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特集タイトル


TKCプライベートフェアと同時開催された「電子自治体セミナー2007」(主催:電子自治体システム研究会)。なかでも電子申告セミナーは、納税者の立場から地元税理士が講師を務めたことから毎回多くの受講者が参加し、電子申告への関心の高さがうかがえた。そこで本号では、群馬県高崎市で行われた講演要旨をご紹介する。


プロフィール
いいじま・まさちか 1944(昭和19)年生まれ。大手電機メーカー技術職を経て、会計事務所へ勤務。79年税理士試験合格、翌年開業。現在、大和ハウス工業ほかの顧問税理士を務める傍ら、前橋地方裁判所調停委員などとしても活躍。TKC全国会システム委員会委員長、電子申告推進プロジェクトリーダー


 皆さん、こんにちは。本日は納税者の立場から皆さんへ地方税の電子申告を早期に実現していただきたく、お願いにあがりました。
 私の事務所は群馬県太田市にあります。
 ご承知の通り、太田市の清水聖義市長は“改革派”として著名な方で、国の構造改革特区第1号に認定された太田市外国語教育特区構想で、国語以外はすべて英語で教える学校を設立したり、住民票の交付や各種届出などを扱うサービスカウンターを大手ショッピングセンター内に開設して土日も利用できるようにするなど、大胆な政策で話題になっているまちです。
 さて、本日お話しするのは「私たち税理士は電子申告を積極的に推進していきますよ」ということです。
 現在、国税と県税は電子申告が実現できていますが、納税者に一番身近な市町村には未だに紙の申告書を提出しています。納税者は市町村へ電子申告をしたくても、できないんです。これは見方を変えれば行政にとっても非効率な状況です。皆さん、恐らく紙の申告書からシステムへデータを入力しているのではないですか? 電子申告ならば、そうした作業が不要になります。
 そんな現状をご理解いただき、ぜひ地方税の電子申告を早期に実現していただきたいというのが本日の趣旨です。

電子申告の狙いは税業務の改革だ

 TKC全国会とは、「租税正義の実現を目指して、関与先企業の永続的な繁栄に奉仕するわが国最大級の職業会計人の集団」です。現在、全国で20の地域会が結成されており、それぞれが事業目的に沿った活動を展開しています。また会員数は9500名です。これは税理士事務所を開業しているうちの25%で、会員が関与する企業数は76万3000社と事業者全体の28%を占めています。
 いま、我われは国税・地方税の電子申告・納税へ積極的に取り組んでいます。
 その理由は、まず「租税負担の公平」があります。国税庁によれば、平成9年度をピークに人員削減が進む一方で、業務量の増加などにより実調率は低下し、法人では4%程度、個人は1%以下となっています。このまま十分な税務調査が行われないと、悪質な納税者がさらに増えることにもなりかねず、租税負担の公平が担保されません。そうした傾向は、地方公共団体でも同じではないでしょうか。
 最近、市町村でも償却資産の調査が行われるようになりましたが、償却資産を適正に申告しない納税者はまだ少なくないようです。これが電子申告であれば最初からデータで届くため、入力や検算といった間接業務が不要となります。電子申告を行うことで、皆さんの業務の合理化を図っていただき、悪質な納税者の税務調査や滞納整理を強化していただきたいというのが我われの願いです。
 また、税務行政を効率化し、その結果、「行政改革」や「歳出削減」を実現していただきたいということです。そのためには、電子申告というIT化の流れを納税者や税理士も担っていかなければなりません。
 さらに「国際競争力の強化」という点では、いまや電子政府の構築は世界の一大潮流であり、日本でも『e―Japan戦略』や『IT新改革戦略』を打ち立て国家戦略として取り組んできました。また、国は『オンライン利用促進指針』において、住民の利便性向上や行政の業務の効率化効果が高い「事業者向け手続」として、「地方税申告手続」を筆頭に掲げています。これらを我われも国民として、あるいは法人税申告の86.6%に関与する税理士として、推進していかなければならないということですね。
 こうした大局的な視点から電子申告を推進した結果、TKC全国会は平成18年度において、国税の電子申告(126万8406件)のうち78万483件を行いました。また、地方税の電子申告では4万6859件のうち、4万488件を実施しています。
 ここで注目していただきたいのが法人税です。これは皆さんの法人市町村民税にあたります。TKC全国会では、法人税の電子申告を8万1189件実践していますが、法人都道府県民税は3万1622件と国税に比べて非常に少ないですよね。なぜかといえば、電子申告の受付団体がまだ16か所しかないためです。もし市町村で電子申告を開始していただければ、法人市町村民税の電子申告が一気に伸びることは間違いありません。

