた場合、どの業務を優先して、いつまでに復旧させるかという事業継続計画についても調査研究を行うことを検討しています。
◆被災時には、住民から住民票の写しの発行や健康保険証の再発行などが求められます。そうした重要な行政サービスは、できるだけ中断しない、中断しても早期に再開するための事業継続計画を講じておく必要がありますね。
元岡 
そうですね。緊急時でも事業を継続させるために情報担当部署が何をしておくべきか――例えば、重要データのバックアップの実施など、各地の経験も踏まえ実践的なものを検討したいですね。

誰のため、何のための電子自治体か

◆住民向けサービスの構築状況を見ると、公共施設予約のオンライン化率では市町村は29.6%と未だ低い状況です。住民が恩恵を実感できるという点では、まずサービスの実施が課題ですね。
元岡 
新指針の目標でも「2010年度までに全ての地方公共団体において、行政手続等のオンライン化を実現する」としています。そのためにも、先述した共同アウトソーシングや民間ASPの活用をぜひ検討していただきたいですね。また公共施設予約だけでなく、イベント申込みなど住民に身近なサービスを早期に拡充していくことが望まれます。そして、その上で利用率の向上を図ることが大切ですね。
◆このほど、公共施設案内サービスを実施している当社ユーザーへサービスの利用状況調査を行ったところ、すべての団体で利用率が順調に伸びていました。
元岡 
費用対効果の視点からも、まずは低コストで、かつ住民や利用者が便利さを実感できるサービスからオンライン化を実現していくことが重要だと考えています。
◆その点では、全国でサービスがスタートすれば確実に利用率が高まるのが「地方税の電子申告」で、納税者としても早期の実現が期待されます。
元岡 
確かに、納税者である企業からすれば、全国一斉に提出できることは大きなメリットです。実施団体が増えるほどサービスの価値が上がります。税はオンラインサービスの効果が最も現れやすい分野の一つですね。利用者の利便性を高め、さらに利用促進を図るため、国税では税理士の電子署名があれば納税者本人の電子証明書を不要とするなどの対応を始めており、eLTAXでも今年4月から同様の取り組みが開始されたと聞いています。オンライン手続全般にいえることですが、従来、窓口などで行ってきた業務を単にオンライン化するのではなく、業務プロセスや添付書類の廃止など事務の見直しに取り組むことが欠かせません。新指針でも述べたように、電子自治体は行政サービスの電子化が目的ではありません。電子自治体は住民のためのものであり、住民が利便・効率・活力を実感できるものであるべきです。そのため推進にあたっては、「住民視点と費用対効果の視点」が大切です。指針を参考に、それぞれの地方公共団体で創意工夫をこらした取り組みを進めていただきたいですね。



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