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「地方分権改革推進法」(平成18年12月)、「財政健全化法」(平成19年6月)が相次いで成立し、地方財政改革のスピードが、さらに加速度を増した。今秋には「新地方公会計制度実務研究会」から、自治体が発生主義・複式簿記会計を導入するための実務マニュアルも公表される。新たな公会計制度対応のために残された時間は意外と少ない。いま何から着手し、どんな点に留意すべきか――青木信之・総務省自治行政局財務調査課長に聞く。


◆公会計制度の導入は、地方公共団体にとって非常に大きな改革といえますが、その背景や意義について教えてください。
青木 
そもそも公的セクターで「発生主義・複式簿記」の考え方を最初に採り入れたのは地方公共団体です。例えば、大分県臼杵市などこれまで熱心に取り組んできた自治体は少なくありません。こうした動きを受けて、総務省でもモデルを検討し、平成12年には、相互比較が可能なモデルを提示しています。また、国としては、より精緻なモデルの作成へ取り組み、平成14年度決算分から4表による財務書類を作成しました。そして、このような国の取り組みも参考にした財務書類の整備が、地方にも求められることとなりましたが、これにはいくつか背景があります。ひとつは地方分権の推進です。改めて個々の自治体に対して、財務状況をできるだけ詳らかにすることが迫られてきたわけです。そうしたなかで夕張市問題が明らかになり、自治体の財政状況に対する国民の関心も高まりました。また、自治体の事業活動が拡大し、事務事業の実施主体も広範かつ複雑になったため、現行の現金主義・単式簿記では捉えきれなくなったこともあります。このようなことから「発生主義・複式簿記」の考え方を活用した、より精緻な会計手法を採用して、自治体単体および地方三公社や地方公営企業・第三セクターなど関連団体を含む連結ベースでの公会計の整備が必要になってきました。また、後述するように、去る6月15日に成立した「地方公共団体の財政の健全化に関する法律(財政健全化法)」との関係もあります。こうしたことを背景として、「貸借対照表」「行政コスト計算書」「資金収支計算書」「純資産変動計算書」の4つの財務書類の作成を求めています。
◆アカウンタビリティ(説明責任)の視点も欠かせませんね。
青木 
そうですね。最早、地方分権の流れを止めることはできません。今後、自治体へより一層の責任が付与されるようになるでしょう。それを誰がどうやってチェックするかといえば議会であり、住民です。そのため単に情報を公開するだけではなく、さらにその内容や質が問われるようになってくると思います。


◆企業会計導入の動きは、国際的な流れに沿ったものなのでしょうか。
青木 
国際的にも地方財政へ民間ルールを適用するところはたくさんありますが、だからといって現金主義会計がおかしいということではありません。当該年度に入ってくる資源を、どの事業へ、いかに配分するのか。これを議会で決める過程において、収入・支出、現金残高を簡単に把握できる現金主義は分かりやすい手法であり、民主主義的な意思決定プロセスにおいては重要な情報です。とはいえ、現金主義会計では見えない情報もあります。例えば、職員を雇って仕事を拡充すればサービスは向上しますが、フロー(一会計期間の取引高)でその職員に対する人件費が発生するとともに、ストック(ある一時点の財産残高)ではその職員に対する退職手当引当相当分が負債として発生します。これまでの自治体には、そうしたフローとストックに対する感覚が不足していました。予算をうまく配分し、毎年それで帳尻が合っていたとしても、5年、10年という中長期的な財政運営において必ずしも適切かどうか分かりません。例えば、基金を取り崩してフローの赤字を埋めれば、当然、借金返済に充てることができる資産が減り、ストックレベルの指標は悪くなります。常にそういうことを頭に置いて考えることが大切ですね。

まずは公有資産の評価から

◆新地方公会計制度実務研究会の検討状況について教えてください。
青木 
昨年5月に、新地方公会計制度研究会の成果として「基準モデル」と「総務省方式改訂モデル」を提示しました。これを踏まえて、昨年7月に発足した新地方公会計制度実務研究会では、2つのモデルの実証的検証や資産の評価方法などについて実務的な観点から検討を進めてきました。具体的には、基準モデルについては倉敷市に、また総務省方式改訂モデルについては浜松市にご協力いただいて実際の財務諸表を作り、その過程で実務的なマニュアルや資産の評価ルールを作成しました。この結果をもとに現在、最終的な取りまとめをしており、9月中には提示したいと考えています。
◆なるほど。
青木 
「基準モデル」は、すべての会計行為を仕訳し、すべての資産について公正価値で評価することを基本とするものです。すべての会計行為を捉えることから検証可能性が高いといえますが、一方でかなりの作業負荷になると想定されます。また、すでに総務省方式で実施している団体も多いことから、決算統計の情報を活用して容易に開始貸借対照表が作成できる「総務省方式改訂モデル」も提示しました。ただ、これを選択する場合でも、できる限り早い段階で資産の評価を行い、公有財産台帳を整備することを前提にしています。特に売却可能資産ですね。例えば、遊休土地やいずれ廃止するかもしれない公共施設の底地などについては、いま売却したらどのぐらいの価値があるのか、きちんと評価することが求められています。
◆多くの自治体が、これまで現在価値で資産を捉えていませんでしたからね。
青木 
財務書類の整備にあたっては、まずは資産の評価からですね。恐らくこれが一番大変な作業だと思いますが、常識で考えても自分が保有する資産が分からないというのは変な話ですよね。これから多くの地域で人口減が進むなかで、従来のように投資をして、資産を増やし、負債を増やすことが果たして適切な行政運営なのか…。いまや自治体は大きな転換期を迎えています。指定管理者など民間が運営した方が高い価値を生む資産はないか、公が資産を保有する必要性があるのか、売却して資産・負債を圧縮できないか。そうしたことを考える過程でいろいろなアイデアも出てくるでしょう。日本の行政は非常に真面目で、自ら資産を保有して管理するという感覚が染みついています。例えば、図書館の多くは単体で存在していますが、住民から見れば足回りがよければ民間のビルの中にあってもいいわけです。資産を評価することで、そうした柔軟な資産管理へ発想転換するきっかけとしてほしいですね。
◆つまり、戦略的な行政経営を行うための手段として、会計情報を位置付けるということですね。
青木 
そうですね。公会計の整備は、最初に資産を洗い出して評価・分析した段階で一定の成果があるといえます。その次の段階としては、中長期の視点から経年的な変化と他の類似団体との比較に着目していただきたいですね。純資産(資本)が増える方向であれば現在の住民に負担してもらっていることであり、減る方向であれば将来の住民へ負担してもらうことになります。これがその地域の実態と兼ね合わせて妥当なのか、あるいは類似団体との差について、住民へ説明できるものなのかどうか。これらは従来の予算編成作業ではなかなか見えなかった課題ですが、財務書類を整理することで検証ができ、次年度以降の予算・政策等へ反映させることも可能となるでしょう。