なぜ、いま電子申告なのか

 さて、『新風』5月号の巻頭言で、日本経済新聞の谷隆徳編集委員は次のように述べています。
 〈いまから6年半前、21世紀の最初の日の弊紙の紙面でこう書いた記憶がある。「日本では行政というと役所の窓口が浮かぶが、欧米ではパソコンの画面が住民との接点になってきた」。直前に取材で訪れた米国の幾つかの都市の電子自治体への取り組みをルポした記事だったのだが、当時、「近い将来、役所という物理的な建物は要らなくなるのだ」と妙に興奮しながら執筆したことを覚えている。政府がIT戦略本部を立ち上げたころだったのではないか。だが、その「近い将来」はなかなか来ない。現状では、いつ来るのかもわからない。(中略)しかし、役所に行くと今でも窓口は混雑し、住民がITで便利になったと感じることはあまりないだろう。〉
 いま、皆さんの机の上にはパソコンが乗っていて、それで当たり前に仕事をされています。なのに、なぜ電子申告は進まないのでしょうか。これについて、谷編集委員は〈コストに見合う利点がないことに尽きる…〉と指摘されています。
 私の顧問先に、栃木県足利市で六代続く石材店があり、CADで作成した石塔の立体像をWebで展示・販売しています。従業員6人の石材店が、東京・青山墓地に建てる石塔をネット上で取り引きして、石塔を据え付けに行った時に施主さんと初めて名刺を交わすそうです。
 いまやBtoCやBtoBは当たり前の時代です。ユビキタス社会はもうそこまで来ています。BtoGだけ例外ということはありません。電子申告を特別なものと捉える方もいますが、それは違います。皆さんの業務の本質は何も変わりません。これは時代の流れなんです。
 例えば、料金自動収集システム(ETC)は、割引や渋滞解消など利用者のメリットがはっきりしているため、普及が著しいことはご承知の通りです。また、いまや多くの市町村で公共施設の案内・予約のオンライン・サービスを開始しており“いつでもどこでも”利用できる利便性から、住民へ着実に浸透しています。同じように地方税の電子申告を開始していただければ納税者、特に事業者にとって非常に便利になります。
 また、電子申告のメリットは納税者ばかりではありません。紙の申告書を受け取った皆さんは、庁内の情報システムへこのデータを入力しているのではないですか? しかし、人間が介在すれば必ず入力ミスが発生します。あるいはデータ件数が多ければ入力業務を外部委託することもあるでしょう。そうすると情報漏えいなども心配です。さらに、限られた期間内で処理を完了しなければならないことから、特に個人の源泉徴収票の提出時期には税務課の方は連日残業で仕事をこなしているのではないでしょうか。その労力やコストも相当なものでしょう。
 電子申告になれば、こうした問題も解決されるわけです。
 いま、税務署では電子申告で受け付けたデータを紙に印刷し直して市町村へ渡し、市町村ではそれを手入力して市町村民税を課税しているそうです。皆さん、無駄な作業だと思われませんか。

電子納税への対応も視野に

 現在、電子申告が可能な税目は、法人都道府県民税、法人事業税、法人市町村民税、固定資産税(償却資産)です。また、平成20年1月からは、個人住民税(給与支払報告書)の電子申告、給与所得者の異動届など約10種類の電子申請・届出などができるようになります。特に給与支払報告書がスタートすると、納税者は本当に助かります。恐らく、皆さん方も事業者から届いた2枚複写の用紙を手作業で分けて、名寄せして…という具合に処理されているのでしょう。これが電子データで届けば楽ですよね。
 さらに、来年1月からは地方税の電子納税もスタートします。これも便利ですね。すでに国税では電子納税が可能ですが、地方税の場合はまだ納税者が金融機関へ出向いている状況です。
 ちなみにTKC全国会では、電子納税を普及させるため、金融機関へインターネットバンキングの利用料金を一定期間サービスしていただくといったお願いをしており、多くの金融機関がこれに賛同してくれています。このように納税者側の環境は着々と整備されています。それだけに市町村への電子納税ができないのは残念であり、ぜひこれも早期に実現していただきたいと思います。
 今年1月、国税において税理士が代理申請する場合は納税者自身の電子署名等が不要になりました。同様に地方税についても4月から電子署名等が省略された結果、4月だけで従来の累計件数を超える利用届出がありました。これは今後、どんどん伸びていくと思われます。


 また、国税では電子証明書を取得した個人が、電子署名および電子署名に係る電子証明書を付して電子申告を行う場合、平成19年分または平成20年分いずれかに限って5000円の控除を受けることができるようになりました。これによって今後、住基カードを取得する人が増えることが予想されます。
 そこで皆さんへお願いなのですが、スムーズなカード発行ができるよう体制を整えていただければと思います。これまでは皆さんも慣れていないこともあって、住基カードを発行するのに随分と時間がかかっていました。また、住基カードが普及すれば、住民は新たなコンテンツを求めるようになり、今後はそうした検討も必要になってくると思います。
 TKC全国会では、今年度120万件の電子申告を目指します。これもぜひ達成したいと思います。
 繰り返しますが、国税と県税は電子申告ができ、市町村には紙の申告書を提出しているという現状は“片輪走行”です。これをぜひ“両輪走行”としていただきたい。電子申告が実際にどれぐらい利用されるのか不安もあるでしょう。しかし、市町村の電子申告がスタートすれば、必ずや国税並みの申告件数が期待できます。
 すでに納税者の準備は整いました。あとは、皆さんに電子申告の受入体制を取っていただくだけです。
 電子申告を始めようとした当初、私の事務所でも職員たちは、できない理由ばかり並べ立てていました。しかし、いま私の事務所では電子申告を100%実施し、職員たちは「もう電子申告から紙へは戻れない」といっています。それは、なぜか。電子申告の方が便利だからです。
 私も“事務屋”ですが、事務屋というのは比較的変化を嫌う傾向にあります。進化論を唱えたチャールズ・ダーウィンは、次のような意味の言葉を述べたといわれています。「身体の大きなものが生き残ったのではない。あるいは強いものが生き残ったのではない。変化に対応できたものが生き残ったのだ」と。
 生意気なことを申し上げるようですが、いま行政も時代の流れ、ユビキタス社会へ対応していかなければ生き残っていけないのではないでしょうか。
 また、世界的に著名な経営学者・社会学者であるP.F.ドラッカー博士は、こんなことをおっしゃっています。「何人も時代の流れに逆らうことはできない。でも、そのトップを走ることはできる」と。ご安心ください。我われが全面的に支援します。ぜひ、皆さんも時代のトップに立って、電子申告へ取り組んでいただきたいと思います。



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