「20年度決算で4表開示」が必須に

◆「開始貸借対照表」を確定させるためには、税理士など会計のプロの協力も欠かせないのではないでしょうか。
青木 
税理士・公認会計士の方には、ぜひいろいろとご協力いただきたいと考えています。特に、財政健全化法では、すべての自治体に対して平成20年秋の19年度決算から4つの指標(実質赤字比率、連結実質赤字比率、実質公債費比率、将来負担比率)の公表を定めています。平成20年度決算に基づく数値が1つでも基準値を超えると、早期健全化団体として財政健全化計画の策定や外部監査が義務づけられます。この外部監査では税理士・公認会計士など有資格者を想定していますが、地方の場合、公認会計士の数が限られることから、すべての市町村が円滑に公会計を進めるには税理士の存在が欠かせないでしょう。また、財政健全化法の下で算定される「将来負担比率」には、地方公社や損失補償している第三セクターなどの債務が含まれます。現在、自治体の損失補償がついている第三セクターの債務残高は約2兆3000億円に上り、今後は相手方の財務状況を把握して、債務超過分は自分たちの負債と考えなければなりません。その場合、自治体の会計と第三セクター等の企業会計を接合させて見るわけですが、この時に税理士・公認会計士の視点で1つのルールの下に判断されることで、全体として財務処理の適正化が進むことも期待できます。
◆当社システムを利用している税理士・公認会計士が組織するTKC全国会があります。今後、こうした会計の専門家による研究・支援組織の発足なども考えられるでしょうね。ところで、これまでは公会計が求める財務書類四表と財政健全化法が求める4つの財政指標とでは、作成時期が異なると理解していたのですが、お話をうかがうと必ずしもそうではなさそうですね。
青木 
そうですね。昨年8月31日に「取り組みが進んでいる団体、都道府県、人口3万人以上の都市は3年後(平成21年)までに、取り組みが進んでいない団体、町村、人口3万人以下の市は5年後(平成23年)までに4表を整備または4表作成に必要な情報を開示する」との事務次官通知を発出しました。しかしその後、地方分権改革推進法と財政健全化法が相次いで成立したわけです。財政健全化法に基づく健全化判断比率は、平成20年秋に平成19年度決算に基づき公表されます。このうち将来負担比率は、公会計にも関連するものであり、このため連結財務書類4表(あるいは連結貸借対照表のみでも)を早期に整備してもらうようお願いしています。また、財政健全化法に基づき、例えば早期健全化団体として財政健全化計画を立案するためには、公会計が目指す連結ベースでのフローとストック両面からの財政状況の把握が不可欠です。つまり21年秋時点で財務書類の精緻化が相当進んでいることが求められます。そのためには、例えばすぐにでも資産の評価に着手することが肝要といえるでしょう。
◆新公会計制度の導入へ向けて、待ったなしということですね。成功のポイントは何でしょうか。
青木 
繰り返しになりますが、やはりストックを常に意識するということですね。予算化された経費を全部使い切ることは民間企業でもあると思いますが、残せばその分は翌年度以降の資産になります。家計で考えれば、今年度入ったお金をすべて使い切ろうとはしないでしょう。住宅ローンのこととか、自ら保有している不動産の価値や金融資産の現在価値を考えますよね。そうした視点で行政経営を見ていくと、職員個々の意識や仕事のやり方が大きく変わってくると思います。新たな公会計制度に対応したシステムについては、すでにさまざまな民間会社が対応しつつあり、必要に応じて活用されたらと考えています。しかし、大切なのは4表を作成することではなく、関連団体も含めて自治体の活動全体を発生主義・複式簿記の視点で捉えるよう思考を転換することです。そのためにも財政運営の中核にいる職員の皆さんには、一日も早く新しい公会計を理解していただきたいですね。

プロフィール
あおき・のぶゆき 1982(昭和57)年旧自治省(現、総務省)入省。大分県財政課長、埼玉県副知事、総務省自治財政局地域企業経営企画室長、総務省消防庁国民保護室長などを歴任。2006年4月より現職。



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